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マグロ輸出規制 Archive

マグロについて語ってみる その2

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1994年に、IUCNが客観的基準を導入した当初は、IUCNの守備範囲は陸上の生物に限られていた。IUCNは、1996年に突如として、海の生物にも一律にこの基準を当てはめることにした。漁業関係者にとっては、寝耳に水であった。日本の漁業関係者が、IUCNの議題がマグロだと言うことを知ったのが、会議の2週間前とかそんな感じ。
IUCNの新基準を当てはめれば、多くの漁獲対象資源がレッドリストに該当する。3世代で5割の減少などは、海産魚類ではよくある話なのだ。IUCNは、予防原則の立場から、5つの基準のどれか一つでも当てはまっていれば、他の基準に合致しなくともリストに掲載することにしていた。マグロを含む多くの魚類が基準Aに引っかかり、絶滅のおそれありと判断された。

IUCNの新基準

(A)個体数の減少
(B)生息面積が減少している
(C・D)成熟個体数が少ない
(E)野生絶滅の可能性を示す定量的リスク分析

さて、上の5つの基準では、絶滅リスクを直接推定した基準Eとそれ以外では意味に差がある。個体数の減少や、生息面積は、個体群にストレスがかかっている間接的な証拠ではあるが、これが必ずしも絶滅リスクにダイレクトに結びつくわけではない。基準Eで絶滅のおそれ無しという結果がでても、他の基準に合致すれば絶滅のおそれありと判断されてしまうのだ。絶滅のおそれが無いのは明らかなのに、レッドリストに載せるのは乱暴だろう。たとえば、ミナミマグロは、現在の減少率が続いても、すぐに絶滅するわけではない。絶滅のおそれがある個体数(500個体)に減るのは90年も先のことだ。これは3世代いないなので、基準Eでは危急(VU)になる。ところが、基準Aの方が厳しい結果が出るのでそちらが優先されてCR(絶滅寸前)になってしまった。

*Threatened – 「危惧」あるいは「絶滅のおそれのある状態」(絶滅危惧)には3種類ある

o Critically Endangered (CR) – 「絶滅寸前」(絶滅危惧IA類)
o Endangered (EN) – 「絶滅危機」(絶滅危惧IB類)
o Vulnerable (VU) – 「危急」(絶滅危惧II類)

素人には、CRだ、VUだと言っても、ピンとこないかもしれないが、VUとCRのイメージをわかりやすく説明すると、こんな感じかな。

VU→このままだとヤバそうなんで、なんかした方がいいんじゃね?
CR→MajiでZetumetsuする5秒前

VUとCRは、人間で言えば、健康診断で引っかかったのと、緊急入院ぐらいの違いがある。

日本サイドは、基準Eを評価できる情報がある種については、基準Eを上位にするように提案した。

日本提案

1)基準Eで絶滅のおそれなしと判断された物は、リストから除外
2)基準Eで絶滅のおそれありなら、即リスト入り
3)情報が少なくて、基準Eでは白黒つかない場合に、基準(A~D)を使う

俺としては、この日本提案は合理的だと思う。「なんでも、かんでも、載せちまえ」というIUCNの姿勢の方がおかしい。俺の聞いた話だと、基準Eを重視する方向で基準の見直しをするという話になっていたような気がするが、どうやらなしのつぶてっぽい。IUCNサイドは、飽食の海という本で、「最初のセッションで日本が立ち上がり、マグロについて抗議した。総じて参加国には悪い態度が目立ちったが、いくつかの漁業国は極端に欺瞞的だった」などと、日本をクレーマー扱いしている。あんまりな対応だろう。IUCNという組織は、なんかおかしいとおもうよ。

マグロについて、語ってみる その1

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CITESとは?

