
大西洋クロマグロの資源状態について書きました(2010.Mar.19)
世界的にも危機的状況が伝えられているマグロ類。その中で、もっとも商業価値が高いのが、クロマグロ(太平洋)、タイセイヨウクロマグロ、ミナミマグロの3種である。タイセイヨウクロマグロを絶滅のおそれのある種として、ワシントン条約で規制しようという動きが世界中で活発化しています。今年の3月にドーハで開かれるワシントン条約締約国会議で、タイセイヨウクロマグロの規制の是非が議論されます。ここで、商業取引が禁止されると、日本への輸入は停止することになります。我々日本人に関係が深い問題なのに、国内メディアはほとんど伝えません。一般の人にも解るように、これまでの経緯と、今後の展望を順次まとめていきます。

背景
マグロは、国境を越えて大回遊するので、国際的な枠組みで管理する必要があります。それぞれのmぐろを管理するための国際機関があります。タイセイヨウクロマグロを管理するための国際機関はICCAT、ミナミマグロを管理するための国際機関がCCSBTです。これらの国際機関はかなり前から活動をしていますが、マグロの減少に歯止めがかかりません。ICCATの管理能力は致命的に低く、地中海のクロマグロ漁業はコントロールできていないという批判の声が高まっています。漁業者に任せておいたら、どこまでマグロが減少するかわからない。ここまでマグロが減った以上、自然保護の枠組みで規制をすべきという主張が国際的に広まっています。
ワシントン条約とは
正式名称は、絶滅のおそれのある希少生物の取引を規制する国際条約です。日本ではワシントン条約、海外ではCITESが一般的な通称です。ワシントン条約加盟国は、2年に1度、締約国会議を開き、付属書の見直しを行います。次の締約国会議は、今年の3月13日~25日にドーハで開催されます。ワシントン条約には、複数の付属書がありますが、モナコが次の締約国会議で、もっとも厳しい付属書Iにタイセイヨウクロマグロを記載するよう正式に提案しています。
付属書I
絶滅のおそれのある種であり、学術研究目的以外の国際取引を全面的に禁止する。付属書II
必ずしも絶滅のおそれのある種ではないが、存続を脅かすような利用を制限するために、輸出許可書(その取引が種の存続を脅かすものではなく、また、その個体が適法に捕獲されたものであることを示すもの)が必要となる。
付属書Iになるか、付属書IIになるかで、日本の消費にとって、大きな違いがあります。タイセイヨウクロマグロが付属書Iに記載されると、海外から日本への輸出が出来なくなります。公開からの持ち込みも禁止されるので、日本船による漁獲もできなくなります。実質的に、タイセイヨウクロマグロは、日本市場からほとんど姿を消すことになるでしょう。
付属書IIに記載された場合には、先方が国際機関のルールに則って漁獲された証明書を準備すれば、日本にマグロを輸入することが出来ます。ICCATの加盟国が自国の漁獲枠の範囲で獲ったマグロであれば、それほど大きな問題は生じないでしょう。逆にICCATに参加していない国はマグロの輸出ができなくなるので、ICCAT未加盟国による、無秩序操業を牽制する効果が期待できます。
クロマグロをワシントン条約で規制をする運動の歴史
クロマグロをワシントン条約で規制しようという声は以前からありました。これまでは、一部の自然保護団体の孤立した主張であり、恒例行事のパフォーマンスのような印象でした。今回は、欧米の一般世論からも、規制を求める声が高まっている点が、これまでとは根本的に違います。
1992年
- CITES締約国会議で大西洋クロマグロの掲載が提案される(米国が事前に提案→撤回、スウェーデンが提案→撤回)
1994年
- IUCNレッドリストの基準の改訂
- CITES締約国会議でクロマグロとミナミマグロの掲載が議論された(ケニアが提案を準備したが事前撤回)*1
1996年
- IUCNで海洋生物に対する基準の議論
- IUCNレッドリストに、マグロが条件付きで掲載される
2009年
- 自然保護団体WWFがタイセイヨウクロマグロの地中海産卵群が5年以内に消滅すると警告(ソース)
- モナコが、タイセイヨウクロマグロを商業取引を禁止する付属書Iに記載するよう提案→EUで議論が燃え上がる。
- 7/3 米国は国際管理団体ICCATが断固とした取り組みを行わない限り規制に賛成すると表明。
- 8/25 石破農水大臣は「クロマグロは絶滅の恐れがある種に該当しない」と反論しました。 今後は、関係各国にモナコの提案に反対するよう働きかける考えを示した。
- 09/09欧州委員会は、大西洋のクロマグロ(本マグロ)資源の現状についてモナコが表明している懸念の多くを共有しており、クロマグロをCITES(ワシントン条約)付属書1の対象に加えることを求める同国の提案について、EUが暫定的に共同提案者となることに合意した。ソース
- 9/22 大西洋産のクロマグロ(本マグロ)の商取引を禁止するよう求めた提案がEU加盟27カ国の会合で否決されたと発表した。AFP通信によると、イタリアやスペインなどの漁業国が反対した。ソース
