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7/31の提言に関するコメント(その1)

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提言1

科学的根拠の尊重による環境と資源の保護および持続的利用を徹底し、かつ国家戦略の中心に位置づけ、これに基づく水産の内政・外交を展開せよ。

水産資源は世界的な争奪戦の渦中にある。魚食を支えるわが国水産業の利益を国家的レベルで確保するため、中長期的視点をもって、外交を含めた大局的な国家戦略を構築すべきである。わが国の水産業は、日本の200海里水域内外で展開されており、200海里内の水産資源については、国民共有の財産として、科学的根拠を尊重した海洋環境の保護と資源の持続的利用の原則を徹底し、漁業関係者のみでなく、水産資源に関連する全ての産業と国民全体の利益を実現できるようにする。水産資源の保護が持続的な水産業の維持発展に不可欠であることは言を待たない。さらに、近年の世界的な環境保護・生態系保護の意識の高まりは、それらの動きに逆行する形で、漁獲・生産された水産物を、市場から締め出そうとする動きにまで発展している。このような中で、ABC(生物学的許容漁獲量)を超過してTAC(総漁獲可能量)を設定するような、資源破壊的な水産政策を続けていけば、世界の流れからみて、最悪の場合、輸出輸入の両面で大きな打撃を受ける懸念がある。環境・資源の保護と持続的利用を中核的な理念とする水産政策に直ちに転換しなければならない。

 特に、この場合においては、
1.海洋環境の保護と水産資源の有効利用のため、水産資源を無主物(誰のものでもない)としての扱いではなく、日本国民共有の財産と明確に位置づけるべきである。

水産資源は、漁業者も含む全ての国民共有の財産である。日本国民から付託を受けて、日本政府は水産資源の管理責任を負う。政府は、漁業者に漁獲の権利を与える。一方、漁業者は、この権利を行使するに当たり水産資源は国民共有の財産であるとの認識に立ち、自らと加工、流通、販売および消費者のために、国民共有の財産である水産資源を漁獲する権利を適切に行使する。

このブログのコメント欄を読んで、「国有化は違うかな」と考えるようになった。
国連海洋法条約では、水産物は人類全体の財産と位置づけている。
その上で、最適利用のための管理義務と同時に排他的利用権を沿岸国に与えている。
排他的な利用権を行使する以上、日本は国として水産資源を科学的・持続的に管理する義務がある。
無主物的な扱いをしていること自体が、契約不履行であり、
日本国民から付託にかかわらず、管理の責任はあるのだ。
国有財産であれば、国の都合で獲り尽くすという判断も可能であるが、
人類全体の財産であればそうはいかない。では、管理の費用はどうするのという話になる。
本来なら、人類共有財産を排他的に利用させてもらっている漁業者が払うのが筋だろう。
現在は国の税金でまかなっている以上、国益についての義務も負うはずだ。
「国民は漁業をどこまでサポートし、それに対してどのような対価を得るのか」を明確にすべきだろう

2.科学的根拠の尊重による資源の持続的利用の原則を徹底し、この原則を、わが国の水産行政の最も重要な柱とせよ。

科学的根拠を軽視して設定された結果、年続いているTAC(総漁獲可能量)とABC(生物学的許容漁獲量)の乖離を直ちになくす。また、個別漁獲割当の設定、取締り・罰則の強化、および不正に漁獲された水産物の保持・販売の禁止などの出口管理の強化を行う。これにより悪化したわが国周辺水域の資源回復を目指す。この科学的根拠を尊重する持続的利用の原則の確立によって、わが国の水産資源の悪化および水産業の衰退に歯止めをかけることが可能になる。

「Tacをabcまで下げる」という方針になれば、現在の体制では不十分だ。
日本の資源研究は実に脆弱であり、資源研究者の質・量ともに不十分である。
資源学の専門家は、水研センターにも殆ど居ない。
生態学など、他分野の専門家が、いろいろ勉強をして、資源評価をしているのが現状なのだ。
また、もともと少ない調査も削られる一方で、データの質・量ともに厳しい。
まずは、資源評価の体制をテコ入れするところかは始めなくてはならない。

科学的なアセスメントが軽視されているのは研究者にも責任はある。
「漁業で利益を出すためには、資源管理が必要である。
資源管理こそ、漁業が生き残れるかどうかの死活問題である。」
というような認識を広めていかないとダメだろう。
研究者がイニシアチブをとって、「資源管理で儲かる漁業」というビジョンを提供する必要がある。
しかし、研究の世界も縦割りで、狭い水産学の世界でも資源と経済で交流がほとんど無い。
われわれ研究者が、まず、縦割りの壁を破らないといけない。

さらに、難しい問題として、日本人のリスク感覚の無さがある。
資源量の推定値には不確実性がある。
不確実性とどうつきあうかが問われているのである。
漁業者は、「科学者の予測はあてにならないから、好きなだけ獲って良い」と主張するが、
これは、霧で前が見えないからといって、車のスピードを上げるようなものだ
不確実であれば、安全のために控えめに獲るべきなのだ。
現在の資源評価の精度の限界を認めた上で、
その精度の情報でリスクを回避するための予防措置について検討すべきだろう。

