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マグロ輸出規制 Archive

欧州の食文化を破壊する日本の魚食 その1

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ヨーロッパウナギはどうなったか?

過去にワシントン条約で規制されたヨーロッパウナギの事例を振り返ってみよう。ヨーロッパウナギは、2007年から、ワシントン条約の付属書IIで規制されている。そのときも、日本メディアは、食卓の危機・食文化の危機などと騒ぎ立てたのだが、いざ規制が始まると、全く情報が途絶えてしまった。その後のことを知っている日本人はほとんどいないだろう。

ヨーロッパウナギは、今も全く回復していない。EUの管理の下で、漁獲は厳しく制限されているが、回復のめどは立っていない。水産資源は減らしすぎると、回復能力が著しく失われることが知られている。ある程度以上減らしすぎると、たとえ禁漁に近い措置を執っても、資源が回復しなくなるのである。ヨーロッパウナギ資源が回復するのに、数十年かかるのか、数百年なのかはわからない。もしかすると、回復しないかもしれない。

破壊されたスペインの伝統食文化

スペインのバスク地方では、お祭りの前の日にシラスウナギの伝統料理を食べる風習があった。シラスウナギが捕れなくなったせいで、この伝統料理が食べられなくなってしまった。シラスウナギ自体は、全くないわけではないが、1パック1万円では、庶民には手が出ない。その代わり、すり身でつくった偽シラスウナギを食べているのである。

代替品は、スケトウダラを原料にしたすり身を細長く加工し、背中の部分が黒くなっている。こったものは、目もついているらしい。百聞は一見にしかずと言うことで、写真を見て欲しい。Googleの画像検索で、baby+eel+surimiなどで検索すればいくらでも釣れる。すり身の代替品は、シラスウナギ特有の泥臭さが無いので、大人には物足りないけれど、子供からはかえって好評らしい。日本人が食べ尽くしたウナギの代替品が、ジャパンテクノロジーのすり身というのは皮肉な話である。

http://images.google.co.jp/images?q=baby%20eel%20surimi

規制直前まで、日本はヨーロッパウナギを2万トン輸入していました

俺の大先輩の立川賢一先生は、次のように書いておられる。

2001年から2005年までの平均で、日本におけるウナギの消費量は12.9万トンである。これは、年間で国民一人当たり1kg以上のウナギを食べている計算になる。加工品輸入量(活鰻換算)は8.4万トン、活生鰻輸入量は2.2万トン、国内の養殖量と天然漁獲量の合計は2.2万トンであった。日本のウナギ消費量の82.9%は外国からの輸入による。このうちニホンウナギの割合は75%程度と推測されている。

http://www.kasumigaura.net/asaza/event/unagi-tatukawa.html

ワシントン条約で規制される直前まで、ウナギは8万トンぐらい輸入されていた。ヨーロッパウナギは年間2万トンも輸入されていたのだ。ヨーロッパウナギが中国を経由すると、浜名湖産のニホンウナギになったりするので、実際にはもっと多いかもしれない。ヨーロッパウナギの現状を考えれば、「タイセイヨウクロマグロを2万トン輸入しているから絶滅のおそれはない」という日本政府の言い分はおかしいのである。むしろ、ここまで資源が減ってもなお2万トンも輸出があるからこそ、ワシントン条約での規制が議論されたのである。

水産外交を国益の観点から考える

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背景となる情報を集めていけば、日本政府の主張は、矛盾に満ちていることがわかる。資源は危機的であり、現在の漁獲を支えることはできない。ワシントン条約を阻止すれば、これからもマグロを食べられるという主張はウソ。また、ICCATの管理下で、不正漁獲が蔓延している現状がある。不正漁獲は、ますます取り締まれなくなる方向に進んでいるのだから、すでに破綻しているICCATの枠組みで十分という日本政府の主張は説得力がない。そのことは、主張している本人も承知だろう。そもそも持続的枠組みを模索する国が、不正漁獲の元締めのリビアと組むわけないだろうに。

日本政府は、ワシントン条約さえ阻止できればそれでよいと判断し、無理を承知で駄々をこねたのだろう。そのこと自体を責めるつもりはない。外交の場では、嘘も必要だ。問題は、その嘘が日本の国益につながるかどうかである。

今回の締約国会議では、次の5つの可能性があった。付属書I(留保する、しない),付属書II(留保する、しない)、ワシントン条約では規制をしない。それぞれ、どんな感じかをまとめると次のようになる。

付属書I留保

日本漁船は地中海で操業を続行する。ワシントン条約に留保したリビアなどから、黒いマグロが日本にくる。EUの正規漁業は止まるので、不正漁業と日本漁船の天下になり、短期的には美味しい思いができる。当然、漁獲規制は、有名無実になり、資源は消滅。欧米で、日本製品不買運動が広まる。

付属書I留保せず
ほぼ全ての漁業が停止するが、資源は守られる。

付属書II 日本留保
日本漁船とEUの正規漁獲が中心になるが、日本は黒いマグロも買えるので、不正漁業も生き残る。漁獲枠は守られず資源は減少。欧米で、日本製品不買運動が広まる。

