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捕鯨問題 Archive

シーシェパードが急成長した原因は、日本の失策

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朝日新聞にシーシェパードが初めて登場したのは1987年。その後20年間は、ごく希にメディアに登場するに過ぎなかった。過激なパフォーマンスにもかかわらず、数年前まで、鳴かず飛ばずだったのだ。シーシェパードはゴムボートから瓶を投げたり、停泊中の捕鯨船にいたずらをするぐらいの、しょぼい集団であり、支持者はそう多くなかった。しかし、シーシェパードの活動は、2008年から、突然活発化する。わずか4年後には、大きな船を複数所有し、日本の調査捕鯨を実力阻止してしまった。

1987 1 アイスランドで停泊中の捕鯨船を襲撃
1988 1 ロシアのクジラ救出に対するポール・ワトソンのコメント
1992 1 日本イカ流し網を妨害
1994 1 ノルウェーで停泊中の捕鯨船を襲撃
2003 2 太地町のクジラ漁妨害
2004 0
2005 0
2006 0
2007 1 日本のザトウクジラ捕獲宣言
2008 52 捕鯨船への相次ぐ攻撃
2009 18
2010 88
2011 20

ここ数年のシーシェパードの装備の充実には目を見張るものがある。2007年12月には、スコットランドの漁業監視船を中古で購入し、さらに、2010年には、中古の捕鯨船を購入する羽振りの良さだ。

M/Y Steve Irwin December 5, 2007 全長53m, スコットランドの漁業監視船
M/Y Bob Barker January 5, 2010, 全長52.2 m、ノルウェーの捕鯨船

今は、ヘリコプターも持っているので、ひとたび発見されたら、逃げ切るのは困難だろう。

切っ掛けはザトウクジラ

シーシェパードの急成長の要因は、水産庁のザトウクジラ捕獲宣言だ。豪州やNZのホエールウォッチング愛好家は、南氷洋のザトウクジラを個体識別して、名前をつけて、愛でている。水産庁は、2007年から、南氷洋のザトウクジラを50頭捕獲すると宣言して、南半球の反捕鯨運動の火に油を注いだのである。豪州は「誰が、日本の捕鯨船に殺されるの?」と半ばパニック状態になってしまった。日本でも、釧路のラッコのくーちゃんが大人気であった。もし、地球の反対から、釧路沖にラッコを捕る船がわざわざやってきたら、釧路のくーちゃんファンは、どう思うだろうか。

それまで、日本が調査捕鯨で獲っているミンククジラは、資源も豊富で、ホエールウォッチングの対象でもなかった。「ミンククジラを守れ」では、寄付金は集まらなかったのだ。日本がザトウクジラ捕獲宣言をしたおかげで、寄付金がいくらでもあつまるようになった。ザトウに手を出したら、こうなるのは、ちょっと考えればわかる話なのに。日本のザトウクジラ捕獲宣言によって、豪州・NZにおけるシーシェパードの集金力は一気に跳ね上がり、2007-2008の調査から、妨害工作が大規模化したのである。水産庁は「近年、シーシェパードの妨害が活発化して・・・」と言っているけど、その原因を作ったのは日本なのだ。

シーシェパードの活動の活発化の背景には、日本政府の失策がある。シーシェパードが怪しからんと思う人間は、その怪しからん団体が、何で大型船をバンバン買えるのか考えてほしい。ザトウ捕獲宣言をして、シーシェパードに寄付金があつまる状況をつくったのは、他ならぬ水産庁だ。今回、南氷洋から撤退するにあたり、「シーシェパードの妨害のせいで撤退する」とわざわざ世界中に宣言して、シーシェパードに捕鯨阻止という大金星をあたえてしまった。日本の国益を考えれば、「船の調子が悪くて」とか、「国内の都合で」とか、別の理由を準備すべきだろう。どこまでシーシェパードの発展に寄与すれば気が済むのだろうか。

日本がシーシェパードを育てたせいで、これから世界中の漁業者が彼らのテロに晒されるだろう。申し訳ない気持ちで一杯だ。

我々日本人が、捕鯨について議論すべき事

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我々、日本人が、今、議論すべき事は、「調査捕鯨を続けることが日本の国益に適うかどうか」である。シーシェパードへの感情論とは切り離して、調査捕鯨を継続するかどうかを、日本の問題として判断する必要がある。