また、安定的な輸入の確保、日本漁船の外国水域への入域の確保、輸出の振興の全てにおいて、科学的根拠に基づく資源の持続的利用の原則を柱とする水産外交を展開する。
このことにより、科学的根拠に基づく持続的利用の原則を尊重する水産立国としての日本の国際信用が得られる。外交面および水産物の輸出振興にも大いに貢献する基本原則であり、日本および日本製品に対する評価が高まる。
わが国は、捕鯨交渉などでは科学的根拠と持続的利用の原則を主張しているが、国内資源の管理では科学的根拠を軽視している。こうした二重基準(ダブルスタンダード)を排除することが、わが国の資源の回復・復活および水産外交の進展につながる。

この部分は、今後の日本漁業の方向性を決めるかもしれない重要な部分。
世界の漁業は、「責任ある漁業」から、「責任を問われる漁業」へと着実に進んでいる。
この流れに対応していかなければ、ますます世界から取り残される。
日本は、世界第2位の経済国であり、世界一位の水産物輸入国でもある。
日本が世界の漁業に対して負うべき責任は重い。
できるだけ早く方向転換をしないと大変なことになるだろう。

漁業者は「日本の消費者が魚を適正価格で買わない」という。
だったら輸出すれればよいと思うのだが、日本の水産物の評価は低い。
日本の水産物は、先進国からは相手にされず、途上国に買いたたかれているのである。
その理由は、品質管理のまずさ、しっかりとした規格がないこと、等の理由もあるが、
それ以外にも漁業の持続性の問題もある。
例えば、マクドナルドはMSC認証のものしかつかわない。
企業イメージをアップすることで、売り上げに繋がるからである。
なんでも獲り尽くす日本漁業は世界的にイメージが悪い。
透明性の高い管理制度を導入し、環境への配慮を世界にアピールすべきだろう。

Comments:2

ある水産関係者 07-08-08 (水) 20:21

高木委員会の提言、私も無意味と思いません。少なくとも、「脳死状態」を通り越して組織防衛のために「税金と漁業者の寄生虫」に成り下がった行政組織を批判し、「このままではマズイ」ことを堂々と指摘した点は評価できます。
 問題は、そこから先の「・・から何とかしよう」という部分で、何よりもまず、提言の中に委員の利害が見え隠れするようでは、折角の「過去に類を見ない」画期的な「提言」が台無しで、もったいない気がしてなりません。特に、如何にも「揚げ足をとってください」と言わんばかりの表現振りは、提言が閉鎖的な環境で作成されたことを反映し、読者から冷めた目で見られるだけではなく「大本営」を喜ばせるだけの愚かな行為と思います。
 そのためにも、今後、提言を完成させる中で、パブコメを募る機会を設けると共に、それをもとに提言内容をオープンに議論し、ブラッシュアップするシステムを組み入れていただきたいものです。それによって、余計に時間はかかりますが、提言が一層社会的に認知され、より強い説得力を持つようになるはずです。時間も大切ですが、瀕死状態の資源や漁業を、国民のコンセンサスを得ながら更生させることがもっと大切と思います。

