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資源管理の歴史 Archive

なぜ入口管理は機能しないのか? その1

読者のI. Sakaguchiさんから、次のようなコメントをいただいた。

国内漁業の管理の問題がより重要になると考えております。ただし、国内資源の場合は条約を作って規制する云々の話にはなりませんので、基本的には学習や政 策拡散が重要となります。こういったプロセスを分析するのが研究課題となり、ITQの世界的広まりに興味を持っています。国内ではefforts controlとITQの間で政策的議論が繰り広げられているようですが、フェロー諸島の漁業管理(鱈など)は前者の譲渡可能版のように見えます。漁獲能 力の増強をコントロールできればこれも有力な選択肢にも見えます。機会がありましたら、こういったシステムの可能性についてのお考えもウエブなどでお聞か せいただければ幸いです。

これは重要な問題だと思うので、少しまとめてみよう。

議論の前提として、用語の整理をしておこう。漁獲圧を規制する方法としては、入口規制と出口規制の2つのアプローチがある。

1)入口規制
出漁する船の数、出漁時間、曳網回数などに上限を設けるアプローチで。出漁時間など漁獲努力量を制御するエフォートコントロールと漁具や漁法の規制をテクニカル・コントロールが含まれる。

2)出口規制
港に水揚げされる漁獲物の量を規制するアプローチ。全体の漁獲枠を早い者勝ちで奪い合うオリンピック方式と、漁獲枠を予め個々の経営体に配分する個別漁獲枠方式がある。



沿岸国による一般的な漁業管理は、以下のような順序で進化した。

1)ライセンス制度

2)テクニカルコントロール

3)漁獲枠(オリンピック)

4)個別漁獲枠

こういう順序になるのは、理由がある。1)から4)の順に、導入のハードルが高くなるのだ。どの国も、入れやすい制度から順次導入していったが、効果が無かったので、徐々に管理のハードルを上げていき、結果として個別漁獲枠に到達したのである。

ここで、注意しておくべきことは、それぞれの方法はAlternativeではなく、併用される点である。ほとんどの漁業は、ライセンス制度を導入した上で、テクニカルコントロールも行い、漁獲枠を設定した上で個別配分している。国内の有識者は「入口規制と出口規制のどちらが優れているか」というような議論を延々としているのだが、そういう議論をすること自体が無知の証である。

「入口規制のみでは、水産資源の持続的利用は無理」というのが、世界の漁業国の結論である。水産庁は、かたくなに出口規制を拒んでいるのだが、日本の漁業がなすすべもなく衰退していることからも、入口管理では不十分なことは明らかであろう。

(つづく)

なぜ入口管理は機能しないのか? その2

なぜ入口管理は機能しないのか? その1の続きです

入口管理の失敗の歴史を振り返ってみよう。入り口管理は、一般的に、ライセンス制度→エフォートコントロール→テクニカル・コントロールの順番に進んでいく。そして、結局は思ったような効果が得られず、出口規制が導入されることになるのである。

1)ライセンス制度の導入(Limited Entry)

1960年代ぐらいから、漁業国の多くは、自由参入による過剰な漁獲圧を防ぐことを目的に、ライセンス制度の導入を始めた。ライセンスを持たない人間は、漁業から排除された。ライセンス制度によって、漁業者の数を制限することが可能になった。しかし、そもそも、漁業者が多すぎた上に、個々の漁業者が漁獲能力を増強させたために、ライセンス制度のみでは、何の抑制効果も得られなかった。

2)エフォート・コントロール

次のステップとして、出漁日数等のエフォート・コントロールが導入された。しかし、これらの取り組みはほとんど機能しなかった。絶え間ない技術革新によって、漁船の能力が飛躍的に向上したからである。出漁時間・日数が限られると、漁業者は短期間により多くの魚を漁獲をするために、設備投資を行う。早どり競争が激化し、結果として、漁獲能力がさらに押し上げられる。

漁船の性能は日進月歩である。出漁隻数や、出漁日数を制限したところで、個々の漁船の能力が急激に進化すれば、元の黙阿弥である。漁船の能力は、船の大き さ、エンジンの馬力、漁具の種類、魚群探知機などの電子機器、漁労長の能力など様々な要因に左右される。新しい漁具漁法の開発によって、漁船の漁獲能力は 年々向上している。これをTechnology Creepと呼ぶ。豪州で漁船の漁獲能力の増加を定量化したところ、年間3~5%程度であった。最近はソナーの登場によって、漁獲能力が一気に跳ね上がっ た。

例えば、マグロの一本釣りで有名な大間では、マグロの漁獲量は安定しているのだが、ソナーをつけた船が釣果を伸ばす一方で、ソナーが無い船はほとんど 釣ることが出来ない状態が続いている。大間に来遊するマグロの群れは年々減少しているのだが、低水準資源を効率的に漁獲するテクノロジーの進化によって、 漁獲量を維持しているのである。

3)テクニカル・コントロール

そこで、漁船のサイズ、エンジン、漁具、漁法、など漁獲努力量に影響を与える要因を細かく規制するテクニカル・コントロールが導入することになった。しかし、これも十分な効果を上げることが出来なかった。漁業者はルールの下で、漁獲を増やすように工夫をするからである。

以前は、漁船を見ればその国の規制がわかると言われていた。欧州は船の長さを制限したので、コロコロと丸い船体になった(写真)。一方、日本はトン数を制限したので、居住空間を極限まで切り詰めている。結果として、日本の漁船は、船室の屋根が、腰の高さまでしか無い場合も多い。漁業者は常に規制の影響を最小にするように工夫をする。その結果、規制は当初考えられていたような効果を得ることが出来ない。また、規制に適応するために無駄なコストがかかる。船体を丸くすれば燃費が悪くなるし、住居スペースが狭くなれば、労働環境が悪くなる。思ったような効果が得られないばかりか、漁業の生産性を損なうことになる。

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テクニカル・コントロールは、効果がない割に、規制を守らせるのが難しいという問題もある。日本では、漁船のエンジンの馬力や、集魚灯の光量に規制を設けているが、あまり遵守されていないのが実情である。漁船の検査が終われば、エンジンを載せ替えたり、不正はいくらでも出来る。入り口規制で、漁獲圧をコントロールしようという試みは、終わることのないイタチごっこであった。

テクニカルコントロールは、徒競走を障害物競走にしたようなものであった。障害物の数を増やしたところで、漁業は障害に対して適応し、漁獲を増やしていく。漁業者に余計なコストを課すだけで資源は守れなかったのである。




1960年代、1970年代は、世界の漁業管理の中心は、入口規制であった。しかし、入口規制は、漁業者のより多く獲りたいという欲求の前には無力であった。食材をローファットに変えたところで、食べる量が増えていけば、ダイエットには成らないのである。量を規制するしかないというのが、世界の共通認識となっている。出口規制で総量をコントロールした上で、混獲を減らすためにテクニカルコントロールを併用するというのが、今日では一般的なアプローチである。

もちろん、全てのものには例外がある。欧州では、出漁日数を漁船べつに割り振るIEQ(Individual Effort Quota)が成功を収めている例もある。ただ、この方法が機能するのは、EUがITQを選んだ理由でも書いたように、努力量と漁獲量が強い相関を持つ場合、すなわち、船や漁具の規格化が可能な小規模な漁業に限定されるでしょう。また、そういう漁業でも、ソナーのような道具が入ると、努力量当たりの漁獲量が跳ね上がることはあり得る話なので、漁獲量のモニターは必要でしょうね。

つぎは、出口管理のことを書きます(つづく)

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