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チャタム島 その3 ~ITQが離島漁村の多神教文化を支えている

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では、ITQの具体的な運用について説明しよう。まず、政府研究機関が、資源の持続性を考慮して、商業漁獲枠(TACC)を決定する。TACCと等しい年間漁獲枠(ACE: Annual Catch Entitlement)が、漁獲枠に比例して配分される。ACEは自分で漁獲をしても良いし、他の漁業者に販売しても良い。

チャタム島では、先住民自らが財団(日本の漁業組合みたいな組織)をつくり、自分たちの漁獲枠を運用している。NZの漁獲枠は図のような流れで配分される。協会は、チャタム島海域のアワビの漁獲枠の25%とロブスターの漁獲枠の50%を保持しているので、毎年、アワビとロブスターのTACCのそれぞれ25%および50%のACEが配分される。協会は、島に定住している漁業者に、市価よりも2割ほど安い価格で、ACEの優先販売を行っている。島の漁業者に漁獲枠を販売した後に残ったACEは、外部の漁業者に市価で販売する。財団が島での雇用確保に一躍買っているのである。財団は、漁獲枠の運用益で、病院を建てたり、小学校を新築したりとインフラ整備も行っている。漁獲の利益で、島の生活が成り立っているのである。「資源管理をしなければ漁業が無くなる。漁業が無くなれば、島に人が住めなくなる。」というのは、本当だろう。

ちなみに、NZの先住民は多神教であり、厳しい離島で、昔ながらの伝統を守って、助け合って生活をしている。その生活を支えているのが漁業であり、その漁業の生産性を支えているのがITQなのだ。ITQを導入すると、地域を守ろうとする多神教的な団結心が破壊されてしまうという須能委員の主張は、全く事実に反している。魚や漁業権利権の奪い合いで、地域の団結が崩れ、漁村が崩壊しているのは、むしろ日本の方である。国の有識者代表として、政策を議論する以上、もう少し勉強をして、現実を知った上で、議論をしてもらいたいものである。また、反対する以上は、何らかの現実的な対案を示すべきだ。

もちろん、ITQを導入したら、全てがバラ色になるわけではない。ITQというシステムは、部族で素朴な生活をしてきた先住民にはすぐには理解できなかった。新しいシステムを理解できずに、失敗する生活の糧である漁獲枠を二束三文で手放してしまった者もいた。ITQ導入当初、アワビの漁獲枠のすべてが、島の漁業者に配分された。漁獲枠の大部分は、島外の企業に売却されてしまい、現在も島に残っている漁獲枠はたったの25%だ。漁獲枠の流出は、地域の雇用の観点から望ましいことではない。また、新しい管理システムが導入された当初は、戸惑いと抵抗が合ったようである。ITQ導入当時の政府の漁業視察官は、とても苦労したという話である。

他国の成功から学ぶのと同様に、失敗から学ぶことも重要である。地方の雇用確保のためには、個人ではなく、コミュニティーに漁獲枠を与えるのが良いだろう。また、漁獲枠の流出を予防するために、コミュニティーが所有する漁獲枠の譲渡は禁止し、漁獲枠の利用は、その土地の漁業者を優先すべきである。最初から、今のチャタム島のような形態にしてしまうのだ。その上で、個別漁獲枠制度は、早獲りでは大型船に劣る沿岸漁業が持続的に漁業から利益を出すために必要な制度であることを周知徹底させるべきであろう。

今回のチャタム島の訪問は、驚きの連続であった。いずれは、チャタム島の漁業者と日本の漁業者が、直接対話をする機会を設けたいものである。国や言葉は違えども、同じ漁業者同士なら、伝わることも多いはずだ。NZの制度にも問題は多く残されている。チャタム島の漁業者の口から、NZの漁業制度の良い面、悪い面を教わった上で、日本に何を取り入れ、何を取り入れないかを議論すべきだろう。チャタム島の漁業者たちは、「呼んでくれたらいつでも日本に行って、俺たちの経験を紹介するよ」と言ってくれている。あとは、先立つものが必要なんだが、どこかに旅費がおちていないかなぁ

