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ニュージーランド漁業の歴史 その2

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1996年 漁業法改正

ITQの導入から10年目の1996年に、Fishries ACT 1996と呼ばれる漁業法の改正があった。詳細はここで確認できる。
http://www.legislation.govt.nz/act/public/1996/0088/latest/DLM394192.html
たったの795ページだから、暇なときにでも目を通して欲しい。

制度運用の細かい部分まで具体的に、年限を区切って計画されている。また、細かい部分に修正を繰り返して、現在に至っていることもわかる。 ここでのポイントは3つある。ACEの導入、Deemed Valueの導入、およびマオリ対応だ。

ACEの導入

ACE(Annual Catch Entitlement)という権利が毎年の漁獲枠から、発生することになった。このACEの取引を自由化することにより、操業の自由度がグッと増した。これまでは、漁獲枠(ITQ)の永続的な譲渡のみを認めていた。漁獲枠の譲渡では、短期的な漁獲変動に十分に対応できない。たとえば、ある魚種の漁場が例年とは違うところに形成された場合、魚を捕りに行けるけど漁獲枠が無い漁業者と、漁獲枠があるけれど獲りに行けない漁業者が出てきてしまう。来年以降もその漁場にくる保障がないときに、大枚をはたいて「永続的な漁獲枠(ITQ)」を購入するのは難しい。こういう状況に対応するために、「その年の漁獲の権利(ACE)」の売買を認めたのだ。 ACEが導入される前のITQ制度は、賃貸契約が禁止されている不動産市場ような状態であった。ACEの導入によって、漁獲枠を買う資本力がない漁業者も柔軟に操業をできるようになった。その結果、漁獲枠を持たずにACEで操業を行う「ACE漁業者」が誕生した。

ITQの取引による長期的な経済効率の改善と、ACEの導入による短期的な資源・漁場の変動に対する柔軟性が、現在のITQの基本形である。たとえば、燃油が高騰したときに、燃費の悪い船のオーナーは、ACEを燃費が良い船に売ることで、利益を得ることができる。燃費が良い船のオーナーは、ACEを買い集めることで、まとめ取りで利益を高めることができる。ACE取引は、燃費がわるい漁業者にも、燃費が良い漁業者にも利益がある。現在、NZではACE取引は非常に活発である。売る側と買う側の両者に利益が無いとACE取り引きは成立しないことをかんがえると、ACEの導入は、持てるものにも、持たざるものにもメリットがあったといえるだろう。

Deemed Value

ITQの対象資源は順調に増加し、現在は94魚種、384資源がITQで管理している。ほとんど混獲しか無いような種も多く含まれている。NZでは海上投棄はすべて禁止されているので、漁獲物はすべて港に持ち帰らなければならない。漁獲枠を持っていない魚種が網にかかった場合、漁業者はACEをどこかから買ってくることになる。しかし、常にACEが購入可能とは限らない。漁期の最後までにACEを確保できなかった漁業者は、Deemed Value(みなし価格)を政府に払うことになる。

漁獲枠の超過を抑止するには、Deemed Valueは浜値よりも高くなければならない。また、Deemed Valueが高すぎると、今度は不法投棄の問題を引き起こしてしまう。 Deemed Valueの決定は、微妙なさじ加減の上に成り立っている。Deemed Valueが導入された当初は、いくつかの魚種で、低すぎる値が設定されていた。一部の不心得な漁業者が、漁獲枠を超えてこれらの魚種を水揚げした。NZ政府は、翌年にはこれらの魚種のDeemed Valueを引き上げるとともに、Deemed Valueの制度の改変を行った。対象魚種の総漁獲量がTACCを上回ると、Deemed Valueが段階的に値上げするようにした。これによって、浜値に不確実性があったとしても、特定の魚種への過剰漁獲を抑制できるようになった。

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Deemed Valueの具体的な運用は次の通りである。漁獲枠を持っていない資源を水揚げすると、その時点でDeemed Valueの基準額を前金として払う。漁期の終わりまでにACEを入手すると、前金は返金される。漁期の終わりまでにACEを入手できなかった場合は、Deemed Valueを支払うことになる。もし、該当魚種への漁獲量がTACCを下回っていれば、前金がそのまま入金される。もし、漁獲量がTACCを上回っていた場合は、Deemed Valueは基準額よりも高くなるので、その分の差額を支払うことになる。Deemed Valueの運用はかなり複雑で、漁業省の担当者から、半日レクチャーを受けて、ようやく全体を理解できた。

Deemed Valueの実際の金額は、漁期が終わらないと確定しない。これは、漁業経営にとって、不確実性となる。特に漁獲枠を持たずにACEを購入して漁業を行っている「ACE漁業者」にとっては、経営上のリスクとなる。また、Deemed ValueがACEの相場に大きな影響を与える。Deemed Valueが下がれば、それだけACEの相場も下がる。ITQ保持者は高いDeemed Valueを希望し、ACE漁業者は低いDeemed Valueを期待する。NZのQMSが機能するためには、Deemed Valueの価格設定が妥当でなくてはならない。様々な圧力がかかる中で、難しい舵取りを要求される。漁業省の担当者から、Deemed Valueの決定方法の分厚いマニュアルももらったのだが、本当にいろんなことを考えているよ。Deemed Valueの設定ミスで、管理に大穴があいてしまったのは、初年度のみなので、まずまずの運用といえるだろう。

Cost Recoveryが漁業省の予算となるのに対し、Deemed Valueは、国に回させる。そのため、漁業者への直接的な還元にならない。漁業省としては、業界に還元できるような方向性を模索しているようである。

マオリ対応

マオリの権利を保障するために、新規に設定される漁獲枠の20%をマオリに優先配分をすることにした。マオリは大規模な漁業を行っていないので、評議会がマオリ所有の漁獲枠を企業に貸し出して利益をえている。

これまで漁獲枠保持者から、資源利用料(Resource Rent)を徴収していたのだが、資源がマオリのものということであれば、利用料はマオリに納めるのが筋である。そこで、NZ政府は、資源利用料を廃止し、代わりに、資源回復費用(Cost Recovery)を徴収することにした。水産資源の管理責任を持つ国に対して、資源管理の費用を負担するという考え方である。まあ、要するに看板を変えただけで、実質的な変化はありません。

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