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2011-05-28

食品の放射性物質の暫定基準値はどうやって決まったか

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注意:このページの内容はβ版です。理解が不十分な点も含まれます。100%信頼するのではなく、理解する参考ぐらいに思ってください。現在、情報を収集中ですので、理解が進んだら、内容的により正しいものを、よりわかりやすく書き直します。


「日本の放射性物質の暫定基準値は甘すぎるっ!!」という非難の声が高まっています。その一方で、じゃあ何ベクレルが良いのかという議論はあまり見かけません。

非難が多い割に、議論が少ない理由の一つは、現在の暫定基準の導出過程が、理解されていないことでしょう。なぜ今の暫定基準値になったかがわからなければ、その妥当性について踏み込んだ議論はできません。批判をするにしても、導出過程の問題点を指摘した方が、効果的です。食品、特に水産物の放射性セシウムの暫定基準値500Bq/kgの妥当性について、建設的な議論/批判を促すために、どうやって今の暫定基準値が決められたかを整理してみます。

放射線防護の基本的な考え方

放射線から国民を守るための基本的な考え方は上の図のようになります。

1)まず国民がさらされる被曝の上限を定めます。この被曝量以上は国として強い措置をとって取り除くことになります。

2)外部被曝と内部被曝の合計が、被曝上限を超えないようにそれぞれの上限を定めます。

3)内部被曝は、セシウム、ヨウ素、プルトニウムなど、様々な核種によってもたらされます。また、被曝源も飲用水、野菜、魚など多岐にわたっています。それぞれの食品別・核種別の許容上限を、合計が内部被曝の上限を超えないように設定します。

4)食品別・核種別の内部被曝上限(mSv)を設定すれば、その内部被曝上限を守るには、食品の汚染がどこまで許容できるかが、年齢別に計算できます。

ここでは、1)から4)のプロセスを検証したいのですが、後述しますが、日本の場合は2)と3)の一部が抜けているように思えるのです。

 

暫定基準値の上限となる被曝量について

日本の暫定基準値の設定基準となる内部被曝の上限について、2011(平成23)年3月25日の第373回 食品安全委員会で議論されました。

http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110325sfc

基本は議事録です。日本にとって重要な資料ですから、是非読んでください。資料を印刷して、手元に準備しておくと、読みやすいでしょう。

この手の会議は、役所が準備した筋書き通りに進みます。ゼロから委員が議論をして、暫定基準値が2時間の会議で決められるわけはありませんから、ほぼ予定調和でしょう。この会議の場合は、厚労省がICRPやWHOの勧告を参考に、5mSv/yearが妥当ではないかという原案を説明し、それを委員が質疑をするという流れです。暫定基準値を実質的に決めたのは厚労省といえそうです。

主な意見としては、1)10mSvでも全く問題ないという立場が、津金専門委員、滝澤専門参考人。2) 公衆被曝は1mSvが基本だが、現状を考えると基準をあげるのはやむないというのが中川専門参考人。3)低濃度でもリスクがあると指摘したのが、菅谷専門参考人です。

議事録抜粋(全文読むことを推奨)

○津金専門委員
100mSv以下ではほとんど発がんリスクということは、今のところ明らかになっていない現状で、それよりも低い5mSvとか10mSvとか、そういうレベルを目指してとりあえずやっているわけですから、基本的には発がん影響はないようなレベルの更に1けた下ぐらいのレベルで考えていて、この基準値が今できているんだという共通理解をする必要があるのではないかと思います。

ある意味では健康影響が見えないという状況の中で、どちらかというと厳し目に設定してICRPが決めているわけですね。それの5~50mSvのうちの一番低いところを基準として、今の基準値が決められているということを考えることが重要ですね。今の基準値というのは、5~50mSvのうちの一番下限値を取っている。それで、さっきの資料7の(2)に書いているように「住民集団が重大な混乱に陥りそうな状況では、1年につき10mSvよりもはるかに高い予測線量レベルでのみ介入は正当化されるかもしれない」というようなことで、今、まさにかなり混乱に陥っているという状況だと思うので、今の基準レベルよりも少なくとも低くなることはあり得ないような気がします。

○滝澤専門参考人
私も全く、今の津金先生の御意見と、特にUNSCEARの委員長も、いわゆる事件後の心的外傷後のストレス障害はリスクとすべき課題である。そういった中であれば、いわゆるICRPのPublication40の10mSvでよく、核種については放射性ヨウ素とセシウムです

