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ここがヘンだよ クローズアップ現代「マグロが捨てられる!?海の恵みをどう守るか」
事実誤認とミスリードばかりの番組が放映されたので、ツッコミを入れていきます。
番組では、政府による漁獲枠規制のごり押しを問題視して、解決策として千葉のキンメダイなど漁業者の話し合いによる自主管理の成功事例を紹介したうえで、国は漁獲規制を強引に進めようとせず、漁業者が自主的に話し合いでルールを決めるのを待てと主張しました。
番組の趣旨は、こちらのゲストのコメントに要約されています。
「これについては、やはり漁業者がそれぞれみんなで決めて時間をかけて決めたことだから、国が管理しなくても監視しなくてもしっかり守ってもらえるという大事な制度がワークするような状況になるんです。ただ、国がそのことを無視して出口管理だけ強めるというと、これは反発が起こりますよね。やはり、リスペクトが大事。現場に対するリスペクトがあって、ベストミックスに持っていくのが大事かと思います。」
漁業者の自主規制が機能するには、国の規制が不可欠
この番組が根本的に間違えているのは、漁業者の自主規制と、公的機関の規制はバッティングしないということです。むしろ、公的機関が適切な規制をしないと、自主規制は殆どの場合に機能しないのです。
漁業者の自主管理が可能なのは、話し合ってルールを決められる範囲に限られます。都道府県をまたぐ資源や、巻き網や定置網など複数の漁業が利用する資源では、そもそも利用者が話し合う機会が無いので、漁業者の話し合いでルールができることは期待できません。
自主的な取り組みが機能するには以下の条件があります。
- 定住性の小規模資源などグループで排他的に利用できる資源
- 漁法や漁船規模がほぼ均一、
- 漁業の将来を考えて、理論的に行動できるリーダがいる。
番組で紹介されたキンメダイの自主管理は、上記の①~③を満たしています。この取り組みを行っている漁業者のことは昔から知っているのですが、漁業の未来のことを考えている立派な人たちです。こちらは2017年のツイートです。
https://twitter.com/katukawa/status/871666472229117953
キンメダイの自主規制は良い取り組みではあるのですが、クロマグロの漁獲規制の解決策にはなり得ません。クロマグロのように、回遊性の魚種で、一本釣り、定置、巻き網、引き縄など多くの漁法が、北海道から沖縄まで広範囲で利用する資源の場合は、すべての漁業者が集まって話し合いをすること自体が不可能です。また、多岐にわたる漁法を、禁漁期や網目の制限などで公平に規制できるはずがありません。漁業者の話し合いと、漁具・漁法の規制(入り口管理)では、クロマグロなどの大規模資源は管理できないのです。
広域回遊をして、複数の漁法で利用されている資源は、「自分たちが獲らなくても、他の誰かが獲ってしまう」ということで、我慢した人が損をするだけで、規制になりません。千葉のキンメ漁師とは、クロマグロの漁獲規制を国に訴える際に連携したのですが、「キンメは自分たちで管理できるけど、サバやクロマグロは国にしっかりしてもらわないと困る」とぼやいていました。
広域資源で自主規制を機能させるには、ルールについて話し合いができる範囲まで、漁獲枠の個別配分を早急に進める必要があるのです。都道府県をまたぐ資源では、全体の調整ができるのは、国しかありません。国は漁獲枠の設定を急がずに、漁業者の自主的な取り組みを待つべきだという主張は、ナンセンスです。
過去70年間、自主規制は殆ど機能してこなかったという現実
クロマグロは国際機関WCPFCによる漁獲規制が導入されていますが、それ以外の国内資源について、日本政府は現在までほとんど規制をしていません。過去70年以上、漁獲規制については、現場をリスペクトして、漁業者に丸投げしてきたのです。みんなで話し合ってルールを決める時間は、十分にあったわけです。その結果が、漁獲量の直線的な減少です。事態に改善が見られるならまだしも、年々酷くなっている状況で、これまで通り何もせずに、変化が自然に起こるのを待つべきという主張は無責任でしょう。漁業者の自主規制が機能する前に資源も漁業もなくなるでしょう。
キンメダイのような自主管理が可能な資源でも、千葉以外は減少傾向です。一部の例外を除いて、漁業者の自主規制の枠組みは機能していないのです。千葉のキンメ漁業のような例外的な成功事例があるからといって、現状を放置して良いわけではないのです。このように、数多くの事例の中から自らの論証に有利な例外的事例のみを選び、恣意的な結論を導くのは、チェリーピッキングと呼ばれる詭弁の一種です。
まとめ
番組制作者には、事実誤認が多く、漁獲規制の基本的な事が理解できていません。あたかも自主管理がバラ色の解決策であるかのごとくミスリードして、漁業者をリスペクトしてしばらく様子を見ようという間違えた結論を導いています。テレビには影響力がありますので、事実関係を確認した上で、まともな番組を放映していただきたいものです。
追記:
漁獲枠自体が悪いのではなく、その運用の仕組みに問題あるので、その点を改善する必要があります。
