水産庁は風車であって、扇風機ではない

いろいろと水産行政の問題点を指摘してきた。
国内漁業は、大変に危機的状況にあることは間違いないだろう。
でも、こうなったのは水産庁の怠慢とは言い難い。
役所という組織は、何か新しい方向性を自分たちで打ち出していくのが苦手。
というか、そもそも、そういう組織ではないのだ。
水産庁は、風が吹かないと回らない風車のようなもの。
この風車を回す風は、世論などの外的圧力である。

さて、水産庁に対してどういう風が吹いているかというと、
一般人(納税者)は漁業に対して実に無関心。
漁業者は、長期的な産業の発展よりも、
むしろ、短期的なその場しのぎを求めている。
このような状況で、要求をしてくる漁業者の願いを叶える以外の選択肢は無い。
産庁は責務を立派に果たしてきたと言える。
現在の水産庁のなわばり分布だって、地方住民がそれを望んだから、
黄色組と緑組が勢力を伸ばしたという側面は否めない。
非常に民主的な組織運営の結果が、今の水産庁というわけだ。

国民は無関心で、漁業者は目先のその場しのぎを要求する。
こういう状況では、水産庁がリーダーシップを発揮して、
現在の水産業が抱える問題を解決することは不可能だ。
水産庁は扇風機ではないのだから。

ただ、水産庁は風車としては優秀なので、
充分な風を送れば、きちんと対応するはずだ。
例えば、水産庁は、国際資源では責任ある漁業を進めている。
国際漁場では、責任を問われるから、きちんと対応が出来るのだ。
一方、国内漁場では、責任ある漁業を進めようとはしない。
国内資源に対して、責任ある漁業を進めるような圧力がないから、
水産庁としても動きようがないだろう。

水産基本計画があれほどぐだぐだなのは、
風車であるところの水産庁が扇風機の真似事をしたからだ。
自給率を10%上げるという目標を上げたところで、
そこに風は吹いていない。
もちろん、自給率が上がること自体に反対の人はいないだろうが、
なんとしてでも自給率を上げるべきだと思っている人は少ない。
「まあ、自給率って高い方が良いよね」というノリだろう。
これでは、役所は力を発揮できない。
縦割りシステムのチームワークの悪さもあり、
水産基本計画は、破綻すべくして破綻したと言える。
漁業が先細りの中で、どこからも風は吹いてこない。
こういう状況では、水産庁も背伸びをせざるを得なかったのだろう。

カテゴリー: 研究 パーマリンク

水産庁は風車であって、扇風機ではない への8件のフィードバック

  1. ユウラ のコメント:

    扇風機ではなく、風車・・。
    大変理解しやすいよい表現あと思います。

    確かに国民の水産界に対する意識は薄いですね・・。

    以前、友達に魚が減っているから、どうしたらいいか、というような話を飲み会でしたら、養殖魚があるから大丈夫、輸入魚があるから大丈夫、そもそも日本ってたくさん魚とってるから大丈夫、という返答が帰ってきました。

    ・・・・いや、世界的にみても、魚って減少してきてるねんで、日本って魚の需要の半分輸入してんねんで、といったら驚かれました。

    食料問題について、今は危機感という風は吹いていませんが、近々、大きな風は吹くことでしょう。

    そのときにいかに資源が減少しているかという理解のしやすい資料と、実行可能な政策、そして国民の理解を得れるか。

    これを見届けるためにもこれから知識を吸収して、意見をいえる立場になっていきたいと思います。

  2. 匿名で甘えさせてもらっているヒト のコメント:

    『漁業者は、長期的な産業の発展よりも、
    むしろ、短期的なその場しのぎを求めている。』
    上記の内容は,少々,短絡的かと思います。

    遠洋,沖合漁業についてはヨク知りませんが,前浜を中心とした沿岸漁業を営む漁業者の場合,少なくとも,資源がある程度豊かであれば,やはり,長期的なビジョンを持っているかと思います。それは,そういう浜には『後継者=息子・娘』がいるからで,親父・お袋は,彼らの将来も考えています(当然の話です)。

    ただし,これも,前浜の資源がある程度豊かである浜に顕著に見られる傾向であるという所が少々悲しいですね。
    以前にも投稿しましたが,『種籾を残さないと来年の米は作れないが,今,その種籾を食べないと飢え死にしてしまう』状況では,将来もへったくれもありません。
    漁業者に希望を与えられるような,『何か』が必要なのです。
    ただし,その『何か』とは,効果の分からない『種苗放流事業』や『ABCを無視したTAC』ではないことだけは確かでしょう。

    いずれにせよ,数値だけを見て,極めて客観的に判断する先生方がいる一方,我々のような,現場で直接漁業者と接している者もおり,後者は,現実(資源量)と現実(漁業者の生活)とのハザマの中で,かなり悩ましく仕事をしているのです。

  3. ユウラ のコメント:

    匿名で甘えさせてもらっているヒトさんへ

    >現実(資源量)と現実(漁業者の生活)とのハザマの中で,かなり悩ましく仕事をしているのです。

    この文章にとても興味を持ちました。

    僕も漁業者の生活や魚価、国際問題を考慮しない数値に疑問を持っています。

    漁業者にとって希望を持たすことのできる何か・・今の僕の知識では、補償制度の確立が重要だと考えますが、なかなか国民の理解が得られないのが問題でしょう。

    よろしければ個人的にメールをしたいです。

    迷惑でなければ私のアドレスにメールを送っていただければ幸いです。

  4. 勝川 のコメント:

