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食の安全 Archive

TPPが日本の水産業に与える影響について


「TPPで日本の水産業にどういう影響がありますか?」と質問される機会が多いので、私見を書いておきます。結論から言うと、「日本に安い輸入魚が殺到して、魚の値段が下がって、国内の水産業が衰退する」というような事態は起こりません。その理由は以下の通りです。

1)水産物の関税はすでに低い

現在の水産の関税は3.5%~7%程度です(http://www.customs.go.jp/tariff/2013_4/data/i201304j_03.htm)。日本の水産物はもともと輸出産業だったので、外から魚が入ってくることは想定しておらず、関税が低く設定されています。何百%という関税で守られている農業とは、そもそも現状が違うのです。
日本が外国から魚を買うときに問題になるのは、関税よりもむしろ為替です。円・ドルのレートは2007年に1USDが120円だったのが、2012年には1USDが80円まで円高になりました。日本から見れば、北米の魚は3割安で買えるようになったのです。それで水産物の輸入が増えたかというとほぼ横ばい。それなのに、関税を無くしたとたんに、山ほど輸入魚が入ってくるというのは、あり得ない話です。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h23_h/trend/1/t1_2_1_3.html

2)購買力が低下した日本は、水産物争奪戦に負けつつある

近年は世界的な魚価の値上がりによって、日本の水産物の輸入量が減少しています。ここ数年は、空前の円高によって、首のかわ一枚でつながっている状況。世界規模での水産物争奪戦が繰り広げられているのに、日本は蚊帳の外なのです。バブル期ならいざ知らず、購買力が低下した今の日本に、世界の水産物が集まるようなことは、あり得ません。
実際に、水産の貿易に携わっている人と話をすると、「TPPで安い魚が日本にどんどん入ってくることはあり得ない」ということで意見が一致しています。誰が書いたかしりませんが、こちらの回答がわかりやすいです。私もほぼ同感。
http://oshiete.goo.ne.jp/qa/6325459.html

 

「TPPで日本の水産業が大打撃」という主張の根拠

「TPPで日本の水産業が壊滅的な打撃を受ける」と主張するひとが、良く引用するのが次の資料です。

農水省の括的経済連携に関する資料
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/renkei/fta_kanren/pdf/rinsui_hinmoku.pdf

「関税を撤廃したときに国内産業がうける影響を積み上げていくと、4200億円になる」という内容ですが、輸入先がTPP加盟国に限定されていないので、この試算をもって「TPPの影響」とするのは妥当ではありません。残念ながら、この4200億円をTPPの影響試算として使った人は、少なくありません。これとか、これとか、これとか。

農水省は、TPP加盟国に絞った影響試算結果を今年の3月に発表しました。

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2013/3/130315_nourinsuisan-2.pdf

平成22年11月に公表した全世界を対象に関税撤廃した試算では、農林水産物の生産減少額を4.5兆円程度と試算。これと同じ方法で、TPP交渉参加11ヶ国に対して関税を撤廃した場合の農林水産物の生産減少額は、3.4兆円程度となるようです。水産分野はこんな感じ。

どう変わったかを見てみましょう。まず、サバのところから、ノルウェーという文字が無くなりました(ノルウェーはTPPと無関係)。TPP加盟国から輸入実績が無い品目については、ゼロになりました。そして、TPP加盟国から輸入実績が少しでもあるものは、一律9割になりました。

微々たる関税を無くしたら、国内のシェアが3割~6割も奪われるというのも凄い話ですが、現在のシェアに関わらず、つまり、関税を撤廃したときに入ってくる水産物のシェアは、TPP加盟国が9割というのも無茶苦茶です。

サバについて見てみましょう。TPPによる生産量減少率が30%というと、約15万㌧程度ですね。ノルウェーのサバは大量に入ってきていますが、TPP加盟国で輸入実績があるのは、カナダのみ。それも日本のサバ輸入量全体の1%にも満たない水準です。そもそも、2007年から30%以上円高になっても、ほとんど入ってこなかったカナダのサバが、TPPによって大量に輸入されるようになるとは思えません。2012年のカナダのサバの輸出量は、全体で2000㌧弱(http://www.dfo-mpo.gc.ca/stats/trade-commerce/can/export/xsps12-eng.htm)ですから、日本の巻き網の1回の水揚げぐらい。漁業の規模自体が小さいのです。

