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カツオ漁業における中国脅威論を分析する

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小型化が進行しているカツオの話題です。「去年も記録的な不漁だったが、今年はそれよりも悪い…」ということで、一本釣りの漁業者は危機感を強めています。例によって、産経新聞の中国批判が飛び出しました。

カツオ一本釣りピンチ 中国巻き網漁船が根こそぎ、中大型魚が激減

2010.7.17 20:52

日本の食文化を支えるカツオの一本釣りが危機にさらされている。中国の巻き網漁船が、黒潮に乗って日本近海に北上する前にインドネシア沖の太平洋中西部で、「ツナ缶」用に稚魚や小型カツオを根こそぎ乱獲。一本釣りで捕獲し、かつお節カツオのたたきに使われる中大型魚が激減しているためだ。中国が年内に、1千トン超の最新鋭船を新たに12隻導入することも判明。漁業関係者の間では、早急な漁獲規制を求める声が強まっている。

「中国の巻き網漁船の乱獲がこれ以上進むと、日本近海ではカツオが取れなくなる」

で、中国はどれだけ獲っているの?というと、これだけです。

全体で見ると、こんな感じ。

一部の島嶼国が漁獲を増やしてはいますが、まき網でカツオを一番多く捕っているのは、日本です。

この記事は、水産庁の関係者がプロデュースした世論作り記事と思われます。水産庁は、「大型化の試験操業許可」という名目で3隻の大型まき網船を作り、南方でカツオを漁獲させています。中国のまき網が乱獲なら、これだって立派な乱獲だとおもうのですが、フジサンケイグループは日本のまき網船の建造は絶賛しています。中国の漁獲はねこそぎ乱獲で、日本の漁獲は水産資源を守るためだそうです。わかりやすいダブルスタンダードですね。南太平洋のカツオ・マグロを「日本の水産資源」と言い切るジャイアニズムには、中国もビックリでしょう。

漁場確保へ マルハニチロなどスクラム

水産最大手のマルハニチロホールディングスの漁業子会社や、かつお節メーカーのにんべんなどがスクラムを組み、民間主導で水産資源外交に乗り出すことが 15日、明らかになった。9月にも、非営利団体組織の「南太平洋漁場確保機構」(仮称)を設立し、日本の水産資源を守るため、カツオやマグロの漁場確保な どを進める。

設立する機構は約2億円の資金を手当てし、諸島に水産技術協力を行ったり、冷凍倉庫を建設して、同様に船籍枠の獲得を目指す。民間主導で取 り組みを進めることで、政府に対し、資源外交を強めて中国や韓国、台湾に対抗するよう求めていく。食糧安全保障の観点から、自前で漁場を確保する必要がある。

大洋エーアンドエフ、次世代型巻網船竣工

大 洋エーアンドエフが建造中の大型巻網漁船「第二たいよう丸」が7月22日、竣工する。省エネ、省人化した改革型沖合単船巻網漁船。今村博展社長は「資源と 環境変化に適合する次世代型漁船」と強調する。もうかる漁業創設支援事業の一環として8月2日から北部海域で操業する。24日記者会見した今村社長は、衰 退する日本漁業の現状に対し、沖合、遠洋漁業の再生で持論を展開。中でもカツオ・マグロをはじめ南方漁場の確保のための「南太平洋漁業機関」(仮称)設立 構想などを明らかにしている。

「俺たちが中国に負けずに、カツオを取りに行ってやるから、国も協力しろ」という今村社長に呼応したのが、元水産庁遠洋課のドンである島一雄氏です。海外まき網漁業協会に天下った島氏は、大洋エーアンドエフの南方のまき網漁船を国策としてバックアップしろと、働きかけているわけです。

カツオ節はわが国の伝統食品であり、日では、現在、し烈な資源争奪戦が繰り広げられており、日本の海まき漁船は劣勢に立たされ苦戦しております。国はようやく重い腰を上げ、「第二ふじ丸」はじめ3隻の大型船の建造を許可されたことは後の海外巻網漁業に明るい展望を与えるものあり、一日も早い制度化を希望しています。南方漁場の確保を安定的なものにするため、現在、一部漁船の島しょ国化を進めています。また、今村社長が提唱された「南太平洋漁場確保機構」においても、その実現に向けて協会として取り組みを始めたところです。
海外まき網漁業協会会長 島一雄氏インタビュー(みなと新聞)

海外まき網強化事業は、カツオが小型化したことにより、国内の一本釣り漁業者から、強い批判を浴びています。

研究者は、例によって例のごとく、「資源に問題はない」で通すようです。遠洋水研としては、カツオ資源は悪くないということに自信を持っているような印象を受けます。何らかの情報をつかんでいるのかもしれません。「南方で小型の漁獲が増えているのは、小さい魚が増えているからで、乱獲ではない。来年は、大きくなって日本に来るから、待ってろよ」と何年も言い続けていますが、年々魚は小さくなるばかりです。

