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資源管理反対派 Archive

水産庁の国会答弁を徹底検証(その1)


しばらくブログをお休みしている間にいろんなことがありました。

発端は、Wedgeの4月号にクロマグロに関する記事を執筆したことです。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4896

これまでブログに書いてきたことをまとめたような記事で、「絶滅危惧種の太平洋クロマグロには、ちゃんと卵を産ませましょう」というごく当たり前の内容です。

5月21日の参議院農水委員会で、鳥取県の舞立議員が、このWedgeの記事に関する質問を行い、水産庁長官は次のように答弁しています。

○政府参考人(本川一善君) この記事につきましては、大中型巻き網漁業による成魚、産卵をする親の魚の漁獲の一部を殊更にクローズアップをして、これが太平洋クロマグロ資源全体を危機に陥れるとの主張がなされているわけでございますけれども、私どもとしては、率直に言って公平性や科学的根拠を欠くものではないかというふうに考えているところでございます。

「科学的根拠を欠く」とまでいわれてしまったので、しっかりと反論をしていきたいと思います。国会答弁の内容はこちらで見ることができます。水産庁の主張を整理するとこんな感じです。

  1. 日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微である
  2. クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因
  3. クロマグロ幼魚の新規加入は成魚の資源量とは無関係に変動する
  4. 成魚ではなく未成魚を獲り控えることが重要と科学委員会が言っている

これら4つの論点について、個別に反論します。

検証1 日本海産卵場の漁獲がクロマグロの産卵に与える影響は軽微である

国会答弁での発言です。

○舞立昇治君
先ほどの縦二枚の二ページを御覧いただければと思いますけれども、二ページの下の表でございます。太平洋クロマグロの産卵量でございますけれども、日本海で三割弱、南西諸島で七割強と。仮に日本海側で、今自主規制、上限二千トンにしておりますけれども、この産卵量に与える影響は全体の六%程度ということが表で書かれております。こういったようなことで、親魚と稚魚の相関関係は確認されないほか、生存率、先ほども言われましたように海洋環境により大きく影響されるということで、ほとんど関係ないということが分かるかと思います。

舞立議員が根拠として示した円グラフは、水産庁の資料と同じものだそうです。

nazocircle

http://www.jfa.maff.go.jp/j/kanri/other/pdf/3data3-1.pdf

水産庁は、 3-5歳魚は日本海で卵を産み、6歳以上は沖縄で産むと仮定て、過去10年の太平洋での産卵量と日本海の産卵量を求めたそうです。その結果、日本海の産卵は全体の3割に過ぎず、自主規制の二千㌧漁獲をしても産卵量全体の6%に過ぎないので、大した影響は無いということです。

北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)のレポートの数値から、年齢別の産卵親魚重量を計算すると次のようになります。

ssbatage

このなかで、3-5歳が日本海、6歳以上が太平洋で産卵すると考えて、2003-2012年の産卵量をまとめてみると、水産庁が出したのと同じような円グラフが書けました。

bft03

水産庁と舞立議員は、その年の産卵量だけをみて、漁獲の影響を議論しているのですが、この考え方は、そもそも間違えています。漁獲によって失われるのは、その年の産卵だけでなく、その先の生涯の産卵機会が全て失われます。特に成熟したての若い親を産卵する場合には、その年の産卵よりむしろ将来の産卵が失われる効果が大きいのです。

境港の水揚げの大半を占める3歳魚を1尾漁獲したときの長期的な影響を考えてみましょう。まず、3歳で産むはずだった26.66kgの親魚が失われます。さらに、約78%が生き残って来年も卵を産むはずでした。翌年の4歳の産卵親魚35.6kgが失われます。失われた未来の産卵を足していくと、448kgの産卵親魚が失われたことになります。

キャプチャ

 

日本海産卵場の漁獲の主体である3歳の親魚を1トン漁獲すると、その先に卵を産むはずだった親魚が17トン失われる計算になります。水産庁は、17年ローンの初年度の返済金額のみを計算して、「「返済金額が少ない」と主張しているのです。

では、産卵場巻き網の長期的な影響を評価してみましょう。境港では、漁獲の体調組成データをとっています。このデータを使って、これらの魚が漁獲されずに生き残ったとしたら、産卵親魚量がどのぐらい増えていたかを試算したのが下の図です。

キャプチャ

 

現実の親魚資源量の推移を青線で示しました。2003年から2012年の間に半減しています。日本海産卵場の巻き網操業が無かったシナリオ(緑線)では、親魚の減少幅は半分以下に緩和され、親魚量は、現在の回復目標水準である歴史的中間値と近い水準になりました。太平洋クロマグロのモデルは、自然死亡が高すぎることが複数の研究者から指摘されています。近縁種である大西洋クロマグロやミナミマグロで使われている自然死亡率を採用すると、漁業を免れた個体が産める卵はさらに増えて、紫線のようになります。

この試算では、獲らなかった魚が生き残るところまでしか考慮していないのですが、生き残った魚が卵を産み、それが未来の加入増加につながっていく効果も期待できます。親魚量はこの試算以上に増えていたはずです。以上の試算から、2004年から巻き網が産卵場での操業を始めたために、クロマグロの親魚量が激減し、未成魚の漁獲半減といった規制が必要になったと言えます。

