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漁業者のTAC制度への不満

  • 2010-05-27 (木) 16:16
  • 日記
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今年の3月に、北海道の漁業者の希望によって、沿岸漁業のリーダー数人と話し合いの場を持った。そのことを、水研センター上層部(つまり水産庁OB)が、 トラブルを起こしたと問題視しているとのこと。これは、逆恨みもよいところだ。元を正せば、水産庁がデタラメなTACの入れ方をしたから、現場が混乱して いる。その混乱を納めるために、俺が奔走しているのである。

話し合いの内容については、このあたりを読んで欲しい。
北海道沿岸漁業者とのミーティング その1
北海道沿岸漁業者とのミーティング その2
北海道沿岸漁業者とのミーティング その3
北海道沿岸漁業者とのミーティング その4

今回の話し合いで痛感したことは、現場レベルではTAC制度に対する不満をなだめるために、大変な苦労をしているということ。不満の内容としては、主に3つ。

1)資源管理の有用性に対する無理解に基づく不満
2)TAC制度の方向転換に対して「だまされた」という不満
3)サバは獲り放題なのに、なんでスケソは規制するのかという不満

1)資源管理の有用性に対する無理解

沿岸漁業者は、資源管理の「魚がいるのに獲れない」というマイナス面は実感しているが、それによって、「自分たちの来年以降の漁獲が確保される」とか、「卵をもった価値のある魚が安定して獲れるようになる」といったメリットに対する理解は浸透していない。
現在、日本の沿岸漁業が衰退している一因は、大型船の先獲りである。大型船は沖で小さい魚を根こそぎ獲り、魚がいなくなれば、よそに移動する。これをやられると、漁場の移動ができない沿岸はたまったものではない。大型船の沖どり・早獲り問題は、日本全国の沿岸漁業の共通の課題であり、大型船の先獲りに一定の歯止めをかけるには、漁獲枠が必要なのである。
沿岸漁業者には、資源管理の必要性に関して、ちゃんと話せば、理解は得られる(すぐに実行に移せるかは別問題だけど)。北海道の場合も、過去のデータや事例を示しながら、小一時間も説明したら、「確かに、先生の言うとおりだ」と皆が納得してくれた。
こういった説明は、本来は、行政の仕事である。TAC制度を入れるときに、「これはあなた方の生活を守るための制度ですよ」と、漁業者にきちんと説明をしておくべきだった。きちんとした理解があれば、沿岸漁業者がデモをすることもなかっただろうし、俺がわざわざ説明に行くことも無かったのである。

2)TAC制度の方向転換に対する不満

残念なことに、水産庁の担当者は、全く逆のことをやった。TAC制度を導入するときに、水産庁の担当者は、「これは、韓国船を日本のEEZから追い出すための制度で、日本漁船を規制するつもりはない。日本漁船には、今まで通り好きなだけ獲らせてやるから、TAC制度を入れさせてくれ」と説明をして回ったらしい。複数の漁業者が、口をそろえていうので、まず間違いないだろう。

TAC制度の導入に携わった佐藤力生氏は、著書「本音で語る資源回復計画」のなかで、「くれぐれも少ないTACでもって船を止めようなどとはやってはいけない。これが当時からの筆者の考え方であった」「成果と言えば、・・・、TACの運用にもおいてもある意味で一定の歯止めをかけることができた。」などと書いている。最初から、漁獲枠で規制をするつもりが無かったのだ。国家公務員が、税金を使った事業を骨抜きにして、そのことを自慢している。その神経が、全く理解できない。

TAC制度は、資源管理ではなく、資源管理ごっこであった。資源の持続性を無視した過剰な漁獲枠を設定し、漁業者の要望があれば、漁獲枠はいくらでも増やす。実際に、初期のTAC制度は、そのように運用されていた。税金を使って、いい加減なことをしていれば、クレームがつくのは当然である。ABCを無視したTACに対して、社会的な非難の声が高まり、水産庁は今年から、TACをABCまで下げることにした。