具体的には、次の2点:
- 定置や釣りへの漁獲枠の配分が少なすぎる
- 定置が漁獲枠を超過した場合に、全体のつじつまを合わせる仕組みを作る
定置網への漁獲枠配分が不当に小さいです。巻き網ばかりを優遇せずに、沿岸小規模漁業の生存のために必要な漁獲枠を確保すべきです。定置や一本釣りに獲らせて、枠が余ったら、巻き網に獲らせるぐらいでちょうど良いと思います。巻き網に潤沢な枠を配分するのは、資源が回復してからでも良いでしょう。
また、定置が獲りすぎるケースは当然想定すべきであって、その場合に、どこかから枠を融通できるようにしておくべきです。十分な枠を持っていて、マグロを捕るか捕らないかを選択できるのは巻網だけなので、現状では巻網の枠を使うことになるでしょう。定置が獲りすぎた分は、巻網の枠を当てることにする。モラルハザードにならないように、超過分の売り上げは国が回収し、巻き網に配分するような補償措置は必要かもしれません。
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NHK総合 NEW WEBに出演します。
本日23:30から、NHKのニュース番組(総合テレビ)に出演します。
夕方、NHKからサンマの情報提供をして欲しいと言われて、電話で色々話していたら、スタジオに来て欲しいということになり、急遽行くことになりました。東京在住は、楽でいいね。
- チャンネル
- [総合]
2015年10月16日(金) 午後11:30~午前0:00(30分)
- ジャンル
- ニュース/報道>定時・総合
ニュース/報道>天気
ニュース/報道>解説
- 番組内容
- サンマがとれない!食卓を直撃する不漁の原因は…海水温?エサ不足?とりすぎ?専門家と掘り下げる▽新たに200余を確認…与謝蕪村の知られざる句▽ナビは水無田気流さん
- 出演者ほか
- 【ナビゲーター】詩人…水無田気流,【キャスター】鎌倉千秋,【ニュースリーダー】小見誠広,【気象キャスター】斉田季実治
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4月15日のクローズアップ現代
視聴者の反応は、好評だったようです。
番組の内容がNHKのウェブサイトに公開されております。番組の一部が動画でご覧いただけます。
とても良く出来た動画だと思いますので、ぜひ、ご覧ください。
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BSジャパン「日経プラス10」に出演します
本日、夜10時から放送のBSジャパン「日経プラス10」に出演します。
食卓から魚が消える!?日本の「魚食」はどうなる
~ホッケ・アジ・クロマグロが深刻な不漁に…日本の海で何が起きているのか/繰り返される“乱獲”水産業界が陥った現実/漁業を知り尽くしたプロが語る「賢く食べて魚を増やす」方法とは/日本の漁獲規制は“抜け穴”だらけだった!?水産資源再生への道はあるのか~
https://twitter.com/nikkeiplus…/…/595473094782767105/photo/1
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水産業の苦境を打開するのに必要なのは、補助金では無く、資源管理
産経ビジネスに漁業の復興関連の記事があった。この記事から、日本の水産業が元気が無い理由が透けて見えるような気がしたので、整理してみようと思う。まずは記事に目を通して欲しい。
三陸の水産業者、苦境打開へ 世界に活路もアピール不足
三陸地方の水産業者が、海外展開に活路を見いだしている。東日本大震災から3年が過ぎても続く苦境を打開しようと、国や自治体も支援に乗り出した。だが、宮城県気仙沼市が5月に実施した欧州視察事業からは、国を挙げてのPR力不足や、衛生基準などを満たすハードルの高さが見えてきた
Sankei Biz 2014.6.21 07:10
「PR力不足」、「衛生基準の不備」、「人手不足」という問題があるのは確かなんだけど、「これらの他国では当たり前のようにできていることが、なぜ日本ではできないか」という根本的な問題を考えないといけない。これらの構造的な問題は、被災地だけのものでもないし、被災後に新たに発生したものでもない。そもそも漁獲規制が緩い日本では、価値が出る前に魚を獲り尽くしてしまうので、水産業では利益が出ない。だから、マーケティングや衛生管理などに投資ができないのである。乱獲された魚を高く買う先進国はないので、PR力や衛生基準の前に、持続性に取り組まなければならない。相手に買ってもらえる生産体制を作るのが先なのだ。
また、PR活動をやるなら、業界の自己負担が大原則だ。ノルウェーの場合は、ノルウェー水産物審議会がマーケティングをしている。日本でも、ノルウェー大使館と連携と獲りながら、活動をしている。その原資はすべて業界負担である。
前述の法律に基づき、ノルウェーの全ての水産物輸出業者は、NSC に登録し、賦課金を拠出することが義務付けられている。
