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マイワシ Archive

マイワシも輸入の時代です


この前、釧路に行ったんですよ。フライトの時間が迫っていたから、帰りに空港でお弁当を買ったのだ。

ほっかぶり寿司

味は、ふつうに美味しかったんだが、表示を見てびっくり。
ついに、イワシも輸入ですか!!オレゴンあたりのイワシでしょうか。

img09110502

超低水準のマイワシを、未成熟なうちに、獲れるだけ、獲っているから、食用サイズをまともに供給できない。安定生産が不可欠な加工業者は、海外から魚を買わざるを得ない。結果として、単価が高い市場は、全部外の魚に獲られてしまう。それで、「魚価が安い」とか、言ってるんだから、へそが茶を沸かすよ。img09110503

2歳で成熟する魚を、0歳と1歳で7割漁獲とか言って、終わってるんですけど。こんな獲り方をしておいて、なにが「レジームシフト」だよ。どうみても乱獲じゃないか。しかも、水産庁が中期的管理方針だとか訳解らんものを持ち出して、来年のABCを増やしているんだからつける薬がない。

平成19年度のマイワシのTAC超過について


こんどは、マイワシがTACを超過しましたね。こんどは、知事許可(沿岸)が枠をオーバーということです。では、どの県がどうやってオーバーしたかを見ていきましょう。TAC魚種の漁獲実績はここにあります。
http://www.jafic.or.jp/tac/index.html

まず、去年の4月にTACと漁獲量の推移を見ていこう。6月に期中改定で、TACが35千トンから、60千トンに増枠された。最終的な配分は、大臣許可43千トン、 知事許可17千トンである。大臣許可は、最後までTACに達しなかった。一方、知事許可は8月の段階で、配分枠を使い切っていたのである。その後も順調に漁獲を続けて、10月に7千トン獲ったのが大きかった。12月の値は暫定値であり、ここから2~3千トンは増えるだろう。 最終的には、200%近くなるだろう。

TACと漁獲量

TAC
7月
8月
9月
10月
11月
12月
合計 60000 45172 51308 53568 61914 65710 66361
大臣 43000 30747 33662 34227 35801 36005 36658
知事 17000 14425 17646 19341 26113 29705 29703

TACの消化率

7月
8月
9月
10月
11月
12月
大臣
72%
78%
80%
83%
84%
85%
知事
85%
104%
114%
154%
175%
175%

 

では、県ごとに見ていこう。県別漁獲量の上位は西の県が占めている。これは例年通りである。

19年度漁獲量
1 高知県 5414
2 宮崎県 5135
3 長崎県 5042
4 島根県 3446
5 三重県 2327
6 鹿児島県 1984
7 和歌山県 935
8 神奈川県 776
9 石川県 690
10 愛知県 660

 

知事許可としてはTAC枠に達した9月以降の漁獲量をみると、こんな感じ。高知、島根は殆どが9月以降ということになる。

TAC超過後の漁獲量(t)
1 高知県 4485.1
2 島根県 2122.9
3 長崎県 1713.5
4 鹿児島県 1011
5 三重県 968

 

平成19年12月と平成18年12月の報告漁獲量を比較してみよう。漁獲量の差が大きいのは九州・四国であった。長崎、鹿児島が突出していることがわかる。去年は殆ど獲れていなかった長崎での高い漁獲量は、対馬暖流系群の卓越年級群の発生を示唆する。漁獲量としては上位の三重県は、前年比でみると減少している。

前年の漁獲量と比較(12月報告)
差(t)
1 長崎県 4855 27.0
2 鹿児島県 1914 28.4
3 島根県 1907 2.2
4 宮崎県 1860 1.6
5 高知県 1373 1.3
34 三重県 -248 0.9

