スケトウダラ Archive
資源管理ごっこと本物の資源管理の違い
資源管理ごっこ(日本のスケトウダラ漁業の場合)
スケトウダラにはいくつかの独立した産卵群(系群)があり、そのうちのひとつが日本海北部系群だ。この系群は北海道の日本海側に分布しており、沿岸漁業の延縄や、沖合底引き網によって利用されている。下の図は、青い線が資源量。赤い線が漁獲割合である。1997年から、国が漁獲枠を設定して資源管理していたのだが、1997年以降も資源が直線的に減少するに従って、漁獲割合はむしろ上がっている。ブレーキをかけるどころかアクセルを踏んでいるような状態だったのだ。この資源は過去には韓国が漁獲をしていたこともあるのだが、1999年以降は日本の漁獲のみ。つまり、国内漁業の規制に失敗して、自国の貴重な資源を潰してしまったのである。
漁獲圧にブレーキがかからなかったのは、2つの理由がある。ひとつは、資源の減少に応じて管理目標が下方修正されたこと。二つ目は科学者の提言を無視した漁獲枠設定である。
日本のTAC制度の枠組みとしては、まず、科学者が資源評価をして、資源の持続性の観点から漁獲枠(Acceptable Biological Catch)を提言することになっている。そのABCを踏まえて、行政が実際の漁獲枠(Total Allowable Catch)を設定するのである。ABCを設定する際の管理目標は毎年のように下方修正されてきた。2008年には緩やかな回復を目指すと言うことで、どこまで減ってもその時点を基準に、漁獲枠が設定できるようになった。これでは資源の減少が下げ止まらないのも当然だろう。
2004 親魚量をBlimit 20.7万㌧へ回復
2005 親魚量をBlimit 14.0万㌧に維持(Blimit変更は資源評価の修正によるもの)
2006 親魚量をBlimit 18.1万㌧に10年で回復
2007 親魚量をBlimit 18.4万㌧に15年で回復
2008 親魚量の緩やかな回復(減った水準を基準に漁獲枠を設定)
ABC(科学者の勧告)よりもさらに問題が大きいのがTAC(国が設定した漁獲枠)である。ABCを遙かに上回るTACが設定され続けているのだ。持続性を無視した漁獲枠を設定し続けたのだから、資源の減少にブレーキがかかるはずが無いのである。2006年ぐらいまでは、多くの魚種でTACがABCを上回っていた。そのことをマスメディアを通じて徹底的に非難し続けたところ、スケトウダラ日本海北部系群以外はABCと等しいTACが設定されるようになった。
では、この資源に未来が無いかというと、そうでは無い。下の図は、様々な管理シナリオの元での資源の動態だ。たとえば、緑の線(Frec10yr)は、かなり厳しい漁獲圧の削減をすると、10年で目標水準(Blimit)まで回復する可能性があることを示している。現状は赤の線(Fcurrent)である。資源が再生産できないような強い漁獲圧を、今もかけ続けているのである。つまり、乱獲を止めれば、資源は回復するのである。
資源管理(ニュージーランドのホキ漁業)
このような悲劇を二度と繰り返さないために、「資源が減ったときにどうやってブレーキをかけるのか?」について議論をすべきだろう。その前提として、他国の成功事例について学んでおく必要があるだろう。同じように卵の生き残りが悪くて、水産資源が減ったときにニュージーランド政府がどのような対応をしたかを紹介しよう。
ホキは、 タラに似た白身魚であり、ニュージーランドの主力漁業。フィレオフィッシュの原料として、世界中で利用されている。
この資源のレポートはここにある。1990年代後半から、卵の生き残りが悪く、資源が減少した。NZ政府はB0(漁獲が無い場合の資源量)の40%前後を管理目標(Target Zone)、20%B0をソフトリミット(回復措置発動の閾値)、10%B0をハードリミット(強い回復措置の閾値)としている。資源状態が良かった時期を基準に、目標水準とそれ以下には減らさないという閾値が事前に設定されているのである。
1990年代は、資源量がターゲットを大きく上回っていたことから、25万㌧という多めの漁獲枠が設定されていた。2000年に資源量がターゲットゾーンに入ると、NZ政府は徐々に漁獲枠を削減した。ちょうどこのタイミングで卵の生き残りが悪い年が数年続いたために、資源は目標水準を下回って、減少を続けた。漁獲枠の削減を続けた。2007年には、資源回復の兆しが見えてきたことから、政府が12万㌧の漁獲枠を提示したが、業界は資源を素早く回復させるために更なる漁獲枠の削減を要求し、漁獲枠は9万㌧まで削減された。その後は、資源の回復を確認しながら、徐々に漁獲枠を増やしており、現在の漁獲枠は15万㌧まで回復している。
ニュージーランド政府が設定したホキの漁獲枠(≒漁獲量) 単位㌧
本物の資源管理と資源管理ごっこの見分け方
