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水産基本計画(2) 漁獲量は増えた?

基本計画が発動してから5年が経過し、今年は途中見直しが行われている。
当ブログでも、勝手に水産基本計画の達成率を査定してみよう。

基本計画策定後の漁獲量のトレンド

最近の漁獲率のトレンドは以下の通り。
今までと同じようにだらだら減っているように見える。

kihon1.png

基本計画策定後にトレンドは変わったか?

基本計画開始前後で、漁獲率のトレンドに変化があったかどうかを詳しく見てみよう。
基本計画策定前の(1979-2000)のマイワシを除く漁獲量を直線回帰してみた。

kihon2.png

回帰式は240394 – 117year であった。
直線的な減少傾向が統計学的にも有意であった。
毎年11.7万トンずつ減っていることになる。

では、この回帰直線と基本計画策定後の漁獲量を同じ図に書いてみよう。
kihon3.png

青い点が基本計画前、赤い点が基本計画後の漁獲量である。
直線は基本計画前のデータ(青い点)から求めた回帰直線である。
赤い点が回帰直線の上に載っていることから、
基本計画の開始前後で漁獲量の減少傾向は変わっていないことがわかる。
正直、ここまできれいに一致するとは思わなかった。

以上の結果から、わかることは

  1. 基本計画開始前と同じペースで漁獲量は減少をしている
  2. 資源量もだらだらと減り続けている
  3. 水産基本計画は、漁業にも資源にも影響を与えていない
  4. 5年前と比べて、資源量が減少したので、目標がさらに遠ざかった

漁獲量を積極的に削減しなかった当然の帰着といえるだろう。
おそらく、今回の中間見直しで、数値目標を下方修正するだろう。
お家芸のムーンウォークだ。

今後の動向

水産基本計画策定後も、漁獲量は以前と同じ割合で減少している。
今後も同じ割合で漁獲量、および資源量が減少すると考えるのが自然だろう。

kihon4.png

黒線が今後の漁獲のトレンド。
青線が2012年に達成予定であった海面漁獲量。
赤点が現在までの漁獲実績。

回帰直線に従って漁獲量が減少を続けるなら、平成24年の漁獲量は478万トンである。
これは海面漁獲量の目標値の71%であり、目標を3割も下回ることになる。
582万トンから、669万トンに増やしますと公約した。
87万トン増やすつもりが、104万トンの減少になるわけで、 
水産基本計画の達成率は、-120%となり、C評価ですね。

おそらくはこの線で進むと思うのだけど、
最終年あたりに目標漁獲量に近づけるために漁獲率を上げさせそうな予感がする。
そうなると、資源的に非常に厳しくなるので、それだけは止めて欲しいな。

水産基本計画(3) なぜ計画は破綻したのか

水産基本計画がいかに荒唐無稽かを見てみよう。

現行の水産基本計画の検証(18年2月)
http://www.jfa.maff.go.jp/sinseisaku/keikaku_19/doc/180223_4.pdf
の中に、下のような図がある。

kihon6.png

この図で注目して欲しいのは、目標値だ。
平成11年以降、コンスタントに増やしていく予定だったらしい。
現在は、資源の生産力以上の漁獲圧がかかっている。
このような漁業の現実を考えれば、
いきなり漁獲量を増やすという目標が非現実的なことは明白だ。
水産基本計画の正体は、乱獲促進計画に他ならない。

水産基本計画は乱獲促進計画であることの証明
1.現在の漁獲量は資源の生産力を上回っている
2.現状で漁獲量を増やしたら、資源の減少を加速させる
3.漁獲量を増やすという基本計画は、乱獲を促進させて、資源の崩壊を早める。

水産基本計画は、3行で論破できてしまいました。

「資源が低迷しているときにどうしますか?」→「漁獲量を増やします」
この解答があり得ないことは、自明だろう。
このあり得ない解答が、水産基本計画の本質なのだ。
水産資源学とか以前に、常識の問題だろう。
水産基本計画はどう見ても非現実的であり、「計画」と呼べるレベルに達していない。

日本は、漁業大国で、水産物消費大国で、GNPが世界2位の先進国。
その国の漁業政策の大黒柱が、このレベルというのは由々しき事態ですぞ。

水産基本計画(4) 海の中は無視ですか、そうですか

水産基本法は、漁業の現実を無視しており、実現性がないのは明らかだ。
なぜ、このように非現実的な計画が国策となったのか、その原因を探ってみよう。

水産業は、資源→漁獲→流通→消費というような流れ構造になっている。

kihon7.png

資源を漁獲して港に持ち帰るまでが海の中のプロセス。
港に水揚げされてから胃袋に収まるまでが陸上のプロセスとなる。
また、資源は生態系であり、漁業・加工・流通・需要は人間社会に属する。