TAC魚種のうちマイワシとスルメイカ以外は、大臣許可と知事許可に配分された後、知事許可分はさらに県に配分される。マイワシは、漁場形成が偏るので漁獲枠をそれぞれの県には配分していない。沿岸漁業全体の枠しかないのである。各都道府県が、前年度実績を目安に漁獲をするという通達しかない。9月以降の漁獲が多かった高知は、前年度実績をそれほど超えていない。三重に至っては、前年度実績を下回っている。目安は守っているのである。前年と比べて漁獲量が急増した長崎・鹿児島は漁獲の中心が8月以前であった。この2県と島根は9月以降の漁獲をもう少し抑えるべきだった。この前年度実績というのはあくまで目安であって、実行力は何もない。これでは、漁獲枠など無いも同然である。マイワシは資源が減少中なので、前年度実績通り獲ってたら、どんどん減る。また、今年のように少しでも資源が増えれば、枠など守られるはずがない。現在のTAC制度は、管理をしていますというポーズだけで、過剰漁獲を取り締まる気など無いのである。今回の知事許可分の超過に関しては、管理としての枠組み作りを放棄している水産庁の責任が重いだろう。

水産庁は「ウルメやカタクチを獲る中で、(マイワシが)混じる量が多かったようだ。混獲と専獲を分けるのは難しい」といつものように開き直っている。混獲だろうと専獲だろうと、資源に与える影響に代わりはないのだから、全体の漁獲量を抑えるのは当然のことである。混獲だから良いという問題ではないだろうに。こんな理屈をこねるのは、世界広しといえども、日本の水産庁と日本の漁業経済学者ぐらいだ。南アフリカは、カタクチ漁業が混獲するマイワシに対して、混獲漁獲枠を設けて資源の保全に努めている。まじめに資源管理をしている国を少しは見習って欲しいものである。混獲・専獲が問題であるならば、なおのこと地域に漁獲枠を配分しておく必要がある。予め枠が決まっていれば、混獲を含めて漁獲枠に収まるように工夫して操業をできる。混獲でどうしても獲れてしまう分を引いた残りを専獲すればよいのである。それでも混獲で獲りすぎてしまったなら、超過分は翌年のその地域の漁獲枠を減らすことで対応できる。TACを超過したマイワシの混獲をゼロには出来ないが、減らす方法は幾らでもある。日本はそういった努力をなにもしていない。管理をする側の人間が、資源管理ができない理由を並べれば、それで良いと思っているかぎり、今後も乱獲に歯止めはかからないだろう。

 漁獲量の県ごとの内訳を見ると、去年とは資源の構造が変わっていることが示唆される。去年と比較して漁獲量が増えた県を黄色、減った県を青で示すと下のようになる。

 image08020505.png

今年の10月以降の漁獲増は、産卵場の周辺で0歳魚の漁獲が増えたためだ。太平洋系群、対馬暖流系群ともに卓越が発生したようである。ただ、卓越といっても現在の低水準では簡単に獲り切れてしまう水準である。この年級群を確実に産卵につなげていくことが、マイワシ資源にとって死活問題だ。07年級群は、この後、東に摂餌回遊を行い、来年、産卵場に戻ってくる。どうせ、北巻は獲って、獲って、獲りまくるだろう。水産庁は北巻の乱獲を抑制するどころか、少しでも多く獲れるように最大限の援護射撃をするだろう。この年級群が再生産に結びつくかどうかは、東への回遊しだいということになる。07年級群は今のところ、西に止まっている。このまま西に止まってくれれば、資源回復の芽はあるのだが、東に行けばそれで終わりだ。

05年、07年と親が少ないながらも、順調な加入が観察されている。これらに確実に産卵をさせれば、資源を緩やかに回復させながら、漁獲を安定させることもできるだろう。獲るなとは言わないから、せめて1年だけでも我慢して欲しい。

特集「マイワシ資源の変動と利用」


7月の水産学会誌の巻末に、特集「マイワシ資源の変動と利用」が掲載されました。
この特集は大変な難産で、企画の段階から苦労しました。
苦労した甲斐があって、良いものができました。
執筆者の皆様に、暑く御礼を申し上げます。
まだ、読んでいない方は、是非、目を通してください。