付属書II 日本留保せず
日本とEUの正規漁獲のみ生き残る。漁獲枠は、守られ、資源は徐々に回復。輸入も維持できる。

ワシントン条約の規制がなし
不正漁獲が蔓延し、漁業が消滅。ワシントン条約の枠組みを破壊した黒幕として、後ろ指を指される。


当初は、タイセイヨウクロマグロは、付属書Iになると思われていた。日本政府は、付属書Iなら留保をすると明言していた(留保というのは、ワシントン条約を無視して、国際取引を続けるという宣言)。漁業関係の利得、すなわち上の表の青色の部分だけを見れば、留保をした方が得になる。しかし、留保をすると漁業以外の産業に深刻なダメージを与えてしまう。「留保をすれば、確実に日本製品不買運動は起こるだろうね。特に欧州はひどいことになるんじゃないか」というのが欧米人の共通認識。漁業は、日本のGNPの1%にも満たないマイナーな産業。そのマイナーな産業のなかで、タイセイヨウクロマグロなんて、量にしても、金額にしても、ほんの一部分であり、日本経済からすれば、耳くそみたいなスケール。しかも、食料安全保障とは無縁の贅沢品であり、その上、タイセイヨウクロマグロは、資源としては、ほぼ終わっている。禁漁に近い規制をするか、獲り尽くすかの2択しかない。

水産庁は、大西洋クロマグロをあと2~3年輸入して食べ尽くす権利と引き替えに、輸出産業に大打撃を与えようとしていた。「火中の栗を拾う」なんて、生やさしい物ではない。ガソリンを頭からかぶって、火事の家の中に、栗の皮を拾いに行くレベルの愚行である。輸出産業で働いている人間は、一揆を起こしても良いレベルのむちゃくちゃだ。日本国民が、そうなることを納得ずくで、留保に賛成するのであれば、俺は何も言う気はない。「国の経済を傾けてでも、最後の最後までタイセイヨウクロマグロを食べる」という決意があるなら、ある意味、立派なものだ。でも、そんな議論は、日本国内では、一切無かったはずだ。

ワシントン条約の対応は、国際課という部署が担当している。日本の遠洋漁業は、マグロぐらいしか残っていない。マグロ漁業の消滅は、すなわち、国際課の存在意義の消滅なわけで、彼らとしてはマグロ漁船を是が非でも残したい。国際課は、留保をすれば、日本製品不買運動が起こることは、当然知っていたはずだ。日本国民が将来負うことになる負担は隠したままで、「食文化のために、欧米の資源囲い込みと闘う」などと称して、世論を誘導したのである。

俺が、主張したかったのは、国策を決めるに当たって、背景と国益に関する議論が完全に抜け落ちていたと言うこと。

1.タイセイヨウクロマグロは激減しており、すでに資源として利用できる状態にはない
2.地中海では漁獲枠よりも多い不正漁獲が存在し、ICCATもそれを認めている
3.不正漁獲されたマグロのほとんどは日本で消費された

これらの事実を積み重ねれば、ワシントン条約に留保をすれば、欧米で不買運動が起こることは容易に想像できる。冷え込んでいる日本の景気をさらに押し下げ、輸出産業に大打撃を与えるわけだ。この当然予想される結果が知らされていなかった。俺には、水産庁は、国益よりも、自分の縄張りを優先したように見える。そのためにEUという仮想的を作って、メディアをつかって大本営発表をした。メディ アは、断片的に正しい情報を混ぜたかもしれないが、それと明らかに矛盾する水産庁の政策に対して無批判であった。情報を使って、水産庁の方向性が正しいか どうかを検証しなかった。情報を集めた上で、国益の観点から政策分析を行い、権力を監視するのがメディアの本来の役目を放棄した。こんな突っ込みどころ満載の外交を、ロジカルに批判をするメディアは皆無であった。これでも、メディアは正しい情報を伝えて、国民はきちんと納得をした上で、水産庁の政策を支持したと言えるのだろうか。

タイセイヨウクロマグロ資源には死亡フラグが立ってしまったけれど、今回のワシントン条約は、付属書Iにならなくて本当に良かった。付属書Iに留保をして、日本が単独で矢面に立っていたら、タイセイヨウクロマグロ漁業とは比較にならない、大きなものを失っていた。まあ、ラッキーだったんじゃないでしょうか。

水産庁は、水産物の安定供給とか、資源の持続性なんて、重要視していない。日本近海に生息する太平洋クロマグロは、日本漁船によって、0歳、1歳と言った未成熟な段階でほとんど漁獲されている。産卵場での巻き網操業は野放しだ。日本漁船の乱獲を抑制すれば、日本のEEZで十分なクロマグロが捕れるのである。水産庁は、日本沿岸での太平洋クロマグロの乱獲を、何一つ取り締まるどころか、漁業者の乱獲の権利を守るために、必死の努力をしている。地球の裏側の資源を乱獲するために国際的な努力をするのではなく、自国の資源を持続的に利用すべきである。

(予告)次の記事では日本漁船による、日本のEEZ内でのクロマグロの乱獲について紹介します。

ワシントン条約の勝者は中国とリビアで、敗者は日本と持続的漁業

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前回の記事は予想以上の反響で驚いた。書いてみるものだとおもった。「不正漁獲の話しはちゃんと新聞に載っていた」という書き込みをいただいたのだが、俺も新聞は気をつけてみていたけれど、不正漁獲についてまともに書いた記事は見つからなかった。「隠した」という表現は言い過ぎかもしれないが、きちんと伝えていなかったとは思う。不正漁獲の蔓延が、ICCAT不信の根幹にある以上、不正漁獲の実態を知った上で、それにどう対処していくかを、考えないといけない。その判断材料になるレベルの報道があったなら、「ワシントン条約断固阻止」という世論一色にはならなかっただろう。

不正漁獲の背景

クロマグロ激減の要因は、2000年ぐらいに、日本の商社が、地中海にもちこんだ、畜養である。畜養の手順は、だいたい、こんな感じ。

1)産卵場で待ちかまえて、産卵群を巻き網で一網打尽にする
2)網の中でマグロを生かしたまま曳航し、いけすに入れる
3)数ヶ月間餌を与えて、脂をつけてから、日本に出荷する

産卵期のマグロは身がやせていて、そのままでは市場価値がない。畜養が普及し、産卵期のマグロの市場価値が上がると、急激に産卵場での漁獲が増えた。遵法意識の低いラテン諸国は、漁獲枠を無視して、畜養マグロを増産した。それを、日本の商社が購入し、安い値段で国内に流通させたのである。その結果、それまで貴重だったトロの値段が一気に下がり、回転寿司でもトロを見かけるようになった。
(3/24追記 一般的な一皿100円~200円の回転寿司のトロは、メバチかなにかでしょう。オセアニア・地中海で畜養が盛んになってからは、単価の高い高級回転寿司店では、畜養クロマグロおよび畜養ミナミマグロのトロも回っています。割合としてはミナミマグロが多いです。)

ICCATの管理下で、なぜ不正漁獲が蔓延したのか?

