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サイエンス以前の問題に対して、研究者は何をすべきか?

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さて、サイエンス以前の問題を抱えている場合、研究者はどうすべきだろうか?

使われもしない資源管理手法を改良していれば十分か?
まあ、管理手法を改良すること自体は悪いことではないが、
それだけで社会的役割を果たしたとは言えないだろう。

資源評価が無視されていることに対して、社会の合意は得られていない。
多くの日本人は、日本の資源は科学的な根拠に基づいて、それなりに管理されていると考えている。
まさか、ひどい乱獲が放置・黙認されているとは思っていないのである。
科学的なアセスメントを無視して、水産庁が乱獲を公認していることを知らない。
自分たちの税金によって、乱獲が維持されているとは夢にも思ってないだろう。

以上の事柄を社会に知らしめることが専門家の役目である。
これらを理解した上で、世論が現状の漁業政策を認めたならば、
そこで我々の役目は終わりである。
この国には水産資源学など必要がないということだろう。
一般人の魚に対する関心の高さをみれば、そうはならないだろう。

RMPを無視する本会議に抗議して議長を辞めたハモンドの行動は、
研究者として正しい。真摯な態度である。
この状況に対して何も言わないというのは、納税者に対する裏切り行為であり、
漁業者・行政にへつらって、甘い数字を出すなど言語道断だ。
「行政や漁業者に無視されちゃったよぅ」と泣き言を言う前に、
社会に対して、現状を伝える努力をすること。

日本で資源管理が出来ないのは、科学以前の問題

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IWCやCCSBTはOM的なアプローチは採用したが、資源管理が行われているわけではない。
これらの管理組織はサイエンス以前の問題を抱えており、
その問題を解決しなくては、科学的な管理は不可能なのだ。
IWCは、科学的な勧告に基づき捕鯨を行うという合意形成が必要である。
CCSBTは、各国が合意した漁獲枠を遵守しているかどうかのチェック機構が必要である。
これらのハードルをクリアしない限り、科学的なアセスメントの質を向上させても無駄だろう。
IWCやCCSBTの管理が破綻しているのは、資源評価の不確実性の問題ではない。
そのことを明らかにしたという点で、OMの採用は妥当であった。
OM的なアプローチが採用されていなければ、今でも泥仕合をしていた可能性が高い。

では、日本ではどうだろうか?
日本の国内漁業はIWCとCCSBTを足して2で割らないような惨状である。

科学的な勧告はまるで無視
科学者が設定した乱獲の閾値(ABC)を大幅に超過する漁獲枠(TAC)が慢性的に設定されている。
科学的な資源評価は全く無視されて居るも同然である。
IWCと同じように科学的な勧告に基づき漁業を行うという姿勢が欠如しているのだ。
現在の日本の漁獲枠は非持続的な乱獲を容認するものである。

漁獲枠超過を容認
そのゆるゆるの漁獲枠すら守れないのが日本の漁業関係者のモラルの低さだ。
北部大中巻き網漁業は、去年の2月にTAC枠の上限に達した後も漁獲を続けた。
2月末の時点で、TAC枠を6.6万トンも超過していた。
29万トンの漁獲枠に対して、6.6万トンの超過である。
この無法行為に対して、水産庁は次のような通達を出した。
http://www.jfa.maff.go.jp/release/19/031401.htm

サバ類の採捕を目的とする操業を自主的に停止するとともに、
今後、このような事態が生じないよう改善措置計画を策定するよう求めた。

自主的な操業停止を求めて、それで終わり。
TAC超過を取り締まる気なんて、さらさら無いのである。
漁獲枠が埋まった時点でサバの漁獲を辞めた漁業者も居た。
その一方で、漁獲枠を無視してとり続ける漁業者も居たのである。
サバにちょっとだけアジを混ぜて「アジ混じり」といって水揚げをしたり、手段はいろいろある。
漁獲枠を超過してとり続けた漁業者には、何のペナルティーも無しでは、
まともにルールを守った漁業者は馬鹿馬鹿しくてやってられない。
日本の漁業者が、資源管理への意識が低く、非協力的なのは当然だろう。
水産庁のやる気の無い対応は、超過を容認しているのも同然である。


