企業化を進めて、国際競争力を高めている代表的な国が、ニュージーランド(NZ)である。一方、組合が企業の役割を補完して個人ベースの漁業で生産性を上げているのがノルウェーだ。
ノルウェーの漁船漁業は、世襲の家業である。親父の船を息子が継いで漁を続けている。サバを獲っているような旋網船は、船主の所有物である。このあたりの構造は、銚子の漁船漁業とほぼ同じ。漁業が儲かる家業のノルウェーでは、漁業を辞める人間がいない。だから、ノルウェーで漁業をするには、漁業者の子供として産まれる以外に方法はないという話だ。
個人・組合ベースであっても、ちゃんとやれば利益がでることを、ノルウェー漁業は証明している。ノルウェーの基本戦略は次の2点だ。
1)国が資源の持続性を保障するために、責任ある管理措置をとる。
2)個別漁獲枠制度を導入し、早どり競争を抑制する
3)単価が上がるように、組合が努力をする
ノルウェーはEUと協力して、サバ資源の管理に取り組んでいる。資源水準は良好であり、漁獲は厳しく資源されている。また、個別漁獲枠制度によって、自分の漁獲の権利は保障されているから、焦って獲る必要はない。豊富な資源の中から、高く売れるサイズを、高く売れるタイミングで獲りに行けばよい。資源は豊富だが、漁獲枠が限られているという状況なので、探索船や運搬船などの余計な設備は不要である。魚の奪い合いに無駄なコストをかけずに、良い魚をコンスタントに水揚げできる。
魚価を上げるために組合は最大限の努力をしている。たとえば、最低価格制度というものがノルウェーにはある。最低価格制度というと、日本の漁業関係者は、「安い値段しかつかなかったら、最低価格との差額を税金で補填して貰えるのかな」と思うだろうが、そんな甘っちょろい制度ではない。ノルウェーでは全ての魚は組合を通して販売しなくてはならないのだが、組合は自らが設定した最低価格以下では、魚を売らないのである。もし、設定した最低価格で売れなければ、その魚は鮮魚市場では売れずに、ミール工場に直行だ。漁業者からすると、自分の漁獲枠を安価なミール向けの魚では埋めたくない。だから、最低価格に届かない品質の魚は、極力獲らないのである。ノルウェーの最低価格制度は、最低品質制度ともいえる。バイヤーは、ノルウェーの魚は買いたたけない代わりに、品質については安心して買うことが出来るのだ。
最低価格制度が、経営の柔軟性を奪っている側面もある。ライバル国(たとえばアイスランド)は、ノルウェーが最低価格以下では売れないことを知っている。だから、ノルウェーの業者よりも、少し安い金額を提示して、商談をまとめることもある。そういう不利益は百も承知で、ノルウェーは最低価格制度を続けている。品質と供給が安定させれば、魚価は自ずと上昇することを、ノルウェー人は知っているからだ。安売りをしないことで、短期的に失う利益よりも、長期的に得る利益の方が多いことを理解しているのだ。
今でこそ、高品質で知られているノルウェーのサバも、90年代に日本に入ってきた当初は値段が安かった。日本の消費者にとっては、単なる輸入魚に過ぎなかったのである。しかし、安定した品質の魚を、安定供給することで、日本国内でのノルウェーサバの認知度は向上した。今では、店頭でノルウェーサバの方が値段が高いのが当たり前だし、塩鯖ならノルウェーという消費者も多いだろう。
また、ノルウェーの組合は、出来るだけ高い値段で売れるように、ネット上でのセリを運営している。少ない人員・コストで、大きな成果を上げている。オークションの結果は、インターネット上で、リアルタイムで確認できる。
日本の旋網はなんで儲からないのか
銚子とノルウェーの旋網を比べると、むしろ、銚子の方が大規模かつ企業的だろう。ノルウェーは1隻(8~10人のクルー)で操業の全てをこなす。銚子の巻き網船団は、探索船、運搬船、旋網船×2の4隻がセットで操業をおこなう。それだけ、人件費も燃油もひつようになる。銚子の旋網船団は、最新のソナーで武装した探索船を駆使して、群れの奪い合いをしている。群れを見つけたら、他の船団に獲られる前に、とにかく獲る。値段は、港に帰ってのお楽しみである。早い者勝ちの一網打尽操業の結果、資源は低迷を続けている。卵の生き残りが良かった、当たり年産まれを取り尽くす操業形式であり、漁獲サイズに多様性がないので、多様な需要を満たすことが出来ない。
今年も、円高で輸出が止まっているのに、国内需要がないような小型魚ばかりを水揚げして、せっせと凍らせているようだ。海に泳がしておけば、電気代もかからない し、成長するし、卵も産むのに、もったいない話である。まともな取り締まりもせずに、早どり競争を野放しにしている日本では、必然的にこうなる。
まとめ
ノルウェー漁業が儲けているのは、企業ベースだからではないし、漁業の規模が大きいからでもない。行政と組合がやるべき仕事をきちんとやっているからである。
もちろん、薄利多売でも短期的な利益が出るかもしれない。北巻にだって、利益を出している船はある。そういう船だって、マイワシに続いてマサバが、本当にいなくなれば、終わりである。今のままでは、「今年はいいけど、来年はわからないなぁ」という程度の経営しか成り立たないのだ。北巻が今まで続けてこられたのは、90年代以降のマサバの生産力が安定していたからである。もし、加入の失敗が数年か続 けば、マサバもマイワシと同じようになるだろう。そうなるまえに、ノルウェーを見習って、ほどほどの漁獲で利益が出るような体質に変える必要がある。
そのためにやるべきことは3点だ。
1)十分な産卵親魚を取り残すこと
2)漁獲枠を個別配分して、早どり競争を抑制すること
3)魚価を上げること(安売りをしないこと)
どれも、当たり前のことである。この当たり前のことをやらずに、漁船漁業構造改革総合プロジェクトとかいって、すでに過剰な漁船を増やすようだけれど、金が余っているなら、補償金でも積んで、0歳・1歳魚の漁獲を禁止にすればよいのに。これをきっちりやれば、2年後ぐらいには、資源も漁業もかなり良くなると思うよ。
ちゃんとした獲り方をすれば、ちゃんと儲かるということで、新聞記事をはっておきますね。
みなと新聞6月5日より
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Comments:1
- 沿岸漁業の一漁師 09-06-20 (土) 21:28
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>品質と供給が安定させれば
うちの地元はそのための経費やコストがもったいないという状況ですね。
>3)魚価を上げること(安売りをしないこと)
『安売り=良心的』、『価格転嫁・真っ当な対価報酬の要求=守銭奴』という概念が染み付いちゃっていますからね・・・・・・・・・。
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