産卵場で一網打尽操業をした結果、地中海産卵群はあっという間に減少した。危機感を抱いたEUは、これを押さえ込みにかかった。EU圏内では、減少したクロマグロの消費は厳しい非難にさらされている。しかし、資源のことなど何も考えず、値段が安ければ幾らでも食べる日本という市場があるかぎり、畜養マグロは作っただけ売れてしまう。また、不正な畜養の拠点が、スペイン・イタリアから、トルコ、リビアへと法の網が緩い国へ移動したことで、ますますEU内でのコントロールがきかなくなった。ニッチもさっちもいかなくなって、ワシントン条約で取り締まろうとしたのである。もちろん、管理組織ICCATだって、手をこまねいていたわけではない。出来る限りのことはしたけれども、十分な成果を上げることは出来なかったのである。そのあたりの経緯は、次の2つの文書を見て欲しい。

1)宮原正典氏(水産庁審議官) 「まぐろを巡る国際問題」

基本となる国際条約に海洋法第64条というのがありますが、見て頂きたいのは、国際管理の基本となる条項ですら単に協力の義務だけです。沿岸国の主権的権利は他の魚種と同様に認められていて、沿岸国は捕る、捕らせる権利を持っています。ただ自分達だけでは管理も完璧に出来ないため協力しなければなりません。ただ協力をしなさいと書いてあるだけなのです。協力をする為の機関として、地域漁業管理機関を作りなさいという事です。

2)三宅眞氏(ICCATの元事務局次長) 「過剰な漁獲能力の削減急務」

(マグロの中で資源状態が悪いと言われているのは?)
資源が危険な状態にあるのは大西洋のクロマグロとミナミマグロです。

(クロマグロの資源管理がうまくいかないのは。)
クロマグロの失敗の理由は、地中海周辺の漁業国が規制を守らなかった為です。1990年代から地中海を含む東大西洋では漁獲量割当制、最小サイズなどを決め、規制をしていますが、それが守られて来なかったのです。もし各国が割当を守っていれば、今のような状態には決してなっていません。

(地中海の国々はなぜ守らないのですか。)
私は、独特の地中海文化の影響が大きいと思っています。例えば、多くの地中海国では表面経済と地下経済があるように、本音と建前が違うダブルスタンダードが当たり前です。表の規制があっても、実際にはそれを守らなければいけないと思っている人が非常に少ない。それを悪いと言っているのではありません。それも文化のひとつです。そういう世界があるという前提でそれに対応した措置をとらないといけません。

(ICCATなどRFMOの管理の能力に限界があるのでしょうか)
管理能力が無いというより、科学者が管理方法を示しても、それを委員会で決める上で限界があります。多数決や全会一致などによる決定は、各国の利害に左右されてしまう。これはどうしようもない。

(RFMOの資源管理で漁業先進国とこれから漁業を発展させたい途上国の問題もあると聞きますが)
途上国が自国民の漁業を本気で発展させようとしているならば、先進国は積極的に支援する責任があります。しかし、今の途上国のマグロ漁業参入の多くは、途上国に与えられる権利をうまく利用しようとする先進国によるものです。いわばこの問題は、漁業先進国と途上国の対立ではなく、漁業先進国本国プロパーと先進国による外国資本の対立で、先進国の問題が大きいです。途上国も入漁権を売れば儲かるので、途上国の権利は譲らない。これもマグロが国際的な貿易対象ビジネスとなったために生じた悪循環です。

これらの文書から、地域管理機関が違法漁業に頭を悩まされている現状がわかるだろう。遵法意識が低いラテン諸国に漁獲規制を守らせるのは難しい。その上、途上国の権利を利用して、非持続的な漁業を続けようという動きが活発化している。現にリビアは「先進国が資源を枯渇させたのだから、我々は規制に従う必要はない」とワシントン条約の締約国会議でも、啖呵を切ったばかり。EU圏内での締め付けが強まれば、リビアでの畜養がふえるだろう。それに対して、ICCATにできることは、せいぜいリビアの漁獲枠を減らすことぐらい。最初から、「先進国の身勝手な漁獲枠は守らない」と宣言している国に対しては、牽制にもならない。ワシントン条約に危機感を感じた日本は、不正なマグロを水際で阻止する体制を整えようとしている。水産庁は、去年から、がんばって取り締まりをしており、すでに水際で何隻か止めたという話を小耳にはさんでいる。しかし、日本が買わなければ、不正マグロは中国その他に行くだけだろう。90年代ならまだしも、今更、日本単独で輸入を規制しても、効果はしれている。

