前回は、政治主導の政策の変化が、米国漁業の成長をもたらしたことを紹介した。今回は、米国の消費者の側で起きている変化について紹介しよう。米国では、環境NGOが力をもっている。環境NGOは乱獲漁業を批判して、資源管理のスタンダードを高めてきた。日本の漁業も良くも悪くもその余波をかぶってきた。米国の海洋の環境NGOの中でも、消費者活動で成果をあげているのが、モントレーベイ水族館のSeafood Watchだ。
Seafood watchの歴史
カリフォルニア州のモントレーは、かつてはイワシの缶詰工場で栄えた町である。スタインベックの小説「缶詰横町」の舞台でもある。イワシの激減により、漁業が成り立たなくなったことで、観光都市へと変貌を遂げた。缶詰工場を改装し、当時の雰囲気を残しつつも、おしゃれなホテルやレストランが立ち並んでいる。環境観光都市モントレーの中心的な存在がモントレーベイ水族館だ。モントレーベイ水族館が行っている、持続的な水産物促進プログラムがSeafood Watchである。
モントレーベイ水族館では、入場者への教育の一環として、持続性の観点から食べて良い魚と、避けるべき魚のリストをつくり、レストランのテーブルに展示した。持続的な水産物のリストを持ち帰る客が多かったことから、潜在的な需要があると考えて、ポケットに入れられるような持続的な水産物のリストをつくって、1999年から無料で配布している。
Seafood watchでは8人の研究者が、1)漁獲対象種の資源状態、2)混獲種の資源状態、3)資源管理の実効性、4)生態系・環境への影響の4つの観点から漁業の持続性を評価し、お勧め(緑)、悪くない(黄色)、避けるべき(赤)の3段階に分類している。漁業の持続性の評価は、専門的で、複雑なプロセスなのだけど、消費者にわかりやすく伝えるために、シンプルに表現を心がけているのだ。
最近は、iphoneアプリもあって、無料でダウンロードできます。
こんな風にいろんな魚の持続性が一目瞭然です。
現在は、102魚種がリストされている。一つの魚種でも米国の国内漁業だけで無く、輸入されてくる主要な魚種の評価も行っている。
日本の養殖ハマチは残念ながら、Avoidでした。非持続的な天然魚を餌に使っているのが問題なんだって。
スーパーマーケットとの連携
Seafood Watchはリストを消費者に配布するだけでなく、レストランやスーパーマーケットと提携をして、持続的な水産物を消費者が選べるように工夫をしているらしい。実際に、スーパーマーケット(whole foods market)に視察に行きました。
ありました!! 鮮魚コーナーの下の方に、ちゃんと表示されていますよ!!
鮮魚コーナーでは各製品には、エコラベルの有無が表示されていました。天然魚は、Seafood Watchの評価とMSCのエコラベルの有無が一目でわかります。養殖は持続的な養殖認証の有無が表示されています。
より詳しく知りたいひとのために、情報冊子が棚の脇に並べられていました。でも、店員さんは余り詳しくないみたい。
「欧米では持続性認証の無い魚は売りづらい」と聞いていたのですが、鮮魚コーナーには何の認証も無い魚もありました。「持続性に関心がある消費者はそういう製品を選べるし、そうで無い消費者は好きなものを買ってね」というスタンスのようです。これぐらいだったら、日本でもすぐに出来るんじゃ無いかな。こういう展示をすることで、「水産物にも持続的な物とそうでないものがあり、消費者は持続的な水産物を選ぶことで持続的漁業を応援できる」というメッセージが日々の買い物を通じて、消費者に伝わるのが良いと思いました。
消費者を巻き込んだ持続的水産物を応援する動きは、欧米では、1990年代から徐々に広まってきた。米国人の一人あたりの水産物消費量は日本の半分ぐらい。食事に占める水産物のウェイトはそれほど大きくない米国でこれだけの取り組みが出来ている。魚食民族と言いつつ、日本の小売りで水産物の持続性に関する情報を目にする機会は皆無と言って良い。魚をたくさん食べている日本人こそ、水産資源の持続性についてしっかりと考えて、責任ある行動をとる必要があります。この分野でも世界をリードしたいものです。