さらに、理解不能なのが「いわし」です。これはおそらくマイワシだと思うのですが、日本のマイワシの生産金額(2001-2010平均)は80億円程度なのに、どうやって230億円の生産減少になるでしょうか。マイワシの冷凍設備をもっているのは米国とメキシコぐらい。現在の輸入実績は、3600㌧、3.6億円です。、2000年前後にマイワシの国内の漁獲生産はほぼ途絶えた状態ですら、ほとんど輸入されてこなかったマイワシが、今後も入ってくる可能性は低いでしょう。

私の目から見ると、この試算は、あまりにもお粗末です。「相手国の資源も産業も考慮せず、とにかく数字を膨らませました」という印象ですね。

TPPが漁業者に与える影響は軽微と思います。では、TPPが水産分野に影響が無いというと、そうではありません。TPPに関する、俺の最大の懸念は、食の安全です。TPP参加国が、日本では許可されていない薬物を利用して養殖をしているケースがあります。該当国で利用許可がでているなら、輸入を禁じることはできません。「TPPの枠組みの中で、どうやって消費者の食の安全をどう守るのか」というのがTPPを進める上で重要な論点なのですが、そっちの議論はほどんど見かけません。

結論

  • TPPでも水産物の輸入はそれほど増えないし、価格も安くならない(生産者のデメリットも、消費者のメリットも、あまりない)
  • 食の安全、特に養殖物の安全性をどの様に担保していくかが重要な課題 (食の安全について、ちゃんとの議論すべき)

食品の基準値の見直しについて


厚生労働省は、食品の放射能の暫定基準値を見直すようだ。新聞記事で新しい方針についての記述があった。

食品の放射能規制:新基準、海外より厳しく 現行の値「緩い」は誤解 改定後はより子供に配慮

Q 新しい規制値はどうなるのですか。
A 年間被ばく限度が5ミリシーベルトではなく、1ミリシーベルトに決められます。その根拠として、小宮山洋子厚労相はコーデックス委員会の1ミリシーベルトを挙げています。規制値は間違いなく、いま以上に厳しくなります。

Q 新たな規制値の特徴は?
A 規制対象の食品区分が▽飲料水▽牛乳▽一般食品▽乳児用食品の四つになります。被ばく限度の評価にあたっては、年齢層を「1歳未満」「1~6歳」「7~12歳」「13~18歳」「19歳以上」の五つに分け、その最も厳しい数値を全年齢に適用して新規制値とする方針です。さらに、乳児用食品は大人とは別の規制値を設けます。食品安全委員会の「子供はより影響を受けやすい」という答申に従ったものです。新規制値が今の5分の1~10分の1ほどになれば、世界でも相当に厳しい規制値となります。

http://mainichi.jp/life/food/news/20111219ddm013100039000c.html

良い機会なので、食品の基準値についての私見をまとめてみよう。

Continue reading

文科省の福島沖(30km)の海洋調査の結果がでました


文科省の福島沖の海水の調査結果が出ました。

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/03/24/1304149_0324.pdf

調査は、沖合30kmの8定点で行われ、それぞれ次のような値が出ています。

ヨウ素-131

今回計測された放射性ヨウ素-131は、24.9-76.8Bq/Lでした。国の排水の安全基準値40Bq/Lより高い値が3点で観測されました。東京の金町浄水場のヨウ素が210Bq/kgですから、半分以下の水準です。東電が計測した排水口付近の値は、5066Bq/Lですから、二桁ほど薄まっています。また、ヨウ素-131は半減期が8日と短いので、この程度の濃度で推移するならば、大規模、長期的な汚染の心配はなさそうです。

セシウム-137

福島沖30kmの8定点のセシウムは11.2-24.1Bq/Lでした。国の安全基準(90Bq/L)を大きく下回っています。こちらも東電が計測した排水口付近の値(1484Bq/L)よりも二桁ほど値が小さくなっています。半減期が30年と長いセシウム137の値が基準値以下に希釈されていることは、朗報と言えるでしょう。

今回の調査結果は、ドイツのチューネン研究所の「福島から、海洋に入った放射性物質は、短い期間で検出できないレベルに希釈される」という予想に合致します。沖合に流出する放射性物質の濃度が、現在の水準にとどまれば、外洋に長期的な汚染をもたらすことはなさそうです。1回の調査で、判断を下すのは早計ですから、今後の経過を注意深く見守りたいとおもいます。

チェルノブイリ事故の魚類への影響


Chernobyl’s Legacy: Health, Environmental and Socio-Economic Impacts

IAEAのチェルノブイリの環境影響評価のレポートの中から、魚類に関係する部分のみを和訳(P26-27)しました。

水圏生態系はどの程度汚染されたか?(How contaminated are the aquatic systems?)