(3/24追記 中国の消費についてもふれておきます。現在は中国のマグロの消費量はそれほど多くありません。今、クロマグロが減少している責任は、中国ではなく、日本にあります。ただ、現在すでに地中海のイケスには不正に漁獲された大量の魚が入っていますので、日本が買わなくても、世界のどこかに、確実に出荷されます。その候補としては、購買力、市場の大きさ、モラルの低さから、中国が有力です。さらに、中国を経由して加工品として、黒いマグロが日本に入ってくる可能性は大いにあります。しかし、不正畜養ビジネスが、中国マーケット向けの産業として長期的に成り立つかは微妙です。現在のコスト・価格だと、難しいかもしれません。日本単独で、黒いマグロの輸入を規制しても、それなりに効果があるかもしれません。とりあえず、日本は出来る限りのことをやることが大切です。)

ICCATの弱点は、ワシントン条約付属書IIで補完できた

地域管理組織には、遵法意識の低い加盟国への強制力がないという致命的な欠点がある。ICCATのような組織で、不正漁獲が蔓延する地中海のクロマグロを管理するのは、難しいのである。「ICCATで管理をするから大丈夫」という日本の主張が、いかに非現実的であるかは、日本代表の宮原さんが一番よくわかっているはずだ。ICCATの致命的な欠点を補いながら、漁業を続けるための選択肢が、実はあった。ワシントン条約の付属書IIである。付属書IIに掲載されれば、管理機関(ICCAT)の認定書のない野生動物は国際取引が出来なくなる。リビアが仮にICCATから脱退しようとも、日本も中国も黒いマグロは買えないのである。ワシントン条約は、自国での消費を制限しないのだが、畜養マグロの市場は、地中海にはほとんど無い。ここまで政治問題にしたら、EU内でのクロマグロ消費は絶対に伸びないし、リビアの国内消費では元が取れない。結局、ICCATの漁獲枠内で正規に獲った魚を日本に輸出するしか無くなる。

日本では、ワシントン条約=漁業の消滅として報じられているが、必ずしもそうではない。ワシントン条約の付属書IIには、地域管理機関の抜け道になりやすい不正な国際取引を防ぐ機能がある。一方で、ワシントン条約では規制できない漁業国内の消費は、地域管理機関が責任を持つ必要がある。ワシントン条約付属書IIと地域管理機関は、お互いの弱点を補完しあう関係にあり、「ワシントン条約とICCATのどちらで管理すべきか」という議論は、そもそも根底から間違えている。

本気で、不正漁獲を押さえ込もうと思ったら、現在のICCATの限界に直面する。その限界を補うには、付属書IIが必要だったのだ。豪州やフランスなど一部の漁業国が、付属書IIを強く圧していたのは、そういう背景がある。付属書IIであれば、ICCATの管理下で漁獲されたという証明書があれば自由に輸出できるので、ルールを守る国にとっては、大きな負担ではない。現状では、強制力をもった輸出規制はワシントン条約しかないのだが、日本はリビアと組んで、締約国会議をグダグダにしてしまった。日本政府は何のために、誰と戦っているのだろうか?

まとめ

1)これまで
EUから、正規漁獲も不正漁獲も、ほとんどが、日本に来ていた。

2)ICCATのみで管理
EUが締め付けを厳しくした結果、地中海の畜養はリビアへ移りつつある。日本が輸入の監視を厳しくすれば、不正マグロは、中国に行くだろう。リビア→中国という、ICCATの枠組みで規制が難しい魚の流れが増える。結果として、資源は減少を続け、漁業の消滅は時間の問題。

3)ワシントン条約付属書IIが採択される
不正なマグロの国際取引が難しくなる。正規の漁獲枠で獲られたEUのマグロは、今まで通り、日本に来るだろう。ICCATの漁獲枠は守られるので、資源も回復に向かう可能性が高い。日本は、今後も持続的にタイセイヨウクロマグロを輸入できたかもしれない。

4)ワシントン条約付属書Iが採択される
全ての国際取引が許されないので、EU圏内で細々と伝統的な消費のみがのこるだろう。

日本はどうすべきであったか?

日本は、豪州・フランスと連携して、付属書IIを目指すべきだったというのが俺の意見。日本が積極的に付属書IIを目指せば、多くの保護団体はサポートしたと思う。「規制は必要だけど、付属書Iは勘弁してほしい」という多くの漁業国の支持もえられただろう。持続的な漁業に対して、リーダーシップを発揮した上で、日本への輸入を維持することが出来た。にもかかわらず、「ICCATのみで十分」という馬鹿な主張をしてしまった。おかげで、タイセイヨウクロマグロを日本が独占している現状は遠からず失われるだろう。今回の勝者は、不正畜養ビジネスで一山当てようというリビアと、安い値段で黒いマグロを買いたたける中国であり、敗者は日本の消費者と持続的な漁業だろう。極東ブログは、「外交の勝利というなら、結果として日本の背後でうまく動いた中国のほうではなかったか」と指摘しているが、その通りだと思う。
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/03/post-a665.html

こういった背景をふまえた上で、極東ブログで紹介されていた読売新聞の記事を読んでみると、実に味わい深いです。

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20100320-OYT1T00117.htm
否決の流れを作ったのはリビアだった。18日の第1委員会では、リビアの代表が同国の最高指導者カダフィ氏ばりに、「(マグロの国際取引禁止は)先進国 による陰謀だ!」と声高に主張し、途上国の反欧米の心情に訴えた。さらに、議論の打ち切りと即時採決を提案し、急転直下、否決へとつながった。
実は今年2月末、水産庁の宮原正典審議官が極秘裏にリビアを訪問し、締約国会議でのクロマグロ禁輸反対に支持を求めていた。日本の説得工作で、当初関心が低かったリビアから、最終的には「日本支持」の言質を引き出すのに成功した。

