- 2008-02-18 (月) 15:04
- その他
先日の会議は、予想を上回る内容の薄さに驚いた。書かずにスルーしようかとも思ったが、「感想を書いてね」と言われていたので、読者サービスの一環として書くことにする。
まず、いきなりマサバ回復計画が成功例として紹介されてたのはビックリだね。 サワラ回復計画が賞味期限切れで、他の回復計画も軒並み失敗しているから、出す事例が無いのはわかるんだが、よりによって、マサバ太平洋系群ときたもんだ。04年の卓越年級群の発生で、ここ数年はバイオマスが増加したが、卓越年級群は獲り尽くしてしまったし、05、06年生まれは殆ど居ないので、来年以降は資源量が激減することは確実だ。要するに、自然に増加したところ、漁業で叩いて回復の芽を摘んだわけだ。にもかかわらず、ここ3年は増加しているバイオマスのグラフを見せて、「回復した!」と自画自賛するのには呆れてしまう。内情を知らない人間を騙せればそれで良いということだろう。
マリン・エコラベル・ジャパンは、何をやりたいのかわからなかった。枠組みのはなしとか、少ない人員で頑張ってます、といった苦労話がメインで、「何のためにエコラベルを作るのか」というビジョンが全く見えてこない。たぶん、話している人にもわかってないのだろう。MSCの話を一切しなかったのが印象的だ。やっぱり、「MSCはシールを貼らしてくれないから、自前で作っちゃいました」という程度の展望しかないのだろう。
次の馬場先生の話は、俺の理解だとこんな感じ。
自分としては資源管理型漁業は高く評価している。
とくに漁業者主体という理念が素晴らしい。
でも、成功といいきれないのが残念だ。
80年代には熱心だった漁業者にも90年代に入ったら、
消極的になってしまった。日本の資源管理型漁業は、
西欧かぶれのアフリカや南アメリカでは相手にしてもらえない。
唯一、話を聞いてくれるのは東南アジアだ。資源回復計画は、資源管理型漁業の枠組みを遵守している点は評価できる。
ただ、研究が足りないようなので、もっと研究費を確保して欲しい。
実際に効果が無かった資源管理型漁業を観念的に賞賛されても、同意できない。ポジショントークこそ説得力が大切だろうに。 どこからどう見ても、日本の漁業は衰退中なわけで、そんな国の政策を参考にしようという国などあるはずがない。アフリカや南アメリカの反応は、極めて常識的だと思う。
時間の関係で、俺はここまでしか聴けなかったのだけど、その後の話は面白かったようですね。残念。
サワラにしても、マサバにしても、資源が増えたのは卓越が発生しただけ。卓越が発生した直後に資源量がふえるのは当たり前で、それを回復計画の手柄ではない。自然に増加したものを次世代に結びつけることなく獲り尽くしている現状は、乱獲の見本だろう。資源回復計画自体は山のようにあって、自然変動で一時的に増える資源も1つぐらいあるだろうから、自然増加した資源を入れ替わり立ち替わり、成功事例として紹介していくつもりだろう。資源が増えてる印象を与えるグラフが一つでもあれば、水性心ぐらいは何とでもなるからね。
資源管理の取り組みを「やってる、やってる」と言うけれど、実際に資源は増えていないのだから、「資源管理をやっている」とは言わない。「資源管理が出来ていない」のである。実効性の無い資源管理型漁業は、「参加賞」や「頑張ったで賞」が限界であり、関係者の自己満足の域を出ない。「俺たちは頑張った、頑張った。(でも資源は回復していないけどね)」というのでは、やらない方がマシだ。
今回の会議だって、せっかく、日本中から水研・水試の人間を招集したのだから、「資源回復計画はあまり上手くいってないけど、どうしましょう?」という相談でもすればよいのに。どんな資源管理だって、最初から上手くいくわけ無い。計画を進めていく中で、問題点を洗い出し、打開策を練って行く必要がある。そういう努力を積み重ねれば、資源回復計画だってものになるはずだ。でも、現状で上手くいっていない計画を、上手くいっているように見せかける努力しかしていない。だから、いつまで経っても進歩がない。その場しのぎだけ出来ればよいという姿勢が変わらない限り、回復計画には期待薄だな。 まあ、これは回復計画に限ったことではなく、水産政策全般に関して共通するのだけど。
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Comments:3