チェルノブイリ由来の放射性物質によって、原発付近、および、ヨーロッパの多くの場所で、表層水の放射能レベルが上昇した。初期の上昇は、川や湖の表層への、放射性核種の直接的な堆積によるもので、短命の核種(ヨウ素131)が主であった。事故後、数週間の間の、キエフ貯水池の高い放射能レベルの飲料水が懸念材料である。

数週間後には、希釈、物理崩壊、貯水池の土壌への吸収によって、水中の放射能レベルは、急激に減少した。底質層は、放射性物質の重要な長期的な貯蔵庫である。

魚類の放射性核種の摂取は、非常に早かった。しかし、物理崩壊によって、放射能活性はすぐに減少した。最も影響を受けた領域、および、スカンジナビアやドイツのような遠くの湖で、水中の食物連鎖によるセシウム137の生物濃縮が、有意な放射性物質の濃縮をもたらした。降下量が少なかったことと、生物濃縮が低いことから、魚類のストロンチウム90のレベルは、セシウム137と比較して人体への影響は軽微であった。ストロンチウム90が食用になる筋肉ではなく、骨に集積することも理由の一つだろう。

長期的には、寿命が長いセシウム137とストロンチウム90の土壌からの流出が、今日まで続いている(以前よりもかなり低い水準)。今日では、表層水、および、魚類の放射性物質の密度は低い(p26の図6を参照)。それにより、表層水による灌漑が、害悪を及ぼすとは考えられていない。

川や開放形の河川や貯水池での、セシウム137とストロンチウム90の密度は現在は低いものの、ベラルーシ、ロシア、ウクライナの外部への流出がない「閉鎖的」な湖のいくつかでは、数十年経過した現在も、セシウム137で汚染されたままである。たとえば、閉鎖的なロシアのKozhanovskoe湖の隣に住む人々の、セシウム137の摂取は、主に魚類の消費によるものである。

黒海およびバルト海は、チェルノブイリから遠く離れていることと、これらの系の希釈によって、海水の放射性物質の濃度は、淡水系よりも大分低い。水中の放射性核種のレベルが低い上に、海洋生物相でのセシウム137の生物濃縮が低いため、海産魚のセシウム137を気にする必要は無い。

福島の汚染された海水はどこに行く?


11:32に追加情報があります。13:24にさらに追加をしました。最後まで、目を通して下さい。

最終的な影響は、大規模なモニタリング調査をしないとわかりません。このページは私個人が現時点までに知り得た情報をまとめたものであり、政府がしっかりとした調査結果を公開するまでの参考程度でお願いします。

原発近くの海水から放射性物質が検出されました。

福島原発近く海水から放射性物質 最大で基準の126倍
東日本大震災で被害を受けた福島第一原発近くの海水から、最大で安全基準の126倍にあたる濃度の放射性物質が検出されたことを、東京電力が22日未明の記者会見で明らかにした。漁業への影響などを評価するため、今後も調査を続けるという。

東電によると、21日午後2時半に放水口付近で0.5リットルの海水を採取して調べたところ、ヨウ素131が原子炉等規制法が定める基準の126.7倍、検出された。この水を1年間、毎日飲み続けると、一般人の年間限度の126.7倍にあたる放射線を被曝(ひばく)することになる。このほかセシウム134が基準の24.8倍、セシウム137が16.5倍検出された。
http://www.asahi.com/national/update/0322/TKY201103210384.html

まず重要な点は、サンプルが放水口付近(南100m)ということです。今まさに漏れ出てくる放射性物質を風下で計測しているような状態でしょう。周辺の海水を代表できる値ではないということに注意が必要です。

つぎに、この放射性物質を含んだ海水が、どこに行くかを考えてみましょう。

3/15-3/21の平均海水温の衛星写真です(NOAA1週間合成)。黄緑の領域が黒潮系の海水、青の部分が親潮系の海水です。両者は温度が違うので、混ざりません。犬吠沖で親潮と黒潮がぶつかり、蛇行しながら外に流れていく様子がわかります。福島の原発付近の海水は親潮系で、きわめて流れが速い場所ですので、北に行くことはありませんこのあたりの流れは複雑で、北東方面(三陸沖)に抜ける場合もあるようです(3/25訂正)。親潮にのれば急速に南下し、黒潮にぶつかって、アリューシャン方面に抜けていきます。

