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ワシントン条約 Archive
ワシントン条約の象牙規制
- 2016-10-04 (火)
- ワシントン条約
ワシントン条約の締約国会議が南アフリカで開かれています。マグロやウナギについては大きな動きはありません。大平洋クロマグロやニホンウナギの資源は相変わらず壊滅的ですが、東アジアのローカルな資源なので国際的な関心が薄いのです。
今回の締約国会議のハイライトは象牙で、主役は日本です。象牙のニュースがNHKなどのメディアで大きく報道されているので目にされた方も多いと思います。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20161003/k10010715241000.html
大まかな流れはこんな感じです。
1)象牙の国際取引の全面停止が提案された
2)日本が強硬に反対したために、「密猟、または違法取引につながる市場」のみの取引停止が採択される
日本政府の代表は、厳格に管理されている日本市場は閉鎖の対象外だと国内メディアに説明していますが、これは希望的推測であり、国際的な合意がえられたものではありません。
日本の象牙市場がどのような仕組みなのか。こちらのはんこ屋さんは、「日本はちゃんとやっていて、密猟された象牙は中国に行く」と主張しています。日本政府も厳格に管理しているといっているし、ちゃんとやっているのだろうと普通の人は思うでしょう。
本当にそうなのか。海外のNGOが調べたレポートがこちらです(オリジナル)(日本語訳)。
「日本の制度 は抜け穴によって病んでおり、また規制力の 弱い法律によって効果をそがれてしまってい る。その結果、最も基本的なレベルにおいて さえ、意味のある規制は存在しないに等しい」と強く批判されています。詳しくは本文を読んでいただきたいのですが、日本の象牙取引業者に、本来は売買できないはずの象牙の販売を申し出たところ、8割の業者が不正な手段で購入を教唆したというショッキングな内容です。
このレポートは海外の主要メディアは大きく取り上げました。日本の象牙認証システムがザルであるという認識は海外では広まっています。ナショナルジオグラフィックでも、次のように報じています。
日本で違法な象牙取引が横行、覆面調査でも確認
業者からはウソを書くよう持ちかけられ、規制制度は穴だらけ
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/121400363/
日本の象牙の認証は「1990年よりも前に入手した」と自己申告すれば簡単に登録できてしまうザルのようなシステムなのです。書類の上での整合性はとれるかもしれませんが、違法な象牙を排除する実効性は期待できません。さらに、残念なことに環境省と経産省の指定機関「自然環境研究センター」の担当者が、違法な象牙取引を促進しているという批判もあります。
http://www.sankei.com/premium/news/160925/prm1609250031-n1.html
国内での象牙の新規登録がここに来て急増しています。これらは全て1990年以前に日本に輸入されたことになっているのですが、それを証明する発行書が自己申告なので、実態はわかりません。
http://eia-global.org/images/uploads/EIA_Japan_Illegal_Ivory_Trade__Japanese.pdfより引用
大量の密猟象牙が現在進行形で日本に入ってきているのかどうかは疑問です。国内の象牙需要は斜陽状態で、すでに20億円程度。価格は中国の方が上なので、わざわざ日本を経由するメリットは無いでしょう。中国で象牙の価格が上がったことから、規制前に国内に入った象牙が中国に流れていると考えるのが自然です。
だからといって、日本市場の継続に対して国際的な理解が得られるでしょうか。日本の認証システムは性善説で運営されており、グレーの象牙も認証できてしまう状態だという指摘は説得力を持ちます。日本の象牙が「厳格に管理されている」とは言えないし、適正な認証を得ていない象牙が中国に流れている可能性がありますので、「違法取引につながる市場」と言えると思います。
今回のワシントン条約で象徴的なのは、中国の転身です。これまで中国は自国が取引をする規制には強硬に反対してきました。日本と中国がツートップで、国際的な規制に反対してきたのです。しかし、今回は中国は規制に対して前向きな姿勢を示しています。昨年の9月に行われた米中首脳会談で、象牙の国内取引の停止で合意をしています。象牙のみならず、野生生物の不正取引撲滅に連携して行く方針が示されています。
習近平中国国家主席とバラク・オバマ米大統領は今日、今なお続く密猟危機からゾウを保護するために両国が迅速に行動するという歴史的な発表を行いました。「習主席は今日、ゾウを救うための闘いに大勝利をもたらしました」と国際動物福祉基金(IFAW)の代表、アゼディーン・ダウンズは言います。
締約国会議でも、これまでヒールだった中国が一転して、優等生になっているようです。以下は三浦英之さん(朝日新聞アフリカ特派員)のツイートです。
https://twitter.com/miura_hideyuki
ワシントン条約会議の象牙市場問題。日本の反対で「全面閉鎖」ではなく「違法取引市場の閉鎖」で可決。日本政府代表は可決後、「我々の主張認められた。日本市場は閉鎖対象ではなく、今後も継続」。環境団体は「日本では密輸事案が多発。市場閉鎖を」と猛反発。「これではゾウを守れない」と落胆してる pic.twitter.com/csh7nEsgaK
— 三浦英之(朝日新聞アフリカ特派員) (@miura_hideyuki) October 2, 2016
南アで開催中のワシントン条約会議。象牙の市場閉鎖をめぐり非公開で開かれた作業部会の内容が出席者への取材で徐々に明らかに。ゾウを密猟から守るため、象牙市場の「全面閉鎖」を訴えたアフリカ諸国に対し、日本は「密猟を増加させる著しい違法取引のある市場」の「限定的閉鎖」を要求(続) pic.twitter.com/VwHDBrG0kx
— 三浦英之(朝日新聞アフリカ特派員) (@miura_hideyuki) October 3, 2016
(続)一方、密猟象牙の最大の密輸先である中国は「市場がある限り密猟は続く。例外を認めるべきではない」と「全面閉鎖」を支持。会場から驚きと賛同の拍手が上がった。議論は紛糾し、結局、「違法取引の原因となる市場」の閉鎖という玉虫色に。日本と中国。本来の立場が逆転している pic.twitter.com/YjSGsnDkRF
— 三浦英之(朝日新聞アフリカ特派員) (@miura_hideyuki) October 3, 2016
密猟象牙の最大の市場は中国であり、現在進行形の密猟への日本の関与はあまり無いと思います。にもかかわらず、日本が悪い意味での存在感を発揮して、「目先の金が最優先で、絶滅危惧種の保全に後ろ向き」という評価を得てしまうのは、とても残念なことです。
中国の転身がもたらした世界的な流れに、日本も乗るように、米国は働きかけていました。
日本も象牙国内取引禁止を…米代表
http://mainichi.jp/articles/20160926/k00/00e/030/165000c
アッシュ氏は「日本がのけ者にならないでほしい」と話し、決議案に賛成するよう求めた。
象牙取引を巡っては、オバマ米大統領と中国の習近平国家主席が昨年9月の首脳会談で、国内取引の禁止に取り組むことで合意した。アッシュ氏は「中国側は今年中に取引禁止に向けたスケジュールを示すと約束した」と明らかにし「日本も共に立ち上がるべきだ」と付け加えた。
米国の申し出に乗っかって、日米中で象牙取引禁止宣言でもやっていれば、日本の株もぐっと上がったことでしょう。
本来は日本が環境を錦の御旗にして、中国の膨張を食い止めないといけないところが、逆に中国にリードされて国際社会で日本が孤立するという最悪の展開になってしまいました。今後の日中関係を考える上でも大きな転機になりそうです。
(転載禁止)
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