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持続性を無視する東京五輪の水産物調達方針

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ロンドン以降の五輪では、ホスト国は持続的な水産物を提供することが期待されています。オリンピックのスタンダードからすると日本の漁業は持続性に問題があるという話はすでに指摘したとおりです。2020東京大会での調達基準(持続可能性に配慮した水産物の調達基準)の(案)が公開されて、パブコメにかけられています。「国際的なハードルが高いなら、日本漁業が現状でもクリアできるような国産の基準を作ればよいじゃないか」ということで、思いっきりハードルを下げてきました。

https://tokyo2020.jp/jp/games/sustainability/opinion-sourcing-code/data/fishery-products-code-JP.pdf

細かいところまで指摘していると切りが無いので、大きな穴について指摘していきます。

1.本調達基準の対象は、水産物の生鮮食品(※)及び水産物を主要な原材料とする加工食品とする。
サプライヤーは、生鮮食品については、本調達基準を満たすものを調達することとし、加工食品については、主要な原材料である水産物が本調達基準を満たすものを可能な限り優先的に調達することとする。

「生鮮食品については、本基準を満たす」というのは当たり前ですが、問題なのは加工品です。「本調達基準を満たすものを可能な限り優先的に調達することとする」となっており、単なる努力目標です。「努力はしたんだけど…」といえば、主要な原材料ですら基準を満たす必要が無いのです。「調達基準を満たさない食材でも、混ぜて加工すればOK」ということです。加工食品には、多くの食材が少量含まれるようなケースもあり、その全てにおいて持続性の証明が難しい場合もあります。ロンドン大会やリオ大会で採用されたエコラベルMSCは、加工品については水産原料の95%以上が持続的であることを要求します。

(改善案)
1.本調達基準の対象は、水産物の生鮮食品(※)及び水産物を主要な原材料とする加工食品とする。サプライヤーは、生鮮食品については、本調達基準を満たすものを調達することとし、加工食品については、水産物由来の原材料の80%以上が本調達基準を満たすものを調達することとする。

二番を見てみましょう。

2.サプライヤーは、水産物について、持続可能性の観点から以下の①~④を満たすものの調達を行わなければならない。
①漁獲又は生産が、漁業関係法令等に照らして、適切に行われていること。
②天然水産物にあっては、科学的な情報を踏まえ、計画的に水産資源の管理が行われ、生態系の保全に配慮されている漁業によって漁獲されていること。
③養殖水産物にあっては、科学的な情報を踏まえ、計画的な漁場環境の維持・改善により生態系の保全に配慮するとともに、食材の安全を確保するための適切な措置が講じられている養殖業によって生産されていること。
④作業者の労働安全を確保するため、漁獲又は生産に当たり、関係法令等に照らして適切な措置が講じられていること。

①と④は当たり前なので、「関係法令等を遵守していること」と簡潔にしても良いでしょう。

②と③は実に曖昧な書きぶりとなっていて、科学的な情報を踏まえて計画的に乱獲を継続している漁業は日本国内にいくらでもあります。「科学的」「計画的」などという単語が何を意味するかは、判断をする人間の解釈次第となります。当事者・関係者が甘い基準で判断すればなんでもOKになります。

オリンピックは国際的なイベントですから、FAOの「責任ある漁業の行動規範」や「天然水産物のエコラベリングに関するガイドライン」などの国際的な基準に準拠している水産物を調達する必要があります。エコラベルが本当にFAOのガイドラインに準拠しているかどうかをチェックするGSSIという国際機関があります。GSSIに認定された水産エコラベルで認証を受けた水産物をつかっておけば間違いないでしょう。ついでに、トレーサビリティについても入れておきましょう。

(修正案)
2.サプライヤーは、水産物について、持続可能性の観点から以下の①~④を満たすものの調達を行わなければならない。
①漁獲及び生産などすべてのプロセスが、関係法令等に照らして、適切に行われていること。
②The Global Sustainable Seafood Initiative (GSSI)がFAOの水産エコラベルガイドラインに準拠していると認定した水産エコラベルの認証を取得していること。
③個々の漁船や養殖場までさかのぼれるトレーサビリティを確保すること。

さらに続きます。

3 MEL、MSC、AEL、ASC による認証を受けた水産物については、上記2の①~④を満たすものとして認める。このほか、FAO のガイドライン注に準拠したものとして組織委員会が認める水産エコラベル認証スキームにより認証を受けた水産物も、上記2の①~④を満たすものとして同様に扱うことができるものとする。