次の文書は宮原さんの昔のお言葉です。こういうことを言ってくれる宮原さんには、期待をしていたので、とても残念です。

もう一つはなかなか難しい問題ですが、途上国の漁業の発展です。途上国は漁業でこれからも発展していく権利がある。今確かに資源が悪くなったけれども、それは先進国が勝手に獲りまくって資源を悪くしたのだから、そのつけを途上国にまわすのは不当だ、資源が悪くなったのはあなた達のせいであり早く直してくれ、その代わり俺たちは自分達の漁業をやる、公海でも獲らしてもらいます、漁船も造らしてもらいます、と主張しています。特に強く主張しているのは、大西洋ではラテン諸国とアフリカ諸国、太平洋では島諸国です。
この途上国の権利をうまく利用しようとしている者がまたいるわけです。それは当然ですね。台湾は今虐められていますから、じゃあ途上国の名前で漁船を増やす分は怒られまい。さっきのFOC です、途上国に逃げ込む事を考え出しています。とんでもないという事で、それを止めにかかっているわけですが、途上国は、俺たちが漁業発展するのに台湾はわざわざお金を出して助けてくれている、そういういいヤツなのに何でお前は台湾を虐めるんだ、と食って掛かってくるんです。とんでもない、台湾と組んだらお前も一生の終わりだから止めろ、と幾ら言ってもお金の方が強くてどうしてもそっちにむく、そういう人達を含めた国際会議なのです。これは大変面倒くさいわけです。ここから線を引いて台湾だけを隔離して、お前だけは絶対どこに逃げても駄目と出来れば良いのですが、そこはまた、しづらい所です。

ワシントン条約の報道において、日本のメディアは国民に何を隠したか

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日本メディアは、ドーハ締約国会議をどのように伝えたか

今回のクロマグロのワシントン条約に関して、日本の報道は、「欧米の資源囲い込みの陰謀から、日本の食文化を守らなくてはならない。水産庁がんばれ!!」という論調一色であった。とくに、読売の社説は、水産庁の主張をそのままコピペしたような感じだ。

「食文化守られた」 マグロ禁輸否決で市場関係者や消費者(中日新聞)
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2010031902000226.html
マグロを食べる日本の文化が守られた-。マグロの入手困難や、価格高騰を懸念していた東海地方の市場関係者や消費者からは安堵(あんど)の声が上がった。

クロマグロ規制 全面禁輸はあまりに強引だ(3月16日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100315-OYT1T01323.htm?from=y10
日々の食卓にのぼるマグロを、いきなりジュゴンやパンダと同じ絶滅危惧種にするのは強引すぎる。
日本は、禁輸採択の場合、受け入れを留保して漁を続ける方針だ。欧米の資源囲い込みを防ぐには、やむを得ない選択だろう。

日本のメディアは国民に何を伝えなかったか(隠したか?)

情緒的な論調で、消費への危機感を煽る一方で、欧米の世論を保全に向かわせた次の3つの事実を、日本のマスメディアは、国民に知らせなかった。

1.タイセイヨウクロマグロは激減しており、すでに、現在の漁獲を支えられる状態にない
2.ICCATの規制は守られておらず、漁獲枠よりも多い不正漁獲が存在する。ICCATもそのことを認めている
3.不正漁獲されたマグロのほとんどは日本で消費されており、以前から問題になっていた。

タイセイヨウクロマグロの資源状態については、ここにまとめた。資源は危機的に減少しているというのはICCATの研究者の一致した見解である。日本の報道は、インターネットで公開されているICCATの資源評価について一切ふれずに「絶滅危惧ではない」という日本の政府関係者のコメントを垂れ流すのみ。FAOの専門委員会では、日本政府が派遣した一人をのぞいて全員がワシントン条約で規制をするのに十分な証拠があると認めたのである。国民が公平な判断をするためには、こちらの声も紹介すべきである。南アフリカにはButterworthという研究者がいる。IWCでは一貫して、捕鯨の肩を持ち、英米からは「日本より」と批判されることが多かった人物である。彼ですら、マグロの規制には賛成したのである。

日本政府はICCATの有効性を声高に主張したのに対して、欧米はICCATの規制には懐疑的であった。ICCATのレポートを見れば、どちらが正しいかは明らかだ。漁獲を15000t以下にすべきという科学者の勧告を無視して、2007年に29500tのTACを設定。報告された漁獲枠は34514tだが、実際には61000tの漁獲があったとICCAT自身が認めているのである。

これらの黒いマグロの温床となっているのは畜養である。産卵群をまとめて漁獲して、いけすにいれて、太らせてから日本に出荷する畜養が、地中海で広まっている(実は日本のクロマグロの養殖もほとんどが畜養なのだが、メディアはそのこともふれない)。漁獲枠が3万トンに対して、地中海の畜養イケスのキャパシティーは、6万トンといわれている。そもそも、漁獲枠など守る気がないのである。不正漁獲はマフィアのビジネスになっている。EUでの規制強化を見越して、リビアに黒い畜養の拠点が移動しつつある。もちろん、リビアの畜養に投資をしているのは、先進国の資本である。EU内ではクロマグロの消費は厳しい社会的圧力にさらされており、レストランがテロの標的になりかねない勢いである。そこまでしても、リビアで作って、日本が買うという仕組みが出来たので、EUでの規制強化では対応できない。そこで、今回のワシントン条約と言うことになったのだが、リビアと日本が勝ってしまった。「先進国が減らしたものを、俺たちが我慢するのはおかしい。俺たちにも獲る権利がある」と主張するリビアがICCATの勧告に従うはずがない。ICCATで厳しい枠をつけても、リビア→日本という黒いホットラインがある限り、不正漁獲はなくならない。ICCATの枠組みで、資源管理が出来るという日本の主張は、明らかに無理がある