チャタム島 その2 ~魚価を上げるにはIQが一番

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ITQが導入される以前は、チャタム島周辺の漁場は、外からくる大型船の草刈り場であった。もし、ITQが導入されなければ、大型船の沖獲りで、資源は枯渇していただろう。「ITQが無ければ、島の漁業は無くなっていた」というのが、島の漁業関係者の共通認識である。ロブスターは米国の大型船に大量に漁獲されていた。

根付き資源も衰退しつつあった。チャタム島はアワビ(Paua)の好漁場でもある。1970年代には、腕の良い潜水夫は一日に500kgのアワビを水揚げした。当時の価格は、1kg当たりNZ$0.5であり、一日の収入はNZ$250程度であった。当時はアワビの漁業に規制が無かった。自由参入の獲りたい放題。獲り残しても、後で自分が獲れる保障がなければ、漁業者は出来るだけ多く獲ることで、利益を得ようとする。結果として、魚価は上がらずに資源だけが減っていった。NZ政府は1982年にライセンス制度を導入したが、事態は変わらなかった。1985年に過去の漁獲実績に応じて、アワビの個別漁獲枠を割り当てた。自分の漁獲枠を持つことによって、漁業者の意識が変わり、捨て値で売るぐらいなら獲らなくなった。結果として、魚価は1984年にNZ$1.0であった魚価が1985年にはNZ$2へと跳ね上がった。そして、1986年にNZ政府がITQを導入すると、魚価は、5$, 8$, 10$と年々上昇し、現在は、NZ$100程度である。ITQ導入前は、ロブスターのキロ単価は5$(NZD)であった。ITQが導入されると、単価は40$に跳ね上がり、現在は100$まで上昇している。島の漁業者は、ITQには魚価を引き上げる効果があることを実感している。島の組合で聞いたところ、アワビ漁業者の93%、ロブスターの漁業者も数人を除いて全員が、ITQを支持しているとのことであった(チャタム島後半の動画を見てください)。

チャタム島には、今でも膝ぐらいの深さの所にアワビがうじゃうじゃいます。でもって、自家消費なら誰でも獲って良いみたい。漁業取締官のジョージの家で、アワビをごちそうになりました。美味かったですよ。中華風のピリ辛炒めが絶品でした。ソースにアワビの味がしみこんでいて、それと野菜が合うんですよ。あんなサイズのアワビを日本で買ったらいくらぐらいするんだろうね。NZの首都ウェリントンの近辺にも、昔はアワビが沢山いたそうです。しかし、一般市民のカジュアル密漁によって、壊滅的に減ってしまったとのこと。こういう事例を見ると、組合ベースで地域で管理をするという日本のシステムは合理的かもしれない。ただ、日本の組合は、漁場を守っている所もあれば、漁場を切り売りしているところもありで、玉石混淆ですね。後者を何とかしないと、前者も含めて一緒くたに非難されてしまうのではないかと心配です。

現在の日本の漁村の多くは、ITQが導入される前のチャタム島と同じような状況にある。大型船による沖獲りと、沿岸漁業者同士の早獲り競争により、資源は減少している。魚価は涙が出るほど安い。漁業者は、魚価が安いのは、流通や消費者が悪いと思っているようだが、根本的な原因は値段も考えずに取れるだけ獲ってくる、今の漁業のあり方である。買いたかれるような状況をわざわざつくっているのだから、買いたたかれても仕方がないだろう。個別漁獲枠を導入し、値段がつかない時には魚を水揚げしないように漁業者の意識を変えれば、魚価は必ず上がる。「魚価を上げたいなら、IQ制度の導入」というのは、世界の常識ですね。日本では、ビジョンのないブランド化のために、税金をばらまいているけれど効果は期待できません。供給が安定しなければ、知名度が上がるはずなど無いし、そもそも、ブランド名を決めてから、ブランドの売りを何にしようか相談しているようでは、ダメでしょう。

チャタム島 その1 ~ITQは地域文化を破壊するのか?

