- 2008-06-12 (木) 14:39
- 流通・消費
スーパーマーケットの台頭は、日本の水産の構造を根本的に変えてしまった。
流通の主導権が漁業者から、小売りへと移行したのである。
魚屋時代
スーパーマーケットが台頭する前を魚屋時代と呼ぶことにしよう。 漁業者は、値段がつきそうなものは獲れるだけ獲って、市場に流す。
市場で魚の流れを決定する要は仲卸である。仲卸は、魚の目利きと小売店との密な関係によって、 小売店の需要にも多様性があり、四季折々の多様な魚を柔軟に吸収できた。 流通の末端には、様々な魚を柔軟に料理できる消費者がいた。 魚屋時代には、水産物の流通を規定していたのは漁業者であった。水産物の水揚げは、日々、ドラスティックに変動することを前提として、その変動に対応できるような柔軟な流通システムが構築されていた。多様な魚を多様なスタイルで消費する魚食文化が背景にはある。 |
スーパーマーケット時代
スーパーマーケット時代になると、流通の主導権はスーパーへと移る。まず、スーパーが魚売り場の陳列棚のデザインを決定する。 「どういう魚を、いくらで、どれぐらい売るか」を予め決めてしまうのだ。 スーパーマーケットの魚売り場には季節感が希薄である。その代わり、いつでも定番商品は並べられている。
店頭価格からさかのぼった原価で、必要な魚を手に入れるために、仕入れ担当者が奔走する。 仕入れ先は、多岐にわたる。スーパーは、安定供給を何よりも重視する。当然あるはずの魚がないと、買い物客から苦情が来るし、欠品が続けば、客足にも響くからだ。魚価安により、ほとんどのスーパーは、魚売り場では利益を出していない。にもかかわらず、鮮魚コーナーが全てのスーパーにあるのは、客寄せである。 |
俺自身は、魚屋を好む人間である。
去年までは、保育園のお迎えの前に魚屋に寄るのが日課だった。
魚屋の品揃えは日々変動するので、「今日は何があるかな?」という楽しみがある。
また、品物を吟味して買うのも楽しいし、夕食後にはその日の自分の判断の結果が出る。
日々の楽しみを提供してくれた魚屋は、今年に入って廃業をしてしまった。
老夫婦でやっていた魚屋で、女将さんの具合が悪そうだったから、仕方がない。
その後は、スーパーで魚を買っているが、魚を選ぶ楽しみが減ってしまって残念だ。
ほかの魚屋もあるにはあるが、鮮魚が強いスーパーに品揃えでも品質でも負けている。
ちょっと、あれでは買う気がしない。
個人的には魚屋の衰退は残念だと思うが、
時代の流れがスーパーに傾いているのは明らかである。
漁業者もスーパーマーケット時代に適応した魚のとり方をすべきである。
スーパーマーケット時代の漁業のあり方
スーパーマーケットにとっては、欠品が一番痛いので、
コストも重要だが、それ以上に安定供給を重視する。
一定以上の品質の魚を安定供給できれば、高く売れるだろう。
逆に水揚げされるかわからない、水揚げされても数がそろわない。
従来の「獲れるものを手当たり次第に」という水揚げスタイルでは、
どこまでも、安く買いたたかれてしまうだろう。
下のグラフは毎度おなじみ、日本と欧州のサバの水揚げ年齢の違いである。
日本の漁業者はサバが沸くたびに0歳、1歳という未成魚を乱獲し、資源を低迷させてきた。
こういうとりかたでは、品質は悪いし、量も安定しないので、日本の市場からは相手にされない。
そこで、日本のサバは、中国・アフリカにたたき売りだ。
一方、欧州は大型個体を安定的に水揚げしている。
こういうとりかたをすれば、魚価は確実に上がるのだ。
日本の漁業者は、魚が捕れるようになると、皆で競って水揚げをして、相場を壊す。
サバに限らず多くの漁業で、このような愚かな行為が繰り返されている。
魚の量も質も安定しないので、魚価が上がらないのは全くの自業自得といえるだろう。
計画的・安定的な魚の供給には、ABCを遵守した個別漁獲枠制度がよい。
個別に漁獲枠を配分することで、早獲り競争を緩和することができる。
自然の生産力の範囲に漁獲を抑えることで、資源状態を良好に保つことができる。
この2つの条件が満たされて、初めて、漁業者は計画的・安定的に魚を捕ることができるのだ。
ノルウェーの漁業者が海に魚を取りに行くのは、倉庫に在庫を取りに行くのと近い感覚だ。
まじめに資源管理をしているから、魚は当然そこに存在する。
また、個別枠なので、自分の都合がよい時期に取りに行けばよい。
ノルウェーのサバは日本人には脂肪が強すぎる。
成熟が進んで脂肪分が卵巣・精巣に吸収されると、徐々に日本人好みの味になる。
成熟と体脂肪率をにらんで、日本市場でもっとも高く売れるタイミングで漁を行うのだ。
ノルウェー的な操業形態に切り替えて、スーパーの需要に応えることができれば、
日本の漁業にも新しいビジネスチャンスが生まれるはずだ。
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