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小松さんから規制改革会議の現状を教えてもらった

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先日フリーになった小松さんと海洋研で打ち合わせをした。
こちらからはノルウェー漁業の情報提供をして、小松さんからは規制改革会議の現状を教えてもらった。
規制改革会議は実に愉快な展開になっております。

本日、内閣府の規制改革会議で第二次答申が公表されました。
粋なクリスマスプレゼントですね。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/index.html#secondreport
その本文 (PDF : 552KB)をダウンロードして欲しい。
この109~121ページ(PDFでは112~124ページ)に水産業分野の規制改革案がある。
【問題意識】と問題解決のための【具体的施策】が整理されている。
【問題意識】に関しては内閣府側(小松さんたち)が独自に作成したのだが、
【具体的施策】に関しては水産庁と合意済みということだ。
自らが合意した文章が閣議決定されてしまえば、水産庁としても公式に約束をしたことになる。
それぞれの【具体的施策】に対して、締め切りが設けられており、その殆どが【平成20年中措置】。
つまり、水産庁は「来年1年で前向きに頑張って成果を出します」と約束させられちゃったのだ。
タフネゴシエーターの異名は伊達ではない。

答申の内容について、本人から「元々はこんな表現だったけど、こういう表現にせざるを得なかった」とか、
「この表現がこう変わると、こういう意味になる」というような解説をしてもらった。
言葉を巡る綱引きも、専門家に解説してもらうとなかなか面白い。
いろいろと譲歩をしながらも、残すべき部分はちゃんと残しているし、
どの法律を使ってどう逃げるかを熟知しているから、予め逃げ道が塞いであったりするわけだ。
まさに餅は餅屋であり、これ以上の人物はいないだろう。

改革案の中身は4つの柱から成る

ア 資源管理の在り方の見直しについて
イ 参入規制の緩和による新規創業の拡大について
ウ 漁業金融の円滑化について
エ 漁協経営の透明化、健全化について

では、俺の関連する資源管理について見ていこう。

【問題意識】
 資源管理型漁業や漁業生産基盤の整備など各種施策の推進及び平成13 年に制定された水産基本法による水産基本計画などの実施にもかかわらず、わが国の漁業生産構造は脆弱化が止まらず、また、水産資源の状態はさらに悪化が進み、我が国の漁業は危機的状況にある。
 そのため、現行の漁業関連法制度を抜本的に見直し、科学的根拠を尊重する水産資源の持続的な利用の原則を確立する水産行政に転換するとともに、資源管理の方策の改革を進める必要がある。既にこうした改革を実施したノルウエーや米国などでは、にしんやたら類などの悪化した水産資源の回復が見られ、水産業が衰退産業から成長産業へと転換した事例がある。
 我が国においても諸外国の好事例を参考に改革を推し進めなければ、我が国漁業の再生・自立が成し得ないと考える。

現在の水産政策は漁業の衰退に打つ手無しであり、
水産資源の持続的な利用の原則を確立する水産行政への転換、
資源管理の方策の改革を進める必要があるという認識はまさにその通りだろう。

では、具体的施策を見ていこう

(ア)生物学的に計算される漁獲許容水準に基づくTAC(漁獲可能量)設定の厳正化、決定プロセスの透明化【平成20 年中措置】
 我が国では、平成8年に国連海洋法条約が発効し、排他的経済水域における海洋生物資源について漁獲可能量を決定するなどの保存及び管理のための措置が義務づけられた。
 このため、「資源管理法」を制定し、従来より実施している漁業の許可、操業に関する諸規制等とともに、水産資源の最大持続生産量を実現すべく、その資源の維持または回復を目的として、入手可能な最良の科学的根拠に基づき対象魚種ごとの生物学的に計算される漁獲許容水準を基礎とし、漁業の経営その他の事情を勘案して、そのTAC数量を決定している。生物学的に計算される漁獲許容水準の算定には、ある程度の不確実性が伴うものの、その科学的な設定プロセスは明らかにされている。その反面、TAC数量の決定プロセスは、漁業経営の事情等を勘案しつつ水産政策審議会の意見を聴いて定められており、漁業経営への勘案や漁場形成の変動に対応するために、調整枠の設定が行われているにもかかわらず、採捕量が生物学的に計算される漁獲許容水準を上回る状況も生じている。
 したがって、科学的根拠の尊重による資源管理を徹底し、水産資源の維持、回復を図るため、TAC設定が生物学的に計算される漁獲許容水準を可能な限り超えることがないよう、TAC設定の厳正化を図るべきである。
併せて、TAC設定の数量的根拠を公表し、TAC数量の決定プロセスの一層の透明化を図るべきである。