資源管理ごっこと本物の資源管理を見分けるには、資源量が減少したときに、漁獲にブレーキがかかったかどうかに着目すれば良い。スケトウダラ日本海北部系群とニュージーランドのホキは、同じように卵の生き残りが悪くなって資源が減少した。日本は産官学が連携して、過剰な漁獲枠を設定し続けて、資源を潰してしまった。どれだけ立派なことを言おうとも、資源が直線的に減少していく中で、漁獲圧にブレーキがかけられなかったという事実が、日本の漁業管理システムの破綻を物語っているのである。それとは対照的に、ニュージーランドでは資源の減少に応じて漁獲圧を大幅に削減して資源回復に結びつけた。
車にたとえると、ニュージーランド漁業は、ちゃんとしたブレーキがついている車。いざというときにはきちんと止まることができる。日本はブレーキっぽい物はついているけど、本物のブレーキがついていない車。いざというときに減速ないのだから、事故が起こるのもやむを得ないだろう。
日本の漁業を守るために我々がやるべきことは、きちんと資源管理をしている諸外国から謙虚に学び、魚が減ったときに漁獲にブレーキがかけられるような仕組みを導入することである。それをやろうとせずに、ブレーキっぽい物を本物のブレーキだと言い張っているから、進歩が無いのである。
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予定通り、北海道日本海側のスケトウダラ資源が減少し、漁業が消滅の危機
北海道日本海側のスケトウダラが激減しています
スケトウダラは、北海道で重要な水産資源の一つであり、ニシンがほぼ消滅した現在は、スケトウダラに依存した漁村も多い。同じスケトウダラでも、産卵場や生育場所が異なる複数の群れが存在し、それを「系群」と呼びます。日本周辺には、
- 太平洋系群
- 日本海北部系群
- 根室海峡系群
- オホーツク海南部系群
の4つのスケトウダラの系群があります。このうち日本海北部系群の資源が極度に悪化しているのです。
資源量が減って、漁獲割合が上がる?
漁業資源の状態は、独立行政法人 水産総合研究センターによって、まとめられています。
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests24/html/2410.html
1990年代後半から資源が直線的に減少し、底引き網、延縄ともに撤退が相次いでいます。1997年から、国によって漁獲枠が設定されて、漁業者がそれを守ってきたにも関わらず、「北海道の日本海側に漁業者がいなくなるかもしれない(漁業者談)」というような事態になっているのだ。
ここで、着目して欲しいのは上の図の漁獲割合(赤丸線)です。1997年から、2007年まで、漁獲割合が増加している。普通に考えれば、漁獲にブレーキをかければ漁獲割合は下がるはずなのに、スケトウダラの場合は、資源が減少するのと並行して、漁獲割合が上がっていったわけです。資源が減ってもブレーキをかけるどころか、アクセルを踏んでいたことになります。
科学者の勧告
詳細な資源評価(アセスメント)はここにあります。このPDFの2ページ目の管理シナリオの一覧を見てください。
重要なポイントは、下から二行目です。親魚量の維持が0.44Fcurrentとあります。これは、現在の親魚水準を維持するには、漁獲圧を現在の44%の水準まで落とす必要があることを意味します。いまだに、資源量を維持できる水準の倍以上の漁獲圧をかけているのだから、資源が減るのは当然でしょう。ちなみに、この年の科学者の勧告した漁獲量は下から3番目の7.7千トンでした。現在の資源量はあまりにも低水準なので、回復の必要がある。かといって、急激な漁獲の削減は現実的に難しい。そういうことで、(わずかでも親魚量を増大)というシナリオを選んだものと思われます。
持続性を無視する漁獲枠設定
これに対して、水産庁がどのような漁獲枠を設定したかという資料がこれ( 水産政策審議会に水産庁が提出した資料) → 24年漁期TAC(漁獲可能量)設定の考え方(PDF:101KB)
科学者が勧告したABC(生物学的許容漁獲量)0.77万トンのところを、水産庁が提案した漁獲枠は1.3万トンですよ。毎年、大勢の研究者が集まって、時間をかけて資源評価をしているのに、まるで無視。
水産庁が示した漁獲枠の根拠は次の通り。
【日本海北部系群】 資源回復計画(努力量削減、小型魚保護等)と組み合わせた資源管理を実施。資源が低位で横ばい傾向にあり、漁業経営におけるスケトウダラへの依存度が高いことを踏まえつつ、TAC(案)は23年漁期と同量の13,000トンとする。(北海道知事管理分の一部(1,000トン)については留保)
「資源が低位で、漁業経営における依存度が高いから、持続性を無視して良い」というロジックが私には理解不能です。審議会に出席している有識者のどなたかに突っ込みを入れてほしいところですが、鰈にスルーされています(第55回資源管理分科会議事録)。唯一、佐藤委員が「前年同期と同じ1万 3,000 トンというような書き方なのですが、基本的には、歯止めをかけるのであれば、もっと少ない方がいいかなとは思うのですけれども、経営のことがございますので、やむなしと思っているのです」と、水産庁の決定に理解を示したのみでした。今年のTACを決める会議は、平成25年2月22日に開催されましたが、ABCが7.6千トンで、TACが1.3万トンでした。状況は何ら変わっていないのです。