「長期的な環境変動の影響で、マイワシ獲らなくても減る」というのが通説であり、
俺も最初はその通説を鵜呑みにしていた。
データは公開されていなかったので、しょうがないんだけど。
最近になって、資源評価票が公開されるようになって、データをみてビックリ。
獲らなくてもへるどころか、生産力はかなり高いじゃないか。

マイワシは主に海洋環境との関係から、研究が進められてきた。
日本で最も研究が進んでいる資源かもしれない。
しかし、マイワシの研究において、漁業の影響は無視されてきた。
「マイワシの資源量が減っているのは、環境要因が原因である」という前提にたって、
減少を海洋環境で説明しようとしているのだ。

日本近海のマイワシは、海洋環境と漁業という2つの要因の影響を強く受けている。
2つの要因を組み合わせないと変動の全体像は見えてこないはずだ。
年間の漁獲率が50%近いのに、漁業の影響を無視して、動態を説明できるはずがない。
環境と漁業の両面からマイワシの変動を理解する必要があるだろう。
そのための最初の一歩として、この特集を企画したのです。

「第Ⅰ部.マイワシの資源動態」では、研究者にレビューを書いてもらった。

Ⅰ-1.マイワシ資源の増加過程
         黒田一紀(元東海区水研)
Ⅰ-2.マイワシ資源減少過程の2つの局面
         渡邊良朗(東大海洋研)
Ⅰ-3.気候変動からマイワシ資源変動に至る
生物過程  髙須賀明典(水研セ中央水研)
Ⅰ-4.マイワシ資源への漁獲の影響
         勝川俊雄(東大海洋研)

漁海況研究のパイオニアの黒田一紀さんに、70年代のマイワシ増加期の状況をまとめていただいた。
次に、詳細なフィールドワークで、89-91のマイワシの減少要因をつきとめた渡邊先生に当時の状況をまとめていただいた。
それから、新進気鋭の若手研究者の高須賀君に、海洋環境とマイワシの変動に関する研究を新しいところまでフォローしてもらう。
そして、俺がマイワシの資源への漁獲の影響をまとめる。

第1部を読めば、マイワシの歴史と研究の現状が俯瞰できてしまう。
実に隙のない構成だ。

「第Ⅱ部.マイワシ漁業の展望」では、
今後のマイワシ漁業および資源管理はどうあるべきかを関係者に書いてもらった。
行政、研究者、漁業団体、加工業者など、幅広い人選を心がけた。
みんなが好き勝手なことを言っていて、全くまとまっていないのが良くわかる。
かみ合わない部分も含めて、意見の多様性を楽しんでください。

まずは、資源評価票に目を通してみよう


未成魚の乱獲を辞めない限り、マサバ資源は回復しない。
漁獲統計データから別の結論を出しようがないのだ。
マサバ太平洋系群の資源評価票(http://abchan.job.affrc.go.jp/)にも、一貫してそう書かれている。

H13
1992 年と1996 年に発生した卓越年級群により30 万トン程度の漁獲をあげた年もあったが、未成魚(0、1 歳魚)の多獲により資源は回復していない。
1992年級と1996 年級を適切に管理していたならば、資源は回復していたと考えられている。

H14 ~ H17
加入量当たり漁獲量の観点からは、漁獲開始年齢を現在の0歳から1歳魚へ引き上げる必要がある。さらに、魚価や繁殖への貢献を考慮すると漁獲開始年齢を3歳とするのが望ましい。
1992年級と1996年級を適切に管理していたならば、資源は回復していたと考えられている。

資源評価のまとめ
    * 加入乱獲と成長乱獲が同時に進行している
    * 再生産関係が年代により変動する
    * 近年は卓越年級群が時折出現することから、資源回復の兆候がある
    * 資源回復が未成魚の多獲により阻まれてきた