NSC の財源は、各水産物の輸出ごとに徴収される賦課金である。賦課金は魚種に関係なく輸出額に対して一律 0.75%に設定されている。http://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_enkatu/pdf/h23_taisei_5norwey.pdf
業界が身銭をきっているから、NSCの活動は具体的な成果を常に問われている。組織防衛のために、必死になって、プロモーションをしている。日本の場合は、「初めに補助金ありき」である。他人の財布感覚で、タレントを呼んで、自己満足的なイベントをしておわり。広告代理店が儲けるだけで、後には何も残らない。
まとめるとこんなかんじ
○ これまでの水産物ブランド化事業→補助金で話題作り→効果が無い
○ ブランドを育てるために必要な要素
①差別化できる水産物の安定供給 → 資源管理・持続性認証
②適切なマーケティング → 受益者負担・専門組織
日本の水産物ブランド化の取り組み(補助金事業)はことごとく失敗してきた。ブランドを育てるために必要な要素が欠けているからである。水産物ブランド化の前提としては、差別化できる水産物を安定供給できる体制を整えないといけない。そのためにやるべきことは資源管理と持続性認証(水産エコラベル)である。水産エコラベルは、単価が高い欧米に魚を売る上でもはや必須と言える。①の条件と整えた上で、②適切なマーケティングを行う必要がある。そのための必要条件は、受益者負担とそのための専門組織をつくることだ。
人手不足の原因は、日本の水産業は利益が出ないから、安い賃金しか出せないことである。震災前から、日本の水産加工業は中国人研修生という安い労働力に依存していた。それでも利益が出ずに衰退の一途を辿っていた。ノルウェーは、人手不足で、賃金が高くても人があつまらないから、仕方なく設備投資をして省人化を進めている。日本とノルウェーでは、おかれた状況が違うのである。ノルウェーの近代的な加工設備を補助金で導入したところで、減価償却すら難しいだろう。今の日本がノルウェーから見習うべき点は、近代的な設備ではなく、そういう投資を可能にする前提としての資源管理なのだ。
地域の雇用という観点からは、日本に必要な施策は省人化では無く、水産業の黒字化であることは自明だろう。たとえば、こちらの動画(2:55~)はニュージーランドの離島の水産加工場である。ニュージーランド政府の厳しい漁獲規制のおかげで、水産業が利益を上げているために、機械化を進めなくても十分な賃金が支払われている。
これまでも、「あれが無い」、「これが無い」といって、補助金に依存してきた日本の水産業は衰退の一途を辿っている。海外に目を向ければ、資源管理をしっかりしている漁業国は軒並み利益を伸ばしている。水産業の苦境を打開するのに必要なのは、補助金では無く、資源管理なのである。
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プライムニュース でウナギについて議論をしました
プライムニュースに出演して、ウナギについて議論をしました。
6月17日(火)
『ニホンウナギ絶滅危機 捕獲量取り戻すには 魚食文化どう守る 』
12日、国際自然保護連合(IUCN)はニホンウナギを絶滅の恐れがある絶滅危惧種に指定した。IUCNの判断には法的拘束力がないため、ウナギの捕獲がただちに禁止されることはないが、ワシントン条約で規制対象を決める際の根拠となることから、今後、輸出などの規制につながる可能性がある。
縄文時代の遺跡からもウナギの骨が発掘されるなど、古くから日本人が親しんでいたウナギ。伝統的な食文化を守るためには必要なこととは。
横山農水政務官らを迎え、ウナギ捕獲の現状から日本の食文化まで多角的に議論する。
- ゲスト
- 横山信一 農水政務官
勝川俊雄 三重大学生産資源学部准教授
生田與克 NPO法人魚食文化の会理事長
あと10日間はハイライト動画をウェブで視聴できます。
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テレビ愛知 「激論!コロシアム」に出演します。本日19:30~です。
テレビ愛知 「激論!コロシアム」に出演します。本日19:30~です。
ゲストが知っている人ばっかりだぞ(笑
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(テレビ愛知)「マグロ、ウナギだけじゃない!ニッポンの海から” 魚” が消える!?」
詳細
番組内容
日本の食卓に欠かせない食材、魚。実はいま日本の魚が危機的な状況を迎えている。1980年代をピークに水揚げ量は減り続け、このままいけば日本で魚が取れなくなる日が来る可能性も。原因は乱獲。稚魚や幼魚を根こそぎ取りまくり、マグロをはじめ、ウナギ、マイワシ、サバ、サンマなどが絶滅の危機に瀕している。また輸入魚も和食の世界的なブームを受け輸入量が年々減少している。
番組内容2
しかし国は補助金をばらまくだけの場当たり的な政策しかやらず、漁業関係者は既得権をたてに資源保護に消極的。このままでは日本の伝統文化” 魚食” が消滅してしまう可能性も。はたしてニッポンの魚食の未来は?
