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コッド(北大西洋) Archive
ヨーロッパのタラ資源 その4 アイスランド
- 2008-09-06 (土)
- コッド(北大西洋)
アイスランドのタラ資源も歴史的に見て低水準である。
ただ、ITQに移行した80年代以降、25年にわたり資源量が安定している。
資源の減少傾向に歯止めをかけたという意味では、資源管理の効果はあったのだろう。
漁獲量はこんな感じで微減傾向。
現在の水準より、もう少し漁獲量を減らすと、資源が回復するのだろう。
赤枠がICESがアドバイスした漁獲量、緑枠が合意されたTAC、青枠が実際の漁獲量。
科学者のアドバイスを遵守する方向で、TACを設定している。
資源をよりよい状態にするために、07/08シーズンからぐんぐんと漁獲枠を絞っている。
資源が低水準ながらも安定している状況で、漁獲枠の引き締めが実施に移されるのだろうか。
海洋研究所(Marine Reserch Institute)は、資源の動向にかかわらず、
向こう4~5年は漁獲枠を増やさないという方針を明らかにしている。
歴史的な低水準の資源を回復させようという考えだろう。
資源が目に見えて減っていない、むしろ、増加傾向にもかかわらず、
漁獲枠の厳しく削減しようとする科学者に対して、
アイスランドの漁業者からは不満の声が上がっている。
これは漁業者の立場に立てば、わからない話ではない。
現在の水準を妥当と見るかどうかは、難しい判断である。
俺としては、20年以上資源量を維持してきたのだから、
今までの漁獲枠20万トン程度を維持しながら、
卓越年級群が発生したら、それを資源回復に回すぐらいでも良いと思う。
絶好調だったアイスランド経済にもかげりが出てきている。
アイスランドにとって、タラ漁業は外貨を稼ぐ主要な産業であることから、
社会経済的な考慮から、漁獲枠が拡大される可能性はあるだろう。
また、ITQ制度自体を見直すような動きも出ているようであり、
今後も引き続き情報を集めていく必要があるだろう。
野党は、政府が選挙対策で漁獲枠を抑えていると見ているようである。
あらかじめ漁獲を過小に設定しておき、
選挙前に漁獲枠を引き上げて、人気取りをするつもりだと言うのだ。
選挙対策に関しては、事の真偽は不明だが、
資源回復をしながら選挙対策をしようというアイスランド政治家は、
乱獲を続けるために税金をばらまく政治家よりは良心的だろう。
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ヨーロッパのタラ資源 その3 北東大西洋系群(ノルウェー、ロシア)
- 2008-09-04 (木)
- コッド(北大西洋)
北東大西洋系群は、下の図の(せ)に相当する。
ノルウェーとロシアにまたがって分布する、
規模が大きく、安定した漁獲が期待できる数少ない資源である。
産卵親魚はこんな感じで推移してきた。
第二次世界大戦が終わると、漁船漁業が拡大し、資源が枯渇。
その後も長期低迷をしていたが、1970年代後半から、ノルウェーが資源管理に本腰を入れる。
しばらくは卵の生残率が低く、中々資源は回復しなかった。
80年代に、資源が再び減少傾向に入ったことから、厳しい漁獲制限を実施。
時を同じくして、卵の生残率が高い「当たり年」がきて、一気に資源が回復した。
その後も、漁獲圧を増やさぬように規制を行い、資源の安定利用を心がけている。
Blimは、Blimitの略で、これを下回ったら乱獲状態を定義する資源量。
Bpaは、予防的措置として、維持すべき資源量。
この資源は、Bpaを上回っているので、資源評価の不確実性を考慮しても安全だと考えられている。
ICESも資源評価において、”生物の生産力を最大に利用できる親魚水準(Fully reproductive capacity)”と考えている。
漁獲圧はこんな感じ。
80年代に資源が回復した後も、漁獲圧を増やさないように細心の注意を払っている。
漁獲圧はやや高めであり、予防的措置をとるなら、Fpaまでさらなる削減が望ましい。
ICESの研究者は、持続性の観点から、その資源をどこまで利用して良いかをアドバイスする。
とりかたを決めれば、漁獲量は自動的に計算できる。
赤で囲んだ部分が、ICESのアドバイスに従った場合の漁獲量をしめす。
このアドバイスは生物の持続性を考えた場合の上限の漁獲量であり、
