なぜミナミマグロは不正漁獲をしてしまったのか?
当事者の声が全く聞こえてこないので、
部外者がそこに至るストーリーを想像してみた。
CCSBTのTAC管理によって、1985年から1990年の5年間で漁獲量を7割削減することになった。
油代がかさむ遠洋漁業では、これでは経営が成り立たないだろう。
船に多額の資本投資が必要な遠洋漁業は、
経営が厳しいからと言って船を出さないわけにはいかない。
そういうなかで、1989年までは漁獲枠を守っていたわけで、
並大抵の努力では無かったはずだ。
90年代にはいって、畜養によってマグロの値段が下がると、
経営が破綻し、不正漁獲をせざるを得なくなった。
そして、ずるすると不正漁獲を続けるうちに資源が減ってきて、
現在に至るわけだ。
では、漁業者に何が出来たか?
おそらく、何も出来なかっただろう。
マグロ漁船は減価償却が長く、きわめて長期的な投資になる。
1980年代前半に、5年後には漁獲枠が7割削減されると予測できたはずがない。
漁業者が今後も現状の漁獲が出来ると考えて設備投資をするのは無理からぬ事だ。
しかし、日本が国として国際機関CCSBTの管理を受け入れたことで、
漁獲量は厳しく規制されることになった。
CCSBTの管理を受け入れたのは漁業者ではなく日本国なのだから、
国として漁業者の漁獲量削減をサポートをする義務があったはずだ。
サポートをする気がないなら、国際的な管理機関などに入るべきではなかった。
厳しい規制を課すにもかかわらず、水産庁は漁業のリストラを充分にサポートしなかった。
その代わりに、漁獲の取り締まりもしなかった。
ミナミマグロの漁獲量の集計は、船からFAXによる自己申告だけ。
オブザーバーがいるのは全漁船の10%程度なので、ごまかしたい放題だったわけだ。
実行不可能な規制を押しつけておいて、サポートも取り締まりもしない。
漁業者の選択肢は座して死を待つか、不正漁獲をするかしかない。
彼らが後者を選ぶのは必然といえるだろう。
不正漁獲という抜け穴がなければ、90年の時点でミナミマグロ漁業は社会問題になったはずだ。
漁業者と水産庁でもめただろうが、国内問題として処理されて、
結果として、国際的な信用と漁獲枠を失うことは無かっただろう。
また、不正漁獲が無ければ、今頃は資源がそれなりに回復していた可能性が高い。
水産庁の資源管理への姿勢は、「金は出さないし、口も出さない」で一貫している。
資源管理に必要な費用をケチった結果、漁業者に不正漁獲を余儀なくし、
ミナミマグロの過剰努力量という国内問題を国際問題にして、
日本の漁獲枠と国際的信用が失われてしまった。
ミナミマグロの不正漁獲問題の本質はここにあると俺は思う。
来年からミナミマグロのTACは6000トンから3000トンに半減される。
TACは半減だけれども、
実際は10000トン獲っていたのだから、実漁獲で見れば7割削減になる。
当然のことながら、これでは生活が成り立つはずがない。
今回も何のサポートもしないなら、
別のマグロの不正漁獲が増えるだけだろう。
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