現在のABCを無視したTACを何とかするのは重要な課題である。
TACを生物学的に計算される漁獲許容水準に納めるのは当たり前だろう。
また、TAC決定プロセスの透明化は、重要なポイントである。
これらの重要性は、当ブログの読者の皆様には十分理解いただけると思う。
そのことを明記した上で、水産庁に改善の約束をさせてしまったのだから凄いことだ。


(イ)TAC(漁獲可能量)設定魚種の拡大【平成20 年中措置】
 現在、国が資源評価を行っている52魚種のうち、ABC(生物学的許容漁獲量)を算定している魚種数は38 魚種である。一方、ABCを算定している魚種のうち、TACを設定している魚種は、マサバ、ゴマサバという生物学的には分けて資源管理すべき魚種をサバ類としていることから、マイワシ、マアジ、サバ類、サンマ、スケトウダラ、ズワイガニ、スルメイカの7種類に過ぎない。TAC対象となる魚種の基準として、①採捕量が多く、経済的価値が高い魚種、②資源状況が極めて悪く、緊急に保存・管理を行うべき魚種、③我が国周辺で外国漁船により採捕が行われている魚種とされており、これら基準のいずれかに該当する魚種で、ABCが算定されている魚種のうち、資源の将来予測の十分な精度等を有しているものはTAC対象魚種となることが可能である。
 また、先に水産庁から発表された資源評価の結果からは、多くの水産資源の状況が悪化し続けている状況にある。
したがって、水産資源の持続的な利用を実現するため、TAC設定がなされていない31 魚種やそれ以外の魚種も含めて、資源が悪化している魚種など魚種による適性等を見つつ、TAC対象魚種の拡大の検討を行うべきである。
 併せて、平成20 年中に検討状況の中間報告を公表すべきである。

TAC魚種は増やす予定だったんだけど、10年も増えていない。
資源評価自体はかなりの数の魚種をカバーしている。
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests18/index.html
出来るところから管理の対象としていこうということだ。

「検討」だけではなく、来年度中にその結果を公表するというのがキモ。
出来ないなら、出来ない理由も挙げないといけない。
「検討しました。以上」ではすまされないのだ。

(ウ)TAC(漁獲可能量)の厳守に向けた合理的操業モデルの樹立【平成20 年中措置】
 平成18 年度漁期におけるサバ類の漁獲において、大臣管理である大中型まき網漁業による6万トン以上の配分枠超過がなされた。水産庁は、当該漁業のTAC管理団体に対して3月上旬に当該漁業の操業自粛を求めたが、こうした事例は、現行のTAC数量に合わせた適切な利用について、漁業者が未だ対応できていない状況を示しており、今後の科学的根拠の尊重による資源管理の徹底のためにも対応が必要となっている。
 したがって、漁業者が毎年の各魚種のTAC数量に対応し、これを有効に活用するための合理的操業モデルを作成し、提示することで、特定の魚種のTACを超過するような操業から、TACをうまく利用できる漁業形態に誘導を図るべきである。

マサバの超過漁獲がお咎め無しだったのは、マサバはTAC法から除外されているからだ。
中国や韓国も獲っているからという理由で、スケトウダラとズワイガニ以外は、
TAC法が適用されていないのである。
何のためのTAC制度だかわからない。
現在の資源管理ごっこから、TACの枠内に漁獲をおさめるようなまともな管理に切り替えていく必要がある。
資源管理の徹底のためにも対応が必要であると言うことを水産庁側も認めた以上は、
20年度ないに、超過できないような仕組みを考えなくてはならないだろう。