1)日本では、科学的な勧告を無視して、乱獲を許容する漁獲枠が設定されている
2)ゆるゆるの漁獲枠さえ、守られることができない
この2点から、水産庁に資源管理をする能力が欠如していることは明白である。
日本で資源管理が出来ないのは、資源評価の不確実性以前の問題なのだ。

この状況を変えるためにOMは何の役にも立たないだろう。 
日本の場合は、研究者の対立はほとんど無い。
科学的な議論をするようなレベルではない。
ほとんどの担当者は、平松さん作成のVPAマクロを使って計算をしている。
やっとやっと、一つのモデルを使って数字を出している現状では、
複数のモデルを比較する必要など無いのである。
モデルの設定は担当者にほぼ一任されており、
他の人は出てきたABCの値について文句をいうだけだ。
その値がでてくるプロセスについての議論はほとんど無いというお寒い状況では、
OMによる科学者の合意形成など必要ないだろう 。

魚介類の貿易高が急増/八戸港

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 八戸港の魚介類貿易の主要品目は輸出がサバ、輸入はイカ。それぞれ総数量の五割以上を占めている。

 サバの輸出は、二〇〇四年の九十一トンから〇五は千三百二十四トンと飛躍的に増加。豊漁だった〇六年は九千二百十五トンに増え、今年も十月末現在で六千九百五十五トンと、高水準を維持している。水産関係者によると、国際的な魚食ニーズの高まりを反映し、主に魚体の小さいサバが缶詰などの加工原魚として中国やアフリカへ輸出されているという。
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2007/20071214133619.asp

やれやれ。
せっかく卓越年休群が発生しても途上国に投げ売りするだけ。
日本のサバは中国・アフリカへ行き、日本の食卓にはノルウェーのサバが並ぶ。
この現状は変わりそうにないですね。

こういう漁業をなくさない限り、水産物の自給率はあがるはずがない。

Mathematica6.0が素敵すぎる件について

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今日は本郷まで、Mathematicaのセミナーに行ってきた。
Mathematicaを10年以上、メインで使い続けているので、
今更かなぁという気もしたのだが、参加してみた。

俺的に一番の不満は、シミュレーションの結果を他人に見せづらいこと。
そもそもMathematicaをもっている人なんて、あんまり居ないし、
強引に買わせるにはちょっとお値段が高い。

ウェブ上で遊べた方が面白いので、Javaを使ったりもしたのでした。
http://kaiseki1.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/blosxom.cgi/study/article/suketoudara.html
この場合もJavaが入ってないと、みれないとかいう問題もあったりした。

今回のバージョンアップで、この問題点がすべて解消。
予想を上回るすてきな機能てんこ盛りで、もうメロメロの骨抜きですよ。

具体的にどういうことかというと、Manipulateという機能が出来た。
Manipulateコマンドを作ると、あっという間にコントロールボックス付きのオブジェクトがつくれる。
これがExportコマンドで、あっという間にフラッシュファイルになる。
でもって、これをあっという間にウェブにも、パワーポイントにも張れてしまうのだ。
うーん、スーパークール。

週刊東洋経済の12/15日号

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週刊東洋経済の12/15日号のP64ページに、
取材対応をした漁業に関する記事が出ました。

「魚が食べられなくなるのは誰のせいか」
なぜ魚が乱獲されるのか。一般に乱獲は漁業者の倫理面に帰されがちだ。   
経済学では、漁獲の国家管理が必要とされ、無論日本でも水産庁が管理策と獲っている。それでも乱獲が止まらないとしたら、問題は国の制度のほうにある。

サバのTAC超過や、オリンピック制度の問題点が簡潔にまとめられています。
こういう形で、外部の人にも漁業の問題提起を繰り返していくのは大切。

新聞雑誌の人の文章は読みやすいんだよね。
こういう一般向けの文章を書けるようになりたいものです。
俺の文体は、どうも堅苦しくて、いけないね。
くそまじめな性格がそのまま文体にあらわれてしまうのだろう。