平成18年から、平成25年までの科学者の勧告(ABC)と日本政府が設定した漁獲枠(TAC)をグラフに示すとこうなります。本来は、科学者が勧告した漁獲量(青い棒)の範囲で、漁獲枠(赤い棒)を設定しないといけないのですが、そうなっていません。みごとに、資源の持続性を無視してきたことが、よくわかります。日本では、資源管理の名の下に、このようなことが行われているのです。
日本では国が漁獲枠を設定しているのはたったの7魚種しかありません。そのうちの一つがこのスケトウダラです。数少ない資源管理対象であっても、国が持続性を無視した漁獲枠を設定したせいで、残念ながら、資源を守ることができませんでした。
魚が減るとわかっている漁獲枠を設定し続けた結果、順調に魚が減ったのだから、「予定通り」です。「漁業経営のため」といって、乱獲を放置して、漁業自体をつぶして、いったい誰の得になるのでしょうか。水産庁という組織が、日本の漁業をどうしたいのか、私には全く理解不能です。
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北海道沿岸漁業者とのミーティング その4
- 2010-03-19 (金)
- 太平洋系群
スケトウダラ太平洋系群は資源管理ができる唯一の大規模資源
日本のTAC制度で、強制力があるのは、スケトウダラとサンマのみ。サンマは公海資源の出荷規制なので、実質的にまともな漁獲枠があるのはスケトウダラのみと考えて良いだろう。スケトウダラは4系群あるのだが、そのうち2つ(オホーツク、根室)は主群がロシアにある資源なので、日本単独での漁獲枠の設定自体に意味があるか疑問である。日本のEEZに主群がある2つの資源のうち、日本海北部系群は過剰な漁獲枠によって激減してしまった。資源が悪くなる前に、適切な漁獲枠が設定できたのは、スケトウダラ太平洋系群のみ。この漁業は、国内で唯一の、出口規制で管理されている大規模資源なのである。この資源を利用しているのは、北海道の沖底と、沿岸漁業者のみ。沖底と沿岸はあまり仲がよろしくないのだが、それぞれの漁獲枠は予め分けられている。沖底と沿岸の内部では、ある程度の調整は可能である。俺が繰り返し主張してきた、漁業を生産的にするための次の2つの条件が満たされているのである。
- 漁獲枠を資源の生産力に対して適切な水準に下げる
- 漁獲枠を内部調整が出来る単位まで配分する
なんと、スケトウダラ太平洋系群は、個別漁獲枠制度の条件がそろっているのだ。
漁業はどう変わるのか
漁獲枠がしっかりとしていれば、資源量は安定する。また、漁獲枠が限られていれば、漁師は、市場の需要がある、価値のある魚を狙って捕るようになる。安定 して質の良い魚が水揚げあされれば、需要は必ず増える。結果として、値段はあがり、ブランドも確立できる。管理の実績を積み上げた先には、MSCのエコラ ベルも見えてくる。欧州の白身市場は韓国とは比較にならないぐらい単価が高い。将来的には、ここを狙いたい。数十年スケールで、安定して利益が出る産業に なれば、後継者問題も自ずと解決するだろう。
そのために必要なことは産官学がそれぞれの役割を果たすことだ。
- 研究者の役割:資源の生産性に応じた漁獲枠を勧告する
- 行政の役割 :研究者が設定した漁獲枠を沖合と沿岸に配分 し、きちんと守らせる
- 業界の役割:与えられた漁獲枠から得られる利益を増やし、ここの漁業者の生活が成り立つように配分する
スケトウダラ太平洋系群では、それ ぞれが自らの役割を果たし始めている。歯車がかみ合えば、必ず漁業は利益を生むようになる。
漁獲枠のせいで、魚がいるのに捕れないというのは、漁業者にとってはつらいことだろう。サバ類のように、資源状態が最悪なのに、業界の要求通りいくらでも漁獲枠が水増しされている魚種もあるのに、自分たちだけ漁獲枠で漁業を制限されて不公平だと感じるだろう。しかし、本当に恵まれているのは、北海道のほうである。太平洋のサバ漁業など、自分で食い扶持を破壊しているようなものである。資源管理をしなければ、資源が維持できないのだから、漁獲枠はあった方が良い。国際的にみても実際に、利益を出している漁業国は、資源管理に熱心な国ばかり。アラスカのスケトウダラ漁業は、個別枠が導入されてから、収益が急増した。スケトウダラ・バブルと言っても良いような状況にある。太平洋系群でも、同じように利益を伸ばしていけるはずである。沖合底引きは、すでに資源管理への適応を進めている。漁獲枠を内部で調整し、経済的に有効利用する仕組みを作っている。漁獲枠を守った上で、利益をのばし、新船を建造しているのだから、たいしたものである。こういう風に利益が出るようになったのは、漁獲枠が設定されてからである。加工業者との縦の連携も強化されているようである。このあたりの話は、今度じっくり聞きに行くつもりだ。
教育が成功の鍵
