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再考:食料危機をあおってはいけない

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「食糧危機」をあおってはいけない (Bunshun Paperbacks)

ちゃんと読んだら、とても良い本でした。水産分野のダメっぷりに驚いて他の部分を読んでいなかったんだけど、面白い内容が多かったです。徹頭徹尾、楽観的だね、この人は。でも、それはそれで、重要でしょう。

素人には誤解されやすいんだけど、将来はどうなるか、専門家だってわからない。食料全体の供給がどうなるかは、はっきり言えば、誰にもわからない。もちろん、ある程度の予測はできるんだけど、それは、その人のバックグランドと情報に大きく支配される。100人の専門家がいれば、100通りの予測が出てきてもおかしくはない。そして、どの予測が正解かは誰にもわからない。環境問題でいろんな説が出てくるのは、誰かが嘘を言っているからではなく、それだけ不確実性があるからなのだ。

正解がないからといって、何もしないわけにはいかない。これが実学の悩ましいところだ。俺の専門である水産資源学も、歴史的にこの課題に直面してきた。そういう状況で、我々がどうしてきたかというと、まず、もっとも楽観的なシナリオと、もっとも悲観的なシナリオを作ってみる。未来は、2つの極端なシナリオの間のどこかにあるはずだ。最初に想定の範囲を示しておくと、その後のプランが立てやすい。理想を言えば、想定の範囲すべてに対応できるような方策を準備したいんだけど、一般的に想定の範囲はとても広くなるから、何が起きても大丈夫というケースは例外。ある程度、運が悪くても適応できる戦略を考えておくのが、現実的ということになる。
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この本は、すべての歯車が楽観的な方向に廻ったら、どうなるかというビジョンを示しており、楽観的な上限を考える上では、参考になる。この本の最大の効果は、悲観的なシナリオを過度に強調し、消費者に全く寄与しないお荷物生産者を守ろうする、「自給率ナイナイ詐欺」の呪縛から、読者を解き放つことだろう。水産分野を見ればわかるように、この本は楽観的な方向に激しく偏っており、ツッコミどころは多い。だからといって、読まないのは実にもったいない。この本に書かれている楽観的な予測は、まず当たらないと思うが、視野を広げるという意味では読むべき価値がある本である。当ブログの読者にも、是非、目を通してもらいたい。いろんな発見があると思うよ。

それにしても面白い本が出たものだ。「一億総飢餓を防ぐために、零細生産者を守れ」という念仏を、大声で唱えていれば、研究費もポストも空から振ってくる。そういう世界で、こういう本はなかなか書けない。たぶん、筆者は、正直者というか、お調子者なのだろう。こういう人がどんどん出てくると、世の中、面白くなるね。

日本の一次産業も盛り上がって参りましたっ!!

Comments:2

大は小を飲み込む 09-05-03 (日) 11:24

日本の一次産業も盛り上がってきました! 格闘技同様、ルールが変われば、強い奴も代わってくる! 経済学を振り回すか、自然科学で締め上げるか、システム工学とかいう新技で押さえ込むか、とりあえず各分野の力自慢の専門家の方々は、ガチャンコで異種知的格闘技のリングにのぼってくれ! これはシロウトにとってエンターテイメントとしておもしろいだけでなく、我々の未来を本当に左右することになるのだから。

勝川 09-05-07 (木) 11:27

勝ち負けよりも、いろんな視点を提供できることが重要だと考えます。
それぞれの得意分野を集めて、全体像を組み立てていくと、
今まで見えなかったものも見えてくるかもしれません。
いずれにせよ、盛り上がってきましたよ。

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from 18 Mar. 2009

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