蟹工船は、企業による労働者の搾取を描いた小説である。すでに著作権が切れているので、青空文庫で読むことができる。大学の生協でも平積みになっていたので、かなり売れているのだろう。蟹工船は、劣悪な条件で酷使される蟹工船の漁業者が、ロシア人の入れ知恵でサボ(ストライキ)を断行する、という話だ。テンポの良い独特な文体で、労働者から搾取する企業・国家権力を風刺している。さくっと読めるので、まだ読んでいない人は、是非。
戦後の日本の沿岸漁業は、小林多喜二の理想を具現化したようなものだ。排他的漁業権を持つ漁業者組合が、沿岸の絶対的な支配権を持っている。水産系の大企業は、過剰な漁業者を抱える沿岸ではなく、外海へと広がっていった。結果として、日本沿岸から企業的漁業は姿を消して、今日に至っている。
沿岸からは企業を排除した。漁業者は海に出ないでストをしている。小林が、今の沿岸漁業を見たら、「これぞ、理想の社会」と泣いて喜ぶかもしれない。では、労働者は豊かになったのかというと、そうではない。漁業者は再生産も出来ずに減少しているし、養殖業者は原価割れのただ働きだ。企業を排除して、個人営業のみになれば、みんなが幸せになるわけではない。そのことは、日本の沿岸漁業の歴史が証明している。
漁業が地域の基幹産業として機能するには次の2つの条件が必要である。
条件1)漁業で安定的な収益を得る
条件2)利益が関係者・地域にきちんと還元される
蟹工船の場合、漁業の利益は労働者に還元されなかった。資本家の搾取によって、条件2が満たされていなかったのである。このような不平等は許されるものではない。リスクを負っている労働者に、きちんとした対価が支払われるべきだ。一方、企業を排除した日本の沿岸漁業からは、経営の合理性が失われてしまった。互いに競争関係にある個人が、過剰競争によって、有限な再生資源を食いつぶす、「共有地の悲劇」の見本のような状態になっている。こちらは条件1が満たされていないのである。そもそも利益がなければ、搾取されようがない。逆に、漁業者の方が、「俺たちが魚を獲らないと困るだろ」と声高に主張して、補助金をゲットしている。
資本家の搾取が諸悪の根源であり、企業をなくせば問題が解決するわけではない。個人は善で、企業は悪というような、単純な二元論を脱却し、条件1と条件2を両立できるような漁業の形態を、企業・個人を問わずに模索していく必要がある。企業であれば条件2をどのように確保するか、個人であれば条件1をどのように確保するかが、課題だろう。
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Comments:4
- 沿岸漁業の一漁師 09-06-16 (火) 21:04
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確かに『共産国』状態w
『組合』 ですからね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
- 県職員 09-06-17 (水) 8:58
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「共産国」に成り得ていれば資源も保たれ,皆が幸せになれていたのかも知れませんが,残念ながら人間(生物)には,おそらく生まれながら「競争」というものがプログラムされているためうまくいかないのでしょう。
「多く獲る」ことに対する競争意識をなくし,資源を「少なく獲って」いかに「利益」を増やすか,合わせて資源を「いかに増やすか」の部分で競争してもらうよう頑張らねば。 - さかなやオヤジ 09-06-17 (水) 11:00
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勝川さん
ごめんなさい、挨拶が遅れました。
さかなやオヤジと申します。今後ともよろしくお願い致します。県職員さんのコメントに一言
県職員さんはじめまして。
> 「多く獲る」ことに対する競争意識をなくし,資源を「少なく獲って」いかに「利益」を増やすか,合わせて資源を「いかに増やすか」の部分で競争してもらうよう頑張らねば。
これを推進するにはハッキリ言って「高く買う」以外方法はありませんね。確かに現状でも、その魚の扱いなどである程度差別化が出来ることもありますが、
うまく行っても1割2割高どまり。
扱いの悪い(または普通と言いますか)魚との差が2倍くらいになれば、漁業者も気づくはずです。
本来、ブランド化というものはそういうところから派生してもらいたいんですが、
皆さんご指摘の「組合」という集合体の中で意見すれば全てがブランドと言うことになる。良い扱いをした魚を高く買い取り販売していく、と言うのが私の理想です。
少しずつですが、実現に近づいています。 - 県職員 09-06-19 (金) 9:04
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さかなやオヤジ様
漁業経営は簡単に言うと
利益=漁獲量×単価-経費
ですので
漁業者が「利益」を増やすためにはいろいろ考えられる方法があると思います。
まず「経費を削減する」,
そして「高い魚を獲る(高級魚を獲るという意味ではなく,小型魚を獲らず大きくなってから獲る)」「ブランド化(ブランド化しなくてもきっちりとした取り扱いをする事なども含まれる)などによる差別化を図る」「6次産業化に取り組む(漁獲した魚で加工品を自ら作成し販売する)」
「漁獲量」を増やすために「資源量を増やす」勝川先生がおっしゃっている事ですよね。