太平洋系群を利用する沿岸漁業は、広範囲に及んでおり、内部の調整は沖底と比べると遙かに難しい。時間がかかるのは当然である。日本では、漁獲枠の管理の歴史がないので、資源管理は「収入が減少するいやなこと」というマイナスなイメージが強い。しかし、実際には、漁業者がこれからも生活をしていくためには必要不可欠なのである。現在の北海道漁業は、変化の時期を迎えている。運を天に任せて、獲れるだけ獲る漁業から、需要が高い魚を計画的に獲る漁業へと変化が徐々に進みつつある。もちろん、変化には常に痛みが伴うのだが、この痛みを和らげるために必要なものが教育である。北海道の漁業はどのような段階にあるのか、今後、どのような方向に進まなくてはならないのか、そして、その結果として、漁業はどのような姿になるのか。これらに対して明確なビジョンをしめすことで、漁業者の感じる痛みを軽減し、変化を促進することができる。海外には、ノルウェーやアラスカのように、この痛みを乗り越えて漁業を改革した国が多数存在する。こういった事例を学ぶことで、自分たちがどこに向かっているかを理解することができるだろう。
沿岸漁業者に、資源管理の話を直接して欲しいという依頼があったが、二つ返事でOKをした。資源管理の意味を教えるのは、我々専門家の仕事であり、日本国内でそれをできる人材はほとんどいない以上、俺がやるしかない。「資源管理で持続的に儲かる漁業」というイメージが浸透すれば、北海道は必ず生まれ変わる。噴火湾周辺のプランクトンの生産量は極めて高いので、親をしっかりと残した上で、効率的な獲り方をすれば、収益は必ず上がる。スケトウダラ太平洋系群は、日本漁業のありかたを変えるきっかけになるだろう。現場の情報と、資源管理の理論がかみ合って、具体的なビジョンを出していくことで、漁業を生産的な方向に導くことができる。漁業者のリーダーと資源管理の専門家が、漁業を持続的・生産的にするという共通の目的をもって、建設的・前向きな話ができたということは、とても意味がある。次に繋がる有意義な会合だったと思います。
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北海道沿岸漁業者とのミーティング その2
過剰な漁獲枠は沿岸漁業のためにならない
スケトウダラ日本海北部系群は、90年代から卓越が発生せずに、資源がじりじりと減少していた。そのような状況で1998年に待望の卓越年級群が発生した。1998年級の資源量を大幅に過大推定した結果、過剰な漁獲枠が設定されていた。沖底は広範囲を自由に操業できるので、卓越年級群であった1998年級を2歳、3歳といった未成熟な段階でほぼ獲り切ってしまった。ふたを開けてみれば、心待ちにしていた卓越年級群が沿岸漁業の漁場である産卵場に戻ってくることは無かったのである。減少期に生まれた唯一の卓越年級群を未成熟のうちに獲り切ったことで、この資源は壊滅的に減少してしまった。
詳しい経緯は過去ログをみてください
http://katukawa.com/category/study/species/suke/page/3
http://katukawa.com/category/study/species/suke/page/4
この失敗から学ぶべき点は2つある。
1)不確実な段階で漁獲枠を増やすのは危険
現在の漁船は、沿岸も沖合もすこぶる性能がよい。多少、魚が多くても、獲ろうと思えば、獲り切れてしまうのだ。資源評価が不確実な段階で、スケトウダラの漁獲枠を増やすと、資源の持続性の観点から賛成できない。研究者は、魚が獲れるからといって、すぐに漁獲枠を増やさなかった。日本海北部系群を減らしてしまった苦い経験から、慎重にならざるを得ないのである。
2)過剰な漁獲枠設定によって、沿岸の既得権が失われる
漁獲枠が過剰だと、沿岸はTACを消化できない。その一方で、沖底は未成魚を獲ってつじつまを合わせることができる。沖底は過剰な漁獲枠を未成魚で埋めたが、沿岸は過剰な漁獲枠を消化できなかった。結果として、沿岸の未消化枠が取り上げられて、沖底に配分されてしまった。沖底と沿岸の漁獲枠の比率は、昔は5:5だったのが、現在は6:4ぐらいになっている。漁獲枠を増やせば、沿岸漁業の既得権を沖底に譲り渡す結果になるのである。
ただ、こうなるのは、水産庁の漁獲枠配分方法に問題がある。この点については以前から指摘をしてきた。スケトウダラ日本海北部系群の漁獲枠を沿岸が消化できなかった理由は、漁獲枠が過剰だったからである。資源評価を下方修正した後も、水産庁がABCを無視して、過剰な漁獲枠を設定し続けている。結果として、沿岸は漁獲枠を消化できずに、既得権を失い続けている。資源量に対して適切な漁獲枠を設定し、それでも消化できなかったのなら、未消化枠の有効利用について議論をしても良いだろう。明らかに過剰に設定された枠を消化できなかったからといって、未来永劫その権利を取り上げるのは、おかしな話である。乱獲をした漁業者の枠が増えて、乱獲しなかった(できなかった)漁業者の枠が減るなどという話は聞いたことがない。こういうおかしな実績主義によって、「与えられた漁獲枠はなんとしても消化しないといけない」という強迫観念を漁業者に植え付けている。
TAC制度の問題点
水産庁は、持続性を無視した漁獲枠を設定しておきながら、未消化枠は取り上げる。漁業者は既得権を守るために過剰な枠を埋めねばならず、結果として乱獲を推進している状態である。改善案