2007年の成果

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いろいろと忘れてるモノもありそうだが、とりあえずはこんな感じ。 今年の俺は頑張ったよ。

  • イワシ「乱獲」お墨付き 報道媒体    新聞 媒体名    朝日新聞 年月日    2007-01-16
  • ノルウェーのニシン 報道媒体    新聞 媒体名    毎日新聞 年月日    2007-05-06
  • 魚の乱獲防止に税金投入を 報道媒体    新聞 媒体名    毎日新聞 年月日    2007-06-03
  • 緊急メッセージ 日本漁業の再生 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-17
  • 日本漁業の歴史(上) 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-18
  • 日本漁業の歴史(下) 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-19
  • 水産基本計画 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-20
  • 生物の持続性を無視 TAC制度 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-23
  • クローズアップ現代 報道媒体    TV 媒体名    NHK 年月日    2007-07-23
  • 悪循環を招く乱獲スパイラル 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-24
  • ノルウェー漁業 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-25
  • サバ漁業の比較 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-26
  • IQ制度の導入急げ 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-27
  • 漁村共同体の自主管理 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-07-30
  • 輸出用の小サバ漁、資源保護にマイナス 東大解析、短期利益追求に苦言 報道媒体    新聞 媒体名    産経新聞 年月日    2007-08-25
  • 小サバ漁、将来に禍根? 資源状況悪化、減収も 報道媒体    新聞 媒体名    山陽新聞 年月日    2007-08-25
  • 小サバ漁、将来に禍根? 資源状況悪化、減収も 報道媒体    新聞 媒体名    中日新聞 年月日    2007-08-25
  • サイエンスZERO 報道媒体    TV 媒体名    NHK 年月日    2007-09-15
  • サイエンス 学び 報道媒体    新聞 媒体名    読売新聞 年月日    2007-09-30
  • ITQ制度の解説 報道媒体    新聞 媒体名    静岡新聞 年月日    2007-10-28
  • 日本漁業責任時代へ ノルウェーから学ぶ5つの方策 報道媒体    新聞 媒体名    みなと新聞 年月日    2007-11-15
  • ガイアの夜明け 限りある魚を守れ~世界の水産資源の危機~ 報道媒体    TV 媒体名    テレビ東京 年月日    2007-11-27
  • ラジオあさいちばん 報道媒体    ラジオ 媒体名    NHK 年月日    2007-12-07

なぜOMに関わる研究者は不幸になるのか?

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最初に言っておくが、OMが悪い訳ではない。
OMを担ぎ出さないといけないような資源では、
「科学以前の問題」がある可能性が極めて高いのである。
OMによって、科学者が合意形成に成功した結果、
「科学以前の問題」が浮き彫りになったのだ。

科学者というのは、議論を通して、理解を深めていく傾向がある。
科学者同士の見解が別れたまま、泥仕合になってしまうような場所はむしろ例外である。
こういう場所では、研究者は相互理解よりも寧ろ、特定の結論を導くために議論をしている可能性が高い。

IWCやCCSBTにおいては、国益をかけた代理戦争が行われていた。
研究者は、それぞれの国旗を背負った兵隊なのだ。
情報が限られた現状では、どちらの陣営も完全勝利とはいかない。
白黒つかない不確実性の狭間で、堂々巡りが繰り返された。
OMには、この科学者の無益な堂々巡りを止める機能がある。

OM以前は、研究者が合意形成に失敗し、科学委員会として勧告を出せなかった。
科学的な不確実性が、管理をできない要因とされていた。
しかし、それは事実ではなかったのだ。不確実性はスケープゴートであった。
OMによって研究者の合意形成ができたとしても、やはり管理はできなかったのである。
IWCにおいては、科学者が提示した漁獲枠を守るというコンセンサスが無かった。
(科学的アセスメントを尊重するというのは、うわべだけのポーズであった)。
CCSBTにおいては、決定した漁獲枠を加入国に遵守させる枠組みが無かった。
要するに、サイエンス以前の問題があったのである。
OMによって、科学委員が正常化したことで、これらの問題が表面化したのである。

