産経ビジネスに漁業の復興関連の記事があった。この記事から、日本の水産業が元気が無い理由が透けて見えるような気がしたので、整理してみようと思う。まずは記事に目を通して欲しい。
三陸の水産業者、苦境打開へ 世界に活路もアピール不足
三陸地方の水産業者が、海外展開に活路を見いだしている。東日本大震災から3年が過ぎても続く苦境を打開しようと、国や自治体も支援に乗り出した。だが、宮城県気仙沼市が5月に実施した欧州視察事業からは、国を挙げてのPR力不足や、衛生基準などを満たすハードルの高さが見えてきた
Sankei Biz 2014.6.21 07:10
「PR力不足」、「衛生基準の不備」、「人手不足」という問題があるのは確かなんだけど、「これらの他国では当たり前のようにできていることが、なぜ日本ではできないか」という根本的な問題を考えないといけない。これらの構造的な問題は、被災地だけのものでもないし、被災後に新たに発生したものでもない。そもそも漁獲規制が緩い日本では、価値が出る前に魚を獲り尽くしてしまうので、水産業では利益が出ない。だから、マーケティングや衛生管理などに投資ができないのである。乱獲された魚を高く買う先進国はないので、PR力や衛生基準の前に、持続性に取り組まなければならない。相手に買ってもらえる生産体制を作るのが先なのだ。
また、PR活動をやるなら、業界の自己負担が大原則だ。ノルウェーの場合は、ノルウェー水産物審議会がマーケティングをしている。日本でも、ノルウェー大使館と連携と獲りながら、活動をしている。その原資はすべて業界負担である。
前述の法律に基づき、ノルウェーの全ての水産物輸出業者は、NSC に登録し、賦課金を拠出することが義務付けられている。
NSC の財源は、各水産物の輸出ごとに徴収される賦課金である。賦課金は魚種に関係なく輸出額に対して一律 0.75%に設定されている。http://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_enkatu/pdf/h23_taisei_5norwey.pdf
業界が身銭をきっているから、NSCの活動は具体的な成果を常に問われている。組織防衛のために、必死になって、プロモーションをしている。日本の場合は、「初めに補助金ありき」である。他人の財布感覚で、タレントを呼んで、自己満足的なイベントをしておわり。広告代理店が儲けるだけで、後には何も残らない。
まとめるとこんなかんじ
○ これまでの水産物ブランド化事業→補助金で話題作り→効果が無い
○ ブランドを育てるために必要な要素
①差別化できる水産物の安定供給 → 資源管理・持続性認証
②適切なマーケティング → 受益者負担・専門組織
日本の水産物ブランド化の取り組み(補助金事業)はことごとく失敗してきた。ブランドを育てるために必要な要素が欠けているからである。水産物ブランド化の前提としては、差別化できる水産物を安定供給できる体制を整えないといけない。そのためにやるべきことは資源管理と持続性認証(水産エコラベル)である。水産エコラベルは、単価が高い欧米に魚を売る上でもはや必須と言える。①の条件と整えた上で、②適切なマーケティングを行う必要がある。そのための必要条件は、受益者負担とそのための専門組織をつくることだ。
人手不足の原因は、日本の水産業は利益が出ないから、安い賃金しか出せないことである。震災前から、日本の水産加工業は中国人研修生という安い労働力に依存していた。それでも利益が出ずに衰退の一途を辿っていた。ノルウェーは、人手不足で、賃金が高くても人があつまらないから、仕方なく設備投資をして省人化を進めている。日本とノルウェーでは、おかれた状況が違うのである。ノルウェーの近代的な加工設備を補助金で導入したところで、減価償却すら難しいだろう。今の日本がノルウェーから見習うべき点は、近代的な設備ではなく、そういう投資を可能にする前提としての資源管理なのだ。
地域の雇用という観点からは、日本に必要な施策は省人化では無く、水産業の黒字化であることは自明だろう。たとえば、こちらの動画(2:55~)はニュージーランドの離島の水産加工場である。ニュージーランド政府の厳しい漁獲規制のおかげで、水産業が利益を上げているために、機械化を進めなくても十分な賃金が支払われている。
これまでも、「あれが無い」、「これが無い」といって、補助金に依存してきた日本の水産業は衰退の一途を辿っている。海外に目を向ければ、資源管理をしっかりしている漁業国は軒並み利益を伸ばしている。水産業の苦境を打開するのに必要なのは、補助金では無く、資源管理なのである。
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