未消化枠を取り上げるのはやめるべき。豊富な資源に限り、未消化漁獲枠の一部を翌年に持ち越せるような仕組みを導入する。たとえば、ニュージーランドでは、年間漁獲枠の10%を上限として、未消化の漁獲枠を翌年に持ち越すことができる。そういう仕組みがあれば、無理に獲らなくなるだろうし、漁獲が遅れれば、それだけ資源にも漁業にも良い影響がある。
沿岸が無理して獲らなくても良いような、制度設計を考える必要がありますね。
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北海道沿岸漁業者とのミーティング
音響ミーティングの翌日に、道漁連幹部と北海道の組合長3人と会合をした。内容は、スケトウダラ太平洋系群の資源管理に関する事柄。先方からは、沿岸漁業の資源管理の取り組みに関する情報提供があり、こちらからは、資源評価の内容や、今後の管理の方向についての提案を行った。結果から言うと、非常に建設的で、有意義な会合でした。実際に会って、意見交換をするのは重要ですね。
バックグラウンド
一般読者にもわかるようにバックグラウンドを少し説明します(わかっている人は読み飛ばしてください)。スケトウダラは冬に産卵場にやってくる。その産卵群を待ち伏せして刺網で漁獲をするのが沿岸漁業。一方、広範囲で未成魚から漁獲するのが沖合底引きである。今年は、魚が産卵場に来るのが早かったので、沿岸は漁期前半に漁獲枠の大部分を消化してしまった。もともと、初回成熟の親が多いから、来遊が早いというのはわかっていたので、沿岸漁業者は自主規制で網の長さを短くしていた。それでも予想を上回るペースで獲れてしまったのである。
沿岸漁業者は、資源が豊富なので漁獲枠を増やすように11月にデモを行った。また、北海道水産試験所の音響調査で、魚群密度が高いという結果が得られたことから、そのデータを元に漁獲枠を増やすかどうかを検討する会議が、年を越して1月8日に緊急開催された。この会議には、俺は北海道外部委員として出席した。水産庁はその前の月にも、低水準なサバ類の漁獲枠をホイホイ増やしたばかり。今度も増やすのだろうと警戒しつつ、情報を収集したところ、広範囲でそれなりに獲れているし、値段も悪くないことがわかった。「資源量もそれなりに安定しているので、マサバ太平洋のような危機的状況ではない。TACがABCを超えている状態なので、期中改訂による増枠はしないにこしたことはないが、するにしても沿岸・沖底それぞれ3000トンが限度」、というような方針で会議に臨んだのです。ところが、予想に反して、国が毅然とした対応をして、「増枠はできません」ということになりました。増枠しないという結論に異論はないので、会議では特に発言をしませんでした。
結局、期中改訂は見送られ、沿岸は漁獲枠を消化したため、1月中頃に終漁となりました。漁期中にTAC満了で漁獲をやめるのは2007年以来です。
会議が終わった後、ブログに北海道漁業者の資源管理意識について厳しいことを書いたのです。それが北海道の沿岸漁業者の目にとまり「誤解を解きたい」ということで、今回のミーティングになったのです。いろいろと話を伺って、沿岸もTACを軽視していないというのは、良くわかりました。また、ブログでは書きすぎた部分もあったので、その点については、真摯に謝罪をしました。その上で、今後、北海道の沿岸漁業をどのように発展させいていくかという観点から、いくつか提案をしました。
勝川の主張
1) 漁獲枠は増やさない方が沿岸漁業の長期的利益が増える
2) 研究者は増枠に消極的な理由
3) スケトウダラ太平洋系群の資源管理の今後の方向性
私からの提案については、次回以降で、詳しく説明します。
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ABCの複数化について
- 2008-08-22 (金)
- スケトウダラ
今年の最大の変更点は「ABCの複数化」だろう。
これがどういう意味を持つのか考えてみよう。
ABCとTACの現状
研究者が、生物の持続性の観点からABCの上限と下限を推定してきた。
一方で、水産庁は、ABCを無視して、過剰なTACを設定してきた。
幅があるABCはなぜ必要か?
最近、ABCとTACの乖離をネタに水産行政が叩かれている。
ABCについて、行政官はまともな反論はできない。
自分たちがいい加減なことをしているのが、一目瞭然になってしまうので、
水産庁の少なからぬ人間は、ABCを目の上のたんこぶだと思っている。
彼らが以下にABCを憎んでいるかは、この辺を読むと理解できるだろう。
http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai2kai/giziroku_02.pdf
彼らがしつこく要求してきたのが、、「ABCに幅を持たせろ」という意見だ。
不確実性を理由にABCの幅を増やし、幅の上限を採用することで、
過剰な漁獲枠を維持しつつ、ABCとの乖離をなくそうという考えだ。
幅をもつABC派の思惑
1) 水研センターに、幅を持ったABCを出させる。
2) 自分たちの意のままに操れる某審議会で、都合の良いABCを選ぶ
3) 漁獲圧を下げずに、ABCとTACの乖離を解消できて、ラッキー
さてさて、思惑通りにことが運ぶのでしょうか?
