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水産庁によれば、ブリは管理できているから、漁獲枠はいらないそうです

  • 2009-11-13 (金) 6:34
  • 日記
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ブリに関しては何の規制もない。完全な早い者勝ちだ。近年、巻き網の漁獲が増えているのだが、これは資源が増えたわけではない。ソナーが導入されて、群れで泳ぐ魚への漁獲効率がグッと上がった。マグロ、ブリ、鰹への巻き網の漁獲効率は、以前とは比べものにならない。ブリ漁業は、漁業生産を減少させながら、消費者にも迷惑を与えている。乱獲のツケは未来の世代が背負うことになる。

ブリのような資源を無管理のままにしておくのは、日本人にとって大きな損失である。水産庁は、俺が何を言っても、四の五の言うだけでなにもしない。TAC魚種を増やすように、規制改革会議の二次答申に盛り込まれたのだが、それに対する水産庁の回答はこれ

対象魚種拡大の考え方
・①具体的な追加魚種については、採捕・消費量が多く、国民生活上又は漁業上重要な資源として、カタクチイワシ、ホッケ、ブリ類、マダラが浮かび上がるが、②これらの魚種については、TACの決定に足る科学的知見が十分といえない状況にあり、③さらに、従来からの漁業法等に基づく投入量規制や技術的規制、資源回復計画等の措置を講じており、資源状況の悪化もみられないことからも、現時点で、TAC管理を追加する必要性は低いと考えられる。なお、今後も、こうした観点からTAC対象魚種の追加について検討する必要がある。

論点を個別に整理しよう。

① 国による管理が必要な広域重要魚種というと、普通に考えれば、ホッケ、ブリ、マダラなどが思い当たるわけである。この件については、ここに書いたとおりである。
http://katukawa.com/2008/01/post_273.html

②「科学的知見が不十分とのことだからできましぇーん」ということらしいが、だったら、情報を集めろよ。2500億円も漁港建設に使っているのだが、その0.1%の予算をつければ、ブリの情報など十分に集まるはずだ。仕事をしないでおいて、前提条件がそろってないと開き直るのが、水産庁クオリティー。

③ 「従来からの漁業法等に基づく投入量規制や技術的規制、資源回復計画等の措置を講じており、資源状況の悪化もみられないことからも、現時点で、TAC管理を追加する必要性は低い」というのは、読んでいて吹き出してしまったよ。何も知らないのか、口から出任せの嘘つきなのか。どちらにせよ、こういうことを言う人間は信用できない。
まき網のブリの漁獲は、全くの無秩序状態であり、乱獲によって、潜在的な利益が大きく損なわれている。ブリ漁業の現状を見れば、従来からの漁業調整や資源回復計画が全く機能していないのは明白だ。読者の皆さんは、現在のブリ漁業がきちんと管理をされていて漁獲枠を設定する必要がないと思いますか?

水産庁が出した最終結論はこれ

しかしながら、これら魚種について実際に制度の対象とするかどうかについては、当該資源の管理上、TAC制度が最適かどうか、また、当該資源を漁獲する漁業種類にいかなる影響が及ぶのか等について総合的に検討の上、判断を行うべきではないか。

「総合的に検討の上、判断を行うべきではないか」というのはその通り。で、総合的な検討とやらはいつやるんだよ。TAC制度が始まって10年以上が立つのに、未だに何の検討もしていないじゃないか。「総合的に検討の上、判断を行うべきではないか」などとのたまうのは、行政官の怠慢以外の何物でもない。
ブリは、多くの異なる漁業が利用しているので、禁漁日や努力量規制など出来るはずがない。全体の線引きがないと、「獲れるうちに獲っておこう」と言うことに必ずなる。個別漁獲枠によって、それぞれの漁業の間で線引きをした上で、おのおのの漁業に応じた禁漁日や漁具の規制を自主的にやればよいのである。TACが適切かどうかなんて議論の余地もない。TACが無いこと自体が国として非常識なんだよ。

漁獲に占める成魚が2%なんて、明らかな乱獲状態。ブリに関しては、現行の漁業調整が機能していないので、公的機関による規制が必要なことは自明だろう。検討するまでもない。ブリの回遊は都道府県の規模では収まらないので、国が責任をもって管理をする必要がある。にもかかわらず、水産庁の管理課は何の対策も練っていない。それどころか、管理をしろという要求に対して、「検討が必要ではないか」と開き直って、何もしない。水産庁の無作為勢力が駄々をこねているうちに、漁業は衰退を続けているわけだ。また、この報告書から1年以上が経過するのだが、検討作業は何もしていない。やらない理由をあれこれ並べるだけで、やるべきことを一つもやらない。日本漁業の衰退における無作為行政の責任はきわめて重い。