- kato 08-02-19 (火) 8:29
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個人的に、
とある組合の中の人で漁業者の意識改革に全身全霊を傾けていた人を知っているだけに、結果が出なかったからと言っての全否定には少々憤りすら感じます。ただ中には役所の実績づくりのための計画としか見えないものがあるのも事実です。馬場先生の時代は「漁獲を我慢→魚の流通減→>→収入は変わらずorアップ」というパターン成立があったと思うのですが、今は価格部分が機能しないので、さらなる悪循環になっているのでしょうか。
さて役所ですが、案外上の方針によって180度向きが変わることがあるので、叩くよりは外堀を埋める仕事をされた方が良いように思えます。批判は良いのですが叩き(←最近はこう見えるエントリーが多い気がします)はさまざまな面で悪影響があるように感じるのです。
- ある水産関係者 08-02-19 (火) 20:11
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平成の大本営、正にエンジン全開で本領発揮といった感じですね。もっとも、発表している大本営自身、本当の現実を理解しないで自画自賛に明け暮れるところに、この国の将来を憂い、脱力感を感じます。
歴史は繰り返す、と言いますが、大本営発表「台湾沖航空戦の大戦果」を信じて「レイテ決戦」で大敗した帝国陸軍の失敗と、「資源回復計画」の運命が重なってなりません。全国から召集された???の推進会議に、参加者の旅費だけでも、一体幾らの税金が浪費されたでしょうか。
さて、2月18日付けの「業務連絡」、大変興味深く拝見しました。「大人の事情」とは、案外、言論の自由が無かった戦時下で大本営参謀の悪口を公言して特高にしょっ引かれた、かなと勘ぐってしまいました(間違っていたらごめんなさい)。
感情が論理より優先し、「言論の自由」が存在しない社会構造は、何も水産業界に限らず、日本人のDNAに組み込まれた悲しい性かも知れません。日本人が何時までも感情に支配される限り、「中学生程度」と言わしめた占領軍総司令官の評価から全く進歩していない、と言うことでしょう。
そうそう、こんな記事がありました。
↓↓
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/76946.html - 勝川 08-02-20 (水) 16:55
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katoさん
>とある組合の中の人で漁業者の意識改革に全身全霊を傾けていた人を
>知っているだけに、結果が出なかったからと言っての全否定には
>少々憤りすら感じます。税金でやった事業に対して、結果が問われるのは当たり前の話です。「全身全霊を傾けていた人がいるから否定をするな」という感覚の方が、私には理解できません。頑張っても成果が出ないのは、たしかに気の毒ですが、だからこそ、頑張れば成果が出る枠組みを模索する必要があります。私が非難しているのは、結果がでなかったことよりも、むしろ、明らかに上手くいっていない回復計画を改善する努力をせずに、その場しのぎでごまかして延命をしていることです。
>さて役所ですが、案外上の方針によって180度向きが変わることがある
担当者個人の裁量で決定できる規模の話であればそうでしょうが、組織全体の基本方針が簡単に変わるはずがありません。「このままでは水産庁という組織が持たない」という危機感を上層部が持たないとダメです。上層部は、規制改革案を骨抜きにしたといって、喜んでいるらしいですから、平和なものです。末端はすでに危機感を持っていますが、彼らには権限がありません。
ある水産関係者さん
トラブルのうちにも入らないような、下らない話です。>感情が論理より優先し
感情ではなく、感情論の皮をかぶった打算ですよ。納税者の利益に背く行動をとるときに、感情論を前面に出して、反論を封じているだけです。自分たちとズブズブな関係の漁業者のちょっとした痛みでも大騒ぎするくせに、零細漁業者や加工業者の痛みにはとことん無関心なので、呆れてしまいます。
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