出演者
【メインコメンテーター】
石原良純
【司会】
堀潤
春香クリスティーン
【レギュラー論客】
北野誠(タレント)
細川昌彦(中部大学教授)
出演者2
【ゲスト】
山田正彦( 元農水大臣)
麻木久仁子( タレント)
勝川俊雄( 三重大学准教授)
生田よしかつ( 魚食文化の会理事)
コンセプト
ここは勇者の戦場。三つのオキテがある。
1.ニュースを知ったかぶりするべからず!
2.世間に流され、善悪を判断するべからず!
3.飛び交う意見を他人事と思うべからず!
関連情報
【番組HP】
http://www.tv-aichi.co.jp/gekiron/
【公式Facebook】
https://www.facebook.com/gekiron
【公式ツイッター】
gekicolo_tva
#gekicolo
番組概要
日本、そして愛知に住む私たちが今、直面している問題は何なのか。私たちはどう考えていくべきなのか。時事討論型エンターテインメント番組「激論!コロシアム」では、外交、内政問題から天皇論まで、視聴者が今、気になっている話題を取り上げ、当事者や有識者が議論を深めます。ニュースの裏側にある「何故、そうなったのか」を徹底して解明し、ここでしか聞けない少し危ない話も提供していきます。
ニコ生でも!
【ニコ生公式チャンネル】
http://ch.nicovideo.jp/gekiron
ニコ生「堀潤のウソは許さん!」
番組放送当日の昼に堀潤&春香クリスティーンが、スタジオからお送りする時事放談!気になる最新の話題から、当日夜の番組に参戦するゲストの噂話、さらにはテレビ局の舞台裏も極秘レポート!時にゲスト論客が乱入し、収拾つかないことに!?
制作テレビ愛知
http://www.tv-aichi.co.jp/ps/epgpg/guest/prog/?ECODE=20140614193000
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シラスウナギの豊漁報道の異常性
去年は、シラスウナギの不漁が社会的な問題になりました。今年は一転して、楽観的な報道が相次いでいます。
「ウナギ稚魚価格、昨年の4分の1 漁獲量が大幅増」(日経新聞 2/4)
「シラスウナギ豊漁の気配 うな重お手ごろはまだ先?」(中日新聞1/31)
「シラスウナギ漁回復の兆し」(読売新聞 2/23)
ウナギ稚魚「やっと正常」…豊漁で値下がり期待(読売新聞 3/1)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140301-OYT1T00709.htm
これらの報道に対する読者のリアクションは、おおむね好意的
- 嬉しいなあ~~!\(^^)/
- 値上げを我慢してくれた鰻屋さんにも感謝。
- うなぎ好きにとってはうれしいニュース!
- 是非値下がりして欲しい、『うなぎをがっつり食べたい!!』ですヽ(;´Д`)ノー
一部で心配をする声もありました。
- これを機に増やさないと絶滅すんじゃね?