漁業が再生産に与える長期的な影響を考慮するには、俺がやったように、その漁業が無かった場合の親魚量を試算するのが一般的です。そういった試算をすれば、産卵場の操業が大きな影響を与えていることは明白です。産卵場の漁獲が問題視されてから10年近くの歳月が流れていますが、水産庁は未だに当然やるべき試算をせず、適当な円グラフをかいて「影響はほとんど無い」と言い張っているのです。

次回は、「クロマグロ幼魚の新規加入が減ったのは海洋環境が原因」という二番目の論点の妥当性を検証します。

 

Appendix A

3歳魚の1個体の漁獲によって失われる産卵親魚重量の試算

年齢 体重(a) 生残率(b) 失われた産卵親魚重量(a×b)
3 26.66152 1 26.66152
4 45.66521 0.778801 35.5641
5 67.7534 0.606531 41.09451
6 91.52172 0.472367 43.2318
7 115.7943 0.367879 42.59834
8 139.6713 0.286505 40.01649
9 162.5152 0.22313 36.26203
10 183.9116 0.173774 31.95904
11 203.6231 0.135335 27.55739
12 221.5456 0.105399 23.35073
13 237.6705 0.082085 19.50918
14 252.0544 0.063928 16.1133
15 264.7957 0.049787 13.1834
16 276.0169 0.038774 10.70234
17 285.8523 0.030197 8.631992
18 294.4386 0.023518 6.924532
19 301.9095 0.018316 5.529666
20 308.3918 0.014264 4.398972
21 314.0029 0.011109 3.488258
22 318.8505 0.008652 2.758597

6年ぶりに「資源管理のあり方検討会」が開催されております。でもって、俺が委員です。


前回の記事で紹介した会議は平成20年なので6年も前の話です。「資源管理のあり方検討会」というのが、今年の3月から開かれています。何の風の吹き回しか解らないのですが、水産庁から委員になって欲しいという依頼がありました。「資源管理をやることを前提に、前向きに議論をしたい」という話だったので、委員を引き受けました。

資源管理のあり方検討会 概要
水産資源の適切な保存管理は、国民に対する水産物の安定供給の確保や水産業の健全な発展の基盤となる極めて重要なものです。
しかし、かつて1千万トンを超える水準にあった我が国の漁業生産は、現在は500万トンを下回る水準となっています。こうした状況の中で、水産日本の復活を果たすためには、世界三大漁場と言われる恵まれた漁場環境を活かしながら、水産資源の適切な管理を通じて、水産資源の回復と漁業生産量の維持増大を実現することが喫緊の課題となっています。
このため、現在の水産資源の状況を踏まえ、資源管理施策について検証するとともに、今後の資源管理のあり方について幅広い意見を聞くため、本検討会を開催するものです。
なお、今回の会議資料及び議事録は、後日、農林水産省のホームページで公開します。

http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/140314.html

1)日本の水産資源に問題は無いという現状認識

会議の最初に確認をしたのですが、水産庁サイドは「日本の水産資源は総じて良好」という認識だそうです。他の委員も、それに追従。おとぎ話の世界の住人と、仮想の世界の話をしているような不思議な感じでした。どこに行っても漁業は末期的な状況で、多くの漁村が消滅の危機に瀕しているのに、霞ヶ関に集まった有識者たちは、「日本型漁業のすばらしさを海外に発信しよう」と意気投合しているのです。もちろん、日本の漁業には固有の長所がたくさんあることに異論はないのですが、多くの漁村が消滅の危機に瀕している現状で、上に立つ人間がやるべきことは、日本の漁業が抱えている問題点を特定して、解決するための方策を探すことのはずです。

「日本の漁業はまずます上手くいっていて、大きな問題は無い」というところがスタート地点なので、委員会の存在意義が不明です。水産庁の言うように「日本の資源管理が成功している」なら、検討することなど無いはずです。会議の進むべき道筋がまるで見えないので、複数の委員から「この会議では、何のために、何を議論するのか」という質問が投げかけられたのですが、水産庁からも、議長からも、明確な答えは得られませんでした。

2)あり得ない会期の短さ

年あけて2月ぐらいに委員の打診がありました。委員会では、3月末から初めて6月中旬には結果をとりまとめる予定だそうです。前回の検討会から6年も塩漬けにしておいて、いきなり「3ヶ月で結論」ですよ? たった3ヶ月で3魚種の資源管理に関する議論をして、とりまとめをするのは、どう見てもスケジュール的に無理があります。

他の委員からも「なぜ6月までに急いで結論を出すのか」という質問がでました。それに対する水産庁の返答は、「今年の予算要求に間に合わせるため」だって。議論の内容よりも、むしろ、予算請求をするために議論をした実績が重要なのでしょう。最初は、「6月からクロマグロの産卵期なので、それまでに産卵場を守る計画をきめたいのかな」と、好意的に考えていたので、がっかりしました。

3)社会的関心の高まり

6年前の会議と、委員の人選もほぼ同じ。危機感の無さも同じ。ということで、あまり前向きな議論は期待できないでしょう。にもかかわらず、今回の会議では、大きな希望を感じました。6年前の会議とは一転して、大勢の傍聴が集まったのです。

この手の会議には業界紙の記者など、ごく少数の傍聴しか集まらないのが普通です。この会議もはじめは水産庁内の小さな会議室で行うはずだったのですが、傍聴希望者があまりに多かったために、農水省の講堂に会場が変更されました。傍聴は120名も集まったという話です。テレビ、一般紙、東スポといったマスメディアも、多数取材にきました。 「やっぱり、日本人は魚が好きで、これからも魚を食べ続けたいと思っているんだ」ということを再確認しました。