管理できないのがサイエンスの問題であるならば、OMは問題解決に役立つ。
現状では、対立する研究者の合意形成の最良のツールといえるだろう。
そうでない場合、OMはサイエンス以前の問題を浮き彫りにすることができる。
科学者にできることは、そこが限界である。

歴史は繰り返す

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何かと話題のミナミマグロの管理でも、OM的なアプローチが採用された。
IWC以外では、国際漁業管理機関として、世界初であった。
では、この試みがどうなったかを概説しよう。

ミナミマグロの管理委員会では、豪州と日本の意見が激しく対立し、
科学委員会として漁獲枠を提言できないという異常事態が続いていた。
要するに、IWCのNMP時代と同じような状態だったわけだ。
日本と豪州の対立の象徴的な出来事は国連海洋裁判所への提訴騒ぎだろう。
ミナミマグロの漁獲枠の削減で漁場が狭くなった。
豪州は狭くなった漁場以外では魚はいないと主張し、
日本は現在の漁場以外にもいるはずだと主張して、双方譲らなかった。

「だったら調査で明らかにしよう」といって、日本は漁場の外で調査漁業を行った。
そこでとれたマグロは「これは調査だから」といって、漁獲枠の外にしてしまった。
正規の漁獲枠にプラスアルファーして、漁場外調査の漁獲をおこなったのである。
豪州は、漁獲枠を無視する国際条約違反であると怒り、
国連海洋裁判所への提訴に踏み切ったのだが、裁判の結果は門前払い。
よーするに、「当事者で解決すべき問題を持ってくるんじゃねぇよ」ということだ。

こんな感じで、にっちもさっちもいかなくなっていたのであった。
このままじゃいけないということで、外部から専門家を招いて調停をしてもらった。
地域紛争の解決に国連のPKOを呼んできたような感じかな。
で、呼ばれてきたのがHilbornやAna ParmaやPopeなど、一流どころばかり。
さすがマグロは動く金が大きいだけに、だしおしみをしなかったようだ。
Image200712081.png

調停役である諮問パネルは、OM的なアプローチを採用した。
IWCと同様に、何が正しいかを議論するかわりに、
考えられる不確実性に頑健な漁獲枠計算法を探すことにした。
漁獲枠計算法のことを、IWCではCLAと呼んでいたが、ここではMPと呼ばれている。

様々な不確実性を考慮するために、
720通りのシナリオをそれぞれの重み付けに従い2000サンプル取り出してシミュレーションを行った。
これは、大変な手間ですね。いやいや、ご苦労様です。
でもって、下の表がシミュレーションの結果。

Image200712082.png
列がMP,行がMPを評価するための指標をしめしている。
青が豪州・ニュージー組、赤が日本、緑が台湾、紫が南ア&日が提案したMPである。
指標としては、

  • TACを初期に減少するかどうか
  • 長期的なTACの水準
  • SSBが10%いかに下がるリスク
  • 最終的にTACがどのていど上昇するか
  • TACの変動幅

など、多岐にわたる。
延々とシミュレーションと議論をした結果、
バターワース&森方式(D&M方式)が採用されたのでした。
そこに至る課程では、予定外に資源が減ってしまったりとか、
いろいろな困難があったわけですが、何とかMPの合意にこぎ着けたわけです。

ミナミマグロの場合も、苦労の末にMPが完成し、
あとはこれをつかって漁獲枠を計算するだけという段階になって、
想定外の横やりが入ってしまった。
どこかの不届きな国が大量に超過漁獲をしていたのである。
日本のミナミマグロの流通量はCCSBTのミナミマグロの漁獲枠の倍の水準であり、
どこかに漁獲枠を大幅に超過している無法国家があることは明白である。
現在の漁獲枠なら資源は緩やかに回復するはずなのに、
ふたを開けてみたら資源量を激減していたのですが、その理由がわかりました。