調査捕鯨の歴史

南氷洋の捕鯨について簡単におさらいをしよう。戦後、食糧難を緩和するために、日本は米国の協力を得て、南氷洋捕鯨を国策として推進した。極洋、ニッスイ、大洋という3つの大手企業が参入したが、南氷洋のクジラが減少したことと、日本で鯨肉が売れなくなったことで、収益が悪化した。3つの会社の捕鯨部門を統合して、共同捕鯨という会社をつくったのである。

その後、南氷洋モラトリアムによって、日本は商業捕鯨を継続できなくなった。商業捕鯨再開を目指す日本は、鯨類研究所を設立し、共同船舶(共同捕鯨が名前を変えた)に調査を委託するという形式で捕鯨産業を守ったのである。この辺の歴史については、いくらでも資料があるので、興味がある人は自分で調べて下さい。お勧めは、捕鯨問題の歴史社会学です。

調査捕鯨の目的

調査捕鯨にはいくつかの目的があった。簡単に整理するとこんな感じ。

大義名分

科学調査によって、南氷洋商業捕鯨モラトリアムを解除して、商業捕鯨を再開する

副次的なメリット

  1. 鯨肉供給(国民)
  2. 捕鯨船員の雇用確保(業界)
  3. マグロ漁業を守る盾(業界)
  4. 政治的に安全な票田(政治家)
  5. 天下り先の確保(役人)

副次的なデメリット

  1. 税金の投入
  2. 海外のひんしゅく
  3. 抗議行動

日本の消費者、業界、政治家、役人すべてにメリットがある、実によく考えられたシステムだ。90年代までは、歯車が上手く回っていた。鯨肉の供給が追いつかないような状況になり、調査を口実にわざわざ捕獲枠を拡大したのである。

最近は、システムが老朽化し、いろいろと問題が指摘されるようになった。最大の問題は、大義名分がすでに失われていることだろう。モラトリアムを解除したところで、南氷洋捕鯨に参入しようというものが、誰もいないのである。

南氷洋で商業捕鯨をしたがっている民間企業はない

母船式の南氷洋捕鯨をするには、大規模な資本と技術が必要になる。日本でその候補となるのは、ニッスイ、マルハ、極洋などの大手水産ぐらいである。彼らは、商業捕鯨への再参入はしないと明言している。ほとんど話題にもならなかったが、「参入しない宣言」の意味は大きい。

2008年06月14日 朝日新聞

商業捕鯨の中核企業だったマルハニチロホールディングス、日本水産、極洋の水産大手3社は、商業捕鯨が解禁されても再参入しない方針を明らかにした。

日水の佐藤泰久専務は「昔食べた人は懐かしいだろうが、他の肉のほうがおいしいのでは」とし、極洋の多田久樹専務も「若い人は鯨肉を食べない」とする。マルハニチロの河添誠吾常務は「捕鯨船は数十億円の投資がかかり、収支があわない」と語る。

水産庁遠洋課は「それぞれの経営判断だ。我々は捕鯨の技術を維持していくことを重視しているし、事業も採算はあうと思っている」と話す。

2006年までは共同船舶の株式は、大手水産3社が保有していた。共同船舶は民間企業であり、共同船舶の捕鯨事業が継続できれば、それが商業捕鯨再開ということになったのである。しかし、大手水産会社は、捕鯨と関わることのリスクを嫌い、06年に全ての株式を農水省所管の5つの財団法人に売却した。共同船舶は、事実上の国策企業なのだ。

国策事業の南氷洋捕鯨では採算はとれない

国策企業で南氷洋捕鯨をやれば経営はどうなるか、というのは、今の調査捕鯨をみればよくわかる。

鯨肉消費の減少(ランニングコストの赤字)

鯨肉の消費が落ちている。日本人は一人1年当たり、100gも食べていない。特に、若者層に至っては、食べたことがない人間は大半を占めている。このまま時間が過ぎれば、ますます需要は減るだろう。「鯨肉売れない→在庫が増える」という悪循環なんだけど、「鯨肉の需要が無いから捕獲数を減らします」とは言いづらい。ここ数年は、シーシェパードを口実に、捕獲を減らせたのに、それでも在庫が増えている。