これを上回るのは問題だが、下回る分には何の問題もない。
緑で囲んだ部分は、実際に合意されたTACである。
青が実際の漁獲量の推定値である。
ここには、報告されない水揚げ(報告漏れ、混獲死亡など)の推定値も含まれている。
2000年にバイオマスが予防的原則から維持すべき水準(Bpa)を下回ると、
科学者は漁獲枠の75%削減という厳しい提言をした。
この削減案は、結局採用されず、漁獲枠の20%削減にとどまった。
現在は再びBpaを上回っているが、沿岸漁業の混獲などを考慮し、
引き続き漁獲枠を控えめに設定し続けているようである。
40万トンは欲しい漁業者と、持続性の観点からより漁獲圧を減らしたい科学者のせめぎ合いが見て取れる。
資源としては健全な状態であり、漁業も現状維持できるかどうかというレベルであるが、
こうしてせめぎ合うことで、漁業が良い状態に維持されているのだ。
日本だったら間違いなくTACを漁業者の言い値で高く設定し、資源を再び枯渇させただろう。
ことごとく資源管理に失敗している大西洋のタラの中で、
この系群が例外的に持続的に利用できているのは、ノルウェーの存在が大きい。
漁獲量が多いノルウェーが「俺も漁獲量を減らすから、おまえらも減らしてくれ」と言えば、
ロシアも従わざるを得ないだろう。
率先して、資源管理のイニシアチブをとっていくことが、漁業大国の責任であり、
その責任を果たしているノルウェー人は立派だと思う。
そして、資源管理の責任を果たすことが、資源の維持や漁業の持続的発展につながり、
結局は、自分たちに利益が戻ってくるのである。
因果応報とはこのことだ。
俺は、日本が、東アジアにおけるノルウェーの役割を果たすべきだと思う。
それが、漁業国日本の責任であり、結局は、日本および日本の漁業者のためなのだ。
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ヨーロッパのタラ資源 その2 北海編
- 2008-09-03 (水)
- コッド(北大西洋)
鱈は歴史的に利用されてきた資源だけに、既得権が絡み合い、資源管理が非常に難しい。
世界でもっとも有名な資源崩壊はグランドバンクの鱈であり、
現在、もっとも心配されている資源が北海の鱈だろう。
資源評価はここにある。これを参考に資源と漁業の現状を見てみよう。
資源は減少中で、かなり末期的。
漁獲圧も減少中だが、もう一がんばりしないと駄目だろう。
1996ー2000年までは、ICESのアドバイス通りの漁獲を行ってきたが、
資源の減少に歯止めがかからず、2001年からICESが禁漁を勧告。
いきなりTACをゼロにはできないが、翌年にはTACをほぼ半減、
その後もTACの削減を続けている。
漁獲枠は守られており、TAC制度はそれなりに機能していると言えるだろう。
各国の漁獲量はこんな感じで推移している。
狭い北海に、ごちゃごちゃと多くの船が出て行っている。
こういう状況では、なかなか合意形成は難しいだろう。
厳しい状況で各国とも、努力をして漁獲量を減らしているのが見て取れる。
漁獲枠が多いUKとデンマークのリーダーシップに期待をしたい。
今後の展望なんだが、2005年産まれが卓越年級であり、
成魚の自然死亡も低くなっているようなので、とりあえずは何とかなりそうだ。
しかし、ICESは強硬な姿勢を崩していない。
North Sea cod population recovering, scientists say
資源は増加しているが、さらなる回復を目指して、鱈の漁獲量を2006年の半分以下に下げることを研究者は勧告した。
ところが、EUは漁獲枠を11%も増やしてしまったので、非難囂々です。
NewScientist Environment: North Sea cod quotas raised against scientific advice
BBC: Minister criticised on cod quotas
Guardian: Increased cod quotas ‘disastrous’, campaigners warn
WWF: No justice, chance for cod recovery is lost
確かに、資源管理はうまくいっていないのだけど、日本と比べればずいぶんマシだと思う。
1) (TAC自体が過剰という問題はあるが、)TACが守られている
2) 研究者が漁獲枠の削減の必要性について、責任ある提言をしている