結局、ミナミマグロが減ってしまったので、日本は世界に範を示すために
自ら進んで、漁獲枠を半減させたそうです。偉いですねぇ。
ちなみに、ミナミマグロの漁獲枠が減ったのは日本だけです。
とんでもない無法国家のせいで、無関係な日本の漁業者はいい迷惑ですよ。
無法国家の正体を突き止めるのは、マグロの最大の消費国の責任だと思います。
日本国内でしっかり調べれば無法国家の正体はすぐにわかると思うので、
一刻も早く徹底的な調査を行ってほしいものです。
それはそうと、日本漁業は不正漁獲と無関係にも関わらず、
日本の延縄データを使った解析を全面的にやり直しているのはなんででしょうね?
不可解なことが多すぎるので、誰かわかりやすく説明してください。

と、まあ、当てこすりはこれぐらいにしておこう。
何にせよ、不正漁獲のせい研究者の努力はオジャンです。
こんな不確実性までは試していないので、シミュレーションは全部やり直しだろうね。
漁獲枠をないがしろにしていたどこかの無法国家のせいで、
MPは全面的に作り直しになる可能性が濃厚です。

MPが完成して、科学者委員会で合意できたと思った矢先に、
外からでっかい横やりが入って、座礁してしまった。
ミナミマグロの管理は、奇しくもIWCのRMPと同じ運命をたどってしまったわけだ。
歴史は繰り返す、ということですな。
関係者の間では「OMは呪われている」とか「OMに関わると不幸になる」とか言われています。
ミナミマグロに関わらなくて、よかったぁ。


ミナミマグロの管理に関しては、ここを参考にしました。
http://homepage3.nifty.com/kurota/doc/060328_eco_presentation.pdf
このエントリーの画像はすべてここからのコピペです。

やっぱり、歴史は動かなかった(ショボン

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1991年に科学者が苦労をしてRMPを完成させたにも関わらず、
反捕鯨陣営が幅をきかせる本会議ではスルーされてしまった。

反捕鯨陣営は、科学的な不確実性を持ち出していれば、
ずるずると捕鯨中止を引き延ばせると踏んでいたのだろう。
にもかかわらず、科学者がRMPを採択してしまったモノだから、さあ大変。
当然、自国の科学者もRMPに賛成しているのだから、さぞ困っただろう。
「科学・科学」と連呼していた人間が手のひらを返したように、科学委員会を無視したのである。

1993年には、科学委員会を無視する本会議に抗議して、
当時の科学委員会の議長であったフィリップ・ハモンドが
「やってらんねぇよ」と辞任するという事態に発展。
ようやく1994年に本会議もRMPを採択したのだが、
「RMPを実施するために必要な管理システムが不備である。
よって、現段階ではRMPを実施にうつすことはできない」
ということで、なりふり構わずに捕鯨を止めにきた。

反捕鯨陣営は、科学委員が捕獲枠を出せなかった時代には、
「科学的な不確実性を考慮しよう」と言うけれど、
科学者がいざRMPを完成させたとたんに、科学委員会を無視するのである。
IWC本会議には、科学的な不確実性より前に解決すべき課題があることは明白である。
IWCの本会議は、捕鯨に反対するための方便として、
科学者委員会を利用していたに過ぎなかったのである。

科学委員会がRMPを完成させたことで、
IWCの本会議を支配するのが科学的な持続性への配慮ではなく、
特定の文化圏の倫理であったことが明白になった。
これは科学委員会の大きな功績である。
もし、科学委員会が本会議の顔色をうかがって、まともな捕獲枠を出さないような組織だったら、
世界の人はクジラは絶滅のおそれから捕れないと勘違いしたままだっただろう。
ちゃんとRMPをつくった反捕鯨陣営の国の研究者は偉かった。
それに比べて、「厳しい漁獲枠を出すと、漁業者や大本営が反対する」とかいって、
ずるずると管理目標を下げ続ける日本の研究者の態度はいただけない。
IWCの科学委員の爪の垢を煎じて飲むべきだろう。
科学的アセスメントを蔑ろにする今の漁獲が非持続的であるということを、
社会にあまねく知らしめることこそ、資源研究者の役割なのである。

このIWC本会議の態度を、大本営が科学軽視と非難しているが、
まさにお前が言うなである。
IWC本会議は、大本営よりは不確実性に対して理解があった。
反捕鯨陣営の「不確実性があるから、様子を見よう」という意見はまっとうである。
RMPが完成してメッキがはがれてしまったが、まともな主張をしていたわけだ。
一方、大本営は「研究者のいうことはあてにならないから、漁獲枠を増やそう」とか、
「不確実性があるから、漁獲枠を増やそう」とか国内資源に対して言っている。
これは全くの論外であって、メッキがはがれるとかそれ以前の問題。
「あいつ、ズボンのチャックが開いてるぜ」と笑っている本人は全裸でした、みたいなもんだ。

OM誕生の瞬間、その時歴史が動いた?