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資源管理推進派は、早どり競争を抑制するために、漁獲枠を個別配分すべきであると主張してきた。一方、反対派は「ITQを入れると、大企業が資源を独占し、地域漁村文化が破壊される」と主張している。たとえば、水産庁の有識者会議の出席者は次のように述べている。

須能委員:
私は日本の漁業者の精神構造は、基本的には多神教である。一神教の外国人の価値観とは違っており、地域を守ろうとする団結心をこういうIQ・ITQなんかで精神構造を破壊するようなことは絶対にしてほしくない。譲り合って、助けていくという日本独特の文化として、あるいは漁業文化として、あるいは水産文化として是非維持してほしいと考えます。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_yuusiki/pdf/giziroku_05.pdfのP18

本当にITQを導入すると、地域を守ろうとする多神教的な団結心が破壊されてしまうのだろうか。ITQが地域漁村コミュニティーにあたえる影響をこの目で見るべく、特派員はニュージーランドの離島を訪問した。

今回、訪問したチャタム島は、NZ本島のはるか東に浮かぶ孤島です。NZ本土から、40人載りの小型飛行機が週に2便でている。約2時間半のフライトであ る。島の住民は570人。この島の主な産業は漁業と畜産。国から島に出る補助金は全くない。ITQが小規模漁村コミュニティーにダメージを与えるなら、この島が最初に淘汰されただろう。しかし、事態は全く逆なのだ。ITQのおかげで、漁業が利益を生み、島の生活が成り立っているのである。

島に着いたら、まず、先住 民の部族に立ち寄ることになった。マオリよりも前から島に住んでいたモリオリ族が、遠方からの客人を歓迎したいというのだ。会場に着くと、部族の女性が出迎えてくれた。セレモニーは女性を先頭にして、訪問するのがルールとのこと。 戦争ではなく、平和を求めているという意思表示だそうだ。いざセレモニーになると、それぞれのグループのリー ダー(男)が儀式をする。ここでは女性は一歩下がった場所で、発言も許されていない。一通り、儀式的なやりとりが終わった後、鼻と鼻をくっつけて、 挨拶をして、セレモニーは終わり。手作りのケーキや、アワビなどで、ウェルカムパーティーをしてもらった。とてもアットホームでした。子供たちが元気で、とてもかわいかったです。

島には水産加工場が一つあります。ここも実にアットホームでした。音楽を聴きながら、まったりと作業をしています。日本の加工場では、熟練した作業員が一心不乱に作業をしているのですが、全く違う風景ですね。これぐらいのゆるさなら、俺でもつとまるかも。しかし、マッスィーンのごとく働く日本人よりも、NZ人の方が、労働時間が短く、賃金が高いのです。日本のデタラメな水産行政のツケは、すべて末端が背負っているのです。

あいにく、滞在期間中は、時化で漁がなかったのです。時化といっても少し風がある程度。「えっ、この程度で時化なの??」と驚きました。以前は、これぐらいの天気なら漁にでていたそうです。ITQになって、無理に獲る必要がなくなったので、天気が悪い日は休むようになったとのこと。

島 の主要な漁業は、アワビ(paua)、ロブスター(crayfish), Blue cod (アイナメ)、Kina(ウニ)である。アワビの漁業者の93%がITQを支持している。ロブスターの漁業者も数人の例外を除いて、ITQを支持してい る。島の加工場、漁業者組合、漁業者などに聞き取り調査をしたが、異口同音に「QMSが無かったら、漁業は無くなっていたよ」と語ってくれた。