- 去年までと同じ漁獲量にとどめて成魚になれる個体数を増やした方がいいと思う。
- 来遊する稚魚が増えたのに,それを残して親を増やそうとしないのは「異常」かも
豊漁の根拠としては、次のように書かれています。
水産庁が業界団体に聞き取ったところ、昨季に養殖池に入れられた稚魚は約12・6トンだったが、今季は2月上旬の時点で既に約11・7トンに達しており、昨季を上回るのは確実だ。
ウナギ稚魚「やっと正常」…豊漁で値下がり期待(読売新聞 3/1)より引用
今季の漁獲量は、空前の不漁だった昨年を上回る見込みで、おそらく15㌧ぐらいまで伸びそうです。この漁獲量がどの程度か図示してみましょう。極度な不漁続きだったここ数年の中では比較的多い方だけれども、それ以前とは比較にならないような低調な漁獲量なのです。
海外では、資源が豊富な時代を基準にして、漁業の状態を判断します。ノルウェーなどの漁業先進国では、漁獲が無い時代の30-40%まで魚が減ったら、禁漁を含む厳しい規制をして、資源を回復させます。たとえば、ニュージーランドでは、ホキ資源(マックのフィレオフィッシュの原料)が漁獲が無い場合の30%ぐらいまで減少したときに、業界が漁獲枠の削減を政府に要求して、資源を回復しました(参考)。漁業先進国の基準からすると、日本のシラスウナギは、漁獲を続けていること自体が非常識となりそうです。
日本メディアは、資源が枯渇した状態を基準に、少しでも水揚げが増えたら「豊漁」とメディアが横並びで報道しています。このように、目先の漁獲量の増減に一喜一憂するということは、水産資源の持続性に対する長期的なビジョンが欠如しているからです。
先日、ある漁師と酒を飲んでいたときに「林業は100年先を考えて木を植える。農業は来年のことを考えて種をまく。漁師はその日のことだけ考えて魚を獲る」という話を聞きました。同じ一次産業でも、生産現場をコントロールできる林業と農業は、長期的な視野を持っているが、自然の恵みを収穫するだけの漁業は、その日暮らしで、場当たり的に獲れるだけ魚を獲ってきたのです。
現在のハイテク漁業は、海洋生態系に甚大なインパクトを与えています。一方で、種苗放流などの人為的に魚を増やす試みは失敗続きです。魚がひとたび減少すれば、自然に回復するのを、何十年もただ待つしか無いのです。生産現場を人為的にコントロールできないからこそ、水産資源の持続性に対して、より慎重な姿勢が求められます。
シラスウナギの来遊量が去年よりも増えたのは、間違いなく良いニュースです。ただ、増えた魚をきちんと獲り残し、卵を産ませなければ、未来にはつながらない。日本のシラスウナギ漁には、漁期の規制があるのですが、これまで何十年もウナギが減少してきたことを考えると、資源回復のために十分な措置とは言えないでしょう。実効的な規制がないなかで、密漁が蔓延しているのです。日本のマスコミは、管理できていない現状を問題視するどころか、「豊漁で安くなる」と横並びで煽っています。このあたりにも、他の先進国と異なり、日本では水産資源の枯渇が社会問題にならない原因があるのかもしれませんね。
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日本のウナギ根絶作戦が、ついに最終段階
ジャワうなぎ、日本へ 「世界最後の稚魚市場」から 東アジアでの激減背景に (2013年04月20日)
東アジアでウナギ稚魚の不漁が続く中、ウナギ養殖のインダスト(熊本県玉名市)が、「ジャワうなぎ」の日本輸出を目指して奮闘している。西ジャワで養殖を始めて7年目。成果は実りつつあるが、日本人の口に合うウナギの育成が今後の課題だ。
中川勝也社長はインドネシアを「世界で最後の稚魚市場」と表現する。同社によると、世界で確認されているウナギの仲間18種のうち、7種が生息するインドネシア近海がウナギ発祥の地だと考えられており、稚魚は豊富だという。
ウナギの漁獲量が激減する日本での需要は大きい。日本のコンビニや流通業者から「早く届けてほしい」との要望が日に日に強くなっているという。
http://www.jakartashimbun.com/free/detail/10643.html
1960年代から、日本国内のシラスウナギ漁獲量が減少した。日本は、資源回復の措置をとることなく、1990年代から、海外のシラスウナギを輸入する体制に移行した。持続性を無視した消費で、北米とヨーロッパのウナギを絶滅寸前まで食べ尽くし、自国のウナギ資源も絶滅危惧種になってしまった。
東アジア、ヨーロッパ、北米のウナギを食べ尽くした日本市場が、「世界で最後の稚魚市場」に食指をのばしている。もし、インドネシアのシラスウナギを大規模に利用するための準備が整ったら、このウナギ資源も、ニホンウナギ、アメリカウナギ、ヨーロッパウナギと同じ運命を辿るだろう。
ニホンウナギの資源状態についてより引用
魚が無くなるまで食べ尽くし、余所の産地に移る。それを繰り返して、最後のシラスウナギの産地を潰そうとしている。日本人がやっていることはイナゴと同レベル。
「売れるものは、何でも集めてくる」商社と、「いま食えればそれで良い」という消費者。どちらも持続性なんて、これっぽっちも考えていない。無責任で恥知らずな乱消費をしておきながら、なにが「魚食文化」だ。へそが茶を沸かすよ。
持続性を無視した消費を続ければ、いずれは自分たちが食べるものがなくなるということに、日本人は気づかないといけない。