    ユウラさん
    >養殖魚があるから大丈夫
    >輸入魚があるから大丈夫
    >そもそも日本ってたくさん魚とってるから大丈夫、
    >という返答が帰ってきました。

    そうなんだよね。水産業の現状が全然伝わっていない。
    非常に誤った現状認識に基づく楽観論がある。
    これに関しては、研究者やメディアの責任も重いでしょう。

    匿名で甘えさせてもらっているヒトさん
    >上記の内容は,少々,短絡的かと思います。
    そうでしょうか?
    この話は総論なので、例外はもちろんあるでしょう。
    でも、全般的に漁業者は目先の利益を追求する傾向があると思います。

    >前浜の資源がある程度豊かである浜に顕著に見られる傾向
    と言われているように、
    長期的なビジョンで資源を利用できるケースは希なんです。
    地先で生活史を全うするような、固着性で収益性の高い資源のみです。
    沿岸で大切にしていても沖で獲られたら資源は守れない。
    結局は早い者勝ちになってしまう。

    >漁業者に希望を与えられるような,『何か』が必要なのです。
    希望を持てる漁業者の条件を考えれば、「何か」は自明。
    充分な経営基盤があり、それを自分たちの手で守れることです。
    そのためには、今の資源の生産力の範囲で養える数まで
    漁業者を減らさないとダメでしょう。

    もちろん、漁業者の立場を理解したうえで、協力する人は不可欠です。
    同時に、全体的な状況を客観的に把握して、その先の方向性を考える人も必要です。
    現状では、圧倒的に後者が不足しています(いない?)。

  5. 匿名で甘えさせてもらっているヒト のコメント:

    氏へ

    >全般的に漁業者は目先の利益を追求する傾向があると思います。
    これは,何も漁業者に限ったことではなく,人間の『業』みたいなものではないでしょうか?

    長期的な経営戦略,漁家経営の安定には,やはり,より良い情報の提供と,それを活用できる知識(社会教育)と行動力,そして,未来への希望でしょう。

    漁業者の高齢化は進んでおり,間違いなく,どんどん減っていくことでしょう。でも,漁業者が減ることだけでは問題が解決しないことも,十分に考えられるかと思います。

    とにかく,未来を,漁業者と,国民全体に知ってもらうことが,まず,はじめの一歩ですか・・・学会や大学・研究所レベルで留め置かれる状況を打破しないと・・・

    『捨て身のブログ』がそのアイテムの一つになるといいなぁ,と思いつつ,カキコさせていただいております。

  6. 勝川 のコメント:

    >>全般的に漁業者は目先の利益を追求する傾向があると思います。
    >これは,何も漁業者に限ったことではなく,
    >人間の『業』みたいなものではないでしょうか?
    日本人は全般的に長期的ビジョンがないですね。
    それでも何とかなる産業も数多くありますが、
    漁業は長期的視野を持たないといけないのです。
    漁業以外の産業は下手な投資をしても、
    投資をした金が無駄になるだけです。
    漁業の場合は、下手な投資をすると、
    資源を枯渇させて、産業自体が成り立たなくなる。

    >でも,漁業者が減ることだけでは問題が解決しないことも,
    >十分に考えられるかと思います。
    資源のほうが速いペースで減っているから、
    いまのペースで漁業者が減ってもダメでしょうね。

    >とにかく,未来を,漁業者と,国民全体に知ってもらうことが,
    >まず,はじめの一歩ですか・・・
    >学会や大学・研究所レベルで留め置かれる状況を打破しないと・・・
    学会や大学が未来を読めているかは疑問ですね。
    大学なんて、学生が来なくなれば、
    水産の看板を捨てるだけですから。

    >『捨て身のブログ』がそのアイテムの一つになるといいなぁ,
    >と思いつつ,カキコさせていただいております。
    いつも、ありがとうございます。
    感謝をしております。

  7. 元漁師 のコメント:

    勝川さん、ユーチューブに自作動画をアップしてみてはいかがでしょうか?

    目的は、現状の漁業の危機的状況を知らない国民に知ってもらい、世論を押し上げることです。

    30分も1時間も長いのはあきやすいし、見てもらえないので、

    最初は、「もっとも大事な事にフォーカス」した動画(3~5分)を
    複数シリーズとしてアップし反応をみます。

    いくつかのシリーズをアップして反応をみて(何回閲覧されたかはカウントされるのですぐわかります。)
    興味を持たれた動画の内容を拡充して、ちょっと長めの動画をまたアップしたりと
    色々試してみてはいかがでしょうか。

    例)
    http://www.youtube.com/watch?v=Myl5Cf4bm3Q

    http://www.youtube.com/watch?v=CDKt9HDSuQ0&feature=related

    別にセミナーを開いてかっこよく撮る必要などなく、顔出しナシで
    手元の画用紙にペンで書き書きしながら説明してるのを録画するだけでも
    いいですし。

    (もちろんホワイトボードの前で熱くスピーチする方が熱意がよく伝わるとは思いますが)

    ユーチューブを使った動画マーケティングはいまやネットでは外せないと思います。
    ブログとはまた違った展開を期待できるのではないでしょうか。

    • 勝川 のコメント:

      動画は重要だと思います。
      やっぱり、このサイトも一般人には堅すぎるみたいです。
      動画もビシビシ作りたいのだけど、なんせ、時間がない。
      でも、その気になれば1時間で作れるそうだなぁ。
      うむ、前向きに検討します。

      動画も昔はいろいろとアップしていたんだけど、引っ越しでリンクが切れてますね。
      ここも直さないと・・・

匿名で甘えさせてもらっているヒト へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です