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乱獲を誘発する漁業システム

  • 2006-11-07 (火) 23:59
  • 研究
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先のエントリーでまとめたように、
乱獲を回避するためのポイントは次の3点

1)過剰な設備投資を抑制する(控えめで充分)
2)資源に減少の兆しがあれば、漁獲を弱める
3)資源の減少が明らかになれば、素早く回復処置をとる

この逆をやれば乱獲が進行するという実例が、日本の漁業なのだ。

1)過剰な設備投資を補助
税金をつかって設備投資を補助しているので、
生物の生産力が少しでも小さくなると、すぐに過剰漁獲になる。
わざわざ乱獲状態を作り出していると言えるだろう。
とくに危険なのは、一時的に資源の生産力が上がった後だ。
船ができあがる頃には、資源の生産力は戻っているが、
船の借金を返すために、過剰に漁獲をしてしまう。

2)資源の減少を認めない
資源状態が悪化する兆候はいろいろとある。
自称「海のことを一番知っている」漁業者が気がつかないはずがない。
しかし、漁業者が資源の減少を認めるのは、
誰の目からみても明らかにやばい状態になった後だ。
たとえ漁獲量が減っても、漁業者は資源が減ったとは考えない。
「今年は資源が漁場に来なかっただけだ」とか、
「来年から卓越が発生するかも知れない」とか、
何らかの偶然でいるけど獲れなかっただけだと解釈をする。
資源状態に関して言うと、漁業者の判断が最も当てにならない。
情報はあっても、根拠のない楽観論が判断を狂わせるのだろう。
もちろん、漁場形成と資源の分布の不一致などの理由で、
資源量は維持されているのに、一時的に漁獲量が落ちる場合もある。
この場合にも用心をするに超したことはない。
獲った魚を海には戻せないが、獲らなかった魚を将来捕ることは可能なのだから。

3)資源の減少が明らかになっても、対策を先送り
本当に獲れない状態が続くと、漁業者も資源の減少を認めるようになる。
現在の漁船をもってしても獲れないというのは、かなり末期的な状況だ。
この状態になっても、厳しい管理措置が執られることはない。
漁業者の生活があるとか、経済的な混乱があるとか、とか、
いろんな理由をつけて、対策を先延ばしにする。
その結果、資源は手がつけられない状態まで悪化するのは時間の問題だ。
すると、漁業者は自暴自棄になって、どうせ減るなら獲り尽くせと言うことになる。


今まで見てきたように、日本の漁業は、システムとして乱獲を誘発してしまうのだ。
終戦直後の食糧難の時代ならいざ知らず、
世界的に資源の囲い込みが進み、自国の資源を大切にすべき状況に適した政策ではない。

政策として乱獲の条件を整えておきながら、
漁業者の自主性にまかせると言う口実で、行政は資源管理に関与しない。
これでは、資源の持続的利用は難しいだろう。
ただ、資源管理は100%無理というわけではなく、自主管理に成功した事例もある。
これは世界的に見ても快挙であり、日本の漁業コミュニティーのポテンシャルをしめすものである。
ただし、自主管理が成り立つためには、厳しい条件がある。

1)生産力が高い資源を自分たちだけで囲い込める
2)コミュニティーに個人の利益よりも全体の長期的利益を重んじるリーダーがいる
3)長期的な視点から、漁業者にものが言える現場系研究者がいる
4)資源の壊滅的な減少を経験

これらの条件が成り立たない漁業がほとんどであり、
今のままでは、自主管理の輪は広がっていかないだろう。

Comments:1

県職員 06-11-08 (水) 12:25

本県の許可漁業の歴史を見ていくと,まず緩やかな条件で許可をする。資源的問題というより他の漁業とのトラブル等々が起こってくるので徐々に規制を加えていく。資源的に危機的状況になった時には,さらに規制強化をすればいいのだが,あろうことか経営的危機を理由に規制緩和をする。という段階を経ていくことがほとんどです。
 とりあえずできることといえば,まずこの一連のプロセスを改善していくことが必要だと思われます。色々な不確定要素を考慮しながら,まずはかなり厳しいと思われる条件を附与して許可をする。資源状況を見ながら,必要に応じて規制を弱めたり強めたりする。規制は可逆的でなければならない。
 現在あまり規制がない漁業(あまり問題になっていない)についても,予防的措置をとっておくことが必要ということですね。
 今度のシンポジウムは楽しみです。

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