CITESというのは国際条約であり、日本ではワシントン条約として広く知られている。CITESでは、絶滅のおそれのある希少生物の取引を制限できる。CITESでは2~3年に1度、締約国会議というのを開いて、規制対象について議論をすることになっている。2010年にドーハで、締約国会議が開かれるのだが、その会議で大西洋クロマグロの取引を規制しようという動きがある。

実は、CITESでマグロの取引を取り締まろうという動きには、長い歴史がある。17年前から、いろいろな議論を繰り返して、今に至っている。何があったかをざっと振り返ってみよう。

1992年 CITES締約国会議で大西洋クロマグロの掲載が提案される
(米国が事前に提案→撤回、スウェーデンが提案→撤回)
1994年 IUCNレッドリストの基準の改訂
1996年 CITES締約国会議でクロマグロとミナミマグロの掲載提案(ケニアが提案→撤回)
IUCNで海洋生物に対する基準の議論
IUCNレッドリストに、マグロが条件付きで掲載される
現在 IUCNレッドリストに、マグロが条件付きで掲載される
大西洋クロマグロをCITESに記載する機運が高まっている。
モナコ提案→付属書Iに記載(スペイン、イタリアの反対で否決)
米国→パブコメを募集中
2010年 15回会議締約国会議(ドーハ)

まず、1992年に、米国が大西洋クロマグロの取引停止を提案する姿勢を示したが、事前に撤回。本会議では、スウェーデンが同様の提案をした。しかし、参加国の賛同が得られず、撤回。この時点から、マグロが標的になっていたが、国際世論から相手にされていなかった。潮目が変わったのが1994年のIUCNのレッドリスト基準の改定である。

IUCNとは?

IUCNは、レッドリストを作っている団体であり、CITESの基準にも大きな影響力を持っている。

IUCN-国際自然保護連合は、1948年に設立されました。84の国々から、111の政府機関、874の非政府機関、35の団体が会員となり(2008 年4月現在)、181ヶ国からの約10,000人の科学者、専門家が、独特の世界規模での協力関係を築いている世界最大の自然保護機関です。IUCNは、 地球的・地域的・国家的プログラムの枠組みの中で、国際条約等の会議の支援を通じて、持続可能な社会を実現し、自然保護および生物多様性に関する国レベル の戦略を準備し、実行するため、75以上の国々を手助けしてきました。IUCNの約1,000人のスタッフは、62の国々に滞在する多文化、多言語の機関 です。本部は、スイスのグランにあります。
日本支部はこちら(http://www.iucn.jp/iucn/index.html)

IUCNでは、1992年より前は、専門家の委員会の総意として、どの種を絶滅危惧かを考慮していた。「それってあまりにも恣意的じゃね?」という批判もあった。そこで、1994年にレッドリストの基準を作成し、より客観的な指標に基づいて、機械的にリストを作れるようにした。たとえば、絶滅危機(Endangered)については次のように定義されている。

絶滅危機「Endangered(EN)」
下記の基準(A~E)に定義されているように、絶滅寸前ではないものの、近い将来、野生絶滅のリスクが高い場合には、その分類群は「絶滅危機」です。

(A)以下のいずれかの形態で、個体群が縮小している

(1) 以下のいずれかの基準に基づいて、過去10年間、若しくは3世代のうち、どちらか長い方の期間で、少なくとも50%の縮小が観察、推定、推論され、あるいは疑われる。

(a)直接の観察
(b)分類群にとって適切な個体数レベルの指標
(c)生息地の面積、分布域の大きさ、あるいは生息地の質の減少
(d)実際のあるいは潜在的な捕獲のレベル
(e)外来種、雑種形成、病原体、汚染物質、競争種、寄生種の影響

(2) 上記の(b),(c),(d),(e)のうち、いずれかに基づいて、次の10年間若しくは3世代、どちらか長い方の期間に、少なくとも50%の縮小が予測あるいは想定される

(B)分布域の大きさが、5000km2 未満、あるいは生息地の面積が500km2 未満と推定され、以下の2つのうちのいずれかに該当する。

(1)強度の分断がある、若しくは知られている生息地が5ヶ所以下の場合。
(2)以下のいずれかにおいて、連続的減少が観察、推論、予期された場合。

(a)分布域の大きさ
(b)生息地の面積
(c)生息地の面積、大きさ、質
(d)地点あるいは下位個体群の数
(e)成熟個体の数

(3) 以下のいずれかにおける、極端な変動

(a)分布域の大きさ
(b)生息地の面積
(c)地点あるいは下位個体群の数
(d)成熟個体の数

(C)成熟個体数が少なくとも2500未満と推定され、かつ、下記に該当する。

(1) 過去5年間若しくは2世代、どちらか長い方の期間に少なくとも20%の連続的
減少が推定される。
(2) 以下のいずれかにおいて、成熟個体数や、個体群の構造において、連続的減少が
観察、良き、推論される。
(a)強度の分断(どの下位個体群も250以上の成熟個体を含まない)
(b)全ての個体群が単一の下位個体群にある