【気仙沼】宮城県気仙沼市で四日あったカツオ資源の研修会で、小倉未棊・水産総合研究センター遠洋水産研究所熱帯性まぐろ資源部長が講演後、私見とした上で、南方海域の大型巻網船の漁獲圧力増大は日本周辺に来遊するカツオ資源に影響は与えていないとの見方を示した。
小倉部長はその理由として南方海域(北緯5度ー南緯5度周辺)から日本近海までの距離を指摘。日本近海へ来遊してくる時間を逆算すれば、大型巻網船一の主漁場でない中南方海域(北緯15一25度周辺)が日本近海へ北上するカツオの供給源との考え方を示した。
みなと新聞(2010.2.18)

「中国がカツオを乱獲しているから、日本も税金で大型まき網船を造って、南方に送り込まなくてはならない」という今村-島コンビの言い分は、そもそもおかしいのです。カツオ資源が、中国の乱獲で危機に瀕しているのであれば、必要なのは国際機関による漁獲規制です。日本が、中国と一緒になって大型まき網船をつくっても、事態は悪化するだけでしょう。逆に、資源に余裕があるなら、日本近海に泳いでくるまで待ってから漁獲すれば良いだけの話でしょう。

「中国脅威論を振りかざして、税金で大型漁船を増やして、日本漁業が華やかだった時代よ、もう一度」という、前近代的なビジョンが透けて見えて、うんざりしますね。

Comments:3

U生 10-07-22 (木) 8:19

 まき網という漁法が悪いわけではなく、中西部太平洋で漁業調整ができていない点に問題があります。
・WCPFCで中西部太平洋全体の漁獲枠を設定する
・一方の漁獲量が増えたら、他方の漁獲量を減らす-というカツオオフセットを実現する
の2点が可能になれば、大型まき網船による操業が悪いとはいえないと思います。
 日本のまき網船を大型化するメリットはいくつかあります。
(1)船の能力に見合う漁獲量を確保できれば、小型船より操業を効率化できる。
(2)低価格の原料を供給できる。
(3)中国、台湾の大型まき網船は相場が1円でも高い方に売るので、日本にある程度の水揚げをしてくれる日本系まき網船に漁獲を任せた方が安心できる
 とくにカツオ節メーカーは(3)の理由で、日本の海外まき網船による操業の拡大を強く望んでいます。
 さらに言えば、日本企業が経営する海外まき網船は、決して赤字会社ばかりではありません。特にリーマンショック以前は某大手水産会社の中でも稼ぎ頭であり、バンコクのカツオ市況が急落したリーマンショック後も赤字にはなっていません。今また冷凍カツオ市況は上昇局面にあり、今年は収益拡大が期待されます。
 海外まき網漁業は日本の遠洋漁業の中にあって、景気動向や魚価の騰落にかかわらず、なんとか企業として採算を維持している数少ない水「産業」だと思います。
 先生も良くご存知の通り、中西部太平洋の島嶼国は資源ナショナリズムに目覚め、おいそれと遠洋国にカツオをとらせてくれなくなりました。各国は競ってODA(政府開発援助)などで自国の権益確保に奔走しており、この流れに乗り遅れると、「採算を維持している数少ない水産業」である海外まき網が漁場喪失という危機的状況に追い込まれてしまいかねません。
 以上のような理由で「ビジネスとして成り立っていない海外巻き漁船を税金で作る」というのは、現状では必ずしもあてはまりません。もし、日本が海外との権益確保競争に負ければ、将来「ビジネスとして成り立っていない海外巻網漁業」になるかもしれません。
 また、「わざわざ、赤字の日本漁船で獲ってくる必要はない。コストが低い中国漁船から買ってきたほうが、安くつくので消費者」という主張には、必ずしも賛成できません。
 言う間でもなくカツオは国際商材、缶詰商材であり、日本よりバンコクの缶詰工場に売った方が有利だと考えれば、台湾、韓国、中国などの船主はこぞってそちらへ売るに違いありません。日本の海外まき網船主はこれまで長い歴史の中で日本のカツオ節メーカー、ナマリ節メーカーにもうけさせてもらった恩義を感じており、赤字にならない限りは、ある程度日本向けに水揚げしてくれます。日本のカツオ節加工業者が原料確保のため、海外まき網協会や島氏を支持するのは、心情的に良く分かります。
 これ以上書くと長くなり過ぎるのでやめますが、冒頭に書いた中西部太平洋での漁業調整は、現実としてさまざまな課題があることは認めます。しかし、中西部太平洋で資源管理のための国際的な枠組みを確立し、関係国、関係漁業種類の調整を行うことを抜きにして、カツオ漁業に未来はありません。そして、その点をきちんとできれば、日本の巻網船を大型化して、効率を追求するのは悪いことだとは思いません。

