- 2009-06-12 (金) 19:27
- その他
沖合・沿岸を問わず、日本の漁業は、魚の奪い合いである。獲らなければ話にならないのだから、限られた予算は、競争のために投資することになる。ライバルよりも早く獲るために、エンジンを大きくし、魚群探知機やソナーに投資をする。たとえば、ソナーがある船とそうでない船が、競争をしたら、全く勝負にならない。誰かがソナーを導入すると、他の人間もそれに追従せざるを得なくなる。投資ができなくなった船から、早獲り競争に敗れて去っていく。この乱獲レースに、真の勝者は存在しない。新しい装備をいち早く導入した船が、リードを保てるのは、他の船が追従するまでのほんの一瞬だ。皆が新しい装備を導入して、漁業全体の漁獲能力が向上したところで、魚がいないのだから全体の利益は増えない。
自然の生産力が限られている以上、全体の利益を増やすには、魚の質を高める以外の方法はない。しかし、今の漁業には、獲れるかどうかわからない魚の価値を上げるための設備に投資するゆとりはない。少なくなった魚を探すための装備は急速に広まる一方で、魚の質を保つための冷凍設備などは貧弱なままである。結果として、産業は衰退し、借金だけが増えていくことになる。互いに競争関係にある個人が、過剰競争によって、有限な再生資源を食いつぶす、「共有地の悲劇」の見本のような状態になっている。
日本の沿岸は漁業組合が排他的な独裁権を持っており、企業を閉め出してきた。その結果が、この有様である。組合に独裁権を与えるだけでは、漁業の合理化にはつながらないことは、漁業の現状を見れば明らかだ。少しでも全体最適化という視点があれば、今のようになるはずがない。もし、企業が漁場を占有しているなら、明らかに過剰な船を出漁させないだろう。また、明らかに過剰な漁獲設備ではなく、質の向上のために投資をするだろう。企業にまかせた方が、よほど、マシだったのではないだろうか。
今の日本のシステムでは、早取り競争に明け暮れる個人経営漁業者が、事後処理の不十分な魚を不安定に供給することしかできない。今のやり方では、遠からず自滅するだろう。今の組合をベースとした地域漁業が生き残るには、企業が果たすべき役割を、組合が果たす必要がある。無駄な競争を抑制し、魚の質を高めて、コミュニティー全体の利益を増やす。そういう方向に、漁業者をまとめていければ、組合ベースの漁業でも十分にやっていける。日本にもそういう組合は、いくつか実在する。組合が企業の役割を補完すれば、日本でもちゃんと利益は出るし、世代交代もちゃんとできている。ただ、そこまで力のある組合は、例外中の例外であり、全国でも数えるぐらいしか無いのが現状だ。残念なことに、ほとんどの漁業者・組合は、現状の非効率的な漁業を延命することしか頭にない。全漁連からして、御用学者を使って、産業として成り立っていない現状を正当化しているようでは、先は見えている。
Comments:4
- たま子 09-06-14 (日) 13:02
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農家も同じですね。
ちょうど今日の新聞記事。私の住んでいる三浦市の記事http://www.kanaloco.jp/localnews/entry/entryivjun0906327/ですが
スイカやメロンのコストがかかるのは九州よりも早く作ろうとするから。
市場で飽きられてしまう前に流通させないと買ってもらえない。
そのためにビニールで畑を覆い、覆ったら今度は換気に人手が必要になる・・・
無駄な競争が無駄な出費を生んでいます。
作物を作るより近くに「ゴミ処理場」に来てもらって
カラスの被害で作物が作れなかった補償金をもらう方がいい。
そんな状態です。 - 沿岸漁業の一漁師 09-06-14 (日) 16:18
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それ以前に漁協が『行政機構に準ずる厳格な運営がなされている』と勘違いされている方が多いですよねw。素人中心にw。