クロマグロやウナギの激減によって、水産資源の持続性への関心は高まっています。「水産庁が水産資源の減少を認めるはずがない」というのが漁業村の常識であり、水産庁の会議では資源が減っていないことを前提に議論をするというのが暗黙のルールみたいです。でも、それが漁業村の外部の人間の目にはどう映るか。私の知人はこのように感じたそうです。

勝川委員の最初の問題提起「現状をどうとらえるかという共通認識を持つ必要がある」ということにしごくもっともだと思いました。それがないと話は平行線のままですからね。それにしても、「資源はおおむね安定している」という水産庁の見解には愕然としました。資源評価をしている魚種だけでも40%が「低位」なのに、よくも「おおむね安定」などと言えるものです。聞いていて恥ずかしくなりました。
漁業者の9割が「魚は減っている」と答えたというアンケート結果に対する八木委員の発言もひどかったですね。「アンケートのやり方が悪い」で一蹴してしまいました。景気についてのアンケートの例を出していましたが、もし仮に国民の9割が景気回復を感じておらず、景気回復を感じているのが0.6%だったとして、それでも日本の景気は回復していると言い張るならば、それは指標が間違っているのだと思います。

下半分の部分について説明をすると、「農水省の調査では、漁業者の9割が水産資源は減少していると回答している。増加していると答えたのは0.6%。資源は総じて良好という水産庁の見解は、漁業の現場の感覚と乖離しているのではないか」と、俺が指摘をしたのです。俺の経験から言うと、漁師は本当に魚がいなくなるまで、水産資源の減少を認めません。また、減少を認めたとしても、漁業の責任だとは認めたがりません。そういうバイアスがかかったうえで、この結果です。

キャプチャ

 

それに対して水産庁OBの八木委員が、「アンケートのやり方が悪かったから、おかしな結果になったのだろう」と言って、次の話題に移ってしまいました。ちなみに、アンケートの設問はこんな感じ。どこが悪いのかサッパリわかりません。

キャプチャ

水産資源の持続性は、魚を獲る人だけの問題では無く、消費者の日常生活とも密接に関わってくる問題。一人でも多くの国民に関心を持ってもらいたいです。社会の関心が高まれば、それだけ漁業村の身内の理論は通用しなくなります。その意味では、第一回目の会議は成功と言えるのではないでしょうか。ということで、第二回会議の傍聴のお知らせです。

「第2回 資源管理のあり方検討会」の開催及び一般傍聴について

開催日時及び場所

日時:平成26年4月18日(金曜日)13時30分~16時30分(予定)
会場:農林水産省 本館 7階 講堂
所在地:東京都 千代田区 霞が関1-2-1

議題

  • 第1回検討会の結果等について
  • IQ・ITQ*に関するフリートーキング
  • スケトウダラ、マサバの資源管理について
  • その他

http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/140408.html

平成26年4月15日(火曜日)18時00分必着なので、まだ間に合います。水産資源に関心のある方は、傍聴してみてはいかがでしょうか?

日本は、なぜ乱獲を放置し続けるのか?水産庁の言い分を検証


当ブログでは、漁獲規制の不備によって、日本の漁業が衰退していることを繰り返し指摘してきた。多くの読者から、「なんで水産庁は規制をしないのか?」という疑問の声が上がっている。その疑問に対する水産庁の言い分を紹介しよう。

水産庁が資源管理をしない理由をまとめた背景

2007年に安倍内閣によって設置された内閣府の規制改革会議では、経済重視の観点から様々な規制が議論された。水産分野においては、無駄な規制を取り除くというよりも、漁業が産業として成り立つために必要な漁獲規制を要請する内容であった。

規制改革推進のための第3次答申-規制の集中改革プログラム-(平成20年7月2日)

詳しい内容は上のPDFのP60から先に書いてある。

水産業分野についても、農業・林業分野と同様、就業者数の減少や高齢化が進んでいる状況にあるが、それ以前に、水産資源の状態が極めて悪化しており、それ故、生産、加工、流通、販売、消費などあらゆる面の指標から見て悪循環(負のスパイラル)にも陥っている。
これによると、水産資源の減少に何ら歯止めがかかっておらず、我が国の水産資源の状況は危機的状況であると言っても過言ではない。このような状況にまで陥った要因は、我が国の資源管理の在り方にある。

(中略)

他方、海外の漁業国においては、科学的根拠に基づく資源管理を徹底し、また、漁業者においても科学的根拠に基づく漁獲を行うことで、資源回復に成功し、水産業の活性化・自立を実現した国が複数存在している。 我が国の水産業に必要なことは、有効な管理手段として何ら機能しないばかりか、更なる乱獲を促進している我が国の現行の漁業・資源の管理の仕組みを抜本的に改正することである。そのためには、海外の漁業国の成功事例を取入れ、科学的根拠に基づく資源管理を徹底することが必要であり、次のとおり、従来の資源・漁業管理手法の抜本的に改正し、漁業経営の競争環境の整備などを早期に講じるべきである。

これは閣議決定なので、水産庁としても無視はできない。ということで、水産庁は、「科学的根拠に基づく資源管理」について、検討しなければいけなくなった。

水産庁の言い分

水産庁は、「TAC制度等の検討に係る有識者懇談会」という会議を招集し、この議題を検討した。その結論(平成20年12月15日)がこれ。(リンク切れの場合はこちら

とても読みづらい文章なのだけど、要約すると、こんな感じ。

  1. 日本と海外では漁業の事情が違う
  2. 海外は漁獲能力の規制に失敗したので、公的機関による漁獲枠規制が必要になった
  3. 日本の水産資源は自主管理で適切に利用されている