管理方策のまとめ
    * 主要漁業であるまき網漁業を主体に未成魚の保護策を検討する
    * 2006年に産卵親魚量10万トンへの回復を目指す
    * 本系群に対する資源回復計画が2003年11月から開始されたが、効率的な実施が望まれる
    * まき網漁業はマイワシ、カタクチイワシ、カツオ・マグロ類なども漁獲するので、これらを総合した方策が必要

H18
1992年に加入量28億尾、1996年に43億尾の卓越年級群が発生したが、未成魚(0、1歳魚)の多獲によりSSBは回復しなかった。
加入量当たり漁獲量の観点からは、漁獲開始年齢を1歳へ引き上げる必要があり、さらに魚価や繁殖への貢献を考慮すると3歳が望ましい。

とまあ、資源評価票を並べてみれば、その中身は始終一貫していることがわかる。
H18年に関しては、以前よりも書きぶりが甘いように思うが、内容的には同じことだ。
未成魚の乱獲を続ければ、マサバ資源は回復しない。

どこまで自然減少説を引っ張るつもりなのか?


マイワシは自然に大変動を繰り返してきた生物であり、
減少期には漁獲が無くても減ることは間違いない。
しかし、近年のマイワシの生産力は高かったのだ。
海洋環境がマイワシに不適だったのは1988-1991の4年間のみで、
1992年以降の減少は漁業が原因である。
卵の生残率が回復してから15年の月日が流れた現在においても、
近年のマイワシ減少は自然減少であるという誤った考えが定着している。
一体、研究者は何をしていたのだろうか。

自然減少説の根拠であるWatanabe et al. (1995)は、
1988-1991年に産まれた卵が漁獲開始前に死んでいたということを示した。
この論文が発表されたのは1995年であり、1991年からは4年ほどライムラグがある。
この4年というタイムラグは論文としては小さい部類だろう。
1991年のデータが整理されてくるのが翌年ぐらい。
そのデータを元に論文を書いて投稿するまでに1年。
論文が審査を経て受理されるまでに1年。
受理されてから掲載するまでにへたをすると1年ぐらいかかる。
たった4年のタイムラグで、論文として掲載されるというのは、
時間的な無駄が非常に少なかったことを意味する。
1988-1991の減少は自然減少であるというWatanabe et al.(1995)の結論は正しいし、
タイミング的にもこれ以上早くするのは難しいだろう。
問題はその後だ。
データが蓄積して行くにつれて、
92年以降の卵生残率が回復したことはわかったはずだ。
にもかかわらず、そのことを主張する人間がいなかった。

マイワシの年表風の図を作ってみた。
は自然減少をした年(世代交代ができないぐらい卵の生き残りが悪かった年)、
は自然増加をした年(獲らなければ資源が増えた年)を示す。

sardine.png

97年の時点で、92-96の5年間の卵生残率が良かったという情報は得られていたはずだ。
資源評価の最近年は当てにならないことを差し引いても、
99年には自然減少ではなく、漁獲の影響で減少しているとわかっていたはずだ。
その時点で適切な管理を開始していれば、今とはだいぶん違うことになっていただろう。
それからさらに10年近い月日が流れているにも関わらず、
マイワシの過剰漁獲を指摘する声はほとんど無い。
どこまで自然減少説をひぱるんだっちゅーの(パイレーツは元気だろうか?) 

漁獲の影響を評価して、資源の減少要因を明らかにするのは資源研究者の役割である。
過剰漁獲を指摘しても、漁業者も水産庁もいい顔をするはずがない。
だからといって、研究者としての役割を放棄して良いというものではないだろう。
資源研究者が正確な情報をきちんと発信しないが故に、
世論も政策もミスリードされてきたのだ。
マイワシの減少に対する研究者の責任はきわめて重い。

「海洋環境がマイワシに不適」とはどういう意味か?