われわれが、いま考えるべきことは、「どうやって、世界最後のウナギ資源を開発するか」ではなく、「乱食を止めて、持続的な水産物消費に移行するには、どうしたらよいか」である。ウナギを反面教師にして、マグロを含む他の水産物を食べ尽くさないように、責任ある水産物消費へと舵を切らなければならない。
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漁業資源と国境を守るために、日本は何をすべきなのか
1つ前の記事で、自国の乱獲を棚に上げて、中国を非難する日本のテレビ番組を批判しました。日本は過去に乱獲をしていたから、中国の乱獲を容認すべきという意図ではありません。「日本と中国のどちらが正しいか」という話ではなく、「どちらも正しくない」のです。日本の乱獲も、中国の乱獲も、出来るだけ早く止めるべきです。ただ、日本がまず取り組むべきは、国内問題である自国の資源管理であり、それをしない限り、中国との関係も変えられないと思うのです。
乱獲にはいくつか種類があって、それぞれ対処法や日本漁業への影響が異なっています。ざっくりと、以下の4つに分類して、それぞれの傾向と対策をまとめてみました。
1.日本の過去の乱獲
日本の過去の乱獲については、当時は乱獲を規制するルールがなかったし、1970年代までは、日本の動物性タンパク質の供給が足りていなかったのだから、当時としては仕方がなかった面もあるだろう。いまさら乱獲してきた過去を変えることはできない。乱獲によって多くの漁場を破壊してきたという事実を認めた上で、そこから学ぶことしかないのである。
2.日本が自国のEEZで現在も行っている乱獲
日本が排他的経済水域(EEZ)の水産資源の排他的利用権を得ているのは、国連海洋法条約のおかげです。日本は国連海洋法条約に批准することで、沿岸から中国船・韓国船を追い出して、自国のEEZで排他的に漁業を行っているのです。国連海洋法条約は、持続的管理の見返りとして、排他的利用権を認めています。「海洋資源は人類共有の財産なのだけど、管理人が必要なので、沿岸国が持続的に管理するなら、排他的に利用して良いよ」ということです。
日本は、EEZを排他的に利用しているにも関わらず、自国の乱獲は放置したままです。権利を享受しながら、義務を怠っているのです。日本政府は自国漁船の乱獲を取り締まる気などありません。「漁業経営に重要だから」とか、「安定供給も必要だ」とか、訳がわからない理由を並べて、乱獲を放置してきました。日本では、乱獲を規制する法律がほとんど機能していないので、乱獲をする日本の漁業者は違法ではないのですが、乱獲状態を放置し続けている日本政府の姿勢は、海の憲法と呼ばれる、国連海洋法条約の理念に反しています。
日本の漁業が衰退している要因は、乱獲で間違いないのですが、乱獲の主体は日本の漁業者です。北海道や本州太平洋側は、日本一国で占有している漁業資源が大半ですから、国内漁業を規制すれば、日本漁業の衰退はかなりの部分を食い止められるわけです。日本政府がきちんと漁業管理をして、乱獲を抑制すれば、日本の漁業は持続的かつ生産性な産業に生まれ変わります。
3. 中国が日中暫定水域で行っている乱獲
まずは、日中暫定水域について説明をします。1997年に締結された日中漁業協定において、日中の双方が領有権を主張している場所には、暫定措置水域が設置されています。暫定措置水域内の漁業には次のような取り決めがあります。
- 日中双方の漁船が相手国の許可を得ることなく操業できる
- 操業条件は、日中共同漁業委員会が決定する
- それぞれの国が、取り締まり権限を持つのは、自国の漁船のみ
- 相手国の違反を発見した場合には、漁船に注意喚起すると共に相手国に対して通報することができる
今、暫定水域で操業をしているのはほとんどが中国船です。日本船は数える程度しかいない。規制をしたところで、日本漁船には影響がほとんど無いのです。日本は、乱獲で資源を潰しておきながら、自国の漁船が撤退したら「規制を強化しよう」と提案しているわけです。欧米の捕鯨国と、何ら変わりがありません。
では中国が日本の提案を飲むかというと、飲むわけがない。中国にとって、撤退済みの日本と共同管理をするメリットは何もないのだから。日本国内でいくら中国を非難したところで、外交的に見れば、何の得にも成りません。はっきり言うと詰んでいるわけです。
4. 中国の日本のEEZ内での違法操業
これは問答無用の違法操業ですから、中国当局と連携して、きちっと取り締まらないといけない。 漁船の監視には、Vessel Monitoring Systemという機器の導入を義務づけるのが効果的です。これは1時間に1度ぐらいの頻度で漁船の位置情報を管理当局に強制的に報告する装置です。すでにほとんどの漁業先進国では導入が義務づけられています。ちなみに、ロシア領で操業をする日本漁船にはすべてVMSの導入が義務づけられています。日本近辺で操業する中国船にはVMSの導入を義務づけるべきです。
合法? | 対応可能性 | 日本漁業への悪影響 | 管理主体 | やるべきこと | |
1 日本の過去の乱獲 | ○ | × | ○ | 過去の失敗に学ぶ | |
2 日本が自国のEEZで現在も行っている乱獲 | × | ○ | ◎ | 日本政府 | 自国の資源管理 |
3 中国が日中暫定水域で行っている乱獲 | ○ | △ | △ | 地域漁業管理期間 | 公海での管理の枠組みをつくる |
4 中国の日本のEEZ内での違法操業 | × | ○ | △ | 日本政府と中国政府 | 中国政府と連携して取り締まりの強化 |
結局、日本は何をすべきなのか?