太平洋 の真ん中の離島でも、伝統的なコミュニティーがしっかりと生き残っている。そのコミュニティーを支えているのは、補助金ではなく、漁業だ。コミュニティー は、NZ政府から経済的に独立している。コミュニティー内部では相互援助の精神で、たくましく生活をしている。彼らの生活を支えている漁業を支えているの が水産資源であり、水産資源を支えているのが、資源管理なのだ。チャタム島に関しては、いろいろ、書きたいことだらけですが、とりあえず、動画を見て欲しい。

動画のダウンロードはここから (150MB)

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海難事故について調査中

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海難統計について調査を進めています。何事も勉強ですよ。

http://www.mlit.go.jp/k-toukei/kainan/kainan2.html

海難統計 S37-H16まで(PDF)
http://www.mlit.go.jp/k-toukei/syousaikensaku.html
過去の統計資料(PDF形式) 別表 船種別死傷者等及び海難隻数

海難レポート H16以降
http://www.mlit.go.jp/jtsb/kai/genkyou/report_top.html

出来れば、漁船の種類トン数別の海難事故統計が欲しいんだけど、どっかにないかな。

銚子の乱獲船団は、今年も絶好調です!

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銚子・波崎地区の1月の水揚げ

トン 単価(円/kg)
12 2996 48
13 2111 34
16 4396 26
19 1644.4 31

うわっ、安っ。サバ漁業の未来を、絶賛投げ売り中ですね!

あーあー、相場を壊しちゃったね。サブプライム以降も、60円から80円をうろうろしていたのだけど、こりゃ厳しいですね。現在、漁獲をしているのは、150g以下の09年生まれのサバです。小さすぎて、マサバかゴマサバかの区別もつきづらいようです。まあ、こんなサイズではマサバだろうと、ゴマサバだろうと、どちらも等しく価値がないのですね。

回復計画の補助金をもらう代わりに、「沖あがり2,000トン超えた場合は翌日休業」という決まりになっていたはずだが、なぜ12日、13日と連続で2000トン超えるんだろう。回復計画の補助金はもらうけど、休漁はやらないということですか?


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄」
―――――――――――――‐┬┘
                        |
       ____.____    |
     |        |   北巻 |   |   日本漁業の未来を
     |        | ∧_∧ |   |   窓から
     |        |( ´∀`)つ ミ |   投げ捨てろ
     |        |/ ⊃  ノ |   |
        ̄ ̄ ̄ ̄’ ̄ ̄ ̄ ̄    |    ミ○○○

マサバ0歳魚の乱獲を要求する人々

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07年生まれを0歳からガンガン獲っていたときに、どんな話をしていたのか、振り返ってみよう。これは、07年の全国評価会議(公開)で巻網関係者が「0歳が多いからABCを増やせ」とごねているところ。水研センターと水産庁(漁場資源課)は、0歳魚の漁獲はできるだけ控えて欲しいというトーンです。

zenkoku07

0:00 高橋 正三さん(北部太平洋まき網漁業協同組合連合会専務理事)
04年級群の資源量を過小推定していたし、お前らの資源評価は当てにならないから、漁獲枠を増やせ。

0:10 水研 評価担当者
07年級は現時点ではどれぐらいいるかわからないから、漁獲枠を増やすのは危ない

4:38 高橋 正三さん(北部太平洋まき網漁業協同組合連合会専務理事)
資源評価に不確実性があるのは怪しからん
(俺コメント:資源量がわからないうちに、0歳を漁獲する方がおかしいだろjk)

5:24 茨城水試
0歳の資源量は来年の3月にならないと解らない→その時点で判断すればよいのでは?

