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ノルウェーの小規模漁村の高齢化の話


先週、19歳の若者から、手紙が届いた。漁村で生まれ育った彼は、子供の頃から祖父・父の後を継いで漁業をするのが夢だったという。高校を出たら漁業を継ぐつもりだったが、「漁業には先が無いから」と両親に反対され、大学に通っているそうだ。漁業の夢を捨てきれずに、自分でいろいろ調べた結果、俺の本に出会い、「資源管理をすれば、自分も漁業で生活できるようになるかを知りたい」という手紙を書いたのである。この手紙を読んで、俺は申し訳ない気持ちで一杯になった。我々日本の大人たちが、構造的な問題から逃避してきた結果として、若者の夢が奪われているのである。もし、彼がノルウェーに生まれていたら、何も悩むこと無く、漁業を継いで豊かな生活を送ることができたはずだ。日本とノルウェーで、なぜこのような差が生じるのだろうか。

ノルウェーの小規模漁村の現状

先週、ノルウェーの漁業副大臣が来日したのに併せて、日本・ノルウェーマリンセミナー2014というイベントが開催された。ノルウェー大使館から「ノルウェーの研究者が俺とディスカッションしたがっているので、セミナーに参加して欲しい」という依頼があって、参加した。俺と話をしたがっていたのは、ノルウェー北部のロフォーテンに本拠地をおくSALTという研究機関のKjerstiさん。こちらのサイトのセンターポジションの女性です。午前中の全体のセッションでの彼女の講演がとてもおもしろかった。

ノルウェーの北部には無数のフィヨルドがあり、そこには小規模な沿岸コミュニティーが多数存在する。

基幹産業は漁業。6人ぐらいの小さな漁船でタラを獲る漁業が主流。養殖業も大切なビジネスであり、観光業も伸びている。

漁業生産は延びているが、漁師の数は減っている。高齢化が進んでいる。その原因は、高等教育がひろまったことである。大学で学んだ専門的な知識を活かせる職場が、漁村には無い。そこで、研究者や政策決定に関わりたい若者は、都市に移動してしまう。「漁村から都市へ」というの人の流れを逆転したい。若くて教育を受けた人たちに魅力がある職を漁村につくりたい。ということで、ノルウェー政府は、国の多くの機関を都市の外に出した。補助金では無く、仕事を造るためである。

彼女がつとめている(というか創立者みたいだけど)SALTという機関では、海洋資源の価値を産むような利用法を作り出して、沿岸コミュニティーの活性化を目指しているそうだ。

「日本と共通する話題かもしれない」と途中まで思っていたのだけど、Kjerstiさんが出した図をみて、ずっこけてしまった。

キャプチャ

この図はノルウェーの小規模漁村の漁業者の年齢組成だそうだ。10代から70代まで10歳ごとに棒グラフで示してある。1990年代には20代、30代が一番多かったけど、最近は40代が一番多くなっているんだって。これで高齢化ですか・・・

日本の漁業全体の年齢組成はこんな感じ(漁業センサス2008)。

キャプチャ

ノルウェーよ!!これが本当の高齢化だ(ドヤ!

ノルウェー政府は、現状を打開するために、沿岸地域に若者にとって魅力的な職業を作るべく努力をしているそうだ。ノルウェーの小規模漁業の人たちの収入はどれぐらいなのか、Kjerstiさんに直接聞いてみた。そうしたら、「小規模漁業者の収入を調べてみたら、私たち研究者よりも高かった」だって。漁業を継げば生活は十分に成り立つんだけど、それでも都会を目指す若者がいるから、徐々に若者が減っているということだ。

一方、日本は新規就業者が無い状態を何十年も放置した結果、高齢化も行き着くところまでいってしまった。「50代が若手」というのが日本の漁村の現状だ。漁村には跡継ぎがいない高齢者ばかりになって、限界集落化が進行している。日本の場合は、ノルウェーと違って、沿岸漁業の生産性が低すぎて、生計が成り立たないという根本的な問題がある。沿岸漁業が補助金で支えられている状況では、新規就業者が増えるはずが無い。

日本とノルウェーの小規模漁村の違い

日本とノルウェーの小規模漁村の現状を整理すると次のようになる。

キャプチャ

まず、漁業で生活が出来るかどうかが大きな違い。ノルウェーでは漁業で生活できるので、漁業への新規加入がある。ノルウェー政府は、都市部にある必要が無い政府機関をどんどん地方に移転しているそうである。問題が顕在化する前に、対策を講じているのだ。一方、日本の漁村には、漁業で生計が成り立たないし、漁業以外の雇用がない。漁村は縮小再生産どころか、限界集落化→消滅へとむかっている。日本の置かれている状況はノルウェーとは根本的に違う。

両国の政府の対応の違いも興味深い。ノルウェーでも、今の状態が何十年か続けば、漁村の活力が失われていくだろう。ノルウェー政府は、高齢化の悪影響が顕在化する前に、魅力的な雇用の創出という根本的な対策を打ち出した。雇用政策は一朝一夕で結果がでるものではないので、取り組むなら早いほうが良い。一方、日本は何十年も漁村に雇用が無い状態を放置したままだ。高齢化が進むのは、「厳しい仕事を嫌がる軟弱な若者が悪い」と責任転嫁をして、補助金で高齢漁業者を保護する対処療法を続けてきた。当然の結果として、超高齢化が進み、方向転換をする体力も残っていない。日本という国は、どうして構造的な問題に取り組むのがこうも苦手なのだろうか。

日本の小規模漁村が存続するには、普通に生活できるような水準まで、小規模漁業の生産性を改善するのが急務である。そうすれば、小規模漁業にも新しい人が参入できる。「漁業の生産性を上げるには、資源管理以外の選択肢は無い」というのがノルウェー人の共通認識である。日本も、ノルウェーを手本にして、資源管理を導入すべきである。漁業以外に魅力的な雇用をどう作るかを考えるのは、そこから先の課題だろう。「早くノルウェーに追いついて、共通する問題に対して,一緒に取り組めるようになると良いな」と思ったよ。

Kjerstiさんから、北部の小規模漁村地域のロフォーテンに来るようにお誘いを受けた。ノルウェーの小規模漁村をじっくりと見てこようと思う。タラの資源はものすごい豊富で、港から200mぐらい行った湾の中が漁場なんだって。でもって、釣り糸を垂らすと2秒ぐらいで、40cmぐらいのタラが入れ食いで獲れるそうだ。そりゃ、利益も出るだろう。いやはや、日本では信じられないような話なのだけど、実際にこの目で見てこようとおもう。

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