さて、この一連の流れの中で、どこに問題があるかを整理してみよう。
現在、水産物に対して、大きな需要がある。
水産物に需要はあるが、生産が追いつかないので輸入に頼らざるを得ないのだ。
流通、加工、漁獲能力は充分にある。
現在の資源の生産力からすると、多すぎるぐらいだ。
強い需要を背景に、過剰な漁獲をかけ続けた結果、資源を枯渇させてしまった。
それが漁業が行き詰まった原因なのだ。
需要、加工、流通、漁獲ではなく、資源が漁業生産を制限する要因となっている。
漁業が衰退する根本原因は、海の中の生態系の問題である。

1)水産庁の資源軽視
水産基本計画は、すべて官僚が考えたものであるが、
基本的に水産庁の人は海の中のことを知らない。
ある程度は実務に関わっている資源管理課ですら
資源に対して無知な現状を考えれば、その他の部署の人も推して知るべしだ。
水産庁が発足した1948年当時は、資源はあるし、需要もあるが、
漁獲手段がないという状況であった。
水産庁は、漁業者が漁獲を増やすのを援護するために作られた組織である。
今でもそれが自分たちの役割だと思っている。
陸上の人間社会の利害関係を整理すること以外には関心が低い。
海の中の問題(資源の枯渇)を、人間社会の問題として捉えるところに、
水産庁の根本的な限界がある。

2)委員会の人選の偏り
水産基本計画には、当然ながら、外部の人間も関わっている。
外部の専門家で作る委員会が基本計画に関する審議を行っているのだ。
外部の委員には、基本計画の問題点を明らかにして、
方向修正をさせる役割があると思うのだが、
現状では充分に機能していないようだ。
その理由は、委員のメンツを見るとよくわかる。
人間の問題を扱う専門家ばかりで、海の中の問題をあつかう人がいないのだ。

水産基本計画の見直しに関する中間論点整理(案)の最後に委員名簿がある。
まず、小委員会が「経営」と「加工」しかないというところからして、ダメっぽい。
消費者団体代表、漁協の偉い人、さかなクン、および、大学関係者。
大学関係者は、経済学やコミュニティーが専門の文系ばかり。
唯一、海の中を専門とするのは長崎大の山口さん。
ただ、山口さんは鮫の生態が専門で、漁業とか資源管理の研究者ではない。

研究者としては一流の人ばかりだが、分野が偏りすぎているので、
専門分野外の資源枯渇や乱獲といった海の中の問題に対応しきれない。

資源は獲りきれないぐらいあって、漁獲能力も十分にある。
でも、魚が高く売れない。
そういう状況だったら、現在の人選は素晴らしいと思う。
そんな資源は、サンマぐらいだろう。

ちなみに、議事録はここで見ることができる。
案の定、海の中の資源の話は殆どなく、価格や消費の話に終始している。
このメンバーなら、そういう話題になるに決まっている。
そんな中で、漁業協同組合の矢野特別委員の発言はなかなか的を射ている。

多分、現場サイドから出ているのは私ぐらいじゃないですかね。
一応、漁業協同組合の組合長をやっております。 
その観点から言いますが、今の水産基本法というのは、
まるっきり基本からなっていませんね。

有効な手立てがあるかといったら何もやらないで生産量だけふやせと、
そんな虫のいい話はないですよ。

漁業の現場を知っている人に受け入れられるような代物ではないのだ。

3)人材はいないのか?
資源のことを理解できている人材が国内にいないわけではない。
議論に参加していないだけだ。
たとえば、水研センターの資源研究者は、
資源が低迷し、厳しさを増している現状を理解しているので、
さすがに漁獲量を増やせるとは思っていないだろう。
でも、彼らは基本法に関心がない。
「水産基本法?なにそれ」というノリだ。
無関心すぎるような気もするが、
委託された業務以外によけいな口出しはしないという処世術だろう。
本当のことを言うと、自分の立場が危うくなるので、お口にチャック。
君子危うきに近寄らずなのだ。
そういう文化が水研センターには蔓延していると思う。
そうやって組織にしがみついていても、
このまま漁業が衰退すれば組織自体が消滅するかもしれない。
そういう危機感はないのだろうか?

日本漁業では、太平洋戦争末期と同じことが起こっている。
どの戦場も戦況は悪く、戦線は着実に後退し続けている。
戦略に大きな誤りがあるのは、現場を知るものなら誰の目にも明らかだ。
しかし、現場で戦況の悪化を肌で感じている人間の意見は、
国策にフィードバックされないのだ。
戦況が厳しさを増す中で、大本営は非現実的な右肩上がりの政策を発表する。
高らかと鳴り響く進軍ラッパの音に、空虚さは隠しようもない。
こうして、軍の指導者たちは国を滅ぼしたのだ。

現在の日本漁業は、資源枯渇が原因で沈没しつつある。
それでも、生物資源の枯渇という根本的な問題に目を向けずに、
従来の人間社会の問題を扱う手法で何とかしようとあがいている。
経営とか、加工とかでなんとかしようという現在の水産庁の対応は、
沈みつつあるタイタニックでデッキチェアーを整えるようなものだ。
問題の本質から目をそらし、表面的に取り繕っているだけである。

「ふやす」は、攻めか?