つまり、「日本の漁業は業界の自主規制で適切に管理されているので、海外のような魚を巡る競争状態にはなっておらず、公的機関による規制は不要」と言うことだ。以下は、水産庁木實谷管理課長の説明の抜粋。

日本と海外は事情が違う

我が国のTAC制度導入の状況と、それから諸外国、これは後述いたします諸外国の状況とは基本的に事情が異なるということを認識しておく必要があるわけでございまして、このことについては前回のこの場におきまして、外国と事情が異なるということを明確に書くべきだというふうな御意見があったことも踏まえまして、このように整理をさせていただいております。

海外は漁業管理に失敗

諸外国におきましては、参入制限やそのトン数規制といった能力の調整が十分に行われていない中で、当該漁業における能力が向上して、努力量の増加が顕著になった。このような中で、資源の管理を図るためにいわゆるインプット、テクニカルコントロールが実施されるわけでございますけれども、漁獲能力の上昇に歯止めがかからない、また資源が悪くなったということでTAC制度が導入されたという経緯があるわけでございます。
しかしながら、導入以降もTACと漁獲能力との著しいアンバランスが生じている結果、競争が激化して、過剰投資ですとか、漁期の短縮が発生したということがOECDではまとめられているという状況にございます。

日本は問題がない

一方、我が国の漁獲可能量管理の状況でございますけれども、先ほど申し上げましたように、我が国の資源管理と申しますのは、漁業法等に基づきます隻数、トン数規制、インプットコントロール、さらにはテクニカルコントロールといういわゆるきめ細かい操業規制をベースとして行われているわけでございます。また、漁獲可能量につきましては、漁業種類ごと、また地域ごとに分割し、管理するというやり方が取られているわけで、さらに漁業者の自主的な協定に基づきまして、漁業者団体による漁獲可能量管理が行われている。ですから、いわゆるオリンピック方式とは大きく異なっているわけでございます。
次に、個別割当方式の具体的な方向性についてでございます。先ほど御説明申し上げましたように、TAC管理におきましては、大幅な漁期の短縮をもたらすようないわゆる漁獲競争は発生していないということを踏まえますと、外国のように個別割当方式を導入しなければならないような状況には至っていないということでございます。

水産庁の言い分を検証する

海外は漁業管理に失敗したのか?

「日本は漁獲努力量の管理に成功したが,他国は失敗した」と水産庁は主張しているが、漁船のトン数制限では水産資源を守ることが出来ないのは世界の常識である。漁船の漁獲能力は日進月歩だからだ。一昔前の船と、今の船では、同じトン数であっても、魚を獲る能力は桁違いなのだ。

漁具漁法の規制や、トン数の規制では、資源を守る上で十分な効果が得られない。この構造上の問題に直面した漁業先進国は、漁獲量に上限を設ける方式に移行した。テクノロジーの進化に対応できるように、規制も進化させたのである。その結果として、資源を回復させて、漁業が持続的に利益を伸ばしているのだから、資源管理に失敗したとは言わない。

日本の漁業調整は成功しているのか?

水産庁の言うように、日本の漁業がそれなりに上手くやっているなら、改革のための改革など不要である。しかし、日本の漁業は一人負けで、底が抜けたバケツのごとく公的資金を吸い込みつつ、漁村の限界集落化が進んでいる。

世界銀行レポート FISH TO 2030:世界の漁業は成長し、日本漁業のみが縮小する
予定通り、北海道日本海側のスケトウダラ資源が減少し、漁業が消滅の危機
資源回復計画が予想通り破たんして、青森県のイカナゴが禁漁となった

水産庁が胸を張る「トン数制限などのきめ細かい操業規制」の実態

日本では、実際の届け出よりもトン数を水増しして漁船を作るのが当たり前のように行われている。これは漁業の現場では周知の事実である。漁船の大きさの規制はあまり意味が無いのだが、それすらも守られていないのだ。

 

国土交通省:船舶トン数の適正化の実施

国土交通省は平成24年度、船舶のトン数が適正に維持されていることを確認するため、1,067隻の船舶について地方運輸局等の船舶測度官による立入検査を実施しました。その結果、漁船では25%の47隻、漁船以外の船舶では6%の56隻について、トン数が適正でないことを確認したため、これを是正し、トン数の適正化を図りました。

公的な規則すら守れていない現状で、自主管理に多くは期待できない。ある浜では、「みんな生活のために海区違反の違法操業をしている。自分たちの漁場には魚がいないから。獲り過ぎてしまったんだ」という話を聞いた。これが放置国家・日本の漁業の現実である。

「世界中で機能しなかった努力量規制が日本でだけ成功している」という水産庁の主張は事実ではない。他国の政府は従来の規制の限界を認めて、より実行力のある規制に移行した。それに対して、日本では、失敗を認めずに、「成功していることにしている」のである。

日本と海外は事情が違う

水産庁は「日本は状況が違う」、「日本には問題が無い」と言い張って、漁業先進国では30年前に解決積みの問題を放置したまま、今日に至っている。日本と海外の漁業の違いは、産業構造よりも、むしろ、公的機関の姿勢の差に起因する。問題を明らかにして、その解決に取り組んだ諸外国と、「問題は無い」と言い張って何もしていない日本の差が広がるのは当然である。

「都合が悪い事実は無いことにして、出来ていることにすればそれで良い」という態度は、漁業に限ったはなしでは無い。今も、この国の至る所で、同じことが繰り返されている。華々しい報道とは裏腹に、破滅的な敗戦へと突き進んだ太平洋戦争の大本営発表と同じ構図である。この構図を打破していかない限り、閉塞状況は打ち破れないだろう。

戦わなきゃ、現実と

「NZのITQは、資源管理としては機能していない」とか、誰か言ってなかったっけ??