リアルで漁協事業の名の下に外交官でもないのに免責不逮捕特権があると勘違いして『何をやっても許される』と思っている方がいますねwwwwwwwwwww。
酷いところは『捜査4課』が出動する事態だったりとかw。『地方自治の限界』と根源は同じというのですかねw。
『田舎者に権力を与えてはいかん』って奴w。ま~、『真面目な漁協』が迷惑しますがwwwwwww。
- さかなやオヤジ 09-06-14 (日) 21:20
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魚の品質とは、魚そのものの品質も当然ですが、それよりもっと大事なのは、流通の質ではないかと。
いくら良い魚を水揚げしても、それ相当の価格がつかなければ意味がない。早獲り競争をあおったのは、他でもない市場です。
現在も流通の60%以上を占める中央市場の流通の仕組みには、限界が来ています。流通のそれぞれの段階が、本来の役割を考え直さなければ、日本の漁業に明るい将来は見えてきませんね。
- 勝川 09-06-15 (月) 14:39
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たま子さん
>無駄な競争が無駄な出費を生んでいます。
>作物を作るより近くに「ゴミ処理場」に来てもらって
>カラスの被害で作物が作れなかった補償金をもらう方がいい。
>そんな状態です。無駄な競争で、利益が出ない産業を補助金で支える。
それによって、無駄な競争が温存される。困った連鎖です。沿岸漁業の一漁師さん
>それ以前に漁協が『行政機構に準ずる厳格な運営がなされている』と
>勘違いされている方が多いですよねw。素人中心にw。それはありますね。
排他的に漁業を営む権利が、いつの間にか、海の独裁権になっているようにみえます。漁業権は、海を切り売りする権利じゃないはずなんだけど。>『地方自治の限界』と根源は同じというのですかねw。
>『田舎者に権力を与えてはいかん』って奴w。組合に大きな権限を与えること自体は間違えていないと思うのですが、権利に対する責任と透明性が欠如しているのが問題ですね。まあ、今更、逆立ちしても公開できないところも多そうですね。
>ま~、『真面目な漁協』が迷惑しますがwwwwwww。
本当にそうなんですよね。
明日にでも情報公開できるまっとうな漁協も数多くあります。護送船団で、悪いところを守るために、不透明性を確保すると、結果として、まっとうな漁協が迷惑を被ることになります。さかなやオヤジさん、初めまして。
>魚の品質とは、魚そのものの品質も当然ですが、
>それよりもっと大事なのは、流通の質ではないかと。
>いくら良い魚を水揚げしても、それ相当の価格がつかなければ意味がない。漁業者の獲り方で変える余地も大いにあります。獲れるときにまとめて獲っていたら、買いたたかれても仕方がありません。質と量を安定させれば、買い手はつくと思います。
>早獲り競争をあおったのは、他でもない市場です。
>現在も流通の60%以上を占める中央市場の流通の仕組みには、限界が来ています。中央市場は、形骸化がずいぶん進んでいますね。今後、何処がどういう形で生き残るのか、見当がつきません。流通についても、考えないといけないとは思っているのですが、ハードルが高いです。しくみが複雑な上に、やばい所が多すぎで、どこから、どう手をつけて良いのやら。情報を提供していただけると、大変ありがたいです。
>流通のそれぞれの段階が、本来の役割を考え直さなければ、
>日本の漁業に明るい将来は見えてきませんね。最終的には、流通小売りも含めて、合理化を図っていく必要があるとの指摘は、その通りだと思います。
業界の綱ひきは、利益の奪い合いです。他人の不利益は自分の利益と言わんばかりに、
直販をしたり、中抜きをしたり、買いたたいたり・・・。そんなことをしても、結果として全体の利益が減るだけです。
長い目で見て、漁業を発展させるには、漁業全体の利益を増やした上で、その利益を平等に配分する必要があります。少しでもそういう方向に漁業を変えて行けたらよいと思っています。
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