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日本の食文化の喪失は、魚離れではなく、米離れ

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ここに過去100年の日本人の食料消費量の統計がある。日本の食卓の変化は、米離れに要約できる。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/0280.html

日本の食文化が失われつつあるのは確かだけど、最大の変化は米食の低迷だ。魚なんて、戦後に消費が急増した食品の代表格で、100年前より今の方が何倍も食べている。また、クジラを大量に食べたのは、戦後の食糧難の一時期だけ。日本の伝統的な食事における重要性は、「米+漬け物>魚>クジラ」なんだけど、文化的な価値は逆らしい。おかしな話である。

クジラは採算度外視で、国が地球の反対まで獲りに行き、魚は税金使って、プロモーションをする。その一方で、米は減反政策で、税金を使って、わざわざ生産量を減らしているのだから、本末転倒だろう。

日本の農政・漁政は、一次産業従事者の既得権の保護を最優先にして、食文化をないがしろにしてきた。減反政策の目的は、兼業農家を守るための米価格維持だろう。票田を守るために、水田を犠牲にしたのである。

本来は、乱獲されている水産物こそ国が規制をすべきなのに、漁業者が反対するから、漁獲規制はしない。魚食文化の普及と称して、乱獲された魚の販売促進を行っている。

こういった政策を正当化するために、「自給率」、「文化」、「多面的機能」、「省エネ」などが都合良く利用されてきた。これらの単語が出てきたら、疑ってかかった方が良い。一歩引いて、言っていることではなく、やっていることを見ること。誰が得をして、誰が損しているかを冷静に見極めること。

Comments:2

Testuo_kataoka 11-03-02 (水) 11:37

票田のために既得権益を守ろうとする業界に嫌われる政策から逃げてきたというのが、ご指摘のとおり事実なのかもしれないですね。

戦後から昭和40年後半頃までは、魚もたくさんいたし、漁業の近代化により、すべてではないにしろ漁業者の所得も飛躍的に伸びました。戦中だれも魚を獲らなかったから、戦後は海には魚があふれていたという幸運にも恵まれた面があったかもしれないですね。

当時の魚の価格は今と比べれば安かったのでしょうが、戦前は貧しい生活だった漁業者も、新しい近代的な船を造り、いい家を持ち、子供の高等教育就学が可能となる者も増えました。

家庭では、季節的な大漁もあり、安い鮮魚だけでなく、簡易加工した魚も食卓を潤していました。私が小さい頃は、季節的に大量に獲れるイワシ、ハタハタ、スケトウダラ、ニシンなどが並びました。所得が低かったから、安い魚をたくさん食べていたというのが実感ではないでしょうか。当時は、卵焼きさえ贅沢なおかずでしたし、肉なんて滅多に食べられませんでした。

ところが、昭和50年前半くらいからでしょうか、漁業・海は徐々に徐々におかしくなり、いつの間にか魚は減り、経営は極端に苦しくなり、自らの命を引き換えに借金を返す道を選択してしまった漁業者もいました。

この漁業の衰退を、遠洋漁業からの撤退、母船国主義の台頭、200海里体制の定着、イワシ資源の激減、魚価の低迷など・・・そのような部分もあったかもしれませんが、本当に日本の漁業の現場で起きていたことを直視せずに、ごまかしの理論で無策から逃げ延びようとしてきたのではないでしょうか。

漁業者はもっともっと魚を獲りたい・・・当然の気持ちですが、これを資源状況を無視して野放図にしてきたからこそ漁業は戦後の発展から急激に衰退してしまったことを強く反省すべきです。戦後の混乱期における不法漁船の激増の処理も頭が痛い問題だったかもしれないですがね。

いずれにしろ、もうこれ以上漁業者を苦しめないためにも、関係者から本当に嫌われるかもしれないですが、将来を見越した施策をできるだけ早く展開すべきですね。
「漁業者が自主的に」・・・で解決できるような簡単な課題では決してないと思っています。

katukawa 11-03-08 (火) 5:50

>本当に日本の漁業の現場で起きていたことを直視せずに、
>ごまかしの理論で無策から逃げ延びようとしてきたので
>はないでしょうか。

それにつきますね。
もともと日本近海の努力量は過剰だったわけです。
過剰努力量を削減するのではなく、
政治的に外洋に追い出すことで、しのいできた。
それが1970年代のEEZの策定で、これ以上外に出せなくなった。
それどころか、外から船が帰ってきた。
それまでの延命策が通良くしなくなった昭和40年代後半から、
日本漁業は、総崩れになったわけです。

過剰努力量への対策をせず、乱獲を放置したままで、
現金ばらまきでその場しのぎをするようですね。
本当に終わってます。

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