水産総合研究センターの成果発表会が開かれるらしい。 
http://www.fra.affrc.go.jp/seika/

今年のテーマは「ふやす、とる、たべる-攻めの水産研究-」だそうです。

相も変わらず、増産のための研究しかしていないのですが、
それを攻めの水産研究と呼ぶあたりが、なかなかお茶目ですね。

ここ30年ぐらいの歴史を振り返ってみると、
「減った、獲れない、輸入-自滅の水産業-」であったわけです。

減ってしまった資源を種苗放流で回復させよう、というのが水産庁の考えです。
種苗放流には、何十年も湯水のように税金を投入してきました。
そろそろ効果が出てきても良いと思うのですが、資源の減少はとどまる様子がない。
「種苗放流って、効果がないんじゃないの?」と考えるのがふつうでしょう。

栽培漁業は効果が出る種と出ない種の差が顕著です。
栽培漁業が効果的だったのは、海草類やホタテ貝のような定着性の生物です。
張り付く場所を提供することで、安定的に生産できるようになりました。
磯焼けなど様々な問題点もありますが、これらの種にとって栽培漁業は機能しました。
一方、魚類に関しては、種苗放流はあまり機能していないのが実態です。
種苗の大量生産に成功をして、もっとも積極的に種苗放流が行われているのはヒラメです。
平成16年度でみると、生産量で39%、放流尾数で33%でどちらも一位です。
http://www.jasfa.or.jp/00kenkyu/001topics/060topics_083.html
さて、種苗生産の成功例であるヒラメの資源がどうなったか見てみましょう。

漁獲量はこんな感じです。

semenosuisann.png 

ぜんぜん、増えてません!

一応横ばいなので、一般的な底魚よりはマシといえるでしょう。
ただ、種苗放流にかかるコストをかんがえると、果たして黒字になるかは疑問です。
(このあたりは、今後、情報を集めてみます)
ヒラメは種苗の生産には成功しましたが、資源の増加には結びつかなかった。
すでに全国で大量に種苗を蒔いているのにこの程度ですから、
今後も減ることはあっても、増えることはないと思われます。

しかし、今後、種苗生産技術が飛躍的に向上しないとは限りません。
もし、放流技術が革命的に進歩をして、ヒラメ資源が増加したならば、
日本の漁業生産は回復するのでしょうか?
2005年の漁獲統計を見てみましょう。
http://www.maff.go.jp/toukei/sokuhou/data/gyogyou-yousyoku2005/gyogyou-yousyoku2005.xls
ヒラメの漁獲量は6千トン、海面漁業は4412千トンだから、
海面漁業生産の0.136%です。

種苗生産の成功例といわれるヒラメですら、
漁業全体の0.1%程度の小さな資源を横ばいにするのが精一杯
なのです。
種苗放流で日本の漁業生産を回復させるのは、
B29を竹槍で撃退するのと同じぐらい無理があるでしょう。

漁業生産の減少は、資源の枯渇が原因です。
親を残さなければ子供が居なくなるのは当たり前のこと。
充分な親を獲り残すこと以外に、資源を回復させる道はないでしょう。
一番大切な「のこす」というキーワードが抜けているのです。

過去30年、結果を出せなかったことを今も繰り返しているだけで、
「ふやす、とる、たべる」というキャッチコピーには、何の新鮮さもない。
現状の組織を守るための極めて保守的な方向性と言えるでしょう。
資源の現状に目をやらずに、増やす、増やすと非現実的なことを繰り返している。
これは「攻め」ではなく、「現実逃避」でしょう。
従来の「多く獲る漁業」から、「ちゃんと残す漁業」へと方向転換をすることが、
本当の意味で攻めの水産政策であり、そのための研究をして欲しいものです。

水産基本計画(5) 見直し案を見直そう

水産庁による「見直し案」を検証する

kihon6.png

上の図を見ればわかるように、水産基本計画に於いて、
「今後10年間、漁獲量を増やします」という目標を立てた。
計画半ばの5年目にして、目標に近づくどころかますます遠ざかっている。
基本計画に何らかの問題があるのは間違いないだろう。
水産庁は、基本計画の見直しを行い、中間論点整理を公開した。
http://www.jfa.maff.go.jp/sinseisaku/keikaku_19/doc/180725.htm
いったい、どこがどう改善されるのだろうか?
水産庁による見直しの内容を検証してみよう。