6:47 水研 評価担当者

7:53 司会(漁場資源課)
低位で、回復させなきゃいけない状況で安全を見るのはやむを得ない

9:26 巻き網業界(高橋さん?)
研究者が、安全性を考慮して、漁獲枠を設定するのは怪しからん。

10:51 水研評価担当者

11:44 巻き網業界

12:15 司会(漁場資源課)

12:40 岡本勝さん (社団法人 いわし食用化協会専務理事 水産庁天下り)
水産庁は経済官庁だから、環境など無視して、業界の都合を優先すべき。
担当班長ごときが反抗するな

14:01 司会(漁場資源課)

15:20 岡本勝さん (社団法人 いわし食用化協会専務理事 水産庁天下り)
第三者的に見て異様な感じる

16:10 俺
親がいないのに0歳を獲るのはアホ

北巻関係者って、なんでこんなに偉そうなんだろうな。いつみてもふんぞり返っていて、つっかえ棒でもなければ、後ろに倒れそうだ。サバもイワシも、こんなに減らした張本人が、明らかに非経済な0歳魚を漁獲しておきながら、なぜ居丈高なのか、俺には、まるでわかりません。

あと、笑えるのが、天下りの岡本さん。北巻に天下った岩崎さんと同じで、ずぶずぶの人間に限って、第三者を自称するのは、なんでだろうね。水産業を破壊した張本人が、自分を第三者とかいうのは無責任にもほどがある。「水産庁は環境じゃなくて経済官庁だ」と力説しているけど、そもそも乱獲を放置するから、漁業という産業が廃れているのである。

漁場資源課の皆さんも、立派な先輩をもつと苦労が絶えませんね。心から、同情します。

しっかし、レベルが低い議論だよね。0歳のサバを漁獲すること自体が非常識なんだから、全部禁止でいいじゃん。やり方は簡単だ。サバの水揚げで、200g以下が8割を超えたら、売り上げは没収して資源回復計画の原資に当てる。それから、水揚げ100トン以上で、200g以下が8割を超えた港は、1週間サバ類の水揚げ禁止。これぐらいは、まともな漁業国はどこだってやっている。0歳魚の漁獲をアシストする日本の水産行政の方が、第三者的に見て異様です。

当時の記事はこちらです。「全国評価会議の音声を公開します」

今年の全国評価会議は、いまいち、盛り上がらなかったな。公開性の高いABCに圧力をかけると、騒がれるから、密室の水産政策審議会で期中改訂をする作戦にしたのかな。まあ、どっちみち叩くけど。

まるで成長していない

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マサバ太平洋系群の当たり年の運命

92年級群

0歳1歳で獲り尽くされる。再生産にはほとんど寄与せず

96年級群

0歳1歳で獲り尽くされる。再生産にはほとんど寄与せず

04年級群

0歳の時は銚子沖の巻き網漁場に行かなかった。本格的な漁獲は1歳から始まった結果として3歳までそこそこ獲れた。3歳で07年級を生み出してほぼ消滅。

07年級群

0歳、1歳で漁獲され、2歳でほぼ消滅?

09年級群

0歳から集中漁獲され、史上最低価格で、途上国に絶賛投げ売り中

現在も07年級群が見えなくなったところで、0歳魚に漁獲の中心が移行した。ちょっと待てば確実に増えるのに、なんでこんな綱渡りをするのか理解にくるしむ。実は、07年にも、おなじことをやっている。「ウホッ!0歳魚が多そう」とかいって、誘われるままにホイホイと漁獲枠を544千トンから、746千トンに増枠しちゃったのだ。結果として、資源回復の芽を摘んだようだが、なんで同じ事を繰り返すかなぁ。

まるで成長していない(ずれるのでAA略)

マサバの魚価を破壊する水産行政

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水産庁は余計なことをして、サバ資源の回復を妨害するばかりでなく、漁業そのものも破壊しつつある。

07年級を獲り尽くしたために、今年のサバの水揚げは前年度の6割で推移してきた。1歳以上がほとんど獲れない中で、今年産まれたばかりの0歳魚が10月から獲れだしたら、すぐさま11月に漁獲枠を増やしやがったのである。こういうときの対応だけは、本当に素早い。11月に余計な増枠をしたせいで、12月の魚価は近年無かったレベルまで低下した。サバの単価(産地市場)と漁獲量の推移はこんな感じ。

