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未成魚の漁獲による損失は、売り上げの4倍

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さて、未成熟のブリ(イナダ、ツバス、ハマチ)の乱獲が漁業にどのような損害を与えているかを試算してみよう。

ブリの資源評価はここにある。
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests20/details/2041.pdf
情報が少ないね。平成16年までは年齢別の漁獲量の数値が記載されていたんだけど、平成17年以降は表記が無くなった。年齢別の漁獲データは、外部の人間が内容を検証するのに必須な情報である。1ページあれば事足りるのだから、掲載してほしい物です。

図から数字を出すのは面倒なので、文中の数値つかって、わかる範囲で計算をしよう。

基本的な計算をするには、年齢別の体重、単価、生残率が必要になる。
年齢別の体重は評価票から、10月の体重を引用する。自然死亡係数M=0.3なので、漁獲がなければ、個体数は1年間に、exp(-0.3)=0.74倍に減少する。単価は市場統計から、だいたいの値を計算する。2~3Kgのイナダが250-300円という記述がある。ブリは単価が750円程度。で、これらを表にまとめると次のようになる。

重量 単価 生残率 RPR 1尾損失
0 743 150 1 111 -2912
1 2890 275 0.740818 589 -2435
2 5354 500 0.548812 1469 -1555
3 10625 700 0.40657 3024 0

今、0歳で漁獲可能な魚がいるとする。この魚を何歳で獲るべきかを考えてみよう。

0歳魚で今すぐ獲ると、0.743*150=111円の利益になる。

1年待って、1歳で獲ると、単価は、2.89*275円なる。自然死亡が26%あるので、1歳まで生き残る確率が74%になる。1歳まで待ってとると、0.74*2.89*275=589円の利益が期待できる。

同じように計算をすると2歳でとると1469円、3歳で獲ると3024円の利益が期待できる。ブリは成長による価値の上昇が、自然死亡率を上回るので、3歳まで待って獲った方が得になるのである。

「豊漁だ!! 豊漁だ!!」といって、1歳魚を獲りまくっている。1歳魚を獲れば589円の目先の収益がもたらされるが、漁業全体の長期的利益は2435円減るという計算だ。

20年度の太平洋の年齢別漁獲尾数は、それぞれ917, 452, 97, 37万尾となる。年齢別の長期的な損失は次のようになる。

漁獲(万尾) 漁業損失(万円)
0 917 -2670682
1 452 -1100664
2 97 -150805
3 37 0
漁獲(万尾) 漁業損失(万円)
0 917 ########
1 452 ########
2 97 -150805
3 37 0


漁獲尾数に単価をかけて計算した生産金額は、100億円。それに対して損失は400億円近い金額になる。1歳魚の漁獲が今年は4倍ということは、長期的な損失も4倍ということだ。また、1歳で獲れば卵は埋めないけど、3歳で獲れば、卵が埋めるわけだから、大きくしてから獲る方が資源の再生産の観点からも良い。

これは、豊漁ではなく、乱獲なんだよ。こんなのをグッドニュースとして報道するメディアも、未成魚を買いたたいて喜んでいる消費者も、意識が低すぎ。あと、こんな獲り方をしていたら、漁業は儲からなくて当たり前の話。こういう乱獲を公的資金で支えてきたんだら、日本の水産政策は愚の骨頂だよ。

Comments:5

沿岸漁業の一漁師 09-11-11 (水) 20:36

この業界は 『物量で勝負』 が伝統です。

kato 09-11-12 (木) 13:06

現在の漁獲が良いとは思いませんが…、

この試算の問題点は単価の補正が全く行われない点だと思います。
過去の単価実績は、その時々の漁獲水準(&経済情勢)に対応したものであって、
例えばあるクラスの漁獲が実績より豊かになれば、
そのサイズの魚価は、当然リーズナブルな方向に変動しますよね。

確かサバでも同様の試算があったように思いますが、
価格変動のパラメータを加味しないと、このタイプの試算は
全くの机上論で終わってしまうように思えてなりません。

そして机上論で4倍違うと言われても、説得力に欠けるし
話の叩き台の数字だとしても、その程度にしか見えなくなってしまいます。

価格には不確定要素が多い(過去の統計から将来を予測することが不可)ので、
こういった試算に馴染まないような気がするのは、私だけでしょうか。

勝川 09-11-14 (土) 11:25

沿岸漁業の一漁師さん
獲ってなんぼから、売ってなんぼに漁業者の意識を変えたいですね。

katoさん
要するに価格の変動メカニズムが100%解明できるまで、価格を考慮することはけしからんということですね。価格変動メカニズムが100%解明されることなどないから、いつまで経っても経済的なことは議論できない。そうやって、あなた方は議論の芽を摘んできたのです。その手口は私には通用しません。
私はわかる範囲で、数字を出していくことが重要だと考えているので、今後も数字は出し続けます。文句があるなら、よりよい数字を出してください。改善案がでてくれば、すぐに計算をアップデートします。ただ黙れと言われて、おとなしく黙るはずがないでしょう。

kato 09-11-16 (月) 6:43

ニュアンスがうまく伝わらなかったようなので。

単純計算ですと、3年後には
2年魚 93万尾→503万尾
3年魚 37万尾→372万尾
の漁獲になるという理解でよいのでしょうか。

もしこの理解でよければ、
5キロクラスの2年魚が5倍、10キロクラスの3年魚は10倍になるわけで、
これだけ漁獲に変化があればマーケットの変動も無視はできないでしょう。
競合する養殖ハマチへの影響も確実に出てくるはずです。

当方、黙れということは全く意図していないわけで、
何でも勝川さんが抱え込まないで、餅は餅屋ではないですが、
(水産でない)市場経済をやっている人の見解をひと言加えるなど
コラボレーションするような選択肢はないのかなと思った次第です。

勝川 09-11-16 (月) 8:37

こちらの勘違いで、大変、失礼をいたしました。アドバイスをありがとうございます。

価格弾力性などの分析は、データさえあれば自分でできます。誰かに頼むより、やった方が早いでしょう。ただ、そこまでやる必要はないと考えています。資源管理をして、良い魚が安定供給できるようになれば、外に出すという選択肢も出てきますから、長期的には価格維持が可能、というか、むしろ上がる可能性もあると思っています。現在、欧州の魚価が非常によいですから、輸出をすれば、国内で半額セールをする必要はありません。ただ。輸出がうまくいかないのは、獲りたい放題漁業のせいで、サイズも供給量も安定しないからです。

15年前と違い、今は海外にも、日本と同価格帯の大きな市場があります。国内に過剰供給したら、どれだけ魚価がさがるかよりも、むしろ、良質なブリを輸出した場合、どの程度の魚価になるかということが、問題なのです。katoさんのいわれるように、国際貿易が専門の経済学者に相談してみます。何か新しい展望がひらけるかもしれない。

養殖ハマチは、今の魚価でも、すでに採算がとれません。また、えさの自給率が低く、ミールの国際価格は上がる一方ですから、利益率はさらに悪くなります。天然魚の下位同等品を薄利多売するというビジネスモデルはすでに破綻していると私は考えます。養殖のために、天然資源を成長乱獲するなど、あり得ない話です。

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