福島沖は、親潮と黒潮がぶつかって、太平洋に流れ出す、水道のじゃ口のようなところです。放射性物質が、海底に固定されずに、海水と一緒に流れていけば、福島→犬吠沖→アリューシャンという経路で日本から遠ざかります。流れていく過程で放射性物質の粒子は北太平洋全域に素早く希釈されると思われます。

広く希釈されるというのは、長期的に見た話。実際には、局地的な流れがあるので、短期的には注意が必要との指摘もあります。温度が異なる排水が、水塊を形成したばあいには、放射性物質の密度が局所的に維持されることも考えられます。いずれにしても福島近辺、および、下流に当たる海域では、しばらくは注意が必要です。

ウンコがベルトコンベアーにのって運ばれている状況をイメージしてください。ウンコのにおいが広がるよりも早く、ベルトコンベアーが流れていけば、強い臭いは残りませんよね?ウンコのにおいは、ベルトコンベアー周辺に広く薄く分布するはずです。

逆に言うと、今回の放射性物質の漏洩は、北太平洋全域に広く影響を及ぼすことになるのですが、そこまで広がってしまえば影響は軽微です。排水口付近で基準値の24倍ですから、太平洋全域に薄まれば無視できる水準になります。現状では福島原発から流出した放射性物質の量がわかっていませんが、今回の事故で、太平洋の魚が汚染で食べられなくなると言う話ではなさそうです。

以上は、放射性物質が海流とともに流れて大規模に拡散するシナリオです。微粒子など混濁体に付着して、沿岸流に一定期間漂うケースや、海底に付着して流されないで残るケースも考えられます。こういった局所的な汚染がどの程度残るかは現段階ではわかりません。局所的な汚染については、沿岸砂州と砂浜のモニタリングで状況を把握することになるでしょう。福島から犬吠崎までは、今後の環境モニタリングが重要になります。

11:32追加情報

先ほど、ツイッターにて、2009年に大型クラゲが犬吠崎をこえて移動したことを教えていただきました。@mtoyokawさん、ありがとうございます。

下の図は、2009年の大型クラゲの出現時期と移動経路を示したものです。

http://www.fra.affrc.go.jp/kurage/h21/h21kurage.pdf

9/30に福島沖で観察されたクラゲは、2ヶ月後には和歌山まで達しています。10 月に関東近海で黒潮が離岸していたために(黒潮は移動するのです)、千葉まで輸送された大型クラゲは黒潮内側域にまで拡がり、神奈川・静岡で大量出現となったそうです。このクラゲは全て黄海から流れてきたものであり、黒潮系に進入した後で増えたわけではありません。放射性物質の多くは外洋に流れ出るとは思いますが、海洋条件次第では、クラゲと同様に、沿岸流によって、南下する可能性はあります。黒潮系(犬吠崎以南)は、親潮系と比較すればリスクが低いとはいえ、手放しで安心を出来る状況ではありません。数ヶ月の間は、モニタリング結果に注意をする必要があります。

13:24 追加情報

クラゲが犬吠崎を越えた2009年の9月22-30日の海流の図です。黒潮が大きく離岸して、親潮系の水が千葉沿岸を南下しています。2009年の秋には、この青の矢印の海流に乗って、クラゲが南下したと思われます。黒潮がこの状態なら、沿岸を伝って串本(和歌山県)まで、クラゲが漂流するのもうなずけます。


(ソース:海上保安庁 海洋速報海流図)http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/2009cal/cu0/qboc2009183cu0.html

2011年3月10-17日の黒潮は次のようになっています。幸いなことに、外房にかなり接近しています(ラッキー!)。放射性物質の流入が収まるまで、このまま黒潮が外房沿岸近くを流れてくれれば、福島の水が大量に南下することはなさそうです。


(ソース:海上保安庁 海洋速報海流図)http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/2011cal/cu0/qboc2011052cu0.html

黒潮は動くときは数日で動くので、今後も注意が必要です。最新の情報は海上保安庁海洋情報部で確認できます。最近の海流の変化のアニメーションがわかりやすいです。

最終的な影響は、大規模なモニタリング調査をしないとわかりません。このページは私個人が現時点までに知り得た情報をまとめたものであり、政府がしっかりとした調査結果を公開するまでの参考程度でお願いします。

ドイツの研究所が、「福島原発から、海に入った放射性物質は、短い期間で、検出できないレベルに希釈される」と考察


4/2追記 このドイツの研究機関の分析は、放射性物質の漏洩が短期小規模で終わるという日本政府の初期の発表に基づいています。現在は状況が大きく変わったことを留意した上で、読んでください。