日本の国益(漁業資源と国境の維持)という観点から、未来志向で何をすべきかを整理してみよう。
優先順位が一番高いのは、日本のEEZの資源管理をすることです。日本の漁業が衰退している主要因は日本漁船による乱獲。たとえば、スケトウダラやハタハタの例を見ればわかるように、今のまま乱獲を放置し続ければ、中国漁船がいなくても、日本漁業の消滅は時間の問題です。自国の漁業管理は、完全に国内問題ですから、これが出来ていないのは政府の怠慢。日本は実に幸運なことに世界第六位の広大なEEZをもち、その中に世界屈指の好漁場がすっぽり含まれている。国内漁業の規制をするだけで、太平洋・北海道の漁業の生産性は改善できる。また、日本海側にしても、日本のEEZでほぼ完結する資源は多い。ちゃんと手入れをすれば、自分の庭から大きな利益が期待できるのである。こんなに恵まれた国はなかなかない。たとえば、ノルウェーは水産資源のほとんどをロシアとEUと共有している。苦労して国際交渉をしながら、資源管理をしている。ちなみにノルウェーがEUに加盟しない理由の一つが水産資源管理です。ノルウェーはEUの資源管理(共通漁業政策)よりも、かなり進んだ資源管理を行っています。自国の資源管理をEU水準に落として、漁業の生産性を下げたくないのです。
日本がやるべきことは、ノルウェーやニュージーランドのような資源管理先進国の成功から謙虚に学び、資源管理をすることです。つまり、産卵親魚の保護と、未成魚の漁獲規制をすると言うこと。こういった当たり前のことをしないで、国内の乱獲を補助金で支えているから、日本の漁業が衰退するのは当たり前です。政治家も官僚も、国内の漁業者から猛反発を受けるので、自国の乱獲という国内問題を避けてきました。「日本の漁業者は意識が高くて、自分たちで資源管理をしているから、公的機関は何もする必要が無い」という神話を作り出して、何もせずに今に至っています。日本の漁業が衰退しているのは、中国のせいではなくて、日本の責任です。
日本の国境を守るには、離島の漁業を守る必要がある
離島に日本人が住んでいる限り、その島が日本の領土であることは疑問の余地がない。しかし、無人島になってしまえば、そこを守るにはコストがかかるし、実効支配されたら打つ手がなくなってしまう。日本の領海を守るには、離島に日本人が住み続ける必要がある。そのために、欠かせないのが離島の雇用です。
離島の基幹産業は、バブル期までは建築業でした。離島に補助金をつけて、誰も通らないような道や誰も使わないような港や公園を作りまくったのである。島の人口の半分以上が建築業で、観光資源の自然を公共事業で破壊しているようなケースが多かった。バブル崩壊以降、公共事業が縮小された関係で、建設業の雇用が減っている。残された産業は漁業と観光ぐらいしかない島が多い。
日本海側の離島の漁業には、中国・韓国との競合が少なからぬ影響を与えているのは事実です。しかし、離島の漁民の悩みの種は、日本本土の大型船による乱獲です。日本の漁業従事者のほとんどは沿岸漁業者であり、9トン程度の小型船で日帰りで漁に出る。つまり、日本のEEZ内で操業をしているのです。かつて八丈島にはサバ棒受け網漁業が栄えたのですが、日本の巻き網船のサバ未成魚を乱獲によって、漁場が消滅し、漁業自体が消滅してしまいました。巻き網漁船の乱獲によって、日本海の一本釣り漁業は窮地に立たされています(参考:壱岐漁業者インタビュー)。
韓国との国境の島である対馬でも、漁業は厳しい状況の置かれているのです。先日、対馬市が島の漁業者を集めてワークショップを行ったのですが、日本本土の巻網船をなんとかしてほしいという声が大きかったです。対馬の周辺漁場に魚群がまとまると、長崎あたりから大型巻き網船が来て、根こそぎ魚を持って帰ってしまうのです。中国船・韓国船は暫定水域までしか入れないのですが、日本の大型船は、対馬の沿岸3マイルまで入って操業できるので、地元の小規模漁業に多大な影響を与えています。対馬では大型船の線引きをもう少し外にしてほしいと、陳情していますが、何十年も放置されたままです。島の基幹産業である漁業がこのまま衰退していけば、対馬には韓国の観光地として生き残る以外の選択肢がないでしょう。国防の観点から、離島の漁業を守るのは、国益上重要ですが、そのためにまずやるべきことは、国内の資源管理なのです。