現在、畜養クロマグロは在庫が余っている。不況によって、値段を下げても、売れないのである。こういう状況で、冷凍の在庫が1年以上ある。絶滅の心配をされるほど減っている魚を、在庫が余るぐらい買いあさる必要があるのだろうか。すぐに食べないなら、海に泳がしておけばよい。そうすれば、勝手に成長して、卵を産んでくれるのに。日本商社の乱買が資源枯渇に拍車をかけているのだが、これだって、日本メディアにかかれば「しばらくは食卓への影響はあまりないので安心です」となるのだから、物は言い様である。
「ワシントン条約を妨害したから、日本の食文化が守られた」という、日本メディアの報道は事実に反している。タイセイヨウクロマグロは、持続性を考えれば、ほぼ禁漁に近い措置が必要になる水準まで減っている。ICCATがまともに規制をすれば、ほぼ禁漁になるし、今のままとり続ければ数年で魚は消えるだろう(絶滅ではなく、商業漁獲が成り立たなくなると言う意味)。どのみち、現在の水準で輸入はできない。大西洋のマグロを日本が大量消費をしている現状は、すでに破綻しているのである。今後、クロマグロの供給が減少するのは確実だが、その原因は、ワシントン条約でも、中国の消費でもなく、まともに漁獲規制ができないICCATと日本人による乱買と乱食である。

それにしても、危機感を煽るようなデタラメな表現が目立つ。読売新聞は「日々の食卓にのぼるマグロ」と表現しているが、タイセイヨウクロマグロは日々の食卓に上るような魚ではない。毎日、クロマグロを食べているのは、高給取りの読売新聞社の社員ぐらいだろう。また、「大西洋のマグロは減っていないのに、ヨーロッパが資源囲い込みのために騒いでいる」というなら、読売新聞はマグロが減っていないという証拠を出すべきである。ICCATの科学委員会もFAOもデタラメだというつもりだろうか。

いまだに大本営発表の日本メディアとそれに踊らされる国民

「資源はどうなのか」、「ICCATの管理体制はどうなのか」というのは、ワシントン条約での規制の妥当性を考える上で、必要な判断材料である。最初に、こういう情報を、正確に伝えるのが、本来のメディアの役割である。少し調べれば、幾らだって情報はでてくる。俺自身も、いくつかのメディアの取材に対して、「こういう資料があります。国民にとって重要な判断材 料になるので、紹介してください」と教えたにも関わらず、すべて無視された。海外メディア経由であれば、幾らでも情報は手に入った。知らなかったとは考えづらい。日本のメディアは、判断材料を国民に隠した上で、情緒的な表現で煽って、予め決められた結論へと誘導したのである

日本の消費者は、地中海のマグロ漁業の現実を理解した上で、なおかつ、「ワシントン条約の規制は欧米の保護団体のジャパンバッシングであり、規制ができなくて良かっ た」と心の底から言えるだろうか。ほとんどの人は、そう思わないだろう。むしろ、「本当に規制は不要なのか?」とか、「日本のマグロ輸入はこれで良いの か?」という疑問を持つはずだ。これらの事実を報道すれば、「欧米の理不尽な仕打ちに対する日本が被害者」という、水産庁に都合の良いストーリーが成り立たな くなる。情緒的な報道を繰り返して、水産庁の望む政策を支持するように世論を誘導してきたのである。

日本にとって、都合が悪い情報をすべて隠蔽して、情緒的な表現で煽っている日本のメディアと、そのメディアに踊らされて、日本中が「鬼畜英米に、勝った」とお祭り騒ぎ。未だに、大本営発表で世論が簡単にコントロールできてしまう日本という国に、危機感を感じる。

追記(2010 3/27)

この記事は極めて舌足らずですので、次の記事も読んだうえで、この問題について考えていただけると幸いです。

もう一つ、知っていただきたいのは、日本のクロマグロ資源の現状です。日本近海のマグロ資源には漁獲枠がなく、地中海以上に無秩序な状態です。未成魚を捕りひかえれば、大西洋から輸入している分は補えます。地球の反対の減少したマグロを捕る権利を主張するまえに、自国の資源管理にきちんと取り組むべきではないでしょうか。

モナコの敗因を分析する

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敗因 その1 妥協を拒んだ結果、漁業国の反発を招いた

ワシントン条約の付属書Iは商取引全面禁止。付属書IIは書類があれば輸出可能となっている。モナコは、付属書Iでの規制を要求して、妥協を拒みつづけた。そのせいで、「保全は必要だけど、いきなり禁止はちょっと・・・」という漁業国が相次いで脱落した。

2009-09-25の記事ではこう書いた

フランスが「いきなり付属書Iはあれだから、付属書IIからでいいんじゃね?」という妥協案を出したのを、英独が「この軟弱者!」と切って捨てた時点で、 EUは分裂の可能性ありと見ていたが、否決されたようですね。

大西洋クロマグロは、西系群(メキシコ湾)と東系群(地中海)に別れている。付属書IIならまだしも、付属書Iが飛び火すると、自国の漁業がつぶれてしまうので、クロマグロ・ミナミマグロ漁業を抱えているカナダ、メキシコ、豪州も、今回のモナコ提案には、神経質になっていた。付属書IIでの合意を目指していれば、これらの国の賛同は得られただろう。また、付属書IIであれば、フランスの賛成は早期に得られていたはずで、EUは早い段階で一枚岩になり外向きに政治力を発揮できた。漁業国の国内事情への配慮が欠けたのが、大きな敗因である。

