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北海道沿岸漁業者とのミーティング その4

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スケトウダラ太平洋系群は資源管理ができる唯一の大規模資源

日本のTAC制度で、強制力があるのは、スケトウダラとサンマのみ。サンマは公海資源の出荷規制なので、実質的にまともな漁獲枠があるのはスケトウダラのみと考えて良いだろう。スケトウダラは4系群あるのだが、そのうち2つ(オホーツク、根室)は主群がロシアにある資源なので、日本単独での漁獲枠の設定自体に意味があるか疑問である。日本のEEZに主群がある2つの資源のうち、日本海北部系群は過剰な漁獲枠によって激減してしまった。資源が悪くなる前に、適切な漁獲枠が設定できたのは、スケトウダラ太平洋系群のみ。この漁業は、国内で唯一の、出口規制で管理されている大規模資源なのである。この資源を利用しているのは、北海道の沖底と、沿岸漁業者のみ。沖底と沿岸はあまり仲がよろしくないのだが、それぞれの漁獲枠は予め分けられている。沖底と沿岸の内部では、ある程度の調整は可能である。俺が繰り返し主張してきた、漁業を生産的にするための次の2つの条件が満たされているのである。

  1. 漁獲枠を資源の生産力に対して適切な水準に下げる
  2. 漁獲枠を内部調整が出来る単位まで配分する

なんと、スケトウダラ太平洋系群は、個別漁獲枠制度の条件がそろっているのだ。

漁業はどう変わるのか

漁獲枠がしっかりとしていれば、資源量は安定する。また、漁獲枠が限られていれば、漁師は、市場の需要がある、価値のある魚を狙って捕るようになる。安定 して質の良い魚が水揚げあされれば、需要は必ず増える。結果として、値段はあがり、ブランドも確立できる。管理の実績を積み上げた先には、MSCのエコラ ベルも見えてくる。欧州の白身市場は韓国とは比較にならないぐらい単価が高い。将来的には、ここを狙いたい。数十年スケールで、安定して利益が出る産業に なれば、後継者問題も自ずと解決するだろう。

そのために必要なことは産官学がそれぞれの役割を果たすことだ。

  • 研究者の役割:資源の生産性に応じた漁獲枠を勧告する
  • 行政の役割 :研究者が設定した漁獲枠を沖合と沿岸に配分 し、きちんと守らせる
  • 業界の役割:与えられた漁獲枠から得られる利益を増やし、ここの漁業者の生活が成り立つように配分する

スケトウダラ太平洋系群では、それ ぞれが自らの役割を果たし始めている。歯車がかみ合えば、必ず漁業は利益を生むようになる。

漁獲枠のせいで、魚がいるのに捕れないというのは、漁業者にとってはつらいことだろう。サバ類のように、資源状態が最悪なのに、業界の要求通りいくらでも漁獲枠が水増しされている魚種もあるのに、自分たちだけ漁獲枠で漁業を制限されて不公平だと感じるだろう。しかし、本当に恵まれているのは、北海道のほうである。太平洋のサバ漁業など、自分で食い扶持を破壊しているようなものである。資源管理をしなければ、資源が維持できないのだから、漁獲枠はあった方が良い。国際的にみても実際に、利益を出している漁業国は、資源管理に熱心な国ばかり。アラスカのスケトウダラ漁業は、個別枠が導入されてから、収益が急増した。スケトウダラ・バブルと言っても良いような状況にある。太平洋系群でも、同じように利益を伸ばしていけるはずである。沖合底引きは、すでに資源管理への適応を進めている。漁獲枠を内部で調整し、経済的に有効利用する仕組みを作っている。漁獲枠を守った上で、利益をのばし、新船を建造しているのだから、たいしたものである。こういう風に利益が出るようになったのは、漁獲枠が設定されてからである。加工業者との縦の連携も強化されているようである。このあたりの話は、今度じっくり聞きに行くつもりだ。

教育が成功の鍵

太平洋系群を利用する沿岸漁業は、広範囲に及んでおり、内部の調整は沖底と比べると遙かに難しい。時間がかかるのは当然である。日本では、漁獲枠の管理の歴史がないので、資源管理は「収入が減少するいやなこと」というマイナスなイメージが強い。しかし、実際には、漁業者がこれからも生活をしていくためには必要不可欠なのである。現在の北海道漁業は、変化の時期を迎えている。運を天に任せて、獲れるだけ獲る漁業から、需要が高い魚を計画的に獲る漁業へと変化が徐々に進みつつある。もちろん、変化には常に痛みが伴うのだが、この痛みを和らげるために必要なものが教育である。北海道の漁業はどのような段階にあるのか、今後、どのような方向に進まなくてはならないのか、そして、その結果として、漁業はどのような姿になるのか。これらに対して明確なビジョンをしめすことで、漁業者の感じる痛みを軽減し、変化を促進することができる。海外には、ノルウェーやアラスカのように、この痛みを乗り越えて漁業を改革した国が多数存在する。こういった事例を学ぶことで、自分たちがどこに向かっているかを理解することができるだろう。

沿岸漁業者に、資源管理の話を直接して欲しいという依頼があったが、二つ返事でOKをした。資源管理の意味を教えるのは、我々専門家の仕事であり、日本国内でそれをできる人材はほとんどいない以上、俺がやるしかない。「資源管理で持続的に儲かる漁業」というイメージが浸透すれば、北海道は必ず生まれ変わる。噴火湾周辺のプランクトンの生産量は極めて高いので、親をしっかりと残した上で、効率的な獲り方をすれば、収益は必ず上がる。スケトウダラ太平洋系群は、日本漁業のありかたを変えるきっかけになるだろう。現場の情報と、資源管理の理論がかみ合って、具体的なビジョンを出していくことで、漁業を生産的な方向に導くことができる。漁業者のリーダーと資源管理の専門家が、漁業を持続的・生産的にするという共通の目的をもって、建設的・前向きな話ができたということは、とても意味がある。次に繋がる有意義な会合だったと思います。

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