水産庁は余計なことをして、サバ資源の回復を妨害するばかりでなく、漁業そのものも破壊しつつある。
07年級を獲り尽くしたために、今年のサバの水揚げは前年度の6割で推移してきた。1歳以上がほとんど獲れない中で、今年産まれたばかりの0歳魚が10月から獲れだしたら、すぐさま11月に漁獲枠を増やしやがったのである。こういうときの対応だけは、本当に素早い。11月に余計な増枠をしたせいで、12月の魚価は近年無かったレベルまで低下した。サバの単価(産地市場)と漁獲量の推移はこんな感じ。
11月末というのは、漁獲枠を増やすのに、最悪のタイミングだ。鮮魚は年末需要で12月に相場が上がる場合が多い。ただ、これはあくまで国内向けの鮮魚の話。今獲れているような0歳のサバは、途上国向けの輸出か、養殖の餌なので、年末需要は無関係である。
サブプライム以降、円高によって、現在、輸出はストップしている。もともと、アフリカ・アジアの購買力が最低の国に、値段の安さだけで売り込んでいたので、円が少し高くなると輸出できないのである。選択肢としては養殖向けの餌しかないのだが、養殖魚は年末にあらかた出荷するので、12月以降は餌の需要が激減する。今、0歳のサバを捕ったところで、どこにも売れないのである。こんな時期に、期中改訂で漁獲枠を増やせば、魚がだぶついて、魚価が急激に落ちるのは自明である。実際、11月末にTACが増枠されるやいなや、魚価が下落し、史上最低記録を更新しそうな勢いである。
こういう漁業をしていたら、安く買いたたいてきて、捨て値で売って利ざやを稼ぐようなビジネスしか成り立たない。わざわざ、そういう方向に政策誘致をして、限られた海の生産力を浪費しているのだから、日本の漁業が廃れるのは自明である。
日本がやるべきことは簡単だ。漁獲に占める200g以下の割合が8割を超えたら1週間禁漁とかして、未成魚をまもる。でもって、2歳になって、卵を産ませてから取り始めればよい。脂がのった日本のマサバは抜群に旨いので、それだけで、ノルウェーのサバから日本市場を奪回できると思うよ。加工屋も大喜びだ。なんで、こんな簡単なことが出来ないのだろうか。
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Comments:5
- うおいちば 10-01-05 (火) 13:43
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勝川先生の考え方に非常に共感します。資源回復なくして漁業者の利益はありません。勿論そこに至るまでに漁業者も少々いたい思いをするかもしれませんが、そこは政府の出番で、2~3年の期限を持って保障や補助を行う。
トータルでの資源管理と、沿岸漁業の復活。そこには、水質を含む環境対策、藻場の復活、産卵場の確保が必要です。世界的に水産物の消費が伸びる中、最後に頼りになるのは、「国産」の魚です。確実な資源管理と回復をなんとしても達成したいものです。
漁業者の中にも、前向きにこのような考え方に賛同して、苦労を買って出る人もいますが、今さえ良ければ、自分さえ良ければと言う人も少なからずいるようで、今後漁業者にいかに理解をしてもらい国全体の動きを作っていくのか、先生のこのサイトを読み、様々なコメントを寄せている考える人たちが大きな動きを創ろうではありませんか。
私は、水産学部を卒業し、今も水産業に関わる中で飯を食っています。水産業がダメになるのは本当に耐えられません。今年は、真剣に漁業を考え、行動を起こす年にしたいと考えています。 - kaku q 10-01-05 (火) 20:49
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今晩は初めてPOSTします
私は漁業に従事する者ではありませんが
BOOKMARKして興味深く読ませて頂いています最近気仙沼に帰省する度に気になるのは
漁船は減るに従い水産庁の船が目立つのです
こんなに必要なんだろうか?と考えてしまいます(※参照して頂ければ)http://happenlog.blog73.fc2.com/blog-entry-245.html
獲り尽くす努力よりも、管理して増やす努力が良いと
私も考えます以前TVでノルウェイ漁業の状況を見ましたが
日本漁業との違いにショックを受けました
日本の漁業関係者は知っていても学べないのでしょうか? - 勝川 10-01-06 (水) 13:37
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うおいちばさん
そうなのですよ。2~3年、札束で漁業者の顔をひっぱたいてでも未成魚を獲るのを止めさせれば、良いのです。結果として、成熟個体を安定して獲れるようになる。稚魚よりも大きな魚の方が、美味しいし、値段がつきますから、消費者にも流通にも、メリットがある。なぜ、税金を使って逆のことをやるのか全く理解に苦しむのですよ。資源が無くなって得をする人間は、だれもいません。>今年は、真剣に漁業を考え、行動を起こす年にしたいと考えています。
業界の人間にもっと声を上げて欲しいと思います。このまま、資源が無くなって、一番困るんのはみなさんですから、是非、お願いします。
kaku qさん、はじめまして。
日本の造船業を支えようと言うことで、漁船建造用の融資制度を作ったのですが、業界はどこも赤字で借り手がいない。しょうがないから、官公庁の船を新船にしたという、笑えない笑い話を聞いたことがあります。水産行政栄えて、水産業滅びるですね。日本の漁業関係者は、純粋に何も知らないのです。未だに、自分たちが世界一だと思っている井の中の蛙です。先日、水産庁の偉い人と話をしましたが、未だに日本の漁船造船の技術が世界一だと思っているようで、驚きました。確かに、かつては日本の漁船は世界一でしたが、大型の船はもう何十年もまともに作っていないので、世界から見れば周回遅れです。もう少し、現実を見て欲しいと思います。
- kaku q 10-01-06 (水) 21:10
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勝川様
そういうカラクリなんですか?
唖然としました
これは民主党の事業仕分けの対象にはならないのでしょうか?そのうち漁船より水産庁の調査船の方が多くなりそうです
雇用確保の点では良いのかも知れませんが
日本全国では何艘あるのでしょうか?
誰も問題にしていない点が問題と思います実は重要な仕事をして貢献しているのかも知れませんが
一般人には伝わって来ません
そんな船がある事すら知らない人が大半では・・・
調査船は一体何をしているのでしょうか? - 勝川 10-01-08 (金) 23:16
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漁船構造改革といって、乱獲をしている巻き網船を税金で強化する計画が合ったのですが、事業仕分けで切られました。とても良いことだと思います。
水産庁の取締船は38隻あるのですが、中国船、韓国船の取り締まりしかしていません。日本船の違法操業は見て見ぬふりですよ。
日本の漁船造船業をつぶしたのは水産庁です。以前は、日本の漁船造船は世界の先端でした。アジアを中心に、日本の造船所に造船のオファーが来ていたのです。日本の漁業者にマイナスだということで、水産庁が許可を出さなかったのです。日本で新船需要がない中で海外からの注文もとれなければ、造船はやっていけませんよ。結果として、日本の漁船造船は廃れてしましました。
完全に人災ですよ。
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