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食品安全委員会委員長からのメッセージについて


第9回 放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループが、2011(平成23)年7月26日に開催されました。今後の日本の放射線防護に関する重要な論点を含みますので、簡単に整理します。

会議の資料はこちら
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20110726so1

委員長からのメッセージはこちら
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/fsc_incho_message_radiorisk.pdf

 

現在の暫定基準値が決められたのは3/29日です。事故の規模も、収束の見通しもない中で、急遽、暫定基準値を決めなければならないという状況でした。

国として、暫定基準値以上の食品は、流通させられません。例えば、飲料水の基準を厳しくした結果、飲料水がなくなったらどうなるでしょうか。内部被曝による確率的事象よりも、酷い健康被害が、規制によって及ぼされかねないわけです。暫定基準を厳しくすれば、それだけ、国民の健康リスクが下がるという単純なものではないのです。一方で、あまり基準値をゆるめすぎれば、内部被曝のリスクが高まります。いまでこそ、水産物の汚染状況は、セシウムに関してはそれなりに把握できてきましたが、当時は汚染がどこまで進行するのか、まるでわかっていなかったのです。極めて、難しい作業であったことは、想像できます。そういう状況では、セシウム500Bq/kgという基準は、それなりに妥当だったようにも思えます。

その後、4ヶ月が経過しました。原子炉も安定してきて、大規模放出の危険性も低下してきたわけです。これまでに蓄積された情報を総合すると、少しがんばれば基準値を50Bq/kgでも、水産物は何とかなりそうです。状況が安定して、情報も集まってきたわけですから、暫定ではない基準値をどうするかという議論をする段階に入っているのです。

で、以下は委員長からのメッセージ(引用部分)と私のコメントです。私のコメントに関して、読み違いなどがあれば、コメント等でご指摘いただけると幸いです。

食品安全委員会委員長からのメッセージ
~食品に含まれる放射性物質の食品健康影響評価について~

1 福島第一原子力発電所の事故に伴う食品の放射性物質による汚染に関し、平成23年3月17日から厚生労働省で食品衛生法上の暫定規制値を設定し、管理が行われています。この暫定規制値は、緊急を要するために食品安全委員会の食品健康影響評価を受けずに定めたものであったことから、3月20日の厚生労働大臣からの諮問を受け、食品安全委員会では3月29日に緊急とりまとめをまとめました。この緊急とりまとめでは、放射性物質の発がん性のリスクや胎児への影響等に関する詳細な検討、ウラン等の曝露状況を踏まえた上での評価等が今後の課題となっておりました。
このため、4月21日から放射性物質の専門家等を含めた「放射性物質に関する食品健康影響評価のワーキンググループ」において緻密で詳細な審議が行われてきました。客観的かつ中立公正に科学的知見に基づいて審議をするため、国際機関等による評価を参照するだけではなく、その元となった文献にも遡って科学的知見を検証すべく、国内外の放射線影響に関する非常に多くの文献(3300 文献、総ページ数約3万ページ)にあたりました。これまでに9回のワーキンググループ会合を重ねて食品健康影響評価書案がとりまとめられ、本日、食品安全委員会としてもこれについてパブリックコメントの手続きを行っていくことを決定しました。今後国民の皆様からのご意見をお聞きした後、評価書を確定していくことになります。また、国民の皆様へわかりやすく説明し理解していただくためのリスクコミュニケーションも進めてまいります。

緊急とりまとめは、あくまで緊急ということで、核種毎の汚染状況や、国内外のこれまでの知見を総合して、暫定ではない基準値を示すという難しい作業を進めているわけですね。リスクコミュニケーションは、是非ともお願いしたいです。では、中身をみていきましょう。

2 今回の評価書案のXIII に記載されていますが、放射線による健康への影響が見いだされるのは、現在の科学的知見では、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における追加の累積線量として、おおよそ100mSv 以上と判断されています。小児に関しては、甲状腺がんや白血病といった点でより影響を受けやすい可能性があるとされています。
食品安全委員会が行うのは食品健康影響評価ですので、この値はあくまで食品のみから追加的な被ばくを受けたことを前提としていますが、この根拠となった科学的知見については、収集された文献に内部被ばくのデータが極めて少なく評価を行うには十分でなかったため、外部被ばくも含まれた現実の疫学のデータを用いることとしました
累積線量としておおよそ100mSv という値は、生涯にわたる追加的な被ばくによる線量の合計がこの値を超えた場合に、この被ばくを原因とした健康上の影響が出る可能性が高まるということが統計的に示されているもので、大規模な疫学調査によって検出された事象を安全側に立って判断された、おおよその値です。文献において、明らかに健康上の影響が出始めると考えられる数値的データは錯綜していましたが、この値は、それらも踏まえて検討されたものです。累積線量としておおよそ100mSv をどのように年間に振り分けるかは、リスク管理機関の判断になります

