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スケトウダラのおもひ出 その5

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卓越年級群の過大推定に関して、水研を責めるつもりはない。
誰がやっても不可避であっただろう。
資源評価など全く無視して、獲りたい放題の現状では、実質的な影響は軽微である。
たとえ、資源評価が正確であったとしても、同じように獲っただろう。

ただ、資源評価の問題点が明らかになった以上、
同じ過ちを犯さないように対策を練る必要がある。
大切なことは、失敗を認めて、原因を解明し、対策を練ることである。
平成18年の評価票には、次のように明記されている。

2003~2004年度の評価においては、資源動向が横ばいあるいは増加と、他の年とは異なる判断をしており、またこの期間に算出されたABCおよび過去の再評価結果の全てが、その後の資源状態の好転を予想した上で非常に高いABCを提示している(八吹 2003、2004)。これらの数値は、結果的に実漁獲量を上回った。これは、当時の1998年級群の好漁の結果、同年級豊度の評価を実際よりもかなり高く見積もり、その後の資源を支え、回復させる効果を過大に期待したことが原因であった。一方、2005年度以降の評価では、1998年級群の好漁が続かなくなり、当初想定したほど年級豊度が高くないと予想が修正されたこと、および2002年度漁期に、先の楽観的な資源予測の下で1998年級群を中心に獲り減らしてしまったことに伴い、資源状況およびABCの見積もり(過去の再評価、再々評価を含む)は大きく減少し、ABCは1万トン台で推移している(八吹 2005、本田ほか 2006)。なお、2005年度の実漁獲量はABCを上回った。

もちろん2003~2004年度の評価においても、当時使用しうる全ての情報を用いた上で、当時としては最適な評価を実施しており、1998年級群が当時想定したほど大きな年級群では無かったことは、当時の調査、研究技術の下では予見することが出来ず、当時の評価技術の限界によるものであった。これらを踏まえ、出来るだけ早い(若い)段階で年級豊度を正確に把握し、早急かつ適切に資源解析・評価に反映させることが必要となる。現在それを目的として、仔稚魚・若齢魚を対象とした計量魚探調査など、漁業情報と独立した調査の実施と情報の収集に取り組んでいるところである。

1998年級群の過大推定と資源評価の限界を認めた上で、
漁業情報と独立した調査の実施と情報の収集に取り組みを始めたのだ。

下の図は水試が行っている稚魚の調査結果である。
上が計量魚群探知機の調査で、下がトロールによる採取量を示したものである。
水研も時期をずらして同様の調査を行い、その結果を共有している。 *1
これらの調査によって、分布域のほとんどを網羅しているので、
漁業開始前に年級群の情報が得られるようになった。
現在、これらの調査結果は漁業者からも評価されているようである。

Image071027.png

1998年級群の過大推定という失敗を経て、北海道の資源評価は進歩した。
再び同じ失敗を起こさないような体制が整いつつある。
最近、じりじりと減少しているスケトウダラ太平洋系群に卓越が発生したとしても、
北部日本海系群の1998年級群のような過ちは犯さないであろう。
これはきちんと失敗に向き合ったからである。

日本における資源評価の歴史は短いし、十分なノウハウはない。
だから、不可避な失敗は山ほどあるだろう。
失敗に向き合う姿勢があれば、それをヒントに資源評価を改善していくことができる。
失敗事例というのは、貴重な財産なのである。

日本の水産業界には、失敗に向き合う姿勢が欠如している。
現在の日本の水産業はすごい勢いで衰退しており、問題があることは明らかである。
役所も漁業者も、何でもかんでも鯨や海洋環境のせいにして、
自分たちの責任をうやむやにすることしか考えていない。
この無責任体質によって、漁業がどこまでも廃れていくのである。


*1 公開当時は、「これは水研の調査だが、水試も同様の調査を独自に行い、結果を共有している」
と記述しておりましたが、上の図は水試の調査の結果でした。
メールにて指摘をいただいたので、10月30日に訂正しました。