「近海洋環境がマイワシに不適だから、資源が低迷している」と広く信じられている。
しかし、いままで見てきたように1992年以降のマイワシの生産力は低くない。
卵の生残率も、成長も、成熟も悪くないのだ。
では、海洋環境がマイワシに不適だという根拠はどこにあるのだろう?

近年のマイワシ減少が海洋環境の変化に由来するという
最大にしておそらく唯一の根拠はWatanabe et al. (1995)だろう。
この論文は、1988-1991年に産まれた卵が漁獲開始前に死んでいたということを示した。

漁獲開始前に死んでいた→減少は漁業以外の要因→海洋環境にちがいない

というロジックが成り立つわけだ。
このロジックはわかりやすく、非常に説得力がある。
俺もこの研究の内容および結果は、妥当だと思う。
ただ、このロジックの有効範囲は、マイワシの卵の生き残りが悪い時期に限定される。
1992年以降のマイワシの卵の生き残りは良かったことは数字が如実に示している以上、
渡邊ロジックで1992年以降の海洋環境がマイワシに不適だったというのは無理だろう。

要点
海洋環境が悪いという説は、消去法によって導かれたものであり、
その消去法は1992年以降は成り立たない。

実は、どういう海洋環境がマイワシに不適であるかは特定できていない。
いろんな説はあるけれど、どの指標も資源変動を明確に説明できるわけではない。
「そういう風に言われると関連ありそうに見えないこともない・・・かなぁ?」
というレベルのものも少なくない。
そんな中で、最も関係がありそうだと言われているのがアリューシャン低気圧(NPI)である。
確かに、ここ100年ぐらいはNPIとマイワシの変動が同期しているように見える。

NPI.png

マイワシが豊漁であった1930年代、および、70年代後半から80年代前半にNPIは低い値を示している。
逆にマイワシが幻の魚と言われた60年代には高い値を示している。
さらに、加入が失敗した1988-1991年のNPIは特異的に高くなっている。
NPIが高い時にマイワシは減り、NPIが低いときにマイワシは増える傾向があるようだ。

NPIは1992年以降は低水準で推移していることに着目して欲しい。
一般に信じられているようにアリューシャン低気圧がマイワシの変動を支配しているならば、
1992年以降にマイワシは増えたはずなのだ。

要点
マイワシの変動を明確に説明できる指標は存在しない。
マイワシの変動に影響を与える最有力候補はアリューシャン低気圧である。
アリューシャン低気圧的を見る限り、1992年以降はマイワシ増加期に相当する。

調べれば調べるほど、最近の海洋環境がマイワシに不適であるという根拠が揺らいでいく。
にもかかわらず、88年以降、ずっと海洋環境条件が悪くて、
マイワシ資源が長期低迷しているという定説が広まっている。
なぜ、このように誤った考えがここまで広まってしまったのだろうか。
その原因を分析する必要があるだろう。

もしも、管理をしていたら・・・


マイワシを適切に管理していたら、今頃どうなっていたかをシミュレーションしてみよう。
ここでは例として、2004年の親魚量が1993年の水準と等しくなるような漁獲率で
資源を利用した場合を検証する。

1980年代以前の平均的な選択性で、
2004年のSSBが1993年の水準と等しくなるような漁獲圧を計算した。

年齢
0
1
2
3
4
5+

漁獲死亡係数
0.140709844
0.356948433
0.600864557
1.173329302
1.608210854
1.44768474

漁獲率
0.131258654
0.300191416
0.451662638
0.690664646
0.799754438
0.764885992

ちなみに、この漁獲死亡係数は、1980年代以前の水準よりも高い。
別に禁漁のような厳しいことをしなくても、親魚量の維持は楽勝だったのだ。

では、この年齢別漁獲率で漁獲をしていたら親魚量と漁獲量はどうなったかを計算してみよう。
管理シナリオとして、1993年から漁獲規制を行った場合と、
1999年から漁獲規制を行った場合の2通りを考えた。

sardinesim01.png

1993年から資源管理を開始した場合、
1996年の加入の成功によってSSBは1997年以降一時的に増加し、
その後元の水準(568千トン)まで戻る。
2004年の推定SSBは51千トンであり、管理をした場合の11分の1に相当する。
1999年から管理を開始した場合には、2004年のSSBは200千トンとなり、
現状の4倍の親魚量が確保できてたことになる。 