この方針転換は、長い目で見れば良いことである。しかし、漁業者にしてみれば「だまされた」と思うのは当然だろう。都合の良いウソをついてTAC制度を導入し、水産庁が方向転換するときにはちゃっかり異動していた、当時の担当者に対する、漁民の怒りは、すさまじいものがある。担当者にしても、その当時はウソをついているつもりは無かっただろうが、見通しが甘かった。税金を使って、デタラメな資源管理ごっこが通るほど世の中は腐っていないのである。

漁民から裏切り者扱いの佐藤力生氏が一生懸命、言い訳をしているのがこれ。
http://blog.livedoor.jp/gyokyo/archives/1474072.html

1.暴力団より悪い霊感商法
2.霊感商法の論法と騙しの手口
3.TAC真理教徒の真の狙いは
4.資源状況が良くなっては困る
5.オリンピック制というレッテル貼り
6.鯨とマグロの権威かもしれないが
7.やたら科学を強調する者はだいたいが怪しい
8.MSY理論はもう古い

いやぁ、すごい見出しですね。この雑誌はどこで入手できるかわからないので、まだ、中身をみていないんだけど、どうせ、俺と小松さんを口汚く罵っているだけだろう (TAC制度正常化に向けて、外から圧力をかけたのが俺で、水産庁内部でTACをABCに近づける方針を作ったのが小松さんなのです)。佐藤氏には、是非、一般メディアで、「俺様が、TAC制度を骨抜きにしてやった」と自慢してほしいものです。期待してますよ。

3)サバは獲り放題なのに、なんでスケソは規制するの?

超低水準のサバは、今年も2回も期中改訂をして、漁獲枠を水増ししまくっている。一方、資源状態がそれほど悪くないスケソ太平洋系群は、増枠なしで漁獲停止である。これでは、北海道の漁民が納得できないのも当然だろう。

もちろん、改めるべきはサバの漁獲枠設定の方だ。サバの場合は、漁獲枠があってないようなものだから、結果として、資源が枯渇し、漁業が成り立っていない。こういう漁獲枠設定をしていたら、漁民がまともな漁獲枠を受け入れられづらくなる。サバ漁業を衰退させるだけでなく、他魚種の資源管理の脚を引っ張っているのだから、担当者は責任を自覚して欲しい。


まとめ

1)資源管理の有用性に対する無理解に基づく不満
2)TAC制度の方向転換に対して「だまされた」という不満
3)サバは獲り放題なのに、なんでスケソは規制するのかという不満

この3つの不満はすべて、TAC制度自体に起因するのではなく、水産庁がTAC制度をデタラメに運用してきたツケである。TAC導入時に、漁業者とおかしな口約束をして、ぐだぐだな体制でTAC制度を入れてしまった。これが元凶なのだ。TAC制度を正常化するには、漁業者の誤解を説いて回らなくてはならないので、新しい制度をゼロから入れるよりも大変だ。

まったく、一体、誰のせいで、俺が苦労していると思っているんだ。 👿

Comments:5

県職員 10-05-27 (木) 17:51

・TAC制度
県庁でTAC担当者になった時に,私もそう聞きました。
ただし,「これは日本漁業にとって大きなパラダイムシフトだ。水産資源を国の責任で管理しようとするのだから」と言う趣旨のことをおっしゃった上司もいらっしゃいました。その方は資源解析などへの理解が深い方でもありました。
=「これは、韓国船を日本のEEZから追い出すための制度で、日本漁船を規制するつもりはない。日本漁船には、今まで通り好きなだけ獲らせてやるから、TAC制度を入れさせてくれ」と説明をして回ったらしい。

・佐藤力生氏
見出しだけ見る限りでは頭がおかしい。
こんな人が複合的資源管理やら,資源回復計画で全国を行脚していたかと思うと嘆かわしい。
我慢させるだけではなく,一定の税金を投入し資源管理を成功させようとした資源回復計画は,言い方を変えれば,資源管理の社会実験かとも捉えていました。これが失敗したら,もう大蔵には資源管理関係では新規予算の説明できない。最終手段なのかなあとも。
しかし,その後華々しい成功事例が出てきてないところを見ると,税金をばらまいただけのような気がします。
国,県を含め行政が資源解析の基本だけでもわかっていないと,単なる県間や,漁業階層間の漁業調整問題にすり替わってしまうのではないかとも感じます。