そういえば、「NZのITQは経済政策としては成功したが、資源管理としては機能していない」とかいう、面白レポートがあったよね(http://katukawa.com/category/study/reform/nzreport)。あの検討会の議事録は、政府の公式文書として認めてもらえなかったという話を小耳に挟んだけど、内容が内容だけに、仕方がないだろう。

レポートでは、NZのITQが資源管理として機能していない根拠として、ホキ(白身魚)のTACが近年減少していることを挙げていた。実際には、NZの漁業者は過剰漁獲をしていたわけではない。卵の生き残りが悪くて、一時的にホキ資源が減少した。それを素早く回復させるために、NZ政府は予防的に漁獲枠を絞ったのだよ。いくらでも魚が捕れる段階で、漁獲枠を半減できたのだから、立派なもんだ。すぐに元の水準に戻るだろうと予想していた(http://katukawa.com/category/study/species/%E3%83%9B%E3%82%AD)が、予想以上に早く回復したみたいだね。

nzhoki
(みなと新聞6月9日より引用)

ノルウェーのカペリンでもわかるように、魚はちゃんと残せば、ちゃんと回復する。早めにブレーキを踏めば、それだけすぐに回復をする。自然変動が原因だろうと、何だろうと、魚が減ったら、漁獲圧をゆるめるのが世界の常識であり、資源が減ったら、漁獲圧が強まる日本のマイワシ漁業のような状態はあり得ないのである。獲りたい放題獲っておいて、「地球温暖化が悪い」とか居直っているから、漁業は衰退を続けるのだ。

もちろん、ノルウェーやNZの漁業だって完璧ではないし、直すべき問題点は山ほどある。しかし、これらの国の漁業が、資源を持続的に利用しながら、経済的にも成り立っているのは、紛れもない事実である。「日本とは状況が違うので、参考にはならない」と居直ったり、生半可な知識で揚げ足取りをしても、かえって自らの無知を晒すだけだ。それよりも、これらの漁業国の成功を謙虚に認めた上で、その長所を日本漁業にどのように取り込むかを議論すべきだ。お互いに、もっと有意義なことに時間をつかいたいものである。

Hoki Story その3


資源状態

東と西を合計した親漁量はこんな感じ。ここ20年程度、減少が続いているが、これは資源管理が機能していなかったからではない。この資源は、1970年代はほとんど利用されていなかった。NZ政府は、未開発時の資源量を100%とした場合の40-50%の水準をMSY水準と定義している。NZ政府は、図中に赤で示したMSY水準まで徐々に資源を減らした後に、その水準を維持するつもりだったのだ。アンラッキーなことに、資源がMSY水準に近づいた1995年以降、卵の生き残りが悪い年が続き、予想以上に資源が減少してしまった。

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新規加入量の時系列はこんな感じ。1995年から2000年まで、新規加入が低調であった。資源量がMSY水準に近づいてきたので、そろそろブレーキをかけようとしたら、資源の生産力が減少し、MSY水準を下回ってしまったのだ。

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漁獲量

漁獲量(緑線)とTACC(*)の時系列はこんな感じになる。1985から2000まで、15年かけて、じわじわとMSY水準まで、資源を減少させた。MSY水準に達した後は、すぐにTACCを削減し漁獲にブレーキをかけている。ただ、残念なことに1995-2000の間の加入の失敗により、漁獲枠を削減した後も資源は減ってしまった。そこで、よりきつくブレーキを踏んだのである。現在は資源が回復に向かっていることから、漁獲枠を徐々に増やしていくフェーズに入っている。政府は13万トンまで増やそうとしたのだが、業界は猛反発。MSY水準に回復するまでは、漁獲枠を控えめにすべきであると、漁業者が主張をしたのだ。結局、政府は当初の予定よりも1万トン少ない12万トンの漁獲枠にした。最新の情報では、今年度は資源の更なる回復が確認されたことから、政府は1万トンの増枠を提案し、業界もこれを受け入れる見通しとのこと。

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トロール調査

チャタムライズでは、調査船によるトロール調査が行われ、Hoki, Warehou, Ling, Black oreoなどの底魚の資源量を調査している。

ステーションはこんなかんじ。海区を水深や底質の生態特性で層別化した上で、全体図を把握できるようにデザインされている。

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トロール調査によって推定されたHoki(+3)の資源量はこんな感じ。低めで安定はしているが、NZとしてはもう一段階回復させたいようだ。

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トロール調査で得られたHokiの分布の時系列はこんな感じ。再近年は、底は脱したが、90年代と比較すると低水準である。

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音響調査

NZ政府は、精力的に音響調査を行い、資源の把握に努めている。毎年、Hokiの産卵期には、短期間のうちに複数回のスナップショットを獲っている。
計量魚探を使って、定線を走るとこんな絵が描ける。

image0904102

魚探の反応の中から、Hokiと思われるものを抜き出し、Hokiの反射強度(ターゲットストレングス)をつかって、資源量を推定する。この作業を全ての定線で行うと、1枚のスナップショットができる。NZ政府は、産卵期をすべてカバーできるように、毎年5~7枚のスナップショットを作成している。たとえば、2006年はこんなかんじ。

The 2006 acoustic survey of spawning hoki abundance in Cook Strait was carried out on Kaharoa from 19 July to 29 August 2006. Seven snapshots were completed, with good coverage of the spawning season.