(D)成熟個体数が250未満と推定される。

(E)野生絶滅の可能性を示す定量的分析が、20年間若しくは3世代、どちらか長い方で、少なくとも20%である。

IUCNは、A-Eまでの5つの基準のうちどれか一つでも該当したら、機械的にレッドリストに載せることにした。

(つづく)


クロマグロ取引禁止を否決 EU、漁業国が反対

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U.S. FrontLine:アメリカ・日本・世界の政治・社会・経済情報速報ニュースサイト.

クロマグロ取引禁止を否決 EU、漁業国が反対


欧州連合(EU)欧州委員会は21日、乱獲で個体数の減少が指摘される大西洋と地中海のクロマグロの国際取引を一時禁止するよう求めた欧州委の提案が、同日のEU加盟27カ国の会合で否決されたことを明らかにした。


関係者によると、イタリアやスペインなど漁業国がそろって反対した。

フランスが「いきなり付属書Iはあれだから、付属書IIからでいいんじゃね?」という妥協案を出したのを、英独が「この軟弱者!」と切って捨てた時点で、EUは分裂の可能性ありと見ていたが、否決されたようですね。鼻息が荒かった、英・独・保護団体は収まりがつくのだろうか。あとは、米国がどう動くか。まだ目が離せませんね。しばらく、チャンネルはそのままで、お願いします。

欧州の勢力図

付属書I 英独モナコ

付属書II 仏

反対 伊西

マグロの国際規制に関する予習資料

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マグロの輸出規制は、1992年からの歴史的経緯を追っていくと、「ああ、ついにきちゃったね」ということになるんだけど、国内ではそういう歴史を追えるような情報がない。マグロ保全問題について知りたければ、とりあえず読んでおくべき本をまとめておこう。


マグロは絶滅危惧種か (ベルソーブックス)

まずは、遠洋水研の魚住さんの本。この本に目を通すと、大体の状況と、日本の業界サイドの言い分がわかる。ただ、この本が出てから状況はだいぶ動いていることには注意が必要。


飽食の海―世界からSUSHIが消える日

逆の視点から理解するには、この本がおすすめ。日本ではさっぱりだったけど、原著『 The end of the line』は、欧米で大ヒットし、世論に大きな影響力を与えた。賛成する、しないは、べつとして、こういう本が受け入れられて、世の中を動かしつつあると いう現実は知っておくべきだろう。

飽食の海の212ページから、IUCNマグロ問題に関する記述がある。

日本は、会合の場でこそ抗議しなかったが、国に帰るや否や、猛攻を開始した。”漁業”は世界的な産業だから、それに悪影響を及ぼすようなことなど認められないのだった

最初のセッションで日本が立ち上がり、マグロについて抗議した。総じて参加国には悪い態度が目立ちったが、いくつかの漁業国は「極端に欺瞞的だった」ことを覚えている、と博士は言う。

と、日本に手厳しいです。日本人は、消費者としての責任を問われている。


IUCNの日本代表の松田裕之さん(横浜国立大学教授)は、本書を「一貫性を欠く非理論的主張」と一刀両断。こちらも必読です。

漁業と魚食を批判する欧米世論 : チャールズ・クローバー「飽食の海」を読んで
日本水産学会誌 72(5)  pp.995-998 2006
http://ci.nii.ac.jp/Detail/detail.do?LOCALID=ART0007920925&lang=ja


それから、俺もちょっと書いているんだが、こんな本もあります。IUCNの基準や計算方法など、詳しいことも書いてあります。残念ながら、非売品。

ワシントン条約附属書掲載基準と水産資源の持続可能な利用
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2004/CITESbook.html

まだ、余部があるので、欲しい人にはあげます。ただし、三重大まで取りに来れる人限定(笑
三重まで来るのが面倒な人は、発行元の自然保護協会に問い合わせてみると良いでしょう。

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from 18 Mar. 2009

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