MSCとASCは、世界的にも実績がある透明性が確保されたエコラベルであり、ロンドン大会、リオ大会でも調達基準として利用されてきました。これらのエコラベルを調達基準としても海外の理解は得られるでしょう。同列に並べられているMELとAELは、日本の業界団体による審査の緩い認証制度です。例えば、MELは、日本海の産卵場で絶滅危惧種のクロマグロを一番多く獲る巻き網船団を認証しています。産卵期のクロマグロが、持続的な水産物として東京オリンピックで提供されたら、世界の人々はどう思うでしょうか。輸入水産物についてはMSCという極めて厳格な認証が要求されるのに対して、国産水産物については業界団体の甘い審査でOKというのは、明らかなダブルスタンダードです。

MELについては、「業界団体ラベルだからダメ」ということではありません。オリンピックまでに大幅な改善をして、GSSIのベンチマーキングをパスすれば、調達方針に含むことは可能です。ただ、現状ではFAOのガイドラインから逸脱しているのは明白なので、現段階でMELを含むべきではありません。国産・輸入にかかわらず、持続性については同じハードルを設定した上で、国産原料を優先して調達するのが筋だと思います。

指定されたエコラベルの認証を得ていなくても、「組織委員会がFAO のガイドラインに準拠したと認めた水産エコラベルならOK」ということですが、こういう記述が出てくること自体がFAOのガイドラインを理解できていない証拠です。FAOのガイドラインは細かいところまで決められていて、準拠しているかどうかをチェックするのは、専門家がかなり時間をかけて丹念に作業をする必要があります。GSSIの場合は、チェックの仕方をBenchmarkというドキュメントにまとめているのですが、300ページ以上のボリュームで専門用語が満載であり、組織委員会に対応できる内容ではありません。日本国内にはベンチマーキングのノウハウがないので、GSSIのような国際機関に透明性を持ってチェックしてもらう必要があるのです。

持続性に関して、国内外でダブルスタンダードな調達基準を設けるのは不適切です。3番は削除して、改善案2②に示したように、「The Global Sustainable Seafood Initiative (GSSI)が、認定したFAOの水産エコラベルガイドラインに準拠した水産エコラベル」で一本化するのが適切です。

とどめの大穴が4番です。

4.上記3に示す認証を受けた水産物以外を必要とする場合は、以下のいずれかに該当するものでなければならない。
(1)資源管理に関する計画であって、行政機関による確認を受けたものに基づいて 行われている漁業により漁獲され、かつ、上記2の④について別紙に従って確 認されていること。
(2)漁場環境の維持・改善に関する計画であって、行政機関による確認を受けたも のにより管理されている養殖漁場において生産され、かつ、上記2の④につい て別紙に従って確認されていること。
(3)上記2の①~④を満たすことが別紙に従って確認されていること。

国産についてはハードルを下げまくったのですが、そのハードルすらクリアできなくても、「行政(1,2)と漁協(3)が認めればオッケー」ということです。確認プロセスについては何の記述もありません。透明性も、第三者性も、説明責任も、ことごとく欠如しています。まさに、何でもありですね。

さらに進みます。

7.サプライヤーは、使用する水産物について、上記3~6に該当するものであるこ とを示す書類を東京 2020 大会終了後から1年が過ぎるまでの間保管し、組織委員会が求める場合はこれを提出しなければならない。

書類の保持が1年って短すぎますよね。あと、サプライヤーが組織委員会に書類を提出できるようにするだけでは不十分です。組織委員会は、世界の人々に対して、東京オリンピックの食材の持続性に関する情報発信すべきです。4年後の次の大会に、東京大会が参考になるように、最低でも4年はウェブ上に情報を残してはどうでしょうか。

(改善案)
7.組織委員会は、サプライヤーから、使用する水産物が本調達基準を満たしているものであることを示す書類を収拾し、東京 2020 大会終了後から5年が過ぎるまでの間、ウェブ上に公開する。

この原案を読む限り「国産の水産物はなんでもOK」ということになると思います。ロンドンでは、オリンピックをきっかけに持続的な水産物の消費が拡大しました。リオ大会も同様の効果が期待されています。2020東京大会は「持続性よりも国産」ということで、オリンピックが培ってきたレガシーを捨て去る選択をするようで、実に残念です。

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from 18 Mar. 2009

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