去年は、シラスウナギの不漁が社会的な問題になりました。今年は一転して、楽観的な報道が相次いでいます。
「ウナギ稚魚価格、昨年の4分の1 漁獲量が大幅増」(日経新聞 2/4)
「シラスウナギ豊漁の気配 うな重お手ごろはまだ先?」(中日新聞1/31)
「シラスウナギ漁回復の兆し」(読売新聞 2/23)
ウナギ稚魚「やっと正常」…豊漁で値下がり期待(読売新聞 3/1)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140301-OYT1T00709.htm
これらの報道に対する読者のリアクションは、おおむね好意的
- 嬉しいなあ~~!\(^^)/
- 値上げを我慢してくれた鰻屋さんにも感謝。
- うなぎ好きにとってはうれしいニュース!
- 是非値下がりして欲しい、『うなぎをがっつり食べたい!!』ですヽ(;´Д`)ノー
一部で心配をする声もありました。
- これを機に増やさないと絶滅すんじゃね?
- 去年までと同じ漁獲量にとどめて成魚になれる個体数を増やした方がいいと思う。
- 来遊する稚魚が増えたのに,それを残して親を増やそうとしないのは「異常」かも
豊漁の根拠としては、次のように書かれています。
水産庁が業界団体に聞き取ったところ、昨季に養殖池に入れられた稚魚は約12・6トンだったが、今季は2月上旬の時点で既に約11・7トンに達しており、昨季を上回るのは確実だ。
ウナギ稚魚「やっと正常」…豊漁で値下がり期待(読売新聞 3/1)より引用
今季の漁獲量は、空前の不漁だった昨年を上回る見込みで、おそらく15㌧ぐらいまで伸びそうです。この漁獲量がどの程度か図示してみましょう。極度な不漁続きだったここ数年の中では比較的多い方だけれども、それ以前とは比較にならないような低調な漁獲量なのです。
海外では、資源が豊富な時代を基準にして、漁業の状態を判断します。ノルウェーなどの漁業先進国では、漁獲が無い時代の30-40%まで魚が減ったら、禁漁を含む厳しい規制をして、資源を回復させます。たとえば、ニュージーランドでは、ホキ資源(マックのフィレオフィッシュの原料)が漁獲が無い場合の30%ぐらいまで減少したときに、業界が漁獲枠の削減を政府に要求して、資源を回復しました(参考)。漁業先進国の基準からすると、日本のシラスウナギは、漁獲を続けていること自体が非常識となりそうです。
日本メディアは、資源が枯渇した状態を基準に、少しでも水揚げが増えたら「豊漁」とメディアが横並びで報道しています。このように、目先の漁獲量の増減に一喜一憂するということは、水産資源の持続性に対する長期的なビジョンが欠如しているからです。
先日、ある漁師と酒を飲んでいたときに「林業は100年先を考えて木を植える。農業は来年のことを考えて種をまく。漁師はその日のことだけ考えて魚を獲る」という話を聞きました。同じ一次産業でも、生産現場をコントロールできる林業と農業は、長期的な視野を持っているが、自然の恵みを収穫するだけの漁業は、その日暮らしで、場当たり的に獲れるだけ魚を獲ってきたのです。
現在のハイテク漁業は、海洋生態系に甚大なインパクトを与えています。一方で、種苗放流などの人為的に魚を増やす試みは失敗続きです。魚がひとたび減少すれば、自然に回復するのを、何十年もただ待つしか無いのです。生産現場を人為的にコントロールできないからこそ、水産資源の持続性に対して、より慎重な姿勢が求められます。
シラスウナギの来遊量が去年よりも増えたのは、間違いなく良いニュースです。ただ、増えた魚をきちんと獲り残し、卵を産ませなければ、未来にはつながらない。日本のシラスウナギ漁には、漁期の規制があるのですが、これまで何十年もウナギが減少してきたことを考えると、資源回復のために十分な措置とは言えないでしょう。実効的な規制がないなかで、密漁が蔓延しているのです。日本のマスコミは、管理できていない現状を問題視するどころか、「豊漁で安くなる」と横並びで煽っています。このあたりにも、他の先進国と異なり、日本では水産資源の枯渇が社会問題にならない原因があるのかもしれませんね。
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Comments:1
- hamamatsunohito 14-03-03 (月) 10:35
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貴重な正論です。
秋田のハタハタのように、漁業者が自らが積極的にその日暮らしから脱却できる正しい情報と考え方を伝えていることに拍手。
浜松でも、私のような貧乏育ちには、昔からウナギは「特別な食べ物」でした。
日本人も、今日この頃、日常的に食べ過ぎなのでは?
その分、本当に国産ウナギのおいしさを楽しめなくなっていると、残念でなりません。残念ながら、政府の広報をそのまま垂れ流すだけのマスコミが多いことはあきらめるしかないのでしょうか。多くの日本のマスコミは、独立した報道機関として、客観的で自律的判断とそれを支える情報を得ようとしない。
「政府が右というものを左とはいえない」公言するのは、発現が正直すぎただけなのかもしれないと考えると、悲しいのみです。
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