この時期のクック海峡はいつでも大荒れで、「300トンの船が、木の葉のように波に翻弄される」とのこと。そういう状況で、1ヶ月半に7回のスナッ プショットをとるのは、立派である。

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複数のスナップショットを組み合わせて、産卵場に来遊した親魚の量をブートストラップで推定をするとこんな感じになる。

image0904106

重要資源であり、資源的にも注意が必要なHokiに対しては、出し惜しみをせずに精力的に調査をしている。NZの漁業省の予算は非常に限られている。また、業界の負担が重いだけに、無駄な出費は厳しく批判される。調査計画も(良い意味で)流動的であり、必要な場所に、重点的に投資をしていることがわかる。

で、本当のところはどうなのか?

「漁獲枠は下げておくにこしたことはないのだが、あわてて漁獲枠を半減するような状態なのかなぁ」というのが、俺の率直な感想。資源が本当に減っているのかに関しては、NZ国内でも議論が分かれている。たとえば、西の産卵群を狙った漁業では、過去最高の漁獲を記録したことから、「Hokiは減っていない」としゅちょうする漁業関係者もいる。産卵群は資源量が少なくなるとそれだけ中央に密集する傾向がある。産卵群狙いの漁業で過去最高のCPUEが記録されたとしても、資源が多いとは限らない。漁業とは独立したトロール調査と、魚探調査によって、産卵場も生育上をしっかりとおさえているので、NZの資源評価の信頼度は高い。

NZの漁業関係者の一部には、Hokiの漁獲枠をもっと増やすべきだという意見もある。しかし、政府と業界の「我慢をして、MSY水準まで素早く回復させよう」という声が勝ったのである。NZの業界は、俺よりも持続性に対する意識が高いと言うことだね。「ある指標を見れば資源は減っていないように見えるが、別の指標で見ると資源が減っているように見える」、というのはよくあること。というか、ほとんどの 資源評価はこういう感じになる。自信をもって高水準と言い切れるのは、80年代のマイワシや、現在のサンマのような、超高水準資源のみだ。逆に、スケトウ ダラ日本海北部系群のように、どこから見ても駄目になったら、資源としては手遅れな場合が多い。資源を持続的に利用するには、玉虫色の状態で、漁獲にブ レーキを踏む必要がある。NZ政府と業界は、悲観的なシナリオを想定しても資源が回復するような漁獲枠を設定した。これはとてもすばらしいことである。

Hokiの漁獲枠の削減は、資源の減少を漁獲枠が追従しているのではない。資源を良好な状態に保つために、政策的に漁獲にブレーキをかけているのである。 網をひけば、いくらでも獲れる状態で、最重要魚種の漁獲枠を厳しく削減するというのは、なかなかできることではない。この漁獲枠の減少こそ、NZの資源管理システムQMSが機能している証に他ならないのだ。ここまで迅速に思い切った行動をとれる国は、そう無いだろう。俺が思うに、NZとノルウェーぐらいではないだろうか。Hokiの漁獲枠が削減されたことをもって、「NZのQMSは資 源管理として機能していない」など主張をする、日本の有識者の不見識にはあきれてしまう。彼らは管理された漁業というものを知らないのだ。まともな漁獲規制がない日本では、漁獲量の減少は資源の減少を意味する。日本で漁獲枠が削減されるのは、資源が減少して、がんばっても獲れなくなってからである。日本の常識に照らし合わせて、「Hokiの漁獲枠の削減→NZの資源管理は機能していない」と考えたのだろうが、あまりに浅はかである。データを見ればわかるように、Hokiは獲り尽くされたのではない。NZは壊滅的な減少を回避するために予防的に漁獲枠を半減させているのである。日本の漁業関係者には、魚がまだ捕れる状態で漁獲枠を減らす国があるなど想像もつかないの だ。

結論

Hokiの情報をまとめてみるとこんな感じ。

  1. 網を引けばいくらでも魚が捕れる
  2. 獲れば獲るだけ、高く売れる
  3. いくつかの指標では、資源が減っていないようにみえる
  4. 資源量としては、MSY水準をわずかに下回った状態

NZ政府の対応はこんな感じ

  1. MSY水準に達した2年後には漁獲枠を削減
  2. その削減では不十分と見るや、すぐに漁獲枠を半減
  3. 資源の回復を確認しながら、徐々に漁獲枠を増枠中

NZの業界の反応

  1. もっと獲っても良いという意見もあるが、慎重派が主流
  2. MSY水準への回復が確認できるまで、漁獲枠を控えめにすべきという意見
  3. 政府の増枠に難色を示し、低めの漁獲枠を採択させる

Hoki Story その2


まずは、Hokiの生態について、簡単に説明しよう。俺の手元には、NZのホキレポートがある。280ページで、凄い分量だ。漁獲の情報、漁獲の体長・年齢組成、CPUE、トロール調査、ぎょたん調査と、内容もてんこ盛り。ネットにもそれに近い情報があるので、関心があるひとは目を通してほしい。
http://fpcs.fish.govt.nz/science/documents/%5C2008%20FARs%5C08_62_FAR.pdf

