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大西洋クロマグロは本当に減っているのか?

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大西洋クロマグロは本当に減っているのか?

ワシントン条約でクロマグロを規制しようという動きは、1992年にさかのぼる。また、タイセイヨウクロマグロは、1996年からレッドリストに載っている。それから、すでに10年以上が経過している。乱獲を抑制するための時間は、十分にあったはずだ。にもかかわらず、地中海での乱獲は放置され、資源は悪化の一途をたどっている。次の図は国際管理機関ICCATのレポート(http://www.iccat.int/Documents/SCRS/ExecSum/BFT_EN.pdf)からの引用である。run6とrun7はそれぞれ、シミュレーションの設定が違うのだけど、どちらにしても減少トレンドに変わりはない。


地中海の産卵群は、現在も急速に減少している。欧州のWWFは、地中海諸国の畜養備蓄数を詳細に調べ上げて、現在の漁獲が続くと産卵群は2012年にはほぼ消滅するというレポートを発表した。このWWFのレポートは専門家・業界の間でも、かなり信頼されている。

専門家の間では、ワシントン条約での規制をすべきというコンセンサスが、すでにできあがっていた。FAOの専門委員会でも、規制に反対したのは、日本政府が派遣した研究者のみ。IWCでは、一貫して日本の捕鯨に好意的な態度をとっていた海外の研究者も、ワシントン条約の規制には賛成をした。それだけ、大西洋クロマグロの資源状態は悪いのである。「ジャパンバッシング」、「日本狙い撃ち」などと勘違いしている人も多いが、どうみても何らかの規制が必要な状況だろう。

管理機関ICCATに任せておけば安心なのか?

管理機関ICCATは、これまで科学者の提言をことごとく無視してきた。2006年の会合では、科学者が1万5000トンの漁獲枠を勧告したのに対して、ICCATが設定した漁獲枠は3万トン。実際の漁獲量は、漁獲枠を遙かに上回る5万~6万トンと推定されている。不正漁獲については、ICCAT自体が認めているのである。にもかかわらず、10年以上も何ら実効性のある手段を執ってこなかった。保全の必要性が叫ばれてから20年近く経過しても、資源状態は悪化する一方であった。こういった歴史を振り返れば、「ICCATの枠組みで管理は十分」という日本の主張に疑問の声が上がるのは当然だろう。

ICCATの管理能力の欠如に危機感を募らせた保護団体は、2008年からワシントン条約での規制を求める大規模なキャンペーンを開始した。国際世論が規制強化に傾くなかで、ICCATは去年の9月になって、ようやく科学者の勧告する水準まで漁獲枠を削減した。保護団体が、本気で拳を振り上げたのを見て、あわてて行動を起こしたのである。ICCATが設定した2010年の漁獲枠は13500トン。不正漁獲込みで6万トン程度といわれている現在の漁獲量を1/4に削減する必要がある。これまで、漁獲の削減に対して全く無力であったICCATがこのように厳しい規制をきちんと守らせることができるとは思えない。

こういう状況で、良く規制を阻止したものだと思う。本当に驚いた。今後は、その外交力を、地中海諸国に規制を守らせるような方向で発揮してもらいたいものである。

Comments:3

大は小を飲み込む 10-03-19 (金) 12:02

大西洋・地中海マグロの国際取引禁止が否決されちゃったけど、どうなってんの? 国際世論の盛り上がりと日本国内の無関心、科学者の研究報告と日本政府の言い分、これは完全にドッキリカメラもの。はたして真実はいかに? ワシントン条約などの生物資源保護措置は、一度死んだふりをして、我々を思いっきり脅かそうという考えなの? こうして、日本の世論は忘却に忘却を重ね、気がつくと寿司などバカ高くなって食えなくなるといった事態に愕然とすることにならないのを祈るばかりだな。 

kato 10-03-19 (金) 13:19

http://twitter.com/Keiko_dolphin
ここのレポが生々しいです。既にご存じかもしれませんが。

井田徹治 10-03-20 (土) 21:33

勝川さま
議論開始から一気呵成の採決まで、すべてがドーハに向かう途中でのできごとで、こちらに着いたときには、終わっていました。(笑) 票数を知ったのは関空で飛行機に座ってからでした・・。
CITESの取材は長く、何が起こっても驚かないつもりだったのですが、今回は正直言って驚きです。3分の2は難しくても、少なくとも賛成が多数だと思っていました。中国のフカヒレ規制やトラ問題への反対姿勢は根強いので、アフリカ諸国への彼らのロビイングの影響は確かにあったと思います。実態は分かりませんが、水産庁もここまで支持があるとは思っていなかったようです。
コペンハーゲンのCOP15にしても、CITESにしても、国際交渉の場で中国などの途上国が大きな力を持つようになり、旧来の環境保護派の影響力は目立って低下しています。今回の出来事はその象徴のように思います。Pro development , Pro use への流れができつつあると言えるかもしれません。これは資源や環境の将来を考えると大変なことです。
IUCNのある専門家は、ICCATの科学者は正しい仕事をしている。問題はICCATの政治家だ、と言っていました。
ICCATの科学者の勧告に世界がきちんと従えば(ということは13500の枠ではまだまだ多すぎる、ということになります)、まだ、クロマグロに回復の可能性はあるかもしれない、というのがこの人の指摘でした。次回のCITESまで、ICCATと日本政府の姿勢に厳しい目を注ぐ必要があるということだと思います。もちろん、日本のトレイダーや消費者にもね。

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