国際派に押されて分が悪い国内派の断末魔なのでしょうか。

沿岸漁業の一漁師 10-05-28 (金) 9:08

漁協経営センターね~。自力運営の出来ない漁協ばっかり増やしてからw。

勝川 10-05-29 (土) 4:51

県職員さん
>県庁でTAC担当者になった時に,私もそう聞きました。
誰にきいてもそういう話しみたいですね。
こんないい加減な入れ方をしたら、
TACを下げることに漁業者が猛反発するのも当然です。

TAC制度は、ちゃんと入れていれば、パラダイムシフトになったはずなので、
じつに残念ですね。もうちょっとマシな人に担当して欲しかったです。

沿岸漁業の一漁師さん
資源管理をしないと、漁協の経営も成り立たないと思うんだけど・・・
ああいう表現をして、読者は引かないのかな?

沿岸漁業の一漁師 10-05-29 (土) 13:58

読んだことは無いですけどねw。組合に配布されていて持ち帰り出来るんだったら取って来ますw。

補償事案による収入で漁協を維持していくことを良しという方向で進めるんですかねw?
野放図な状況だと30年は厳しいでしょうしwwwwwwwww。
年寄り世代が淘汰されても野放図な操業をする業者と百姓やマリコンの下請が本業の趣味の漁業者が残るからな・・・・・・・・w。

行政は行政で底上げ路線のCCCPな社会だしでしばらく厳しいでしょうね。

sacocchi 10-06-03 (木) 23:10

水産庁の担当者、そんな説明をしていたのですか。私は導入当時のことは知りませんが・・・。

「漁業と漁協」6月号の記事、読みました。見出しが以下に紹介されてます。
今回はITQを推進する人を市場原理主義者呼ばわりしていました。
http://blog.livedoor.jp/gyokyo/archives/2010-06.html#20100602

この記事の「おわりに」から抜粋。
「市場原理主義者のいう規制に守られた非効率な経営者が市場から退場し、競争力のある経営者が市場を占め、退場させられた者が新たな産業に従事することにより社会全体をより豊かにすると言う理屈は、高度経済成長下では通用したかもしれない。しかし我が国の経済成長率は90年代以降、低成長またはマイナス成長下にあり、さらに市場を巡る競争といっても中身は低価格勝負のための人件費削減競争であった。このため一部の投資家、役員を除き社会全体は豊かにならず格差が拡大した。これに加え本家アメリカ発の世界金融危機が発生し、行き過ぎた市場原理主義の見直しが各国で叫ばれ始めている。」

私は資源のことについてはよくわかりません。
が、ここで言われていることは、心情的にはよくわかります。この「理屈」と全く同じ事を馬奈木俊介氏が言っていました。退場していく者やその地域の心配などする必要はないと。勝川先生はITQ導入後の漁業の担い手や地域に与える影響についてはどうお考えですか?馬奈木氏と同じですか?私は馬奈木氏の主張は無責任だと思います。科学者は、自分の生み出したものが多くの人の人生や地域社会に大きな影響を与えるということについて、強い関心と責任感を持つべきです。

ITQを導入し、漁業への参入がオープン化すれば、既存の漁村社会や漁業者には大きなインパクトがあるでしょう。多くの制度が根本的に変わったり、廃止されたりして既存の枠組みが大きく変わる可能性があります。それがどういうものかよく見えないから不安があり、ITQの反対につながっているのではないでしょうか。

私は巻き網の肩を持つつもりもないし、ITQとこの記事を書いた佐藤氏のどちらの主張がベターなのかもわかりません。
しかし、ITQの向こうにある「競争力のない者は退場せよ」ということを、勝川先生もはっきり言う必要があると思います。そして、未来の漁業のビジョンを具体的に示してはいかがでしょうか。既存の漁業者にとってはさぞ厳しい内容に違いありませんが。

しかし、時代はITQであるというなら、その厳しさをしっかりと見せてあげるべきだと思います。心ある漁業者ならきっと自分たちで何とかしようと立ち上がるでしょう。そうでなく官に何とかしてくれと陳情するようではそこまでだったということでしょう。厳しい時代ですね。しかし、むしろ変化の激しい現代において今までが幸運だったのかもしれませんね。

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