資源管理反対派は、「資源管理を導入すると、弱小漁業者が淘汰されてしまう」として、ITQ制度の導入に反対している。では、資源管理をしなければ、弱小漁業者は安泰なのかというと、そんなことはない。日本の漁業はベテラン漁師が食っていくのが精一杯であり、とても若者が参入できるような状況ではない。新規加入が途絶え、消滅は時間の問題だろう。
世界に先駆けて、ITQを導入したのはアイスランドとニュージーランドであった。ともに、生活水準の高い、先進国である。ニュージーランドについては、ITQの導入によって、魚を獲る人は減ったが、加工する人が増えいる。ITQ導入後、漁業全体の雇用は増加しているのはデータからも明らかである。また、NZではITQによって、離島の小規模漁業者が生存しているという現実もある。本人たちが言うんだから、間違いない。
アイスランドの漁業就業者の人口をまとめると次のようになる。ITQ導入から、現在までをカバーする統計が見つからなかったので、2種類の異なるデータをまとめて表示した。数値自体は近いのである程度のトレンドはこれで追えるだろう。アイスランドの漁業者は、2000年までほぼ横ばいで、その後激減している。ITQを導入したのは80年代のことであり、ITQが原因であれば、もっと早く漁業者が減ってしかるべきだろう。2000年から近年まで、アイスランドは金融バブルにわいていた。漁業者の減少は、より利益が期待できる金融関係のサービス業に労働力が移動した結果である。
ITQ制度では、自らの漁獲枠を売却して、それを元手に事業を始めることが出来るから、労働力の移転のハードルを下げる効果はあるだろう。本人が望んで漁業を離れたのであり、それによって、過剰な漁獲能力が削減でき、社会の生産性が上がる。社会にとっても、漁業者にとっても、悪くない選択だ。日本の漁業者は、船の借金を抱えながら、生産性の低い漁業に縛り付けられて、最後は夜逃げや首つりを余儀なくされる。政府は、過剰な漁業者を維持するために、現金をばらまくようだが、そんな余力は日本の財政にあるんですか。そんな税金の使い方をして、納税者にいったい何のメリットがあるのかさっぱりわからない。
ITQの方が、漁業者にも納税者にも優しい、合理的な社会システムであると思う。
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Comments:3
- 県職員 10-02-26 (金) 12:53
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そういえば,先日,ある魚種の資源回復計画の会議に出席しました。
そこで,水産庁のある方が,「近頃,日本の漁業は資源管理に関して何もしていないという報道などがある。しかしながら,日本の水産でも色々な取り組みをしているんだと言うことを外部に対してアピールすべき時期に来ているのではないか」という趣旨の発言(正確には憶えていませんが)をされていました。
まあ,確かに何もしていない訳ではないでしょう。
しかし,現状が現状だけに,結果を出せていないという事実(資源の減少等々)に対してもっと真剣に向き合い,解決に向けて取り組む姿勢を持って頂きたいと感じました。公務員はとりあえず忙しそうに何かをやってさえいれば,政治家や業界のご機嫌を巧くとってさえいれば無事に退職を迎えられる,あるいは業界に天下れることも大きな問題です。
間違った方向に頑張って満足するくらいなら,頑張らない方がましだと思います。
水産庁の中でもこの業界でこれからも生きていかなければならない中堅や若手の意識は,ご年配の方々とは違っていることを期待します。 - 勝川 10-03-02 (火) 10:05
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情報公開は望むところですよ。どんどんやってください。
下手な大本営発表は自分の首を絞めるだけですから。
最近、岩崎さんが表にでてこなくて、寂しいです。
だれか、首に鈴をつけたのだろうか?水産庁は、「我々だって、がんばって取り組んでいる」とかいって、
組合に「自主的に漁獲を控えてね」という内容のファックスを送る程度のことしか
していない場合がおおい。
今回のロシア銃撃の件でわかるように、VMSだって、装備させて終わりだし。現在の水産庁の取り組みが納税者に評価されるかどうか、試してみたら良いと思いますよ。
- 沿岸漁業の一漁師 10-03-09 (火) 21:26
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>日本の漁業はベテラン漁師が食っていくのが精一杯であり、とても若者が参入できるような状況ではない。新規加入が途絶え、消滅は時間の問題だろう。
生活の安定のために養殖をするにしても過剰生産をして不安定な方向に持っていきますねw。
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