○中川専門参考人
しかし仮に原発が収まれば、どうも収まらないような兆しがあって、3号機は格納容器が破損しているなどという情報があるようですけれども、そうすればヨウ素にしても年の単位になるでしょうし、セシウムはどの道30年、土壌にはあるわけです

一方、少し共通認識をしたいと思うんですが、今の公衆の被曝限度は1mSvです。その1mSvをどうしようかというのが最終的なゴールになる。この会のものではないかもしれませんが、全体的にはこの公衆の1mSvという被曝限度をどうするかという議論になるはずで、それを考えると、まず確定的影響を考える必要はもちろんないわけですし、胎児の被曝についても50mSvになるということには到底行かないわけです。

今は公衆被曝限度の1mSvを大幅に上げなさいと言っているわけです。このこと自体、この委員会で検討するべきことでないことは私は重々わかっているんですが、最終的にこういった議論をしなければいけない。そうでなければ生きていけない。緊急時でありますので、国民が今、平時と思っているかどうかはともかく、現実にはこれはどう見ても緊急時であります。したがって、ここに書いてあるような、例えば和文の下から2番目のパラグラフに、その場合、委員会は1年間に1~20mSvの範囲の参考レベルを選択し、つまり場合によっては20倍に上げて、そして長期的には元の1mSvに戻せ。これをICRPが言っているわけです。こうせざるを得ないような状況だと思います。そのときに、この委員会としては、この上げ幅に相当する食品の規制値の変更、増加となった場合のリスク評価をするということがよろしいのではないでしょうか。つまり、何倍かに上げたときに一体、人体影響が、発がんの影響がどれだけ出るのか。それはわからないのかという議論をすべきではないかと思っております。

○菅谷専門参考人
子どもの甲状腺がんというのは100万人に1人から2人なのでございます。ベラルーシなどでは、爆発事故の前はほぼ同じくあったんです。それが今度は高濃度の汚染地、それから低濃度の汚染地を見ていますと、全体で見ますと、やはり高濃度の汚染地で、ゴメリ州では130倍に増えているわけです。これは単に検査が進んだからとかそういうような状況ではないだろうと思っていますし、また少し低濃度のところでも、やはり世界に比べると高いということが出ておりまして、そういう中でいきますと、今日は別ですけれども、今回はそういうメカニズムは見ていくべきであろうと思っています。それから、甲状腺がんは確かに分化がんと未分化がんとかいろいろ、わかるんですけれども、非常に予後はいいというのは確かで、ところがあの15歳とか5歳とか、あるいは10歳の子どもたちが甲状腺がんの手術を受けた後の気持ちも考えなければいけない。単に予後がいいから甲状腺がんはこうですというのは、やはり私としましては納得できませんし、またあの中には乳頭がん、あるいは濾胞がんでもって肺転移をして、アイソトープの治療もやっている子どももたくさんいるわけです。そういうことが全然オープンになっていませんから、ここでは単に甲状腺がんは予後がいいからという、それは私は、実際に現場でもって5年半やってきた人間からしたら、そのことは別と考えた方がいい。そのように思っております。

この問題につきましては、私、今も継続してチェックしておるのでございますけれども、向こうの産婦人科のドクターの話を聞きますと、やはり低体重の出生児の問題と、早産と、それから未熟児から発生するところの奇形の問題も事故前と比べて増えているというお話がありますが、これもあくまでもきちっとした詳しいデータではないものですから、産婦人科の先生からのデータでは、やはり一番の問題は未熟児の問題、もう一つは子どもたちの免疫機能の低下によって非常に感染しやすいとか、そういう問題は出ております。

津金専門委員・滝澤専門参考人と中川専門参考人では、全く考え方が異なります。

津金専門委員と滝澤専門参考人は、5mSv(10mSv)は健康に問題が無いので妥当であるという立場。10mSvまでの被曝は無害なので、その水準までの被曝に対策は不要という立場です。一方、中川専門参考人は、あくまで 公衆被曝は1mSvが基本だが、現在の危機的状況を考えると基準をあげるのはやむをえないという立場です。中川専門委員の判断の妥当性を、ここでは論じることができません。なぜなら、現状がどれほど危機的な状況かという情報を、我々は知らされていないからです。中川専門委員は、原子炉の状態を始め、我々一般国民が知り得ないレベルの情報を持っています。その上で、高度な専門知識を駆使して、「公衆被曝限度の1mSvを大幅に上げなさい・・・そうでなければ生きていけない」とまで、断言しているのです。この言葉はものすごく重たいです。ぎりぎりの危機対応を迫られている状況にもかかわらず、その情報が国民と共有されていないという点に、私は不満を持ちます。