Image1001032

11月末というのは、漁獲枠を増やすのに、最悪のタイミングだ。鮮魚は年末需要で12月に相場が上がる場合が多い。ただ、これはあくまで国内向けの鮮魚の話。今獲れているような0歳のサバは、途上国向けの輸出か、養殖の餌なので、年末需要は無関係である。

サブプライム以降、円高によって、現在、輸出はストップしている。もともと、アフリカ・アジアの購買力が最低の国に、値段の安さだけで売り込んでいたので、円が少し高くなると輸出できないのである。選択肢としては養殖向けの餌しかないのだが、養殖魚は年末にあらかた出荷するので、12月以降は餌の需要が激減する。今、0歳のサバを捕ったところで、どこにも売れないのである。こんな時期に、期中改訂で漁獲枠を増やせば、魚がだぶついて、魚価が急激に落ちるのは自明である。実際、11月末にTACが増枠されるやいなや、魚価が下落し、史上最低記録を更新しそうな勢いである。

こういう漁業をしていたら、安く買いたたいてきて、捨て値で売って利ざやを稼ぐようなビジネスしか成り立たない。わざわざ、そういう方向に政策誘致をして、限られた海の生産力を浪費しているのだから、日本の漁業が廃れるのは自明である。

日本がやるべきことは簡単だ。漁獲に占める200g以下の割合が8割を超えたら1週間禁漁とかして、未成魚をまもる。でもって、2歳になって、卵を産ませてから取り始めればよい。脂がのった日本のマサバは抜群に旨いので、それだけで、ノルウェーのサバから日本市場を奪回できると思うよ。加工屋も大喜びだ。なんで、こんな簡単なことが出来ないのだろうか。

マサバ資源を破壊する水産行政

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12月のサバの乱獲について、情報を整理しよう。サバは、乱獲によって、激減している。90年代以降、94、96、04、07年と、親が少ないわりに卵が多く生き残る当たり年があった。にもかかわらず、乱獲で資源回復の芽をつんで、今日に至っている。

(↓サバの資源量)

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当たり年を食いつぶすだけの日本のサバ漁業は、2000年から2003年までは大底を迎えた。その後、幸運にも2004年、2007年と当たり年が発生したので、「サバ資源は回復した!!」といって、獲って、獲って、獲りまくっているわけだ。今年になって、2007年生まれをほぼ獲り尽くしたと思いきや、なんと2009年生まれの0歳魚が順調に獲れている。サバの当たり年が連続するしているのは、おそらく、カツオやブリも、小型のうちに巻き網が獲り尽くしているおかげで、捕食者がいないからだろう。首の皮一枚でつながった状況である。ほっとしたのもつかの間、水産庁が例によって、例のごとく、「サバが増えたから漁獲枠をふやそう」と言い出して、11月20日の資源管理分科会で、サバ類の漁獲枠の増加が承認された。

平成21年漁獲可能量(TAC)の改定及び22年TACの設定等諮問第167 号について

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9月以降は、全国的に0歳のジャミサバ主体の漁獲である。資源は全然回復していない。「未成魚主体の水揚げになったから、サバは禁漁にする」というなら話はわかるが、なぜ、漁獲枠を増やすのか理解できない。これを諮問した資源管理分科会の議事録は、未だに公開されていない。どうせ、ほとぼりが冷めた頃に、こっそり出す気だろう。まあ、どういう経緯かは、容易に予想がつく。水産庁が「サバが増えたからTACを期中改訂で増やすよ~」といったら、委員が「賛成、賛成、大賛成、業界も大喜びでござる」とかいって、さくっと決まったのだろう。いつものパターンだ。天下りと御用学者で固めた諮問委員会にまともな議論を期待することはできない。