敗因 その2 漁業とは無関係な国の支持を得られなかった

漁業とは無関係の国を味方につけるノウハウを、日本はIWCを通じて持っている。今回はそのスキルが遺憾なく発揮された。IWCでは、欧米諸国も日本に負けじと激しく票とりをして、常に日本の動きを封じてきたのだが、今回は、欧州は内部分裂をして、その調整にエネルギーの大半を使うことになった。米国も、規制反対の商務省と規制賛成のNOAAが内部で激しく対立し、国として付属書Iの姿勢を打ち出したのが締約国会議の10日前。EUに至っては、付属書Iの合意を得られたのは締約国会議の3日前だ。欧米が内部調整に手間取る間に、日本は首尾一貫して外交工作を重ねてリードをした。
とはいえ、ここまで大きな差がつくことを事前に予想していた人間は、ほとんどいないだろう。水産庁自身も驚いているに違いない。これまでワシントン条約の締約国会議は、ほぼFAO専門委員会の決定通りになってきたという歴史がある。FAOの専門委員会は、大西洋クロマグロをワシントン条約で規制する必要性を認めたのだから、今回も普通に考えれば、規制になるはずだった。そう読んだからこそ、フランスもスペインも、自国の漁業者の反発を承知で、モナコ提案に同意したのである。減少は明らかだし、科学者(FAO)と当事者(EU)のコンセンサスも最終的には得られた。アラブ、アフリカなどの直接利害に絡まない国は、普通に考えれば規制に賛成するだろうと、多くの人間は思っていた。いくら日本がトロパーティーをやったところで、票の流れは限定的だと見られていた。ところが、そうではなかったんだね。アフリカの票を得るに当たって、中国の協力が大きかったと言われている。サメのリスティングを妨害したい中国と、マグロのリスティングを妨害したい日本の思惑が合致したと言うこと。マグロに関しては、畜養が地中海アフリカ側にも飛び火している。「おまえらが減らしておいて、勝手に取引停止にするな」というのが、アフリカサイドの言い分。これも、心情的には理解できる。

今回の結果は、科学的なコンセンサスを重視して、保全を優先するという風潮は、欧米の一部の国にとどまることを示した。大西洋クロマグロは、「今すぐ規制しなければ、いつ規制をするのか?」という感じなのだが、大差で規制は否決されてしまった。ワシントン条約という枠組みでは、高い経済価値をもつ、広域分布種の保全は難しいことを示したと言えるだろう。

大西洋クロマグロは本当に減っているのか?

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大西洋クロマグロは本当に減っているのか?

ワシントン条約でクロマグロを規制しようという動きは、1992年にさかのぼる。また、タイセイヨウクロマグロは、1996年からレッドリストに載っている。それから、すでに10年以上が経過している。乱獲を抑制するための時間は、十分にあったはずだ。にもかかわらず、地中海での乱獲は放置され、資源は悪化の一途をたどっている。次の図は国際管理機関ICCATのレポート(http://www.iccat.int/Documents/SCRS/ExecSum/BFT_EN.pdf)からの引用である。run6とrun7はそれぞれ、シミュレーションの設定が違うのだけど、どちらにしても減少トレンドに変わりはない。


地中海の産卵群は、現在も急速に減少している。欧州のWWFは、地中海諸国の畜養備蓄数を詳細に調べ上げて、現在の漁獲が続くと産卵群は2012年にはほぼ消滅するというレポートを発表した。このWWFのレポートは専門家・業界の間でも、かなり信頼されている。

専門家の間では、ワシントン条約での規制をすべきというコンセンサスが、すでにできあがっていた。FAOの専門委員会でも、規制に反対したのは、日本政府が派遣した研究者のみ。IWCでは、一貫して日本の捕鯨に好意的な態度をとっていた海外の研究者も、ワシントン条約の規制には賛成をした。それだけ、大西洋クロマグロの資源状態は悪いのである。「ジャパンバッシング」、「日本狙い撃ち」などと勘違いしている人も多いが、どうみても何らかの規制が必要な状況だろう。

管理機関ICCATに任せておけば安心なのか?

管理機関ICCATは、これまで科学者の提言をことごとく無視してきた。2006年の会合では、科学者が1万5000トンの漁獲枠を勧告したのに対して、ICCATが設定した漁獲枠は3万トン。実際の漁獲量は、漁獲枠を遙かに上回る5万~6万トンと推定されている。不正漁獲については、ICCAT自体が認めているのである。にもかかわらず、10年以上も何ら実効性のある手段を執ってこなかった。保全の必要性が叫ばれてから20年近く経過しても、資源状態は悪化する一方であった。こういった歴史を振り返れば、「ICCATの枠組みで管理は十分」という日本の主張に疑問の声が上がるのは当然だろう。

ICCATの管理能力の欠如に危機感を募らせた保護団体は、2008年からワシントン条約での規制を求める大規模なキャンペーンを開始した。国際世論が規制強化に傾くなかで、ICCATは去年の9月になって、ようやく科学者の勧告する水準まで漁獲枠を削減した。保護団体が、本気で拳を振り上げたのを見て、あわてて行動を起こしたのである。ICCATが設定した2010年の漁獲枠は13500トン。不正漁獲込みで6万トン程度といわれている現在の漁獲量を1/4に削減する必要がある。これまで、漁獲の削減に対して全く無力であったICCATがこのように厳しい規制をきちんと守らせることができるとは思えない。

こういう状況で、良く規制を阻止したものだと思う。本当に驚いた。今後は、その外交力を、地中海諸国に規制を守らせるような方向で発揮してもらいたいものである。

日本漁業「責任」時代へ 35

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みなと新聞連載 第35回

みなと新聞 2010年2月19日 の1面に掲載

PDFは、こちらminato35.pdf

欧州会議はクロマグロの規制賛成に

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EP backs trade ban on blue fin tuna and polar bears .