今年の北海道ブロックのABCはどうだったか?
北海道ブロックに関しては、明らかに漁獲量が過剰になるような選択肢はとくに見あたらなかった。
そもそも不確実性を考慮して、ABCTargetとABCLimitの2つを決定していたわけだ。
別に今までだって、点推定をしてきたわけではなく、ABCは幅を持っていた。
従来のABCTargetとABCLimitの幅の範囲でいくつかのシナリオが有るような感じかな。
今回のスケトウダラの場合も、いろんなシナリオを作ったが、
ABCとして挙げられたのは、従来のABCLimitの範囲内であった。
下の図で行くと、S1からS3がABCとして提案され、S4、S5は参考値であった。
FSUSを入れるかどうかは微妙なところだが、従来の考え方を逸脱するものではない。
復計画がらみで、管理課の都合もあることだろうから、俺も強くは反対はしなかった。
ABCの幅を広げて、なし崩しにしようと思っていた人たちは肩すかしだろう。
俺の方は、「あれもABCに入れろ、これもABCに入れろ」と言ってくるのではないかと
心配をしていたが、逆の意味で肩すかしでした。
資源評価の最終決定はブロック会議にすべきである
俺が漁獲枠を考える上で、最重要視しているのはブロック会議に参加する研究者の集合知だ。
研究者同士で、ああでもない、こうでもないと、議論をしているとだんだん落としどころが見えてくる。
この資源だったら、今年の漁獲はこれぐらいという共通認識ができてくるのだ。
たとえば、スケトウダラ日本海北部系群なら、1万トン弱とかそれぐらいだろう。
数理モデルがどうとか、そう言う問題よりも、集合知として出てくる会議の合意の方が重要。
資源の状態、資源評価の精度、数字に表れていない様々な情報を考慮した上で、
最も適切な漁獲量を決定できるのはブロック会議だろう。
その資源の専門家が一堂に会したブロック会議での集合知以上の判断は国内では無理。
だから、ブロック会議で一つの値を出せばよい。
水産政策審議会の議事録を見れば、大した議論などできないことは明らかである。
現場のことも、資源のことも、ブロック会議の出席者の方が100倍わかっている。
最終決定権を、現場の事情など何も知らない、某審議会に持っていく意味など無い。
それほど害はなさそうだとはいえ、今回の変更は良いことだとは思わない。
1) そもそも幅を持っていたABCを複数化する意味がわからない。
2) ABCについては、最もよくわかっているブロック会議が最終決定をすべきである。
北海道はこんな感じだったけど、余所のブロックはどうだったのだろう?
ABC複数化については、今後の経緯を注意深く見守ろうと思う。
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北海道ブロック会議に来たよ
- 2008-08-21 (木)
- スケトウダラ
今、釧路です。
北海道のブロック会議に来ています。
朝、ホテルの部屋を出たら、海洋研の伊藤がいてびっくり。
どうやら、白鳳が来ているらしい。
同じホテルで階まで一緒というのは、世の中狭いものだ。
ブロック会議は公開なので、内容をレポートしてみよう。
今回は東シナ海の航海実習により、事前検討会をスキップした。
ブロック会議までに、だいたいの議論は終わっているから、後の祭りという感じがする。
今日の検討事項は、いきなりスケトウダラ北部日本海系群です。
当初の資源評価では、親魚量が禁漁の閾値Bban3万トンを割っていたらしい。
その後、魚探データでチューニングすることになり、
親魚量の推定値が4.2万トンと上方修正され、禁漁勧告はしないですんだらしい。
ただ、魚群探知機の調査によると、05年・06年生まれの未成魚が、それなりにいるようなので、
今後、2~3年は、資源は一時的に回復の見込み。 というような状況だ。
今までは、ABCTargetとABCLimitの2つを提案していたが、
水産庁の決定で、今年から、ABCを複数提案することになった。
沢山出させて、その中で一番高い数字を選ぼうという作戦だろう。
シナリオ |
ABC |
目的 |
30年後の回復率 |
1 |
1.8千トン |
親魚量の増大(10年) |
99.9% |
2 |
3.1千トン |
親魚量の増大(制御ルール) |
26.9% |
3 |
5.9千トン |
親魚量の増大(20年) |
79.8% |
4 |
7.4千トン |
親魚量の増大(30年) |
46.8% |
5 |
9.3千トン |
親魚量の増大(微増) |
8.4% |
6 |
10.3千トン |
親魚量の現状維持 |
2.5% |
7 |
12.7千トン |
漁獲圧の半減 |
0% |
8 |
24.1千トン |
漁獲圧の維持 |
0% |
担当者は次のようなシナリオを準備して、1~5をABCとして選択をした。
この資源は、超低水準で、回復が必要な状態だから、親魚量を増大させないと話にならない。
シナリオ5だと実質的に資源は回復しないので、ABCとして適当だとはおもえない。
つっこみを入れようと思っていたら、先に管理課から意見がでた。
「水産庁が定めた中期的管理方針では、資源回復計画に基づき資源の減少委に歯止めをかけることを
目指して管理を行うこととされている。だから、シナリオ6の現状維持もABCにしよう」 という提案があった。
資源回復計画があるから、管理目的を「資源回復」から「現状維持」に下方修正しようというのだ。