Comments:4

beachmollusc 09-11-13 (金) 19:22

漁港建設のため費やされている金額は行政上の「漁港」についての数字だと思います。ところが、最近気づいたことですが、漁港と呼ばれていない実質上の漁港が公式の漁港よりも数が多いのではないかということです。

宮崎県を例にして具体的に言えば、公式の漁港は各種をあわせて23港です。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/sub81.html
この中に日向市の平岩「漁港」や富島「漁港」などが見当たらないのでおかしいと思ったら、漁港ではなくて「漁船が係留されている港」だったのです。また、一般の港湾内に組み込まれた漁港が多数ありますが、それは漁港としてカウントされていません。

海岸線を地図で見ればわかりますが、海岸集落ごとに小規模な港があり、もっぱら漁船用になっているようです。魚市場がない漁船の係留用の港の数は想像を絶するものと思います。

県職員 09-11-13 (金) 19:38

ブリにTAC管理の必要なしですか。ブリこそ早くやらないといなくなるのではないでしょうか。
日本海で1998年にレジームシフトが起こったかどうか明確には定義されていませんが,1998年以降ブリの漁獲量はウナギのぼり。しかし,まき網の漁獲割合は増えている。このままでは,そのうち絶対にいなくなりますね。
「不確実性」「予防的措置」「リオ宣言」FAO「責任のある漁業」(=北水誌便り?たぶん?で勉強させてもらいましたが),優秀な水産庁の皆様がこのようなKEY WORDを知らないはずはないと思うのですが。
早期発見早期治療が大事ですよね。

水産庁の方々はTACができるまで(できてからも?資源回復計画以降からかな)直接的に資源管理に取り組んだことないんじゃないですかね。減船とかは単なる退職金渡しのようなものでしょうし。資源を主にした行為ではない。
県のほうがもう少し前からやってます。
国にしても,都道府県にしても水産資源を持続的に,適切に管理し,国民(県民)に安定供給できる体制を整えるという「責任」があると思います。それが,漁業者に反対されるからなどと安易に逃げているようでは,実は職場放棄しているようなものです。
漁業者が嫌がろうが反対されようが,なんとか説き伏せ,何かをなして,何らかの結果を出し,最後は「責任」をとるという姿勢を持たないと駄目でしょう。

できない理由を探さず,できる方法を考えるという姿勢が大事で,水産庁が動くのを待っている都道府県の人間は結構多いと思います。

kato 09-11-14 (土) 7:47

ハマチ養殖との絡みで…ということはないのでしょうか?

勝川 09-11-14 (土) 11:44

beachmolluscさん
たしかに、その通りです。漁港と公共事業については、情報が少ない上に、いろいろと裏がありそうですね。
漁港が必要なのは確かですが、数が多すぎます。コンクリートの構造物が無駄に大きい。「コンクリートから人へ」という方針で、漁業政策を変えてほしいですね。

県職員さん
イワシもサバも取り尽くし、獲れる物を端から獲りまくっています。これまでブリやカツオを捕ってきた沿岸の漁業者の未来は暗いですね。漁民の生活を守るために、漁連は立ち上がるべきでしょう。全漁連のデモは、霞ヶ関ではなく、銚子でやるべきだと思います。
日本漁業衰退の主要因は、まき網の過剰な漁獲能力なんだけど、なんと税金でまき網船を新造しています。隻数は減るんだけど、トン数が増えているので、結果として、漁獲圧は確実に増えます。
http://www.suisankai.or.jp/gyogyou/hasaki-keikaku.pdf
水産庁は、太平洋の浮魚資源にとどめを刺す気だろうか。ちなみにプロジェクト運営者は、まき網組合に天下った元水産庁次長です。お土産ですか。わかりやすい。
管理課の頭のなかには利害調整しかない。利害調整のハードルが高くなるから、資源管理には断固反対なのでしょう。天下り先の業界団体の顔色をうかがって、過剰な漁獲枠を設定したり、資源評価に介入してABCを上げたりと、傍若無人ぶりが目に余りますね。

katoさん
マイワシも、マサバも、カツオも、マグロも、キチジも、ホッケも、スケトウダラも、アジも、フグも未成魚の乱獲が放置されていますが、すべて養殖への配慮とお考えでしょうか。
水産庁は、零細な養殖業者のことなんて頭にないように見えます。少しでも養殖の未来を考えているなら、場当たり的な過剰生産体制にメスを入れるでしょう。今の、「とにかくたくさん作ろう」という方針では養殖業者は生き残れません。マグロ養殖は、無作為行政により、戦略も採算の見通しもなく膨張しており、このままではブリの二の舞でしょう。

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