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どこまで自然減少説を引っ張るつもりなのか?

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マイワシは自然に大変動を繰り返してきた生物であり、
減少期には漁獲が無くても減ることは間違いない。
しかし、近年のマイワシの生産力は高かったのだ。
海洋環境がマイワシに不適だったのは1988-1991の4年間のみで、
1992年以降の減少は漁業が原因である。
卵の生残率が回復してから15年の月日が流れた現在においても、
近年のマイワシ減少は自然減少であるという誤った考えが定着している。
一体、研究者は何をしていたのだろうか。

自然減少説の根拠であるWatanabe et al. (1995)は、
1988-1991年に産まれた卵が漁獲開始前に死んでいたということを示した。
この論文が発表されたのは1995年であり、1991年からは4年ほどライムラグがある。
この4年というタイムラグは論文としては小さい部類だろう。
1991年のデータが整理されてくるのが翌年ぐらい。
そのデータを元に論文を書いて投稿するまでに1年。
論文が審査を経て受理されるまでに1年。
受理されてから掲載するまでにへたをすると1年ぐらいかかる。
たった4年のタイムラグで、論文として掲載されるというのは、
時間的な無駄が非常に少なかったことを意味する。
1988-1991の減少は自然減少であるというWatanabe et al.(1995)の結論は正しいし、
タイミング的にもこれ以上早くするのは難しいだろう。
問題はその後だ。
データが蓄積して行くにつれて、
92年以降の卵生残率が回復したことはわかったはずだ。
にもかかわらず、そのことを主張する人間がいなかった。

マイワシの年表風の図を作ってみた。
は自然減少をした年(世代交代ができないぐらい卵の生き残りが悪かった年)、
は自然増加をした年(獲らなければ資源が増えた年)を示す。

sardine.png

97年の時点で、92-96の5年間の卵生残率が良かったという情報は得られていたはずだ。
資源評価の最近年は当てにならないことを差し引いても、
99年には自然減少ではなく、漁獲の影響で減少しているとわかっていたはずだ。
その時点で適切な管理を開始していれば、今とはだいぶん違うことになっていただろう。
それからさらに10年近い月日が流れているにも関わらず、
マイワシの過剰漁獲を指摘する声はほとんど無い。
どこまで自然減少説をひぱるんだっちゅーの(パイレーツは元気だろうか?) 

漁獲の影響を評価して、資源の減少要因を明らかにするのは資源研究者の役割である。
過剰漁獲を指摘しても、漁業者も水産庁もいい顔をするはずがない。
だからといって、研究者としての役割を放棄して良いというものではないだろう。
資源研究者が正確な情報をきちんと発信しないが故に、
世論も政策もミスリードされてきたのだ。
マイワシの減少に対する研究者の責任はきわめて重い。

Comments:4

ある水産関係者 07-03-03 (土) 14:27

2つの大きな免罪符!?
 日本EEZの資源評価が本格的に始まったのがTAC制度が始まった90年代の後半以降ですが、それから最近までの水産業界を眺めていますと、様々な資源が減少している中で、その原因としての過剰漁獲をカモフラージュするため、研究者及び行政関係者において2つの大きな免罪符が存在していたように思います。

免罪符その1:レジームシフト
 これは言うまでもなく、世界的に注目された学説で、マイワシを含め、様々な資源の変動メカニズムを説明するうえで大いに注目されましたし、その中身についても十分説得力を持ったものです。
 問題は、その使われ方です。レジームシフトの原理が素人にも理解しやすかったため、様々な資源関係の会議で、資源の減少要因の特定に行き詰まった際、仮に過剰漁獲という原因が潜んでいても、それに触れずに説明できる便利なツールとして、行政官のみならず、研究者からも重宝されていた様に思います。

免罪符その2:クジラの捕食
 これも言わずと知れた日本政府が商業捕鯨再開のために開発(?)した便利なツールです。クジラが世界の漁獲量の数倍も捕食するから資源が減少する、とか、捕鯨を再開しないと○○年後には日本近海のサバが枯渇する、など、研究者を含む日本政府が関係者が真面目な顔で宣伝すれば、マスコミが大きく取り上げたこともあり、漁業者を含む国民世論が真に受け、頭の中に強烈に刷り込まれたことは周知の通りです。
 さすがに、研究者は胸の内に反対意見を秘めていた方が多かったようですが、いかんせん、行政サイド、特に、水産庁の関係者が上から下まで「資源減少→クジラが悪い」を信仰させられていた(?)様子でしたので、反対意見など出せるような雰囲気になかったと思います。
 クジラの捕食も、レジームシフトと同様に、資源関係の会議において、過剰漁獲以外に原因の特定にいく詰まった際、あちこちからクジラの責任に帰する意見が出され、問題解決(?)に利用されていた気がします。

 レジームシフトもクジラの捕食も、日本EEZの資源について真剣に考えないといけない時に、タイミング良く登場したため、過剰漁獲をカモフラージュするためにスケベ心を抱いた人達に悪用される憂き目を見たのだと思います。各々の理論は、それなりに根拠もあって立派なものですが、「気違いに刃物」の如く、使われ方次第では、資源管理に悲惨な結果をもたらすことは言うまでもありません。
 

 

勝川 07-03-10 (土) 13:14

魚種交替のアイデアを世界的に確立したのは川崎先生です。
また、マイワシの減少が自然現象だと示したのは渡邊先生です。
彼らは、「マイワシは自然変動をするから、管理は不要だ」などと言っていないんです。
二人とも、「低水準期にはしっかりとした管理が必要だ」といろんな場で述べておられます。

行政も漁業者も、研究は、資源管理をしないための言い訳や
資源が減った責任を回避するための言い訳のための道具だと思っている。
研究サイドがこのまま黙っていては、この状態はいつまでも続きます。
恣意的な誤用には、しっかりとつっこみを入れていく必要があるでしょう。

県職員 07-03-15 (木) 9:28

資源の枯渇を海洋環境のせいにばかりして,乱獲をやめないのは,不景気で給料が減ったので,やけになってギャンブルにつぎ込んで,「世の中が悪いんだ!バブルよ再び!」と酒場でくだをまくようなものですね。不景気な時には,贅沢をせずに,地道に生活をおくっていくか,転職して心機一転がんばるしかないでしょうに。

勝川 07-04-06 (金) 18:43

自然変動が大きい資源に関しては、
低水準でも経営が成り立つ規模に努力量を抑える必要があります。
借金があるのに、資源が激減してしまうと、
減った資源を獲り尽くすしか選択肢が無いですから。

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