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放射能 Archive

放射性セシウムの海洋汚染が人体に及ぼす影響を数理モデルで試算してみた

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福島原発から、放射性のセシウムが海水に漏れ出しています。その濃度は、基準値の350倍にも達しているようです。このまま放射性物質の漏洩が続くと、魚が汚染されて、それを食べた人間が被曝する危険性があります。汚染された魚を食べ続けると、どの程度の被曝を受けるのかを、単純なモデルで、乱暴に計算してみました。

データ・モデル

パラメータの値や、計算内容は、このワークシートを参照して下さい。

魚のセシウム137の生物学的半減期 50[日](ソース
1日経過後のセシウムの残留率:0.5^(1/50)=0.986
毎日、1.4%ぐらいのセシウムが、体の外に出て行く。

生物濃縮係数  50(環境の50倍まで濃縮される)(ソース
体に取り込む量は、海水のセシウム濃度X  [Bq/L]に比例すると仮定し、その係数をdとする。魚の体内のセシウムの濃度が、環境濃度Xの50倍になったときに、摂取量と排出量が釣り合うことになる。よって、次式から、dを求めることができる。

体内に取り込む量=排出する量
d*X=(1-0.986)*50*X
d=(1-0.986)*50=0.688

n日目の魚の汚染F(n) [Bq/L]は、次の式で表現できる。

F(n+1)=F(n)*0.986+d*X(n)
F(0)=0

日本人は、平均すると1日にちに82.3gの水産物を食べる(ソース)ので、魚を食べることによる人間の被曝量 H(n) [Bq]は次式になる。

H(n)=0.0823*F(n)

Cs137の内部被曝[Bq]をすっかりおなじみのシーベルトに換算することができるようだ。Bq/SVの変換係数は1.3*10^-8(ソース)なので、1日の被曝量をSVに換算すると次のようになる。(注意:内部被曝と外部被曝は、単純に変換できないという意見もあるようです)

dSV(n)=1.3*10^-8*H(n)

シミュレーション

汚染シナリオ:最初の1年は1000Bq/Lの環境。1年過ぎたら、水が綺麗になる。

魚の汚染

魚の汚染は最初は早いが、汚染が進むにつれて、増加が鈍り、環境の50倍程度の濃度に収束する。汚染が収まった後は、50日に半分の割合で減少していく。

人間の被曝量

5万Bq/kgの魚が、市場にでる可能性はまず無いと思うけれど、汚染された海域の魚を何も考えずに食べ続けるた場合の被曝量を試算してみた。一年半後にはほぼ頭打ちになり、だいたい20mSV程度の被曝になる。もちろん、汚染の濃度や期間が変われば、この数値は大きく変わってくるので、あくまで参考ですよ。「このパラメータやシナリオでは甘い」という人は、エクセル形式でダウンロードして、いろいろいじってみて下さい。

ちなみに、国の基準値の500Bq/kgの魚を、平均的な日本人の摂取量だけ食べつづけると、0.2mSV/yearの被曝になります。

被曝量の安全性は、こういった情報を参考にして、判断してください。
http://www.bbc.co.uk/news/health-12722435

パラメータやモデルに間違いがありましたら、コメント等で指摘していただけると助かります。

4/3追記

誤解無きように書いておきますと、このモデルは、将来の影響を予言するのが目的ではありません。今後の海の汚染がどの程度まで進むかは、現状では全くわかりません。

計算の結果としてでてくる値よりも、むしろ、定性的な挙動に着目してください。海水の汚染が終わってから、何年も魚の汚染が高止まりすることはありません。一度汚染された海域の魚は、半永久的に食べられないという訳ではないのです。一方で、「セシウムは魚に蓄積されないので、汚染にさらされても問題が無い」というのも誤りであることがわかります。ひとたびレベルが上がれば、数ヶ月は影響が残ります。汚染が収まって半年経ってから、魚を食べ始めれば、水産物経由の被曝はかなりの部分防げます。そういうことを感覚的にイメージする道具として、使ってもらえると、ありがたいです。

ドイツの研究所が、「福島原発から、海に入った放射性物質は、短い期間で、検出できないレベルに希釈される」と考察

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4/2追記 このドイツの研究機関の分析は、放射性物質の漏洩が短期小規模で終わるという日本政府の初期の発表に基づいています。現在は状況が大きく変わったことを留意した上で、読んでください。

興味深い記事が中国のサイトに掲載されました。

「ドイツの漁業環境の放射能汚染観測を担当しているチューネン研究所はこのほど、日本の福島第一原発から漏洩した放射能は魚類などの海洋生物に長期的な汚染をもたらさないと発表しました」
http://japanese.cri.cn/881/2011/03/20/162s172309.htm<

元の記事はこちらだということをツイッターで教えてもらいました。

Japan: Zur möglichen Kontamination von Fischen und Meerwasserpflanzen
Google翻訳で、ドイツ語を英語に直したものを、私が日本語に翻訳したのが下の文章です。(2011 3/21 17:39 update)

ここ数時間、福島の原発から、大きな変化は伝わってきません。危機的な状況をコントロールしようと、努力が続けられています。現場を指揮する組織(東電)からは、これまでに放出された放射性物質の種類や量に関する情報が提供されていません。
IAEAはそのため、官庁が計測した (behördlich gemessen) 日本の放射性物質に関する情報を照会しました。それらのデータが利用可能になるまでは、一般論としては、引き続き揮発性の放射性物質が放出されることが考えられます。放射性物質としては、放射性核種を含むセシウム134(半減期2年)とセシウム137(30年の半減期)、およびヨウ素131(半減期8日)が含まれます。
消費者にとっては長寿命のセシウム同位体が問題で、ヨウ素131は数週間で検出できなくなります。
チェルノブイリ事故後25年にわたる北海とバルト海の魚の放射能データを、当研究所(the Johann Heinrich von Thünen Institute)の研究員が解析したところ、北海のような灌流の激しい海では、放射性物質は比較的素早く希釈されることがわかりました。たとえば、チェルノブイリ事故があった1986年以降、北海では、海水からも、魚からも、セシウム137の濃度が急激に薄まりました。事故の翌年には、チェルノブイリ由来のセシウムは検出不可能になりました。北海の魚と海水に現在残っているセシウム-137は、1950年代、1960年代の核兵器実験に由来する潜在的な汚染(background contamination)によるものです。ドイツの海水の計測は、連邦海事水路庁(BSH)が行っています。
これらの情報と、今まで得られた太平洋の情報を総合すると、福島の汚染された冷却水や大気から、海洋に入った放射性物質は、非常に短い期間で、検出できないレベルに希釈されると予想できます。
当研究所の科学者は、日本の状況を監視して、新しいイベントに対して、迅速に対応することができるように、万全の備えをしています。

以上です。

三瓶愼一先生(慶應義塾大学,ドイツ語学)に添削していただきました。ありがとうございます。初期の私の和訳は、この記事の下につけてありますが、やや不正確な点がありました。

中国のニュースサイトは、「日本が発表したデータに基づき」と書いていますが、これは誤りです。正しくは「現状ではデータがないので、IAEA経由で日本のデータが公開されるのを待っている」ようです。

海洋中の放射性物質は、急速に希釈されて、すぐに検出できなくなるという内容は、非常に勇気づけられるものです。また、半減期が長いセシウムの生態濃縮が気になっていたのですが、魚の中からも、すぐに検出できなくなったというのは朗報です。

生物濃縮については、コメント欄をご覧ください。

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