興味深い記事が中国のサイトに掲載されました。

「ドイツの漁業環境の放射能汚染観測を担当しているチューネン研究所はこのほど、日本の福島第一原発から漏洩した放射能は魚類などの海洋生物に長期的な汚染をもたらさないと発表しました」
http://japanese.cri.cn/881/2011/03/20/162s172309.htm<

元の記事はこちらだということをツイッターで教えてもらいました。

Japan: Zur möglichen Kontamination von Fischen und Meerwasserpflanzen
Google翻訳で、ドイツ語を英語に直したものを、私が日本語に翻訳したのが下の文章です。(2011 3/21 17:39 update)

ここ数時間、福島の原発から、大きな変化は伝わってきません。危機的な状況をコントロールしようと、努力が続けられています。現場を指揮する組織(東電)からは、これまでに放出された放射性物質の種類や量に関する情報が提供されていません。
IAEAはそのため、官庁が計測した (behördlich gemessen) 日本の放射性物質に関する情報を照会しました。それらのデータが利用可能になるまでは、一般論としては、引き続き揮発性の放射性物質が放出されることが考えられます。放射性物質としては、放射性核種を含むセシウム134(半減期2年)とセシウム137(30年の半減期)、およびヨウ素131(半減期8日)が含まれます。
消費者にとっては長寿命のセシウム同位体が問題で、ヨウ素131は数週間で検出できなくなります。
チェルノブイリ事故後25年にわたる北海とバルト海の魚の放射能データを、当研究所(the Johann Heinrich von Thünen Institute)の研究員が解析したところ、北海のような灌流の激しい海では、放射性物質は比較的素早く希釈されることがわかりました。たとえば、チェルノブイリ事故があった1986年以降、北海では、海水からも、魚からも、セシウム137の濃度が急激に薄まりました。事故の翌年には、チェルノブイリ由来のセシウムは検出不可能になりました。北海の魚と海水に現在残っているセシウム-137は、1950年代、1960年代の核兵器実験に由来する潜在的な汚染(background contamination)によるものです。ドイツの海水の計測は、連邦海事水路庁(BSH)が行っています。
これらの情報と、今まで得られた太平洋の情報を総合すると、福島の汚染された冷却水や大気から、海洋に入った放射性物質は、非常に短い期間で、検出できないレベルに希釈されると予想できます。
当研究所の科学者は、日本の状況を監視して、新しいイベントに対して、迅速に対応することができるように、万全の備えをしています。

以上です。

三瓶愼一先生(慶應義塾大学,ドイツ語学)に添削していただきました。ありがとうございます。初期の私の和訳は、この記事の下につけてありますが、やや不正確な点がありました。

中国のニュースサイトは、「日本が発表したデータに基づき」と書いていますが、これは誤りです。正しくは「現状ではデータがないので、IAEA経由で日本のデータが公開されるのを待っている」ようです。

海洋中の放射性物質は、急速に希釈されて、すぐに検出できなくなるという内容は、非常に勇気づけられるものです。また、半減期が長いセシウムの生態濃縮が気になっていたのですが、魚の中からも、すぐに検出できなくなったというのは朗報です。

生物濃縮については、コメント欄をご覧ください。

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世界漁業は成長産業 その3


主要な輸入国の輸入量は次のようになる。

Image2009081502

ここでも日本のみが減少傾向、他が増加傾向である。特に2002年以降の日本の輸入量の減少が顕著である。その理由は、輸入単価のトレンドから明らかである。

Image2009081503


不況の影響で、日本の輸出単価は1990年代中頃から下降傾向にあった。2002年に、輸入単価が上昇中の欧州に追いつかれたのである。その後は、欧州との魚の奪い合いにより、同調して単価が上がっている。2002年以降に日本の輸入単価が上昇しているのは、この価格以下なら、日本市場が要求する水準の水産物が確保できないからだ。不景気の中で、値段が上がれば、当然のことながら、量が減る。日本の輸入量の減少は、消費者の魚離れではなく、国際価格の高騰による買い負けである。水産庁は「自給率が上がった」などと、大々的に宣伝をしているが、日本が貧乏になって魚を輸入できなくなっただけである。