で、食品安全委員会の結論は、次のように報道されています。

食品安全委員会は、一人が一年間に飲食物からとる放射性ヨウ素と放射性セシウムの上限について「現在、暫定的に使っている基準で安全だ」とする結論をまと めた。ただ、放射性セシウムについては、上限を現在の基準の2倍となる年間10ミリシーベルトにしてもよいことが盛り込まれた。
http://www.news24.jp/articles/2011/03/29/07179717.html

よくわからない点

「放射性ヨウ素と放射性セシウムの上限について5mSv/yearという基準で安全だ」とされているのですが、議事録を読む限り、「公衆被曝の上限の議論で、5mSvを支持した委員が2名いた」というのが私の理解です。全体の上限であった5mSv/yearがいつの間にか各核種グループの上限にすり替えられているような印象をうけます。5mSvをそれぞれの核種グループの上限とするのが適切か否か、ご存じの方は情報提供をお願いします。この点が個人的に違和感が残っています。

基準値を計算してみよう

上限が5mSvと言うのが決まれば、食品の汚染の上限(Bq/kg)は計算できます。具体的な計算方法は、この読みづらい資料(「飲食物摂取制限に関する指標について」 原子力安全委員会 平成10年3月6日をみてください。これが、わかりづらいのなんのって、だいぶ苦戦しました。この計算の説明「基準値の根拠を追う:放射性セシウムの暫定規制値のケース」に助けられましたが、それでも難しい。ということで、考え方を簡単に説明します。

日本の放射性物質暫定基準の計算法について

おもだった核種グループに線量を割り当てます

ヨウ素は甲状腺50mSv/yearなのですが、これは全身だと2mSv/yearに相当するようです。セシウム・ストロンチウムで5mSv/year、ウランが5mSv/year, プルトニウムが5mSv/yearとなっております。それぞれ別腹ですから、この時点で最大で17mSv/yearの内部被曝を許容していることになります。これに外部被曝が加わるわけです。先ほどの会議で、「5mSv/year~10mSv/yearなら問題ない」といっていたのは、被曝量全体だったはず。ならば、5mSvをそれぞれのグループに配分するのが筋だと思うのですが、私の理解不足でしょうか。日本の放射線防護は、被曝上限を定めて、それをトータルで守るような方法になっていないようです。文科省は外部被曝だけで20mSv、厚労省は内部被曝だけで17mSv許容しています。省庁横断的に、国として、国民を被曝から守るためのグランドデザインの作成が急務と感じます。

食品カテゴリーに配分

それでは、セシウム、ストロンチウムに配分された5mSvがどのように配分されるかをみてみましょう。食品を5つのカテゴリーに分けて、それぞれに1mSvずつを割り振っています。1年間に、肉・卵・魚介類その他に起因するセシウム・ストロンチウムの内部被曝を1mSvに抑えるような基準が選ばれます。というかこの時点で、すでにICRPの公衆被曝目標なのですから、何かおかしい気がします。

ストロンチウムとセシウムの総量を計算

核種群のトータルの被曝を計算します。このグループには、Sr-89, Sr-90, Cs-134, Cs-137という4種類の放射性物質が含まれます。それぞれの比率をチェルノブイリの降下物の分析結果から、与えます。こんなおおざっぱな方法で良いのだろうかと思ったのですが、福島のデータでも大体同じような感じになります。ここでのポイントは、核種の崩壊による現象を考慮している点です。たとえば、Sr-89の半減期は50.5日ですから、約50日で半分、101日で1/4という具合に減っていくのです。この減って幾分も予め計算に入っています。今ある汚染が崩壊して、消えていくだけという状況を仮定しているのです。単発の事故で、広範囲が汚染されたような場合には、当てはまるかと思います。放出が長期化する場合は、このモデルは当てはめられません。また、捕食魚の汚染は食物連鎖を通じて時間遅れで蓄積していきますので、崩壊で汚染が単調減少するモデルをつかうと、水産物由来の被曝量を過小推定します。