普通に生活をしていても、自然に被曝は受けます。ラドンなどの天然放射性物質由来の外部被曝や、放射性カリウムなどの天然放射性物質由来の内部被曝です。これらの天然由来の被曝とは別に、追加で100mSv以上の被曝を受けると、健康への影響が見いだされると言うことです。内部被曝による健康被害のデータは極めて少ないので分けて考えない。ということは、非天然由来の外部被曝と内部被曝の合計を生涯で100mSv以下にするというのが、基準のようです。この追加の100mSvをどのように振り分けるかは、「リスク管理機関」の判断ということですが、具体的に言うとどこなんでしょうね。

生涯100mSvというのは、ICRPの基本的な考え方です。委員長のメッセージは、国としてICRP基準を遵守する姿勢を、あらためて表明したものと言えそうです。ただ、寿命100年として、1年当たり1mSvを上限とすると、かなりの地域に人が住めなくなります。将来の除染なども考慮した上で、一時的に1mSvを越えるような場合も想定せざるを得ないでしょう。

3 本年3月29日にまとめた食品安全委員会の「緊急とりまとめ」は、緊急時における取扱いを示したものであり、累積線量で示した今回の考え方は、緊急時の対応と矛盾するものではありません。緊急時には、より柔軟な対応が求められることも考えられます。

汚染が進んだ場所に本人の合意の元で生活を続けるような場合や、再び大規模放出があった場合には、緊急時を適用する余地を残しています。7/19の原子力安全委員会の発表では、「現段階においては、福島第一原子力発電所の周囲に、依然として緊急時被ばく状況にある地域と現存被ばく状況にあると考えられる地域が併存している」とされています。この内容とも整合性がとれています。

http://www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2011/genan054/siryo.pdf

4 なお、100mSv 未満の線量における放射線の健康への影響については、放射線以外の様々な影響と明確に区別できない可能性や、根拠となる疫学データの対象集団の規模が小さいことや曝露量の不正確さなどのために追加的な被ばくによる発がん等の健康影響を証明できないという限界があるため、現在の科学では影響があるともないとも言えず100mSv は閾値(毒性評価において、ある物質が一定量までは毒性を示さないが、その量を超えると毒性を示すときのその値。「しきい値」ともいう。)とは言えないものです

100mSv未満の健康への影響について、「科学的には影響があるとも無いとも言えず」というのは、正確な表現です。基準値以下ならゼロリスクではないということを明言した点も妥当です。安心・安全サイドの偏らず、正確な情報を伝えようという意図が感じられます。

5 「食品に関して年間何mSv までは安全」といった明確な線を引いたものになっていませんが、食品安全委員会としては、科学的・中立的に食品健康影響評価を行う独立機関として、現在の科学においてわかっていることとわかっていないことについて、可能な限りの知見を誠実に示したものとご理解いただければと考えます。今後は、パブリックコメントの手続きを経て本評価結果がまとめられますが、その結果を踏まえ、食品からの放射性物質の検出状況、日本人の食品摂取の実態等を勘案しながら、リスク管理機関において適切な管理措置がとられることを期待しています。

このメッセージでは具体的な食品の基準値につながるものは無いのだけど、

  • 全体の追加の被曝を100mSvに抑えるように振り分ける
  • 100mSvは安全の閾値ではない

というような放射線防護の全体図については見て取ることが出来ます(防護の全体図を決めるのは、むしろ、リスク管理団体の仕事ではないかという気もしますが)。

また、会議の資料も230ページの超大作で、まだ目を通せていませんが、各核種ごとに、ものすごい量の情報があります。

http://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20110726so1&fileId=110

総評

できる限り情報を公開した上で、パブコメを通して民意をくみ取って、リスクコミュニケーションを図りながら、放射線防護を考えていこうという、真摯な姿勢が伺えます。民意をくみ取るためのシステムが未発達の日本では、現実問題として、これが精一杯でしょう。リスクコミュニケーションの中身と、パブコメ等の意見がどのように政策に反映されるかという運用部分に注目ですね。今後も、食品安全委員会の議論を期待を持って見守りたいと思います。

Comments:2

Passenger 11-07-27 (水) 17:51

ー遺伝カウンセリングの専門家が語る放射線被爆の知識ー
http://www.npo-gc.jpn.org/data/20110529_RadiationExposure_1_Ver2

この様なものもご紹介ください。

fish 11-08-01 (月) 10:48

新潟県で水揚げされたシジミと真鯛(天然)からセシウムが検出されたようです。
http://www.fureaikan.net/syokuinfo/topics/t110322_23_suisan_1.html

水産庁に問い合わせたところ、シジミは川からの流出物のせいかもしれない、鯛は不明との回答でした。東電が放出した汚染水の放射性物質は、海流的にはこちらまで来ないと思っていたのですが専門的には違うのでしょうか?

その時、先生がお書きになっていたストロンチウム検査の強化をお願いしました。しかし、専門的な話をペラペラァ~と言われ、素人はあえなく撃沈した次第です。

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