それぞれの管理シナリオでの漁獲量を計算すると次の図のようになる。

sardinesim02.png

93年から管理をした場合
漁獲量が現実を下回ったのは、管理開始初年度の1993年のみであった。
790千トン→558千トンへと、漁獲量を232千トン減少させれば、
資源の生産力と漁獲量のバランスを整えることが出来たのだ。
それ以降は、加入の経年変動で多少ふらつきつつも安定した漁獲量を確保できる。
資源管理をしていた場合、1993年から2004までの漁獲量の合計は、6044千トン。
一方、現実の漁獲量は2900千トンとなっている。
初年度に232千トン我慢していれば、その後の12年間にその10倍以上の見返りが会ったわけだ。
また、赤線のような管理をしていれば、今後も35万トン程度の漁獲量が安定して期待できたはずであり、
この差はさらに広がるだろう。

資源管理反対派は、何かというと安定供給を持ち出すのだが、
現状(黒線)と資源管理をした場合(赤線)のどちらが安定供給できるかは明らかだろう。
すでに乱獲状態にある現状の漁獲量を維持することは不可能なのだ。
より激しく乱獲をすることで一時的に漁獲量の減少率を減らすことができるかもしれないが、
その結果として将来の漁獲量の減少を加速させてしまう。
本当に安定供給をしようと思うなら、
出来るだけ早く資源の生産力に見合った水準まで漁獲量を下げるべきである。

99年から管理をした場合
管理開始してから2004年までの漁獲量は112千トンのプラスとなった。
2004年の親魚量は199千トンで現状の約4倍になる。
今後も、現在の4倍程度の漁獲量が今後も期待できることになる。
現在は資源の生産力が高いので、たった6年であっても、かなりの管理効果が得られるのだ。
逆に言うと、ここ6年の間に資源状態は更に悪化しているのだ。

結論
親魚量を維持しながら漁業を続けていくことは充分に可能であった。
しかし、過剰漁獲によって、資源は現在も激減中である。
とくに問題なのは、低年齢への漁獲圧が強まっていることだろう。
このシミュレーションでは、80年代以前の高齢魚主体の選択制を用いたが、
これが管理効果の改善に非常に大きく寄与している。
幸いなことに、現在でもマイワシの生産力は低下していないので、
今からでも適切な管理を行えば、持続的に利用していく事は可能だろう。

「獲らなくても減った」は真実か?


様々な漁獲パターンの元で資源量を維持するために必要なRPS(卵の生残率)を計算したところ、
次のようになった。

SPR(g) 補償RPS(尾数/親魚Kg)
漁獲無し 169 5.9(=1000/169)
減少前(1976-1988) 93 10.8
減少後(1992-2004) 48 20.7

ここで計算された補償RPSとRPSの実測値と比較してみよう。

rps.png

RPSが緑の線よりも低い年には、漁獲が無くても資源は減少する。
1988-1991の4年間は、緑の線を大幅に下回っており、
この時期には漁獲が無くても資源量が激減したことは明らかだ。
この4年間に関しては、マイワシの減少は自然現象と言っても良いだろう。
92年以降、緑の線を下回ったのは黒潮が例外的な蛇行パターンを示した99年だけである。
この年にも漁獲をしなければ、ほぼ横ばいといった程度の加入の失敗であった。
以上のことから明らかなように、92年以降のマイワシ資源は漁獲をしなくても減るような状況にはない。
92年以降の平均RPSは、漁獲がない場合の補償RPSの3倍以上の水準であった。
つまり、漁獲をしなければ毎世代3倍に増えるような高い生産力があったのである。