俺が腹が立つのは、資源回復計画とかいって、未成魚保護を口実に北部巻き網組合に税金をばらまいていることだ。そマサバ太平洋系群回復計画には、次のように書かれている。

4.資源回復のために講じる措置と実施期間
(1)漁獲努力量の削減措置
本計画期間の5年間においては、当初、卓越年級群を中心とした未成魚の保護のため、これらを漁獲対象の一部としている太平洋北部水域(許可区分水域で千葉県野島埼以東)の大中型まき漁業を主対象として資源回復に取組むこととし、さらに
、これら未成魚が成長した段階で産卵親魚としての保護が必要となってくることから、本計画の実施状況や資源の回復状況等を踏まえつつ、対象水域の太平洋中・南部水域への拡大や、大中型まき網漁業以外の漁業についても、関係漁業者との協議を経て、逐次資源回復のための措置を講じていくこととする。なお、大中型まき網漁業による漁獲努力量の削減は、休漁と減船の組合せにより実施する。

卓越年級群を中心とした未成魚の保護のためといって税金をばらまいておきながら、漁期中に漁獲枠を増やしてまで、未成魚の乱獲をアシストしている。言っていることとやっていることがまるで違う。国民に対する背信行為である。

赤松農水相、23年度にも漁業へ所得補償 – MSN産経ニュース

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赤松農水相、23年度にも漁業へ所得補償 – MSN産経ニュース.

農水相は、水産資源の枯渇による水揚げ量の減少や魚価低迷、燃油価格の上昇など漁業を取り巻く厳しい状況を指摘。その上で「漁業者が胸を張ってやっていけるよう所得を約束する」と述べ、22年秋までに定額の補償水準など制度の概要を固めたい考えを示した。

補助金で生活しておいて、「胸を張ってやっていける」はないだろう。諸外国の漁業者は、持続的に魚を捕って、高い利益を上げている。個別補償が必要になる時点で、漁業者・行政・政治家・専門家は恥だと思わないといけない。一つ前の記事に書いたように、日本の乱獲漁業では、資源を破壊しながら、利益が出せない。乱獲を取り締まるのは、国連海洋法条約でも規定されているように、国家の義務である。きちんと資源管理をして、漁業者が魚を売って、生計をたてられるようにするのが国の役割である。そこのところをはき違えないで欲しいものだ。

漁業の所得保障は、副作用の大きい劇薬である。日本のように資源管理が出来ていない国が、すでに過剰な漁業者を維持するために税金をばらまけば、あっという間に、日本漁業は死ぬよ。漁業権利権を当て込んだ、既得権保持者が、外部参入を閉め出して、ますます漁村の高齢化が進むだろう。魚もいないのに、過剰な漁業者を維持して、それを税金で食わせていくのは、漁業再生に全く逆行する。

民主党は、マニフェストにおいて、個別TAC(おそらくIQ)を導入するための手段として、個別補償を打ち出していた。資源管理を導入する際の一時的な収入減少を補うという目的であれば、個別補償は有効だと俺も思う。しかし、資源管理の具体像がなにも見えてこない中で、所得保障の話しだけが進行しているように見える。個別補償にしても、漁済経由で一律に配るというようなことを、民主党の水産部会は言っている。今までの「ばらまき」のインフラをそのまま使ったら、同じような「ばらまき」にしかならないだろう。所得保障をするにしても、基準を明確にした上で、透明性を確保して直接給付をすべきである。自民党は、直接補償という最後の一線は踏み越えなかった。不透明な乱獲資金をばらまいて、漁業権利権を強化し、漁業の高齢化を更に進めるぐらいなら、無駄な漁港を建てている方がまだマシだ。

民主党の水産政策を判断する大きな材料は、個別補償のやり方だろう。マニフェスト通りに、資源管理を前提とした補償制度をつくるのか、それとも、乱獲を野放しにしたまま、一律に機械的にばらまくのか。今後の推移を注意深く見守りたい。

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