3) マスメディアによって、乱獲の問題が社会に伝えられている
4) EU各国は減船に取り組んでいる
研究者がしっかりとしているから、社会が乱獲の問題を正しく認識している。
科学者の勧告を無視していることにたいして、非難にさらされているし、
それに対して、政治家も見苦しいわけはしてない。
EUも、過剰努力量の解消の必要性を認めており、
EUの燃油高騰対策補助金の多くは、減船に費やされるだろう。
直接補償をして、税金で乱獲を助長する日本のような無茶は、欧州では通らない。
徐々にではあるが、良い方向に向かっていると思う。
ただ、資源は予断を許さない状況であり、間に合うかどうかは微妙なところだ。
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ヨーロッパのタラ資源 その1
- 2008-09-03 (水)
- コッド(北大西洋)
ヨーロッパのタラ(cod)のことを調べてと頼まれて、調べてみた。
忙しいのに、せっかく調べたのだから、資料として残しておこう。
と思ったら、予想以上に時間がかかっている。
まずい・・・
タラは、北大西洋に広く分布している。
実はタラの分布は、バイキングが広がっていった道筋でもある。
大航海時代以前には、食べ物の問題で長期航海ができなかった。
タラは、塩干しすると、非常に良質な保存食になるため、
当時の船は、タラがいる場所を伝って、北米まで行ったのだ。
というようなことが、この本に書いてある。これおもしろいよ。
飛鳥新社
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鱈を窓にして読む西欧近代史
お腹が減りました・・
単なる魚の本ではない
その鱈はICESでは次のように細分化をして、資源評価・漁獲枠の勧告を行っている。
あ:グランドバンク
い:Greenland ICES Subarea XIV and NAFO Sub-area I
う:Icelandic Division Va
え:Faroe Plateau Cod (Subdivision Vb1)
お:Faroe Bank (Subdivision Vb2)
か:Division VIa (West of Scotland)
き:Division Vib (Rockall)
く:Division VIIa (Irish Sea)
け:Divisions VIIe-k
こ:Subarea IV (North Sea), Division VIId (Eastern Channel) and Division IIIa (Skagerrak)
さ:Subdivisions 22-24
し:Subdivisions 25-32
す:the Kattegat
せ:North-East Arctic cod
そ:Norwegian Coastal Cod (Subareas I and II)
それぞれの資源評価はこちら
資源として大きかったのは、あ(グランドバンク)と北海(こ)だ。
グランドバンクは乱獲で1991年に資源が崩壊し今も復活していない。
北海も資源が枯渇中で、かなりやばい状態。ICESとしては禁漁の勧告をしている。
それ以外のちまちました資源も、たいてい、悪い。
現在も、安定して漁獲を続けているのは、アイスランド(う)、
北東大西洋(せ、ノルウェー、ロシア)ぐらいだろうか。
上の図からも、EU,北米の漁獲が減少しているのに対し、
ノルウェー、アイスランドの漁獲量が安定していることが読み取れる。
ITQをいち早く導入したアイスランドとノルウェーのみが、安定した水揚げを続けている。
北海や北米では、多国の既得権が絡み合い、交渉は決別し、有効な手だてが打てなかった。
オリンピック制度の下では、漁業者は常により多くの漁獲枠を求める。
政治家は漁業者の票を得るために、漁獲枠を増やすように働きかける。
国際間交渉では、どの国もより多くの漁獲枠を主張し、決別。
結果として、過剰な漁獲枠が設定され、資源は枯渇し、産業自体は滅んでしまう。
漁業者は、漁獲枠拡張のために政治力をつかい、結果として、失業するのである。
その結果を、社会全体が被らされているというのが、ヨーロッパの現状だろう。
次回以降、管理に失敗している北海と、
それなりに成功をしているアイスランドとノルウェーの現状について、まとめてみよう。
(つづく)
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