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IWCの科学者委員会の泥沼から、OM的アプローチが産まれたのである。

NMP時代の泥沼からわかったことは、
何が最良推定かという議論は時間の無駄だということだ。
複数のモデルに白黒つけるだけの情報が無いのである。
生態系というのは反復実験が出来ないし、
また、データは質的にも量的にも限られている。
白黒つくだけの情報が溜まるまで待っていたら、日が暮れてしまう。

科学委員会の役割は、何が正しいかを知ることではなく、
クジラを持続的に有効利用できる捕獲枠を計算することである。
どのモデルが正しいかという不毛な議論の代わりに、
どのモデルでも通用するような捕獲枠の計算方法を探すことにした。
何が真実かはわからないという科学の限界を受け入れたで、
社会の要請に答えようとしたのである。
実学研究者としての本分に忠実だったIWCの科学委員会は偉い。

科学者委員会は、漁獲枠を算出するためのアルゴリズム(Catch Limit Algorithm, CLA)の開発に乗り出した。
NMP時代の失敗をふまえて、捕鯨をやれば自動的に得られるであろう情報のみを利用して、
捕獲枠が算出できるようなCLAを目指した。
CLAさえ決めれば、科学的な勧告が出せないという事態は避けられる。

image07120701.png

CLAの選択にはコンピュータ・シミュレーションが活用された。
例えば、候補となるモデルが3つ、候補となるCLAが3つあったとする。
全てのモデルと制御ルールの組み合わせをシミュレーションで検証すれば、
全てのモデルに対して、資源の持続性を守りつつ、捕獲枠も確保できるルールはどれかがわかる。
image07120703.png

個々のシミュレーションはこんな感じになる。
image07120702.png

まず、テストすべきモデルとCLAの組み合わせを決定する。
最初にある捕獲枠を与えてやると、、
1)仮想モデル場での捕鯨データが得られる。
このデータは、多くのランダムな要素が含まれている。
2)採用されたCLAをつかって、このデータから捕獲枠を計算する。
3)その捕獲枠で仮想資源から捕鯨を行うことにする
4)1に戻る
このプロセスを繰り返していくと、そのモデルに対して、そのCLAがどの程度適しているかがわかる。
最低資源量や、平均捕獲枠、捕獲枠の変動などで比較を行う。

IWCで提案されたCLAは以下の5つであった。

  1. Punt and Butterworth 方式 (PB 方式)
  2. Cooke 方式 (C 方式)
  3. de la Mare 方式 (dlM 方式)
  4. Sakuramoto and Tanaka 方式 (ST 方式)
  5. Magnusson and Stefansson 方式 (MS 方式)

これらの5つのCLAと多種多様なモデルの組み合わせをシミュレーションし、
得られた結果を徹底検証し、Cooke方式が全会一致で採択された。
Cooke方式は、プロダクションモデルを用いた単純なCLAで年齢構成すらないのである。
シミュレーションで再現されたクジラの動態モデルは非常に複雑かつ不確実であったが、
このようなシンプルなルールが選ばれたというのは、実に面白い結果である。

主義主張が全く異なり、お互いに妥協をしない研究者達が集まっても、
サイエンスという同じ土俵に載ることで、全会一致で合意できるのである。
これは、科学者による合意形成のポテンシャルを示す事例である。
また、何が真実かではなく、不確実性に頑健な捕獲枠の算出方法を目指した点でも、
科学委員会の真摯な姿勢を感じることが出来る。

実は、この辺の流れは俺はあんまり詳しくないので、
細かい経緯については、この辺を参考にしてください。
http://www.nies.go.jp/social/seminar/H16/pdf/ishii_200406.pdf

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