漁業がマサバ資源の増加の芽をどのように摘んだかを見ていこう。
下の図は、マサバの卵の生残率だ。
90年代以降、それまでよりも高い水準で推移している。
さらに、1992, 1996, 2004年と、加入に成功していることがわかる。
90年代以降、マサバの生産性は極めて高かったのだ。
下の図が毎年の加入資源量(1000トン)である。
加入の成功が起こった年は、周囲よりも飛び抜けているが、
親の量が少ないために、過去のピークには及ばない。
92年や96年のような加入の成功があっても、
未成熟のうちに獲りきっているから、資源の回復に結びつかない。
では、未成熟個体の漁獲を控えて、
92年の卓越年級群が96年の産卵に参加できたらどうなっていただろうか?
この試算を我々のグループが行い、論文として、公開している(俺はそんなに関わってないけど)。
Kawai H., Yatsu A., Watanabe C., Mitani T., Katsukawa T. and Matsuda H. (2002) Recovery policy for chub mackerel stock using recruitment-per-spawning. Fish. Sci. 68: 961-969.
この論文では以下の4つの漁獲シナリオを比較している。
シナリオ0:現状の漁獲
シナリオ1:加入の成功した年の未成魚を保護
シナリオ2:70年代と80年代の平均的な漁獲圧を維持
シナリオ3:シナリオ2より更に55%漁獲率を下げる
91年以降、それぞれのシナリオで漁獲をしていたら、下図のように資源は変動した。
資源管理シナリオ(1-3)は、全て増加している。
92年のまとまった加入(卓越年級群)を、次に加入が成功する96年まで残しておけば、
マサバ資源はかなり回復したのだ。
また、80年代以前の漁獲圧を続けるシナリオ2でも資源はかなり回復した。
90年代以降の早獲り競争を抑えておけば、マサバは高水準に回復している可能性が高い。
90年代以降の未成魚への高い漁獲圧が、資源増加の芽を摘み、資源を低迷させているのだ。
下の図は、資源管理をしたら、漁獲量がどうなったかを示している。
シナリオ0では、1992年のまとまった加入を1993年に獲り尽くした。
資源管理シナリオではここで未成魚を保護するので、漁獲量は上がらない。
その代わり、94年以降に成長させながら徐々に利用していくことが出来る。
そして、96年の加入の成功で、資源が増えると漁獲量は更に増える。
近年は、コンスタントに加入の成功が起こっている。
卓越年級群を次の加入の成功まで残しておけば、マサバ資源は回復するはずだ。
この論文が出る以前は、マサバの減少も全て海洋環境のせいにされていた。
「マサバが増えないのは、自然減少だからしょうがない」というわけだ。
要するに、今のマイワシと同じような状況だったわけだ。
この論文が漁業が資源回復の芽を摘んだことを示したことで、マサバ回復計画へと繋がっていった。
しかし、資源回復のためと称して、漁業者に給料補償金がばらまかれただけで、
現在まで、未成魚獲りきり漁法は以前として続いており、乱獲に歯止めはかかっていない。
マサバの増加に関して面白い現象がわかった。
加入の成功が連続することで、資源は階段状に増加していく。
現在の低水準から、高水準まで増やすには、3回の加入の成功が必要になる。
これをホップ・ステップ・ジャンプ仮説と呼ぶ(今思いついた)。
現在の漁業は、「ホップ」の段階で増加の芽を摘んでいるから、資源はいつまでも低水準だ。
マサバがホップできるうちに、ステップジャンプへとつなげていく必要があるだろう。
1996年は、黒潮が特異的に蛇行した年で、マイワシも大発生した。
マサバ、マイワシとダブルで、大発生したにもかかわらず、
どちらも未成魚のうちに獲ってしまった。
まき網の漁獲能力は驚異的だ。
高い漁獲能力をもつまき網は、しっかりとした管理が必要だろう。
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- 90年代のマサバ資源を振り返る from 勝川俊雄公式サイト