- 11/15 大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)は15日、地中海と東大西洋でのクロマグロ(本マグロ)の来年の漁獲枠を今年の2万2000トンから1万3500トンに引き下げることで合意
- 12/14 FAOの科学委員会の大多数が、クロマグロを付属書Iに記載するために十分な証拠が得られていることに合意したが、付属書Iへの記載のコンセンサスは得られなかった。付属書IIへの記載に関してのコンセンサスは得られた。
The panel did not reach consensus regarding the proposed listing under CITES Appendix I of Atlantic bluefin tuna (Thunnus thynnus), however a majority of the panel agreed that the available evidence supports the proposal. There was consensus that the evidence available supports the inclusion of Atlantic bluefin tuna on Appendix II.(ソース)
2010年
- 1/29 イタリアが、方針を転換し、大西洋クロマグロを付属書Iに記載するモナコ提案を支持。ICCATが昨年、今年の漁獲枠を前年比4割減と決めたことで、イタリアは日本に輸出する余力がなくなり、国際取引禁止に強硬に反対する動機もなくなったとしている。(ソース)
- 2/3 フランス政府は3日、乱獲で個体数の減少が指摘される大西洋と地中海のクロマグロの国際取引を禁止する措置を支持すると発表した。フランスの支持で欧州連合(EU)が同条約による取引禁止方針で一致するとの見方が強まった。(ソース)
- 2/10 欧州会議(european parliament)は、タイセイヨウクロマグロをワシントン条約の付属書Iに掲載するというモナコ提案を正式に支持することを表明。EU27ヶ国にモナコ提案の支持を要求した。(ソース)
- 3/3 米国が付属書Iを正式に支持
- 3/10 キプロス、マルタが反対を撤回。EU27カ国すべてが付属書Iを支持することが正式に決定(ソース)
- 3/13 ドーハにて締約国会議
- 3/19 本会議にて、モナコ提案が否決される。
より詳細な年表がWWFによって公開されています。
現状分析
FAOの科学委員会の決定は、ワシントン条約の結果に大きな影響力を持つとされています。日本人1名以外は付属書Iに賛成したようです。
マグロの国別消費量
みなと新聞(平成22年1月1日号)の推定によると、主要なマグロ消費国の生鮮マグロ消費量は次のようになる。
| 日本 | 30 |
| 米国 | 7 |
| 韓国 | 2 |
| 台湾 | 1 |
| 欧州 | 0.8 |
| 中国 | 0.6 |
圧倒的に、日本の消費量が多い。全体の7割以上を消費している。キハダやメバチなど熱帯性の廉価なマグロは米国の割合が高く、ミナミマグロやクロマグロのような高級な魚種ほど日本で消費される割合が高くなっている。

私の主張
「漁業管理の枠組みが機能していない現状では、自然保護マターで規制をするしかない」という意見は理解できる。日本人には自覚がないかもしれないが、日本人のクロマグロの消費には、世界中から厳しい視線が注がれている。
では、日本のやっていることはどうだろう。自国沿岸での未成魚や産卵場での漁業は無規制。自国の漁獲統計は隠し、国際的な漁獲枠をごまかして水揚げし、挙げ句の果てに「マグロは絶滅危惧種ではない」と開き直っているのである。未だに、新しいマグロ運搬船を地中海に送り込んでいる企業もあるという。
日本の消費者には、世界中のマグロを食べ尽くしたことに対する反省の色はなく、値段が上がる心配ばかり。マグロの漁獲規制を求める国際世論に対して、「日本を狙い撃ちした差別だ」などと、被害者意識をあおるマスコミも存在します。そもそも、絶滅が危惧されるまで、マグロを乱消費したのはどこの国なのか。確かに、魚を捕った地中海の漁業者にも責任はあるけれど、乱獲状態にある魚を乱食している日本人も褒められたものではないでしょう。
なぜ、世界的な非難に晒されてまで、激減した大西洋のクロマグロを食べなくてはならないのでしょうか。クロマグロが日本の食文化に必要というなら、なぜ、日本沿岸のクロマグロ稚魚の乱獲を放置しておくのでしょうか。日本人は、今までのマグロ漁業・消費のあり方を考え直すべきだと私は思います。
世界中からひんしゅくを買ってまで、
激減した大西洋クロマグロを食べないといけないのですか?
*1 「掲載提案(ケニアが提案→撤回)」を「 掲載が議論された(ケニアが提案を準備したが事前撤回)」に訂正 10.05.24