2010年2月10日に、欧州会議(european parliament)は、タイセイヨウクロマグロをワシントン条約の付属書Iに掲載するというモナコ提案を正式に支持することを表明。EU27ヶ国にモナコ提案の支持を要求した。
去年の9月にモナコ提案の是非を巡って議論をしたときは、フランス、イタリア、スペインの反対により、「欧州会議としてモナコ提案を支持する」という結論を得られなかった。その後、保全への世界世論の高まりにより、イタリア、フランスが方向転換し、欧州会議として、正式にクロマグロの規制支持に回った。

今回の決定のポイントは、次の3点

  1. 国内取引の容認、伝統的な沿岸漁業の存続
  2. 漁船乗組員、漁船オーナーへのEUからの財政支援
  3. 違法漁業(IUU)への取り締まりの強化とペナルティーの増加

The Council is expected to take a decision on the EU’s position on February 26.

今回の決定には拘束力はないものの、影響は大きいだろう。EUとしての方針は2月26日に示される予定だが、賛成に拘束をかけることも、あり得る展開である。拘束をかけないとしても賛成国が多数だから、ワシントン条約締約国会議での大勢に影響はないかもしれない。

スペイン陥落は時間の問題かもしれんな。それにしても、イタリアは相変わらず、空気を読むのが抜群に上手い。今回も、タイムリーな方向転換で、存在感を示しつつ戦勝国入りですね。

今日の結論:歴史は繰り返す

マグロ規制に賛成するフランスの変節を産経新聞・山口昌子さんが一刀両断

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【パリの屋根の下で】山口昌子 マグロ抜き握りが流行!? (1/2ページ) – MSN産経ニュース.

禁止反対の日本は「(状況を)ひっくり返せるように努力したい」(赤松広隆農水相)と、禁止回避に向けて関係国への事前説得に力を入れる考えを示しているが、その声はフランスには届いていないばかりか、日本は「(クロマグロの)8割消費国」「スシ犯人説」などと被告人扱いだ。
ただ、ここ10年、クロマグロを大量に消費しているのは日本だけではない。フランスなど欧州でも健康食ブームとあいまって、スシやサシミが人気を呼んでおり、乱獲や価格高騰に“貢献”中だ。

おやおや、日本の消費への非難は「被告人扱い」で、フランスの消費は「乱獲に貢献で」すか。今でもクロマグロの8割は日本で消費されているのは事実である。欧州だってマグロを消費するだろうが、その量は日本の比ではないし、歴史も浅い。クロマグロをここまで減らした責任は圧倒的に日本にある。

残り少ないマグロを世界各国が消費を控える中で、日本は値崩れするほど買いまくっている。資源をここまで減らしたことに何の反省もなく、自国の沿岸では未成魚を獲りまくっている。挙げ句の果てに、大臣が「マグロは絶滅危惧ではない」と開き直っているんだから、海外の共感など得られるはずがない。「(状況を)ひっくり返せるように努力したい」(赤松広隆農水相)というのは、ようするに、クロマグロが直線的に減少している現状を変えないために努力をしているだけである。「資源減少?俺たちは最後の一尾まで食うだけだ」という日本の声はしっかりと世界に届いている。その結果が、ワシントン条約でタイセイヨウクロマグロの規制を求めるモナコ提案への賛同国の増加である。

近年は、欧州の裕福層を中心に、クロマグロの消費を控えるようになってきている。少なくとも、消費を抑えようという世論が欧州にはある。日本にそのような世論は皆無である。山の旅館でも、食べたくないのにマグロが出てくる日本よりも、マグロ抜きの寿司屋が出てくる欧州の方がまともだろう。海外の研究者から、「日本人は、なぜ減少したクロマグロをわざわざ食べるのか」という質問をしばしば受ける。彼らは、純粋に、日本の消費者の心理が理解できないのである。野生生物を消費する以上、その持続性に関心を払う責任があるという当たり前のことが、なぜ日本人には理解できないのか。産経新聞のようなメディアの責任はきわめて重大である。

山口昌子さんは、何が言いたいんだろうね。少なくとも、日本人にマグロを消費した責任を考えさせようという意図はないだろう。「フランス人もマグロを消費しているんだから、日本の消費にけちをつけるな」というニュアンスである。「フランスは、日本と一緒に漁獲規制に反対して、何も考えずに消費を続けるべきだ」と言いたいのだろうか。あと2~3年、クロマグロを輸出する代償として、国際イメージを著しく失墜させることが、フランスの国益にかなうとは思えない。どっちみち食えなくなるのは確定なんだから、規制に回った方がイメージアップになるというフランスの判断は妥当である。日本がイタリアやフランスの変節を非難するのは、「いい年して、こんなことばかりやっていられない」と仲間が次々と脱退した暴走族で、最後に残されたメンバーが、「あいつ等は根性がない」と脱退者を非難しているような印象だ。クジラに続いて、マグロでも、日本は、国際的に孤立してしまったわけだ。マグロ漁業国ですら保全に賛成せざるを得ないところまで、マグロ漁業に対する国際世論が厳しいのである。イタリアやフランスの変節を感情的に非難するのではなく、日本が置かれた状況を客観的に見るべきである。あと2~3年、クロマグロを輸入する代償として、国際イメージを著しく失墜させることが、日本の国益にかなうとはとうてい思えないのだ。

仏、クロマグロ取引禁止を支持 EU一致、日本に影響も – 47NEWS(よんななニュース)

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仏、クロマグロ取引禁止を支持 EU一致、日本に影響も – 47NEWS(よんななニュース).


イタリアに続き、フランスも方向転換したことで、EUの主要国で規制反対はスペインのみになりました。EUとしては、付属書I(取引禁止)でまとまったことになります。

ワシントン条約でのクロマグロの規制を巡る一連の動きは、こちらのまとめページをご覧ください。

ワシントン条約でのクロマグロ規制の動き(まとめ)

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from 18 Mar. 2009

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