(エ)IQ(個別漁獲割当)制度の導入対象魚種の拡大及びITQ(譲渡可能個別漁獲割当)制度の検討【平成20 年中措置】
 TAC設定における漁業の管理方式には、オリンピック方式、個別漁獲割当(IQ)方式、譲渡可能IQ(ITQ)方式に大きくは分けられる。我が国の現行の資源管理制度としては、TACを設定して、その管理方式としてオリンピック方式を基本として漁業管理を行っている。オリンピック方式による漁業管理では、漁業者間の漁獲競争を激化させる傾向が強くなるというデメリットが指摘されている。
 このようなデメリットを緩和するための方策として、多くの漁業国が採用してきているIQ方式またはITQ方式を導入することが考えられる。これらの方式は、漁獲のシェアが確保されているので、過剰な漁獲増大に歯止めをかけ、コスト削減の意欲を引き出す効果など、オリンピック方式のデメリットを緩和するのに効果を持つとされている。さらに、小型魚漁獲にも一定の制限効果があり、計画的な漁業生産や経済的な漁獲方法などが選択できるメリットがあるとされている。
 一方で、経営体の寡占化が進む、沿岸地域社会への影響、監視・取締りコストが高いなどがデメリットとして指摘されているが、この方式を採用している漁業国では、寡占率の制限、地域社会や協同組合への漁獲割当の配分、ランダムな市場検査、違反の厳罰化などの方策を実施することにより、指摘されるデメリットの解消に努めている。
 現在、IQ方式については、我が国において、ミナミマグロ、日本海ベニズワイガニで実施されているが、今後、これら以外の魚種についても、資源管理法に基づくものを含め、IQ方式の導入を検討し、一定の結論を得るべきである
 併せて、ITQ方式についても、そのメリット・デメリットや諸外国における導入事例、導入する場合の条件等について調査、研究、分析を行い、平成20年中に中間報告を行うべきである。

正直、オリンピック制度ではお話にならない。
大臣許可のような大規模な漁業には個別漁獲量配分制度を導入する必要がある。
また、現在の過剰な漁業者を減らすために、譲渡可能性も重要だ。

IQについては、「導入を検討し、一定の結論を得るべきである」
とかなり強い表現になっている。
今年度中に、結論まで出せるように、検討をしないといけないのだから、大変だ。
そして、ITQについては、「調査、研究、分析」→「中間報告」となっている。
今後は、譲渡可能性の導入についても議論されていくだろう。
まずは、IQ、次はITQと段階的に進めていくのである。


ここに書かれている中身は、このブログでも主張してきたことと良く重なっている。
俺としても、全面的に賛成をしたいことばかりだ。
このブログの読者にも、こういった施策の重要性は理解いただけるだろう。
その内容もさることながら、具体的な施策について、水産庁に合意させてしまったことが凄い。
正直、こんなに早くここまで動くとは、予想していなかったよ。小松さん、やるなぁ。
間違いなく、来年はエキサイティングな1年になる。俺もうかうかしている場合ではない。

本ブログ読者の大半を占める水産庁&水研センターの皆様におかれましては、
来年度の業務が増えることが予期されますが、まあ、これもお国のためだ。
俺も頑張る。君らも頑張れ。

Comments:1

ユウラ 08-04-22 (火) 16:16

就職活動も無事終わりまして、本格的に論文作成の準備を始めなければならなくなったユウラです。前のコメントからまたずいぶん日にちが空いてしまい申し訳ないです。

未読の部分をまとめて読んでいたらこんな動きがあったのですか。

これはまた行政の動きにも注目の一年ですね。
これはまた4年生の卒論にも使えそうなネタがわんさかですね。新規参入者の規制緩和がちょっと気になったりします。

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