内部被曝を実効線量に換算する

それぞれの核種1Bqの内部被曝が預託実効線量何mSvに相当するかをしめす、実効線量換算係数というパラメータがあります。それぞれの核種の量(Bq/kg)に、1日の摂取量(kg)と実効線量換算係数(mSv/Bq)をかけてやれば預託実効線量(mSv)がでます。これを1年間積分すれば、放射性セシウムが1Bq/kg含まれた食品を1年間食べた場合に、セシウムおよびストロンチウムの内部被曝に由来する預託実効線量を計算できます。基準値としては、実効線量が2mSvになるような初期のセシウムの濃度を求めればよいのです。希釈という概念が出てくるので、1mSVではなくて、2mSvなのです。複雑ですね。読んでて、うんざりしてきましたか? 書いている方はもっとうんざりですよ。でも、もうちょっとなので、がんばりましょう。

希釈(市場希釈)

希釈については、当初は間違えた解釈に従って、間違えた説明をしていました。謹んで訂正いたします

我々の食卓には、国産ばかりでなく、輸入品も含めて、広い地域から食品がやってきます。全ての食品が一律に放射能に汚染されるわけではなく、一部の食品が基準値を超えたとしても、クリーンな食品も口にするわけです。地産地消100%でないかぎり、汚染された食品だけを口にするという仮定は現実的ではありません。汚染されていない食品をたべることで、食品カテゴリ内の汚染が薄められます。これを希釈と呼んでいます。日本では、希釈率0.5を採用しています。日本の食料自給率は60%です。我々が口にする水産物の半分は輸入です。ということは国産魚が全て汚染されたとしても、輸入魚が半分あるわけだから、希釈率は0.5で良いことになります。筆者は、忌諱すべき水産物の汚染は、福島周辺の一部の領域にとどまると見ていますから、希釈率0.5というのは水産物に関して言うと保守的な値と言えそうです。

希釈というのは、学習によって汚染食物を避ける効果のようです。最初は、放射能汚染に気がつかずに食べていても、じきに「やばい」という報道がなされて、食べる人が少なくなります。社会がちゃんと学習することを織り込み済みなのです。この希釈(学習的忌諱行動)によって、トータルの内部被曝が半分にできると、ここでは考えます。学習は時間とともに進行するプロセスですから、下の図のような感じになると思います。

基準値以下の食品をのほほんと食べ続けると、内部被曝は目標の倍になります。半分にしようと思うと、「1年後には、汚染食料はほとんど食べない」ぐらいの勢いで、素早く学習をする必要があります。「基準値以下であっても被曝は極力避ける」「どんな食品が汚染されているかを周知する」という2点を徹底して周知する必要があります。では、我が国の基準値は、消費者が避けるべき危険な値として周知されているでしょうか。農水省は、「基準値以下の食品は安全です」という立場です。むしろ、基準値以下の食品を避けると、風評被害を煽ると非難されそうです。

希釈を入れるかどうかで、基準値の意味が変わってきます。希釈を入れるなら、「基準値以下であっても危険なので、消費者は避けるべき」という前提で、基準値以下であっても汚染食品を消費者が避けられるように行政は最大の努力をしないといけない。逆に、「基準値以下なら安心」というなら、希釈効果を取り除いて、基準値を現在の半分に落とさないといけない。現状は、厚労省は希釈込みで危険な基準値を出しておきながら、農水省は「基準値以下は安全です」と希釈を無視している。各省庁が意思の疎通の無いまま、独自の解釈で行動をして、結果として、国民に目標の倍の内部被曝を強要しているような状態です。国として意思統一を図るべきだと思います。

 

結果

現在の暫定基準値の式に従って計算したの結果が下の表です。実効線量換算係数やそれぞれの食品カテゴリーの摂取量は年齢によって異なるので、基準となる汚染濃度も年齢によって異なります。全てのカテゴリーで、一番値が小さい年齢群の値を採用し、きりの良い数字まで下げていきます。こうして、基準値が計算できたのです。興味深いのが5カテゴリー中、4カテゴリーで成人が一番低くなっています。実は大人は打たれ弱いようです。

成人 幼児 乳児 基準値
飲料水 201 421 228 200
牛乳 1661 843 270 200
野菜 554 1686 1540 500
穀類 1107 3831 2940 500
肉・卵・魚介類・その他 664 4014 3234 500

 

細かい計算については、下のグーグルドキュメントを参考にしてください。数値的にはあっているので、計算的には正しいと思います。

https://spreadsheets.google.com/spreadsheet/ccc?key=0ArN_7X0ibziWdC1jSTJzTm9GZVhyR2psemNKbEtvZnc&hl=ja

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