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漁業システム論(5) 良い捕食者の条件

  • 2006-10-13 (金) 1:03
  • 研究
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海洋生態系で、人間は最上位の捕食者である。
捕食者には捕食者のマナーがある。
持続的に餌生物を有効利用するために、捕食者が満たすべき条件を見てみよう。

ここでは、捕食者と餌生物の動態を記述する単純なモデル(Lotka-Volterra)を利用しよう。

魚の動態  dp/dt = d*p – c*p*z
漁業の動態  dz/dt = a*p*z – b*z

パラメータの意味
a:漁獲収益にしめる設備投資の割合(0.02)
b:努力量の自然減少(0.2)
c:漁獲効率(0.04)
d:資源の生産力(0.2)

この系では、資源の変動を時間遅れで努力量の変動が追いかける事が知られている。
system12.png
さて、この系のパラメータをいじってみよう。

日本の漁業の特徴は、
補助金によって努力量が増えやすく、
給料補償によって努力量が減りづらいことだ。
この状況を再現するために、aを増やして(0.025)、bを減らしてみた(0.15)のが青の軌跡。

資源管理の鉄則は、努力量の増加を抑制することと、
過剰な努力量を速やかに減らすことだ。
日本の漁業の場合とは逆に、aを減らして(0.015)、bを増やす(0.25)ことになる。
これが紫の軌跡だ。

system13.png

それぞれのシナリオの漁獲量(c*x*y)は次のようになる。
system14.png

日本型漁業は、努力量をかさ上げするので、最初に漁獲量が急増する。
しかし、資源が減るので、すぐに漁獲量が減少する。
なかなか努力量が減らないので、資源の回復に長い時間が必要になる。
一方、適切な管理をした場合には、
漁獲量を高めに保ちつつ、変動を抑えることが出来る。
平均的な漁獲量では、資源管理をした場合の圧勝だ。

乱獲行為と乱獲状態
乱獲にもいろんな種類があり、きちんと整理して考える必要がある。
対象生物にとって非持続的な漁獲圧をかけることを乱獲行為と呼ぶ。
下の図で上の方が乱獲行為の領域になる。
乱獲行為を続けると、資源量が減少して、再生産能力が落ちてしまう。
これが乱獲状態だ。

資源を持続的に利用するためには、乱獲行為を避けること。
乱獲状態に陥ったら、素早く努力量を下げて、資源回復を図ることだ。
乱獲状態の資源に乱獲行為を続けると、壊滅的な打撃を与えかねない。
下図の左上の紫の領域は、絶対に避けなくてはならない。
既に述べてきたように日本の水産行政は、漁業を危険領域に誘導するのだ。

system15.png

 

Precautionary Approach Plot

資源の利用状況を俯瞰するために、横軸が資源量、縦軸が漁獲努力量の図を描く。
これをPrecautionary Approach Plotと呼ぶ。
Precautionary Approach Plotは一部の資源評価票で用いられている。
下の図は、平成16年ヒラメ日本海西部・東シナ海系群の資源評価からの引用である。
ちゃんと、資源量と漁獲係数が反時計回りに動いている。
この資源の場合は、漁獲圧の減少が素早かったので、すぐに資源量が回復している。

system11.png

年齢に分解して、Precautionary Approach Plotを描いている例がいくつかあるが、
年齢に分解すると、全体の傾向がつかめなくなるので、図を描く意義が無くなってしまう。
上の図のように全体をひとまとめにして作図をすべきだろう。

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