Comments:3

ある水産関係者 07-10-27 (土) 18:09

日本の水産業界が失敗に向き合えないのは、「失敗」に対する役所の姿勢が大きく影響してると思います。
 その理由は、役所自身が絶対に自らの「失敗」を認めないため、役所のOBで固められた水産業界全体が同じように振る舞ったとしても、何ら不思議ではないからです。
 「失敗を認めない」と言うことは、即ち、「反省しない」ということでもあり、言い換えれば、仮に、自らの行動が原因で不都合が起こっても、その原因は全て他人やモノのせいになすりつけられます。ちょうど、「資源の悪化」が鯨や海洋環境のせいにされるように・・・。
 「人のふり見て我がふり直せ」と言いますが、もともと正直だった(?)漁業者が「正直者が馬鹿を見たくない」と考えたかどうか不明ですが、役所や役所OBの姿勢を真似たとしても何ら不思議ではありません。

 専門家は、資源や漁業が廃れる「失敗の本質」について国民に分かり易く説明する責任を背負っています。

 ところで、2008年の日本海系群のABC4200トンは余りにも画期的ですね。正直驚いています。役所の担当者でもガラッと変わったのでしょうか? 昨年やそれ以前の経緯と照らし合わせても、夢のような感じがします。これから本格的なTACの議論が始まりますが、短い秋の夢で終わらせて欲しくないですね。

業界紙速報 07-10-29 (月) 13:21

またも業界紙ではなく、今度は讀賣です:
≪読売新聞10/28(日) 減る魚5
TACは水産庁の外郭団体・水産総合研究センターが発表する「生物学的許容漁獲量」を基に決定する。許容量は魚の数の維持や増加を目標にした上限値で、理屈上は、TACが許容漁獲量を超えないはずだ。
しかし、実際には漁業者の経営に配慮して、許容量を上回ってしまう。昨年のマイワシは許容量3万8000トンに対し、TACが6万トンだった。

水産庁の森下丈二漁業交渉官は「日本は漁業大国で国際的な影響力や責任が大きい、と外国は見る。だが、国内では意外なほど認識されていない」と指摘する。≫

やはり、普通のひとはTACが生物学的許容漁獲量を超えるのはおかしい、と考えるんだと思います。しかし、水研センターに、わざわざ「水産庁の外郭団体」と付けるマスコミの神経も信じられない。どのような意図があるんでしょうか?
また、あとの森下交渉官の言葉から考えさせられるのは、消費者が知りたいのは「漁業資源が持続的に利用されているか」ではないであろう、ということ。
暗然とさせられてしまいました。

勝川 07-11-01 (木) 16:00

ある水産関係者さん
>ところで、2008年の日本海系群のABC4200トンは余りにも画期的ですね。
>正直驚いています。役所の担当者でもガラッと変わったのでしょうか? 
管理課の担当者は一新されました。
今までの担当者とは違い、議論の場に加わろうとしてくれているようで、
とても、やりやすくなりました。

>昨年やそれ以前の経緯と照らし合わせても、夢のような感じがします。
>これから本格的なTACの議論が始まりますが、短い秋の夢で終わらせて欲しくないですね。
漁業者からも、何も意見が出なかったので拍子抜けでした。
資源の減少に疑いの余地がなくなったから反論が出なくなったのか。
それとも、ABCは動かせないから、TACで勝負と思っているのか。
そのどちらかは、正直わからないです。

業界紙速報さん
>やはり、普通のひとはTACが生物学的許容漁獲量を超えるのはおかしい、
>と考えるんだと思います。
漁業関係者以外は、そう思うでしょうね。
TACが生物学的許容漁獲量を超えるのは非常事態であり、
乱獲を許容していることと、その理由を説明する責任が行政にはあります。
また、そのことにつっこみを入れる義務が研究者にはあるでしょう。

>また、あとの森下交渉官の言葉から考えさせられるのは、
>消費者が知りたいのは「漁業資源が持続的に利用されているか」ではないであろう、
>ということ。暗然とさせられてしまいました。
今まで非持続的な漁業が問題視されてこなかったのは、
自分たちが情報が厳しく規制してきたからだろうに、
なにをか言わんやですね。
ただ、一般人の資源への関心は潜在的にあると思いますし、
情報規制がいつまでもできるわけではないので、
この状況は大きく変わるでしょう。

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