 さて、提言1及びそれに対する勝川さんのコメントに関し、賛同できる部分も多かったと思いますが、若干の意見を述べさせて下さい。
 ① 「EEZの水産資源」=「国民共有の財産」なる考え方は、ある委員さんによる国連海洋法条約等を根拠にした創作のようですが、国連海洋法条約には根拠となるような文章、即ち、「水産物(漁業資源)は人類全体の財産」といったことは一言も書かれてありません。確かに、前文には「国の管轄の外の海底及びその下の区域並びにその資源が人類の共同の遺産であり、その探査及び開発が国家の地理的な所在のいかんにかかわらず、人類全体の利益のために行われる旨・・・を希望し、」と書いてあり、「水産物(漁業資源)は人類全体の財産」と誤解を招くかも知れませんが、この部分を正確に読めば世界の海の全ての水産物が対象ではなく、公海の、しかも定着性生物のみに限って「人類の共同の遺産(人類全体の財産)」と言っていることが明らかです。その委員さんも、ある雑誌の記事で、この部分を引用して「国民共有の財産」説を導いていたようです。EEZの水産資源を国民共有の財産と位置付ける是非については、技術的な問題を含め議論が必要と考えますが、少なくとも間違った根拠を楯にそのような主張を続けることは有識者から揚げ足をとられる原因になります。
 ② 今回の提言では、やたら「科学的」や「科学的根拠」といった表現が使われますが、残念ながら、資源問題を始め、それを国家戦略の中心に位置付けるほど、水産に関する「科学的根拠」が高い水準にあるとは思えません。さらに、日本の場合、中立性にも問題があり、行政との癒着をなくさない限り、少なくとも対外的には説得力を持ち得ないと考えます。このため、提言の実現には癒着の解消と水産研究体制の充実が不可欠な状況ですが、その場合、財源をどう確保するかという問題が発生します。
 今回の提言全体を通じ、「水産業を立て直すため」と称した様々な対策が訴えられる一方、そのために必要となる莫大な予算については税金を使って当然、といった「親方日の丸」的感覚が見え隠れします。「水産予算の大胆かつ弾力的な組み替えを断行せよ」についても、漁港整備などの公共事業予算の優先順位が低いのであれば、それを別の予算に振り向けるのではなく、その分、納税者に還元(返金)すべきというのが一般国民(納税者)の普通の感覚だと思います。
 要は、提言の中味そのものを注意深く眺めると、その裏側に「血税を湯水の如く投入してでも漁業という産業を保護すべき」という、一般の納税者感覚から大きく乖離した考え方が居座っており、そのような考え方を正当化し、カモフラージュするため、提言の目的に、誰も反対出来ない「水産資源の枯渇を防ぎ資源を復活させること」や「安全・安心な水産物を日本国民に提供するため」と言ったテーゼをちりばめた、というのが実情でしょう。
 今回の提言は、オープンに議論すればするほど、水産業に対する支援・保護の在り方が問題になると考えます。水産業に対する国民(納税者)の期待や、それに伴う国の支援(税金支出)の在り方については、漁業関係者だけで勝手に決めつけるのではなく、オープンな議論を通じて民意を反映した結論を導く必要があります。
 ③ 水産業の構造改革を実現するためには、「天下り問題」への対応が不可欠ですが、水産業の抜本改革を謳った今回の提言においてすら、「天下り問題」は完全にタブー視され、そのかけらすら見当たりません。この様なところに、水産業の構造改革が如何に浮世離れして実現が困難な問題か、垣間見る思いがします。
 水産研究活動の中立性確保一つとってみても、大本営と水研センターの間において、予算上の便宜や天下り人事の受け入れ等の癒着関係を完全に断ち切ることが如何に重要か、言うまでもありません。ましてや、大本営と業界との関係はもっと深刻かも知れません。
 大本営を中心に、研究機関や業界等との間に築かれた人事、予算、利権に群がる強固な人的ネットワーク。漁業の衰退と過剰漁獲を招き、さらには漁業衰退に拍車をかける張本人。幸い(?)、林野庁の緑資源機構や社会保険庁の天下りが社会問題化したように、天下りに対する世間の視線は厳しくなってきました。この問題に抜本的なメスが入るか否かが、水産業の構造改革の真の成否を左右する最大の関門と考えます。

勝川 07-08-16 (木) 17:13

>今後、提言を完成させる中で、パブコメを募る機会を設けると共に、
>それをもとに提言内容をオープンに議論し、ブラッシュアップするシステムを
>組み入れていただきたいものです。
>それによって、余計に時間はかかりますが、提言が一層社会的に認知され、
>より強い説得力を持つようになるはずです。時間も大切ですが、
>瀕死状態の資源や漁業を、国民のコンセンサスを得ながら更生させることが
>もっと大切と思います。

本当にその通りだと思います。
日本漁業は、漁獲、流通、加工、消費の至る所に問題を抱えていて、
全身複雑骨折状態ですが、問題を議論する場がまるでない。
現場の声が不在のなかで、政策が決まっているように見えます。

>今回の提言では、やたら「科学的」や「科学的根拠」といった表現が使われますが、
>残念ながら、資源問題を始め、それを国家戦略の中心に位置付けるほど、
>水産に関する「科学的根拠」が高い水準にあるとは思えません。

資源学の研究者が質量共に不足しているのは確かです。
しかし、誰がどう見ても無茶な漁獲をしているのもまた事実です。
漁業者の経済的都合のみを考慮している現状を改める必要があります。
まあ、科学以前の問題かもしれませんね。

>さらに、日本の場合、中立性にも問題があり、行政との癒着をなくさない限り、
>少なくとも対外的には説得力を持ち得ないと考えます。
>このため、提言の実現には癒着の解消と水産研究体制の充実が不可欠な状況ですが、
>その場合、財源をどう確保するかという問題が発生します。

今のままではダメですね。
どんな無茶な政策にもつっこみ一つ入れられない。
ノルウェーのIMRのように、独立した資源評価のための機関が必要だと思います。

> 今回の提言全体を通じ、「水産業を立て直すため」と称した様々な対策が
>訴えられる一方、そのために必要となる莫大な予算については税金を使って当然、
>といった「親方日の丸」的感覚が見え隠れします。

産業に税金を投入するための世論作りのために、
「自給率低下」や「魚離れ」を大々的に宣伝しているように見えます。
そもそも現在の食料自給率ですら、多額の税金を投入した結果なのです。
税金をもっと投入しろと言うよりも、今までの投資効果を検証すべきでしょう。

③に関しては水産業という小さな世界ではなく、日本全体の問題ですから、
水産改革どころか、国を変えるぐらいの勢いでないと難しいでしょう。
たしかに、ここを何とかしないと、どうにもならないとは思います。

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