オレンジ色の線は、80年代以前の漁獲圧のもとでの補償RPSを示す。
92年以降、前述の99年以外の年のRPSは全てオレンジ色の線を上回っている。
つまり、80年代以前の漁獲をしていたら、資源は増えていたのだ。

赤の線が90年代以降の補償RPSである。
96年が大きく飛び出ているが、この部分は無視して考えて欲しい。
この年に産まれた資源は未成熟のうちに強い漁獲圧に晒されて、
結果として例年と大差がない産卵量しか残せなかったからだ。
資源を回復させる絶好の機会をつぶしてしまったのだ。

ここまでの内容のまとめ

  • 88-91の4年間は、RPSが低く、漁獲をしなくても資源が減った
  • 92年以降のRPSは漁獲をしなくても減るような水準ではない
  • 80年代以前の漁獲率を維持していれば、92年以降、資源は増えたはずである
  • 現在のRPSでは、現在の漁獲率のもとで資源を維持することは出来ない

マイワシの成長と成熟と自然死亡


マイワシの生活史はこんな感じになっている。
図2
3つ前の記事で、卵から漁獲開始までの生残率は改善されたことをしめした。
上の図で赤の矢印の部分は1992年以降、順調に回復したのだ。
一つ前の記事で、青の矢印の漁獲死亡の部分が90年以降跳ね上がっていることを示した。
次に、青の矢印の部分の漁業以外の要素がどう変化したかをまとめてみよう。

1)成長は早くなった

下の図は、マイワシの年齢別の平均体重の経年変化を示したものである。
iwashix01.png
青線が増加期、赤線が高水準期、オレンジが低水準期、緑が超低水準期に相当する。
資源が高水準になると、餌を巡る競争がおこるために成長が鈍る。
そして、資源が低水準になると餌が余るので、成長速度が速くなる。
特に近年は、高水準期を上回る早い成長速度が観察されている。

2)成熟年齢は早くなった

マイワシは、2歳以上はほぼ全ての個体が成熟する。
70年代・80年代は、1歳魚はほぼ未成熟で、その成熟率は10%に過ぎなかった。
90年代にはいると1歳魚の成熟率が上昇し、1996年以降は50%が成熟している。

生物は餌から得たエネルギーを、自らの成長や成熟に配分する。
もし、餌環境が一定であれば、成長速度と成熟速度はトレードオフになるはずである。
最近のマイワシは、成長と成熟が同時に早まっていることから、
90年代以降のマイワシの餌環境は良くなっていることが示唆される。

3)自然死亡の変化は不明

自然死亡率の推定は、技術的に困難であり、その推定精度も低い。
多少の変化があったとしても、我々人間が把握できない可能性が高い。

自然死亡の主な原因は、捕食と考えられている。
小型の個体は遊泳力が低いため、捕食されやすい。
近年、個体の平均的な成長速度が上がっているため、
自然死亡は減っていると思われる。
ただし、自然死亡がどの程度減るかは定かではないし、
実際に自然死亡が減っているという知見は得られていないので、
資源評価票で以前と同じ自然死亡係数を使うのは妥当だろう。

ちなみに、自然死亡係数は一定で、毎年33%の個体が自然死亡すると仮定されている。


まとめ

  • 成長は明らかに早くなっている。
  • 成熟年齢も目に見えて下がっている。
  • 自然死亡率は恐らく下がったと思われる。

以上のことを考慮すると、マイワシの生物学的な生産力が落ちたとは考えづらい。
むしろ、70年代や80年代よりも最近の方が生産力が上がった可能性が高い。
生活史のどこの段階を見ても、
現在の海洋環境がマイワシに不適だという要素は見あたらないのだ。