鯨類研究所のプレスリリースは、シーシェパード一色。シーシェパードのブログみたいな様相を呈している。以前は、妨害行為をメディアに流せば、「日本の捕鯨を応援しよう」と鯨肉の消費が伸びたのだが、最近は視聴者も飽きてしまって、売り上げが伸びない。去年はシーシェパードのことをさんざん報道して、シーシェパードの船を破壊したのに、鯨肉の売り上げが3割も落ちてしまった。

捕鯨船の老朽化(固定費が払えない)

日新丸はすでに何度も火災を起こしているし、事故による死者も出している。キャッチャーボートにしても、老朽化が進んでいる。調査捕鯨を続けるなら、遅かれ早かれ、代船建造が必要になる。また、日新丸の冷凍設備は旧式だから、鯨肉の品質が良くない。ミンクだって、近海物と比較して格段に落ちる。今の冷凍設備では需要は伸びないだろう。

捕鯨船は、基本的にオーダーメード。商業捕鯨が行われなくなって久しいわけで、どっかから中古を買ってくることもできない。新しく作るとなると莫大な金額が必要になる。

新船の建造費用のような固定費を積み上げて、初めて事業としての採算が成り立つことになる。運転資金すら捻出できず、赤字が積み上がっている現状で、新船建造は難しい。ということは、中長期的に調査捕鯨事業の継続は不可能なのだ。

http://www.icrwhale.org/02-A-63.htm
http://www.icrwhale.org/090105ReleaseJp.htm

調査捕鯨の出口は、南氷洋捕鯨の消滅以外に無い

調査捕鯨の置かれているどん詰まりの状況を図にまとめると、次のようになる。最終的な結論は、南氷洋捕鯨の消滅であり、そこに至るプロセスをどうするかという選択肢しかない。

南氷洋商業捕鯨を行うだけの、資本と技術がある大手水産は、仮にモラトリアムが解除されても、捕鯨再開しないと宣言している。つまり、モラトリアムが解除されたとしても、民間企業は南氷洋商業捕鯨に参入しない。それどころか、調査捕鯨に税金を投入する大義名分が失われるので、日本から南氷洋にクジラを獲りに行く船はいなくなる可能性すらある。「モラトリアムを解除して商業捕鯨再開」というシナリオの実現性は低いだろう。

では、大義名分が失われたことを隠して、今まで通り調査捕鯨を続けられるかというと、それも難しい。まず、鯨肉が売れなくて、ランニングコストが赤字である。ただ、当面の運転資金は、海外漁業協力財団などを通して迂回融資をすれば、何とかなる。中長期的に見て大きな問題は、いずれやってくる代船建造資金をどうするかということ。船が使えなくなるのが先か、鯨類研究所が倒産するのが先かというような様相である。

我々日本人が、捕鯨について議論すべき事

我々日本人が、今、捕鯨について議論をすべきは、「調査捕鯨に存在意義はあるのか?」ということだ。言い換えれば、「モラトリアムが解除されれば、日本に南氷洋捕鯨産業が育つのか?」ということだ。

  • 誰が、南氷洋にクジラを捕りに行くのか?
  • 採算はとれるのか?
  • このままだと、確実に落ちていく需要をどうするのか?

といったことを考えると、モラトリアムを解除して、南氷洋商業捕鯨復活というシナリオには無理があるだろう。

調査捕鯨を継続する上での最大の問題点は、シーシェパードではない。根本的な問題は、調査捕鯨には、必然性と大義名分と将来のビジョンが無いということ。逆に、モラトリアム解除後のビジョンさえしっかりしていれば、調査捕鯨の赤字なんて、どうでも良い話である。反捕鯨団体は、調査捕鯨の赤字を強調しているが、そもそも、調査捕鯨は、調査なんだから、単体の事業が黒字である必要はない。調査自体が赤字であっても、その先に、より大きな国益に結びつく明確なビジョンがあれば、何ら問題はない。問題は、「そのようなビジョンが無い」という点なのだ。

「商業捕鯨再開のビジョンがない」、「鯨肉売れない」、「代船建造できない」という、ないないづくしの調査捕鯨を、国民のシーシェパードへの反感を利用して、なんとか延命してきたけれど、それも、もう限界だろう。かといって、「文化、文化」とさんざん煽った手前、「鯨肉が売れなくて、金が無いから撤退します」とは水産庁的には言いづらい。そこで、シーシェパードを上手に使って、調査捕鯨から手を引こうと画策しているというのが、現状だろう。

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from 18 Mar. 2009

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