先日訪れたチャタム島でも、80年代は、ロブスターの9割が日本に輸出されていたが、現在は5%しか日本に行かないそうだ。

安全安心の日本の干物


おもしろい調査があったので、紹介します。
事後処理はアレだけど、調査自体はとても意義があると思います。

緑茶・塩干魚介類の表示に関する特別調査の実施結果について
http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/kansa/090520.html

19,689点の塩干魚介類の表示状況の調査を行ったところ、4,692点(23.8%に表示の欠落等の不適正な表示が確認されました。
img09072703

不適正な表示及び表示内容に疑義が認められた商品については、当該商品に表示された販売者、製造業者等に対し指導を行うとともに、不適正な表示の原因や事実確認のための調査を行いました。原料原産地の判別の結果、不適正な表示が確認された1業者に対し、指導等を行いました

不正な表示への対応:指示1件、文書54件、口頭786件

img09072704


要約すると、「1/4に不正の表示があったから、口頭注意しておいたよー」ということですね。こんな中途半端な処分では、消費者の不信感を増大させるだけでしょう。消費者の食の安全と、適正な表示をしていた76.2%の業者を守るためにも、不正表示業者のリストを公開すべきだろう。

食品のリスクのいろいろ


食品のリスクといっても、いろんな種類のものがある。
たとえば、添加物による健康のリスク、賞味期限に達しても売れ残るリスクなど、いろいろだ。
この手のリスクは、トレードオフになっていたりする。
例えば、食品添加物には、食品が腐敗するというリスクを減らす効果がある一方で、
摂取することによる潜在的な健康リスクが存在する。
これらのリスクはトレードオフであり、それぞれの割合を決めるのが添加物の量だ。
Image200801243.png

リスクには目に見えるものと、目に見えないものがある。
食品が腐敗していた場合、消費者にはすぐにわかるし、責任問題に発展する。
一方、潜在的な健康リスクを実証するのは困難であり、責任を問われることはないだろう。
製造者にとっては、消費者の健康リスクよりも、
自らが責任を負う腐敗のリスクを避けることが重要になるので、
食品添加物を山盛りにするだろう。
目に見える腐敗のリスクを減らす代償として、目に見えない健康リスクが増えていく。
厳密な表示制度がなければ、見えるリスクが見えないリスクに置き換えられている。
結果として、消費者は多くのリスクがある食品を食べる羽目になる。

消費者による食品リスク管理を進める上で重要なことは、
1)現存するリスクの種類を明らかにすること
2)それぞれのリスクを評価する手法を確立し、表示を徹底すること

食の安全保障のあり方を再考する


食の安全を考える際に重要なことは、リスク論であろう。
安全とはリスクであり、いくらコストをかけてもリスクは0%にはできない。
リスクをどこまで許容するかというのは消費者の価値観の問題であり、
行政や専門家が決めることではない。
リスクと値段のバランスを考慮して、
安全に対してどこまでコストをかけるかを決定するのは消費者である。
行政の役割はリスクを評価するための表示を徹底することであり、
専門家の役割は表示からリスクを評価できるように情報を整備することだろう。
判断は消費者の自己責任であり、行政と専門家はそれをサポートする。
これが正しい食品リスク管理のあり方だと思う。

Image200801244.png

しかし、日本の現状は、これとはまったく違う。
日本では、行政が一意的な安全基準を決定する。
消費者に変わって、行政が許容リスクを決定しているのである。
一方、消費者は店に並んでいるものはゼロリスクだと勝手に考えて思考停止する。
リスク管理を行政に丸投げして、ゼロリスクを要求しているのである。
そもそも無茶な要求をして、何かあると文句ばかり言うのだから、行政も大変だ。
Image200801241.png
日本の消費者にリスクという感覚はない。
店に並んでいるものは100%安全であるべきだと信じている。
だから、値段だけ見て買い物をして、何かあるたびにヒステリックに反応する。
まさに、だだっ子だ。

「食の安全が揺らいでいる」というのは、
消費者が「ゼロリスクではない」と気づき始めた良い兆候である。
今まで日本の消費者が持っていた根拠のない安心感の方が異常なのだ。
公的機関が安全宣言をしたり、運が悪い企業に見せしめ的に厳しい処罰をしても、
ゼロリスク信仰を取り戻すのは不可能だろう。
むしろ、これを良い機会と捉えて、ゼロリスクは無理ということを教育しながら、
食品のリスク管理を本来のあり方に徐々に戻していくべきだと思う。
行政と専門家は、消費者の代わりに何が安全で何が危険かを決めるのではなく、
消費者自身がリスクを判断するためのサポートに徹するべきである。

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