マイワシへの漁獲の影響


マイワシ太平洋系群(以下マイワシと呼ぶ)の資源重量(バイオマス)と漁獲割合を下図に示した。
80年代後半の加入失敗で資源が減少すると同時に、漁獲割合が増加をした。
資源減少前の11年間(1976-1986)の漁獲率の平均は16%であり、比較的低目で安定していた。
1992年以降の平均漁獲率は41%であり、以前の2.5倍の水準まで跳ね上がっている。

image01.png

マイワシ漁業のように、資源が減少すると同時に漁獲率が上昇する現象は、
管理されてない漁業にありがちなパターンである。
魚は数年といった時間スケールで減ることもあるが、漁業者はそれほど早く減らない。
マイワシのように高水準期に肥大した努力量で、減少した資源を利用すれば、
漁獲率が上がるのは自明だろう。
マイワシが豊漁だった時代に漁獲率が安定していたのは、
陸上の加工能力によって漁獲の上限がきまっていたからである。
資源が減少し、加工能力にゆとりができた結果、漁船の能力がフルに発揮されるようになった。
マイワシが回遊するタイミングや場所の違いで、毎年の漁獲率は変動するが、
低水準資源でもその気になれば4割から5割ぐらいは獲れてしまうのだ。

毎年、現存資源の40%を漁獲している現在の漁業を支えるためには、
マイワシ資源は毎年1.66倍に増える必要がある。
寿命が5年を超えるような生物にこのような高い生産力を期待するのは無理だろう。
1992年から2004年までの12年間でマイワシのバイオマスは5%まで減少した。
もし、この時期にマイワシの生産力が本当に低かったらどうなっていただろうか。
漁獲がない場合になんとか世代交替できるような生産力であったなら、
マイワシ資源は毎年60%に減り続けていたはずである。
0.6^12=0.002となるので、この場合に資源は0.2%(0.002)に減っていたはずである。
マイワシの生産力が低かったら500分の1に減っても仕方がないところを、
生産力が高かったために、20分の1の減少ですんだと見るべきなのだ。
漁業者が主張するように、マイワシが獲らなくても減るような状態であったなら、
とっくの昔にマイワシは幻の魚になっていたことだろう。
海洋環境が悪くてマイワシが減少しているのではない。
海洋環境が好適なおかげで、なんとか資源が存続しているのだ。
マイワシの生命力には驚かされるばかりである。

マイワシ資源は80年代後半から一貫して減少しているが、
その減少要因は大きく2つに分けることが出来る。
1988-1991年は環境変動による卵の生残率の低下が原因であり、1992年以降は漁獲率の上昇が原因である。
資源減少のきっかけを作ったのは、漁業とは無関係な卵の生残率の悪化かもしれないが、
1992年以降も資源が減少し続けたのは乱獲が原因である。

減少要因が変わったことは、年齢組成を見れば一目瞭然だ。
下の図はマイワシのバイオマスの年齢組成を示したものである。
1988年から1991年までは、新規加入(0歳)が殆ど居ないことに注目して欲しい。
この時期は新規加入が途絶えたために、若齢魚がどんどんといなくなり、
高齢魚が資源に占める割合が上昇していく。
環境が悪い場合(=卵の生き残りが悪い場合)には、必ずこのような年齢組成パターンになる。
加入が失敗した年に産まれたコホートは黒い実線で囲んでみた。
これらのコホートのバイオマスが特異的に低いことがわかる。
iwashix07.png

対象となる期間をのばしてみると、その傾向はさらに明確になる。
1988年から1991年の4年間は特異的に0歳の加入が少なくいことがわかる。
1992年以降は、0歳魚が毎年安定して発生し、
数年後には以前と同じような年齢組成に戻っている。
この時期の卵の生き残りは良好であり、海洋環境が資源減少の原因とは考えられない。

image06.png

日本国内では、海洋環境が変動したからマイワシが減っているというのが定説であるが、
この定説を改める必要があるだろう。

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from 18 Mar. 2009

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