目標達成度の検証

水産基本計画の変更についての中間論点整理

① 水産物(食用魚介類)の自給率の検証
ア我が国漁業の持続的生産目標
食用魚介類の生産量は、近年は下げ止まり傾向が見られるが、増加には 転じていない。現状のまま推移すれば持続的生産目標の達成は厳しい状況 にある。
 生産量の変化を部門別にみると、沿岸漁業(養殖業含む)はほぼ横ばい、 遠洋・沖合漁業は減少が続いているが、生産量や資源の状況は漁業種類や 魚種によって異なることから、より詳細に、具体的には漁業種類や魚種に 着目して生産量の推移や生産目標との関係を分析することが必要である

「減ったから、その内訳を分析してみよう」では、お話にならない。
詳細な分析をするのは当たり前で、その上で問題点を特定して、
改善案を出していかなければ、見直しとは言わない。
具体的に何をどう改善するかというビジョンが無い。

生産量は下げ止まりという認識は、甘すぎるだろう。
近年、減少率が緩やかになっているのは、
90年代に急激に減少したマイワシの漁獲が殆どゼロになっただけである。
マイワシを除く漁獲量のトレンドは、30年間殆ど変わっていない。

新たな対策は?

現状では目標達成は厳しい状況。
では、政策をどのように変更するかを見てみよう。

4.政策改革の方向性
(1) 水産資源の回復・管理の推進
科学的知見に基づく水産資源の保存・管理、回復を着実に実施するとともに、我が国の排他的経済水域等の水産資源の基礎生産力の向上に集中的に取り組むこと、藻場・干潟の減少や沿岸域の漂流・漂着ゴミ問題、磯焼け問題の深刻化に対応して、早急な対策を講ずることが必要である。

① 我が国の排他的経済水域等における資源管理
我が国周辺水域の水産資源の多くが低位水準にある状況を踏まえ、種苗放流、休漁・漁獲制限や漁場環境の保全といった手法を活用した資源回復・資源管理の取組を積極的に推進していくことが必要である。併せて、漁船漁業の構造改革を進め、資源状況に見合った生産体制の再編を進めることが必要である。また、水産資源の動向や管理の状況について国民の理解を促進することが必要であり、このような観点からできる限りわかりやすい形で情報提供を行うことが重要である。

どこかで読んだような文章が続き、どこがどう改善されたのか全くわからない。
こういう文章では、オリジナルにどういう問題点があって、
そこをどう変更したかを書く必要があると思うのだが。
仕方がないから、オリジナルの水産基本計画と中間論点整理の比較表を作ってみた。

オリジナル

  1. 漁獲量及び漁獲努力量の管理により資源の回復を図る
  2. 積極的な種苗放流の推進
  3. 魚礁の設置、増殖場の造成等により資源の培養を図る
  4. 漁場環境の改善を図る


見直し案

  1. 種苗放流
  2. 休漁・漁獲制限や漁場環境の保全といった手法を活用した資源回復・資源管理の取組
  3. 資源状況に見合った生産体制の再編
  4. 水産資源の動向や管理の状況について国民の理解を促進する(情報提供)

あれ?どこが変わったの?

変更点の整理
種苗放流の順位が上がっている。
見直し案の2は、オリジナルの1と4を組み合わせたものである。
見直し案の3は、努力量の管理のことであり、オリジナルの1に含まれる。

順位や語句の入れ替えがメインであり、大きな変更は無い。
「魚礁の設置、増殖場の造成等により資源の培養を図る」が無くなった。
水産資源の動向や管理の状況について国民の理解を促進する(情報提供)が増えた

見直し案 = 元の基本計画 - 資源の培養 + 情報公開
ということになる。

この変更によって、目標を達成できるかどうかを考えてみよう。
種苗放流の効果が限定的であることは、すでに述べた。
資源管理や努力量の削減は重要だが、まじめにやれば漁獲量は確実に下がる。
情報公開も重要なテーマだけど、漁業生産の増加には寄与しない。
ということで、見直し案を実行したら、漁獲量は減る。
当初の目標である682万トンなど、夢のまた夢だろう。


総評
「現状のまま推移すれば持続的生産目標の達成は厳しい状況にある」
という状況にもかかわらず、実効性のある対策は無きに等しい。
以前の基本計画と同じことを、表現を変えて書いてあるだけだ。

この見直し案は、期待できない。
恐らく今までと同じように資源も漁獲量もズルズルと減り続けるだろう。
水産行政の柱の基本計画が破綻しているのに、危機感が無さ過ぎる。

水産基本計画って、達成できても出来なくても、どうでも良いものなの?

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