さすがの俺もこれにはびっくり。
「現状維持では資源は回復しないが、それで資源回復計画と言えるのか?」とつっこみを入れた。
それに対しては、要領を得た回答は得られなかった。
結局、シナリオ6はABCとして盛り込まれることになった。
資源回復計画なるものを税金を使ってやる以上、
なんとしても資源を回復させるという姿勢を見せるべきだと思う。
ただ、ABCを千トン水増ししたところで、焼け石に水だ。
去年のABC11.0~8.9千トンに対して、漁獲量は18.0千トン。
ABCを無視した過剰なTACが設定され、ABCの倍も実漁獲がある状態で、
ABCの重箱をつついても時間の無駄だろう。
これだけ大勢の人間が、これだけ時間をかけて、資源評価を出して、それが何にも使われない。
なんか、俺はむなしくなってきたよ。
現在の過剰漁獲をどうやって適正水準に近づけていくかを議論すべきだろう。
そのためには権利ベースの漁獲枠配分と、ちゃんとした取り締まりの2つが必要だ。
ABCの精度を上げるより、規制改革をするほうが、よっぽど漁業の役に立つ。
スケトウダラ日本海北部系群は、05年、06年生まれが多いようなので、
ブロック会議全体として、楽観的な雰囲気があったようにおもう。
しかし、安心するのは、実際に資源が回復してからにすべきだろう。
俺は5年以内にBbanを割る可能性もかなりあると踏んでいる。
今回、05年、06年を成熟まで残せるかどうか、この先1~2年が正念場だ。
98年生まれの卓越級群は、「豊漁だ!!豊漁だ!!」と言って、獲りまくり、
蓋を開けてみたら、資源が回復するどころかむしろ減らしていたわけだ。
「まだ獲れる」という状況で漁業を止めるのは、漁業者的には凄く難しいことだと思うが、
同じ失敗を犯さないように、北海道の漁業関係者の学習能力に期待をしたい。
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スケソウダラの漁獲枠を巡る収賄事件
北海道で漁獲枠を巡る収賄事件があったようです。
スケソウの漁獲枠を増やした見返りにワイロを自ら要求とは、お盛んですね。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/61718.html
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/61909.html
http://www.stv.ne.jp/news/item/20071121185554/
国がTACをガツンと水増しした後に、道が賄賂をもらってやりたい放題ですか。
研究者がどれだけ苦労してABCを出してると思ってるんだ。
頭に来るなぁ。
漁獲枠なんて金で何とでもなるというのが北海道の現実なのか?
パチンコの借金のために、好き勝手に漁獲枠を割り振られたら、
他の漁業者はたまったもんじゃない。
「漁業者は生活がかかってる」とかこの場長のような奴に限って言うんだよ。
「漁業者の皆さんのためにスケトウダラの漁獲枠を確保します!」とか、
何年か前のブロック会議で宣言してた道の職員がいたが、もしかしてこの人?
それにしても、道警はグッジョブだな。
今後も、こういう不正は、どんどん取り締まってください。
漁獲枠の配分という重要なプロセスが不透明で、
行政の胸先三寸でどうにでもなってしまう現状を放置しておけば、
こういう事件は今後も起きるだろう。
行政は、全体の漁獲枠が生物の持続性の範囲に収まっているかに、
責任を持てばそれでよい。
余剰枠の再配分なんて、漁業者の協議で決めればよい話であり、
そんなところに行政が口を挟むから、おかしくなことになるのである。
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スケトウダラの未来のために その7
俺はトキの保全は、何がやりたいのか全然わからない。
日本のトキは、とっくに絶滅しているのに、
中国から輸入してきたトキに人工繁殖までしているわけだ。
既に絶滅したトキをミイラみたいな状態で維持するために莫大な金が投資されている。
その一方で、ほとんど顧みられることなく、多くの種が絶滅に瀕している。
すでに絶滅したトキよりも、まだ絶滅していない生物の保全が大切だと思う。
トキの絶滅を教訓に、次なる種の絶滅を防ぐ方が大切だろう。
資源管理もそれと同じ。
日本海北部系群は、もうどうすることもできないので、
スケトウダラの太平洋系群へと俺の関心は移っている。
この資源は、今がまさに勝負所だと思う。
これが太平洋系群の資源量。90年代中頃からコンスタントに減少している。
RPSは低水準で安定している。
現在の漁獲圧は、90年代前半なら問題ないのだが、90年代後半以降の水準では資源を維持できない。
近年のRPSで資源を維持できる見合った水準まで、早急に漁獲圧を減らす必要がある。
RPS(卵の生残率)が低迷し、漁獲圧がそれに対応できず、資源がズルズル減っている。
この状況は、日本海北部系群の10年前と酷似している。
この資源は今がまさに勝負所であり、これから5年の間に行く末が決まると思う。
この資源のBlimitとしては、過去最低の親魚量154000トンが設定されている。
現在、Blimitに徐々に近づきつつあり、
10%の確率で2013年度にはBlimitを下回るというシミュレーション結果が得られている。