elebras 10-09-09 (木) 22:22

まき網が効率的というのは嘘です。寒冷海域でならいざしらず、カツオが回遊する水温域では大きな魚群を巻いた場合、魚を網から揚げきれません。
日本などの設備が進んだ船ではまだましでしょうが、太平洋東側の赤道南北で操業する船の場合、2000t(地域国基準でのトン数)クラスで、一回600トン程度の魚群を巻けます。しかし、これを船内に揚げるには、魚体が小さなほど難しく、実地の聞き取り(巻網船漁労長。ポルトガル、スペインなどの国籍が多い。)では、正常な状態での水揚げ可能なのは300トン程度という答えです。
つまり、漁獲した半分程度は廃棄していることになります。もちろん、魚群が小さければ廃棄は少なくなりますが、小さい魚群を数多く巻くのでは、手間が違います。巻き上げは1時間か2時間で完了しても、それ以降の作業には非常に時間がかかります。600トンという限界近くまで魚を巻いた場合、投網から漁獲完了まで、三日はかかるといいます。設備の進んだ日本船だと、もっと短時間かも知れませんが、1943年建造の船が現役で操業する太平洋東側のまき網では、その程度の時間が掛かってしまいます。

ですから、大量漁獲すなわち効率的とは言えません。また、稚魚レベルの魚体であっても、そこに大型の魚が僅かでも混ざれば、網を締めてそれを揚げようとしますから、その後小型のものを開放しても生存するものは僅かでしかありません。網目規制も、机上の空論でしょう。巻かれた魚群を見れば判りますが、小型の魚ほど中央に集まり、大型は網周辺を周回します。網目を抜けられる小型魚は多くありません。どこにまき網がその他漁業より効率的と言えるのでしょうか?唯一、まき網漁業の場合、魚群さえ見つかるなら、操業期間を短縮できる可能性が有る点だけです。

日本ではまき網による漁獲を生食用とする場合がありますが、それ以外では生食需要が日本ほど無いことで、ほぼ全量が加工用となります。現在太平洋東側での主力船では、塩蔵後のアンモニアブライン凍結などという前近代的方法が主流だったりします。しかし、缶詰加工用としては、問題がないようです。また鮮度も問題になりません。工業的には効率が良いのかも知れませんが、食料として考えた場合は問題でしょう。中国は現在、その太平洋東側海域で魚の買い付けを強化しています。また、太平洋中部では、OPTRの船舶リストを見れば判りますが、韓国、中国の便宜置籍船が大量に登録されています。これらは、そのほとんどが、日本の中古船で、延縄漁船が主力ではありますが、少なからぬ巻網船も含まれております。

しかし、巻網船の大型化には条件付きですが賛成です。条件は大型化を認める代わりに、既存の巻網船を廃船、あるいは漁法転換を進める、廃船まき網船の海外売却を禁止する、まき網サイズを規制する、という条件なら、大型化結構です。海は広いですから、船の数が減れば、魚群との遭遇確率も減少します。量規制は上記した理由で無駄です。巻く魚の量を規制できるなら效果があるでしょうが、水揚する魚の量で規制しても、価格の高い大型を水揚するだけで、上記の問題の解決には何の寄与もしません。また、ラジオブイを使った魚付筏の使用も禁止すべきでしょう。これはその魚の付き方を考えれば、確実に稚魚レベルを巻くことになります。それどころか、禁漁、休漁海域から筏を流すことで、禁漁、休漁を有名無実化できます。

勝川 10-10-01 (金) 11:17

elebrasさん

大変貴重な情報をありがとうございます。

効率的というのは、「魚の奪い合いでは、竿漁業に比べて優位に立てる」と
言うことです。小さいサイズで根こそぎ獲ることにかけては、圧倒的です。

私も、巻き網船の大型化は何が何でも反対といっている訳ではないです。
長い目で見れば、大型化は当然の成り行きだと思います。
国内だって、住居環境が劣悪な135トンを250トンへと移行するでしょう。

ただ、カツオにせよクロマグロにせよ、
資源管理体制を確立するための交渉が始まったばかり。
この大事な時期に、日本が国策として巻き網漁船の大型化を
進めていたら、諸外国に、巻き網漁船を造るなとは言えないでしょう。
海巻や境には、大局観を持ってもらいたいものです。

総量規制は意味があると思いますよ。
ほとんどの場合、「多く獲って捨てる」ということにはなりません。
捨てる手間を考えれば、「出来るだけ捨てる魚は獲らない」方が、
作業効率が良くなるからです。
それに加えて、投棄の規制も必要になるかもしれませんね。
総量規制がなければ、努力量の増加に歯止めはかかりません。

逆に、FDA(ラジオブイを使った魚付筏)は頭の痛い問題ですが、
これを禁止したとして、実効性のある取り締まりは可能でしょうか?

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