この資料は基データに近い情報も多く含まれており、一般人には理解できない部分もあるだろうが、かなりしっかりとした評価をしているのは理解できるとおもう。

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水産庁のNZレポートを徹底検証する その9


NZでは、資源が悪化しているものが多い

水産庁は、NZでは資源が悪化しているものが多いと指摘しているが、これは事実に反している。NZの資源評価の結果は下の表のようになる。NZでは、資源がMSY水準よりも上かどうかで、資源状態を判断している。いくつかのカテゴリーがあるのだが、MSY以上とMSY未満で、ざっくり分けてみよう。

状態 Condition 数(176)
不明 Unknown 98
OK Yes1 21
ほとんど利用されず Yes2 7
たぶんOK Probably 16
OKだとおもう Possibly 14
たぶんNO Probablynot 4
NO No 16

資源評価が行われている資源に関しては、MSY水準以上が58系群に対して、MSY水準未満が20系群という結果であった。資源評価している系群の 75%はMSY水準以上が維持できている。75%という数字は、世界的に見ても立派なものだ。「資源評価が行われている主要魚種についても資源が悪化しているものが多い」という水産庁レポートは事実誤認である。

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水産庁のNZレポートを徹底検証する その8


レポートの右半分にもツッコミをいれてみよう。

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NZでは、ほとんどの魚種で資源評価が行われていない?

ほとんどの魚種で資源評価が行われていないということだが、資源評価の結果は、ここにある。そのままだと全体像がわかりづらいので表にまとめてみた。94魚種、176系群の記載があるが、そのうち、資源状態が不明な者は98資源。約半数が不明であった。約半数は資源評価をしているのに、「ほとんど資源評価がおこなわれていない」というのは、不適切だろう。

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水産庁のNZレポートを徹底検証する その7


http://www.jfa.maff.go.jp/suisin/yuusiki/dai5kai/siryo_18.pdfのP8

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なんか、まともに読めないんですけど・・・

○TACの推定値は毎年変わるがTACを変更しようとすると苦情や訴訟が提起されるため、基本的にTACが変更されることは少ない

これはITQ導入当初(86-89年)の話だね。ここにも書いたように、NZは最初は絶対量で漁獲枠を配分していた。TACを減らすときは、漁獲枠を漁業者から買い取るつもりだったんだけど、漁業が儲かることがわかった漁業者は政府に漁獲枠を売らなくなってしまった。困ったNZ政府は強引に漁獲枠を下げようとして訴訟になって負けたのだ。1990年にNZ政府は法改正を行い、漁獲枠をTACCに対する比率で設定することにした。90年以降は、政府の裁量で自由にTACCを変化させるようになった。で、実際に必要な場合には漁獲枠をちゃんと削減している。今年もHOKIやOrange RoughlhyのTACCが削減したが、NZ政府関係者に確認したところ、訴訟は起きていないという話だ。

訴訟によって、漁獲枠が変えられなかったのは過去の話であり、この問題はすでに解決済みなのだ。

○ITQは、経済政策としては成功したが、資源管理としては機能していない。

NZは混獲種も含めてITQを導入しているので、資源評価ができていない(していない)種も多い。情報が少ない非漁業対象種にも予防原則から、漁獲枠を設定しているのである。漁業対象種以外に漁獲枠がないほとんどの国に比べれば、非常に進歩的だ。資源評価ができている種については、85%がMSY水準以上という評価が得られている。ほとんどの資源は持続的に有効利用できる水準に維持されているのである。NZは、もっとも厳格な資源管理としている国の一つです。一方、日本は何もしていないに等しいレベル。NZの資源管理も100%ではないが、少なくとも日本とは比較にならないぐらいちゃんとしている。

NZは環境保護団体が強いから、世界最高水準の保護をしていても、国内では漁業省は厳しい非難にさらされている。こういう外圧があるから、高いスタンダードを維持できるという側面もあるだろう。日本のNGOも頑張ってほしいものだ。

○漁獲量が割当量を超過した場合に賦課される罰金は、浜値等よりも低くなることがあり、結果として過剰漁獲を誘発。

これも解決済みの問題。漁獲量が割当量を超過した場合にはDeemed Valueという罰金を払うことになる。いくつかの魚種でDeemed Valueが浜値よりも安く設定されており、モラルの低い漁業者が漁獲枠を無視して水揚げをして利益を上げた。ただ、これはDeemde Valueが導入された初年度のみであり、翌年にはこの穴はふさがれた。NZ政府は、Deemed Valueの設定には細心の注意を払っており、現在もDeemed Valueが乱獲を誘発するようなレベルに設定されている魚種はない。

解決済みの問題をあたかも現在進行中のように見せかけている。情報が古いのか、故意の印象操作なのかは不明だが、もうちょっとまともな資料を使ってほしいと思う。また、このレベルの資料にはツッコミを入れられるような有識者でなければ、集めて議論をさせる意味がないだろう。