中国の膨張を止めるには・・・
中国漁船の規制は、相手があることだから、日本の思い通りには進みません。中国政府は、日本政府よりは、資源の重要性を理解しているので、近いうちに漁業管理を始めるはずですが、その際には、国内の規制として進める可能性が高い。共同水域の漁場をすでに実効支配している現状で、中国にとって、日本と共同管理をするメリットが無いからです。この海域の資源管理秩序を日本主導で打ち立てるには、日本が実効支配していた時期に、手を打っておく必要がありました。残念なことに、当時の日本政府は、自国の漁船に出来るだけ多くの魚を捕らせることしか考えていませんでした。まあ、今も似たようなものだけど・・・
日中漁業協定については、こちらのサイトが詳しいです。1975年の漁業協定はつぎのようなものでした。
中国沿岸部よりに6つの漁区が設けられ,そこでの底引き網・まき網漁業について船舶の隻数や網目に関して制限が設けられている。これは以前から懸念されていた日本側漁船の中国沿岸における乱獲,およびそれに伴う資源枯渇を意識したものであり,当時の日本漁業の中国漁業に対する圧倒的な優勢を前提としたものであった。
つまり、「中国の沿岸は手加減してやるけど、沖合は俺たち日本が好きなように獲るよ」という協定だったのです。この時期に「この海域の資源をしっかりと共同管理しよう」と日本が提案していれば、ほとんど操業実績が無い中国は、一も二もなく賛成をしたでしょう。その当時に、「過去の漁獲実績ベースで、漁獲量を厳しく規制する」というような枠組みをつくっておけば、中国漁船はそう簡単に進出できなかったはずです。今となっては、後の祭りだけど。
歴史は繰り返すと言いますが、1960年代に日本が世界中でやっていたことを、今度は中国からやられているのです。ノーガードで打ち合っても、コストが高い日本漁船に勝ち目はありませんし、その前に資源が崩壊するでしょう。漁場を実効支配されている中国には、日本のために妥協をするメリットがないのだから、一筋縄ではいかない。中国の乱獲に対する日本国内の世論をいくら高めたところで、中国サイドから見れば「負け犬の遠吠え」です。
ただ、方法が全くないわけではありません。日本は自らの苦い歴史から学べば良いのです。中国の膨張を食い止めるには、欧米諸国が日本漁業を封じ込めるときにやったことをやればよい。つまり、資源の持続性や生態系保全という大義名分で、他の先進国と共同戦線を張って、規制を導入させるのです。これ以外に選択肢はないでしょう。残念なことに、日本の水産外交は全く逆のことをしています。ワシントン条約の締約国会議でも、中国と組んで、ありとあらゆる規制に反対をしています。日本漁船の国際競争力は低下しており、自由競争をして勝てる状況にないのに、すべての規制に反対をして、中国の膨張をアシストしているのです。追われる立場になっているのに、追う側と一緒になって、規制に反対しているのだから、つける薬がありません。
生態系保全の必要性を国際世論に訴えるには、自国の乱獲を止めるのが必要条件です。海外では、日本の乱獲はよく知られているので、今のままで問題提起をしても、「まず、おまえが乱獲を止めろ」と鼻で笑われるのがオチです。
結論
日本政府は、資源管理をして、自国の乱獲を止めさせること。それにつきます。自国の漁業を規制すれば、日本漁業が抱える問題の多くは解決します。逆に、自国の乱獲を放置したまま、中国を非難していても、国際世論の支持は得られないし、日本の漁業が衰退して、離島が浸食されていくのは時間の問題です。
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from 18 Mar. 2009