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日本漁業がノルウェーのようになれない理由

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ノルウェーの事例は、漁獲圧を厳密に管理すれば、
持続的に漁業生産を増やせることを示している。
ノルウェーは、漁獲圧と漁獲量の規制という単純な手法で漁業を再建した。
日本にも、漁獲量を規制するTAC制度と、努力量を規制するTAE制度が存在する。
資源管理をするための道具はそろっているが、
漁業活動を邪魔しないように、細心の注意を持って運用されているのが現状だ。
すでに道具はあるが、適切に使われていないのだ。
まさに、道具の持ち腐れと言えよう。

では、これらの道具が適切に使われれば資源管理は可能なのだろうか?
残念ながら、そうは思わない。
ミナミマグロの事例は厳しい規制を導入するだけでは、
資源管理が出来ないことを示している。
今の日本でTACをABCまで下げたとしても、
TACとしてカウントされない漁獲が増えるだけだろう。

現在の日本で、自然淘汰を待たずに漁獲量と漁業者を減らすのは困難だ。
逆に、なぜノルウェーでは、漁獲量と漁業者が減らせたのかを考えてみよう。
ノルウェーは、社会民主主義的な福祉国家であり、
すべての国民に労働の機会を与えることを国是としている。
雇用を高めるためにワークシェアリングが徹底されている。
労働者の流動性は高く、OECD諸国でも失業率は最低レベルであり、長期失業者も少ない。
(参考資料:完全雇用とノルウェー労働市場
社会構造として、漁業を離れても生活の不安が少ないのだ。
雇用の流動性が高いノルウェーでも、漁業再建の道は平坦ではなかった。
ノルウェーの成功のツボは、漁獲量を減らすために税金を投入したことだろう。
ノルウェーは、公的資金を導入して、漁獲量を素早く削減した。
これによって、比較的短期間で、低迷した資源を回復することができた。
その過程では「資源管理には成功したが、漁業管理には失敗した」などと揶揄されたものである。
漁業者の自然淘汰を待っていたら、多くの資源を回復不可能な水準まで減らしていただろう。
厳しい漁獲規制と努力量削減へは、短期的にみれば経済を混乱させたかもしれないが、
長期的に見ればノルウェー漁業を世界一の国際競争力に押し上げた。

では、日本でも同じことができるだろうか?
日本でも金額としては十分な税金が投入されているが、
それらは主に漁港や養殖場などの建築と維持に使われている。
この税金を漁業者に魚を獲らせないために使うのは困難だろう。
水産庁は短期的な漁獲量を増やすことが自分たちの役目だと思っている。
水産基本計画をみれば、そのことは明白だろう。
また、漁業者も生活を守るために、漁獲規制をしないように水産庁に働きかける。
水産庁も漁業者も漁獲量の減少を遅らせるために奔走し、
結果として資源を追いつめて、漁業を衰退させているのだ。
マイワシバブルを除けば、日本の漁業生産は30年以上単調減少を続けている。
70年代以降の日本の漁業政策は、根本的に機能していないのだ。
にもかかわらず、短期的な小手先の使い古された施策でなんとかしようとあがいている。
現在の漁業の延長線上には明るい未来などありはしないのに。

長期的な視野を持たなくてはならない。
大局的な戦略を持たないとならない。
その上で、日本漁業を守ることの意味を問い直さなくてはならないだろう。

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