我々、日本人は、NZの漁業関係者が、これらの問題を解決していったプロセスに着目し、そこから自己改革の重要性を学ぶべきだろう。

水産庁のNZレポートを徹底検証する その6


漁村への影響 漁業のみに依存した村は少なく、漁村への影響は考慮せず

漁業に依存した村は存在し、そのいくつかは衰退している。 ウェリントンの北部の漁村は消滅したとか、 そういう話はちゃんと調べればいくつも出てくる。 これは日本の沿岸漁業にとって重要な問題なので、 きちんと論じておく必要があるだろう。 まず、バックグラウンドとして、ITQを導入した当時のNZの状況をおさえておこう。

戦後のニュージーランドは、イギリスを主な貿易相手国とする農産物輸出国として発展し、世界に先駆け高福祉国家となる。しかし、1970年代にイギリスがECの一員としてヨーロッパ市場と結びつきが強まり、ニュージーランドは伝統的農産物市場を失い経済状況は悪化した。さらに、オイルショックが追い打ちをかけた。国民党政権は農業補助政策を維持する一方、鉱工業開発政策を開始するなど財政政策を行うもいずれも失敗し、財政状態はさらに悪化した。 wikipedia

政府による統制経済・補助金行政によって、国の財政が悪化し、80年代には首が回らなくなった。 その結果、国として、補助金行政からの方向転換を余儀なくされたのである。

NZの沿岸漁業は、そもそも生産性が低く、補助金に依存していた。 国が財政破綻した時点で、経済的に成り立たない漁村の運命は決まったのである。 これらの漁村の衰退は、ITQの導入よりむしろ補助金行政の終焉に起因する。

NZでは、ITQの導入に際して、漁獲枠を実績配分した。 今後はオークションに切り替えるようだが、今まで基本的に過去数年の実績ベースで配分してきた。NZの多くの資源を回復させて、それに伴い商業漁獲枠(TACC)が増加した。 NZの漁獲枠は、TACCに対する比率で設定されているので、 TACCの増加に応じて、個々の漁業者の漁獲枠は増加をしたはずだ。 ITQによって、小規模漁業者の権利が剥奪されたという考えは誤りである。 小規模漁業者にも、そこで漁業を続ける権利もあったし、漁獲枠も与えられていた。 にもかかわらず、いくつかの漁村は消滅したのである。 ITQによって小さな漁村がつぶれたのではなく、漁業者が移動をしたのである。いくらITQでもあまりに非経済な漁村を救うことは出来ないのだ。 NZでは国内に魚の需要はあまりない。 国際市場で価値を上げることが、資源の有効利用につながるのである。 交通の便が悪い小規模漁村に水揚げしても、魚に経済価値はつかない。 限られた自然の生産力を、経済的に有効利用するには、 むしろ、空港や加工場へのアクセスが良い場所に水揚げすべきである。 たとえば、サンフォード社の魚市場は、オークランド中央部から車で10分ほどの場所にあり、 空港へのアクセスも良い。この魚市場は、小規模漁業者からも魚を買い取っている。 こういう場所に水揚げすれば、安い国内価格ではなく、適正な国際価格で買い取ってもらえる。 労働力の移動が起こるのは当然だろう。 遠隔地で水揚げされた魚は、移動のコストがかかるので、必然的に地産地消になる。 人が生きていくには、魚以外のものも必要だ。 漁業しか産業がないような場所で、地産地消しかできない漁村は、 輸入だけをする国のようなもので、経済的に成り立たない。 遠隔地の漁村で地産地消というのは、構造的に破綻しているのだ。

例外は、観光地など、地元での水産物消費で外貨が稼げる場合のみだろう。 遠隔地地産地消漁業は経済的に成り立たず、維持するには、公的資金が必要になる。 その価値はどこにあるのだろうか? 地産地消の漁村を維持したところで、外部の人間には何のリターンもない。 むろん、国益上重要な漁村も存在する。離島の漁村は、国防上、実に重要である。 これらの漁村を維持するための離島政策をNZ政府はきちんと実施している。 NZを代表する離島としては、チャタム島がある。 この島は、アワビの名産地で、毎年、シーズンになると大勢の漁業者が飛行機に乗ってやってくる。 この島の漁獲枠は、公的機関が運営していて、漁業の収益は地方自治体に入る。 漁業からの税収で、学校や病院を建てることができたそうである。 離島の魚の利益が、その地域に入る仕組みをつくることで、地域経済を維持しているのだ。 地域コミュニティーを維持する手段として、漁獲枠を地域に与えるのは有効であろう。 では、日本の離島はどうかというと、まるで駄目。 小松さんがいろいろと計算していたのだけど、日本のEEZの8割は離島の存在による。 しかし、離島に水揚げされる水産物はごくわずかに過ぎない。 離島によって得たEEZの漁獲のほとんどは本州の港に水揚げされ、離島の経済に全く寄与しない。 俺には、今の日本の漁業システムが、遠隔地の漁村の維持に適切だとは思わない。 声が大きな地域に、場当たり的にあめ玉を配っているだけじゃないか。 「漁村の存在」を理由に、資源管理に反対する人間は多いのだが、 肝心な「漁村をどのように維持するか」という戦略は皆無であり、 本気で漁村のことを考えているとは思えない。 NZの経験は、実に示唆に富むものである。 まず、漁業の経済性を向上させ、持続的に利益が出せるようにする。 その上で、国益上重要な地域を特定し、その地域を漁業で維持できるような仕組みを導入する。 実に、合理的ではないか。 米国もITQの導入を進めているが、管理システムのなかで「地域への配分」というのが、 かなりのウェイトをしめるものになりそうだ。後だしジャンケンだけに、米国はよく研究している。

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from 18 Mar. 2009

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