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ニュータイプの研究者を目指して

  • 2007-12-23 (日) 10:07
  • 研究
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自分のことを少し振り返ってみよう。
キャリアのスタート地点においては、パラダイス鎖国系研究者だった。
日本漁業のことはさておき、資源管理の理論的な研究を進めていこうと思っていた。
国内資源がどうしようもない状態だということを知るにしたがい、
楽しくパラダイス鎖国をしている場合じゃないなと思うようになった。
それで、漁業者や行政に対して、お小言を言い始めたのだが、
彼らとの接点を持つにしたがって言うだけ無駄だと思うようになった。
石田丸事件とか、釧路キャッスルホテルの乱だとか、いろいろな経緯があり、
漁業者と行政に任せていたら、漁業に未来はないと確信するに至った。

しかし、漁業者も行政も、都合の悪いことには聞く耳を持っていない状況で、
研究者に何ができるだろう?
研究者は、漁業に対して直接的な力は持ち得ない。
学者として、いくら偉くなってもそれは変わらない。
某審議会だって、漁業に何の影響力も無いではないか。
審議会に潜り込んだとしても、現状に異議をとなえたら、お役御免になるだけだろう。
学者としての肩書きは学内政治の世界では大切なのかもしれないけど、
その権力はしょせん大学内限定である。

「漁業の役に立たないとしたら、何のために研究をしてるんだろう?」
と悩んだ上でたどりついた答えは、
「水産関係者を変えることはできないなら、それ以外を変えれば良い」
ということ。

マスメディアをつかって、漁業の現状を一般人に知ってもらうことにした。
一般人の意識を変えてしまえば、漁業関係者も変わらざるを得なくなるはずだ。
風車を逆に回すには、風の向きを変えればよいという実に簡単な話である。

Image200712213.png


こういう経緯で、マスメディアを積極的に利用することにした。
その第一弾は、朝日新聞のマイワシの記事だ。
記事が出る過程で、納得がいかないこともあったが、とりあえずは記事が出た。
記事が出てから、その影響力というものを痛感することになった。
メディアを通すと水産庁のコメントが得られるというのが大きな進歩だった。
今までは何をきいても「社会経済的な考慮からこうなっている」の一点張りだったのが、
新聞取材だとなんらかの説明をせざるを得ないようである。
まあ、資源量を上回る漁獲枠を設定することに対してまともな説明などできるはずがないのだが、
まともな説明ができないということが、何よりの答えである。
日本の水産政策のお粗末さの一端が読者にも伝わっただろう。
こういうことを繰り返していけば、水産政策への疑問の目が向くことになり、
今までのような乱獲を放置したまま補助金をばらまくのは難しくなる。
結果として、漁業も良い方向に進むだろう。

一般人に訴えかけるという方法は、
回り道のようにみえて、実は一番の近道だったように思う。
ただ、平坦な道ではないことは確かである。
この道を進んでいったら、どうなるかは正直わからない。
今まで誰もやってなかったから。
今のところは、どこからも苦情は来ていない。
むしろ、もっとこういう話をして欲しいという応援はたくさんきた。
情報に対する需要は確実にある。

大きな枠組みでとらえると、自分が選んだ道というのは、
民主主義国家における専門家としての使命のような気がしてきた。
大学の業務をこなし、論文を書く。そういう職業として業務はもちろん重要である。
その一方で、専門知識を社会に還元するという重要な使命も果たさなければならない。

現在は、漁業に関しては、漁業関係者に都合がよい情報しか流れていない。
現状が悲惨であるという情報が無ければ、現状維持で良いと思ってしまうだろう。
消費者が魚の値段にしか興味がないのは当然のことなのだ。
情報を流してこそ、民意の質は上がっていくはずだ。
メディアと協力して、この状況を打破しなくてはならない。

Comments:2

ある水産関係者 07-12-24 (月) 0:17

漁業者、行政の意識を変えるためには、同じ一般国民に訴えかけるのでも、単純に資源問題に理解を求めるだけではなく、国民が絶対に許すことの出来ない領域、即ち、国民の被害者意識に訴えかけることが重要かつ最も効果的と考えます。
 具体的には、大本営が税金を如何に無駄遣いしているか、現行の水産施策が如何に国民に無用の出費を強要しているか、さらには、これらを通じて捻出されたお金で大本営の役人(OB)が直接・間接的に如何に甘い汁を吸っているか、を実例と共に専門家の知見をもって解説していく必要があるでしょう。
 このため、同じ専門家でも水産行政や予算、制度などに精通した幅広い知見が要求されますが、そういった意味において、大本営の裏の裏まで知り尽くし、先日、晴れて自由の身になったK氏などは正に素晴らしい活躍が期待出来るキーパーソンと考えます。
 もちろん、K氏も現役時代の過去の柵や国家公務員法の壁によって、必然的に行動が制限されるでしょうが、今後の活動振りをK氏の本領を試すリトマス紙と考えて興味深く見守っていきたいと思います。
 

勝川 07-12-29 (土) 0:19

私の目的は現在の非持続的な漁業を、まともな産業へと変化させることです。
乱獲を助長する現在の漁業政策は、容赦なく叩きます。
漁業改善に関する議論を進めていけば、水産庁不要論は自然に出てくると思います。
その結果、社会保険庁状態になったとしても自業自得です。

ただ、不正行為を告発したりというのは自分の仕事ではないですね。
メディアの利用は、専門分野の社会啓蒙に専念するつもりです。
他の誰かが水産庁をつぶそうというのであれば、
心情的には応援しますが、自分がその目的で動くことはないでしょう。

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