絶対に、絶対に、このBlimitは死守しなくてはならない。
そのためには、Blimitまで達したら、abcをどこまで減らすかを研究者で決めておき、
予め漁業者に周知しないといけない。
そうすることで、Blimitに近づいた時点で、漁業者に注意を促すことが出来る。
北海道の関係者であれば、Blimitに達してから「どうしましょう?」では、お話にならないことは、
日本海北部系群の経験から痛いほどわかっているはずである。
資源量推定値がBlimitを下回ったら、何があろうともABCを予告通り削減する。
資源量には、過小推定の可能性ばかりでなく、過大推定の危険性もあるので、
資源評価の不確実性を理由に先延ばしは許されない。
Blimitを防衛ラインと位置づけて、そこで頑張るのは当然のことであるが、
ベストを尽くしたとしてもBlimitを下回っても漁獲にブレーキがかからずに、
資源がズルズル減っていく可能性はある。だから、それに対する備えも必要だ。
今のうちにBbanも決めておき、Bbanまで資源量推定値が下がったら、
必ずABC=0にすると宣言すべきである。
Bbanは、我々の管理能力が無い場合の保険として必要なのである。
今までBlimit以下に減らしたことは無いわけで、Blimit以下になったとき時に資源がどうなるかはわからない。
よって、Bbanを科学的見地から一意的に決めることは不可能である。
ただ、資源が減らしすぎると増加能力が失われて、元の水準に回復しない事例が多数知られている以上、
ずるずると減らさないための閾値は必要である。
現在、俺が太平洋系群に対して、要求していることは以下の3つ。
1) Blimit以下になったら、ABCをどこまで削減するかを予め決めておくこと
2) 資源の減少に歯止めがかからない場合を想定し、予めBban決めておくこと
3) 水研、水試で1)および2)に対して合意形成をした上で、漁業者に周知すること
Blimitが近づいている現状では、残された時間はわずかであることを、肝に銘じて欲しい。
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スケトウダラのおもひ出 その6
卓越年級群を未成熟のうちに取り尽くしたことがわかって、
「まあ大変」という状況で、俺が北海道に呼ばれたのだった。
その時点では、資源的にはまだ間に合ったが、漁業的には手遅れだったと思う。
この資源は90年代から減り始めたが、
漁獲量の削減が真剣に議論されるのは、ほんの数年前。
誰の目から見ても資源の枯渇が明らかになってからである。
この状態になると、漁業経営は苦しくなっており、
漁獲を控えめに減らすのはすでにできない相談である。
年収800万が400万になるのと、
年収400万が200万になるのでは、話がぜんぜん違う。
すでに厳しい状況でさらに減らすというのは無理だろう。
資源が減れば減るほど、漁業者から漁獲枠を上げるようにプレッシャーが強まり、
TACはABCから乖離していく。
研究者もまた、ABCを増やすことで、漁業者に迎合してきた。
スケトウダラ日本海北部系群の管理目標は、毎年、下方修正されている。
平16年度:2014年度の親魚量が184千トンを上回る
平17年度:2021年度の親魚量が184千トンを上回る
平18年度:2026年度の親魚量が 85千トンを上回る
平19年度:2027年度の親魚量が 55千トンを上回る
管理目標を下方修正すれば、当面のABCを水増しできる。
その年の合意形成はやりやすくなるかもしれないが、
資源状態が悪化するほど、高い漁獲率を許すのは資源管理ではない。
平成17年から平成18年にかけて大幅な目標修正があった。
管理目標が資源回復ではなく現状維持に変わったのだ。
資源が良い状態に回復したなら、現状維持に目標を変えても良いかもしれないが、
資源が減っている中で目標を現状維持に変えるのは好ましくない。
また、資源管理に一貫性をもたせるためには、平成19年度の管理目標は、
平成18年度の目標(2026年度当初のSSBが85千トンを上回る)をそのまま利用すべきである。
資源が減ればそれだけ目標水準を減らしていたら、いつまでたっても漁獲にブレーキはかからない。
このように資源が減るたびに目標を下方修正していけば、
一見、管理をしているように見えて、資源はどこまでもずるずる減っていく。
前に進んでいるように見えて、後ろに進むムーンウォークのようなものである。
(やっぱり、マイケルの動きはキレがちがうね!)
この資源を持続的に利用するうえでの本当の勝負所は、90年代中頃だっただろう。
卓越がでなくて、資源が減ってきたことは実感としてあったと思う。
この時代には、まだがんばれば獲れたが、ここで漁獲量を減らすべきだった。
がんばっても獲れなくなってからでは遅いのだ。
そして、1998年級群を未成熟で獲らずに産卵をさせていたら、
今頃、全く違う展開になっていただろう。
スケトウダラ北部日本海系群は獲らなくても減るような資源ではない。
適切な時期に適切な漁獲量まで減らしていたら、今後も持続的に利用できたはずだ。
産・官・学が強固なスクラムを組んで、問題を先送りすることで、
雪だるま式に問題を深刻化させて、
ついには解決不可能にしてしまったのである。
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